じぶんたちが納得した天然素材だけを使い、 服づくりのすべての工程を自社で手がけている ファッションブランド「FACTORY」。 代表の野村タカ子さんが立ち上げ、 いまでは息子の塁(るい)さん、 娘の仁美(ひとみ)さんとともに、 家族を中心としたチームでものづくりをつづけています。
2023年、2025年の2度、 「生活のたのしみ展」でもご紹介させていただき、 立体裁断のパターン技術を活かしたボトムスは、 体型を美しく見せながら 気になる部分もさりげなくカバーしてくれると、 大変ご好評をいただきました。
そして今回は特別に、 真夏でも快適に履けて、 なおかつコーディネートの主役になるパンツを 〈O2〉のためにつくっていただきました。
形は、「FACTORY」のロングセラー、 ハカマバルーンパンツ。 さらりとしてベタつかず、シワになりにくい 近江晒加工のコットン地を使い、 自社工場で丁寧に製品染めを施しています。
完成を機に、栃木県足利市の店舗と自社工場を ご案内いただきましたので、 パンツの魅力と合わせて、 ブランドのものづくりについてもお届けします。
自社工場は、足利市と、モンゴルにも。
─ きょうはお招きいただき、ありがとうございます。
タカ子 はるばるお越しいただき、 こちらこそありがとうございます。 代表の野村タカ子です。
塁 息子の野村塁です。
─ 「生活のたのしみ展」で FACTORYさんのことを知ったお客さまにとっては、 ボトムスのイメージが強いかもしれません。 こうしてアイテムを一緒に手がけるのは今回が初めてなので、 まずはあらためて、ブランドについて教えてください。 そもそも、どんなふうに始まったのでしょうか。
タカ子 もともとはセレクトショップだったんです。 でも、お客さまと接するなかで感じたニーズを 自分たちで表現したいと思うようになって、 かなり早い段階で 「自分たちでつくって届ける」方向に舵を切りました。 私の母の代から、 和装や洋装の注文服に関わってきた家でもあるので、 服をつくること自体は、ずっと身近にあったんです。
塁 それに、足利はもともと繊維の町。 足利や桐生、佐野、太田、館林など、 群馬県南東部と栃木県南西部にまたがる地域は 「両毛(りょうもう)地区」と呼ばれていて、 古くから織物や繊維業が盛んなんですよ。
─ 今のものづくりは 土地の背景ともつながっているんですね。 FACTORYさんはブランド名のとおり、 自社工場をお持ちなんですよね。
塁 はい。 ニット、染色、縫製、撚糸まで、 店舗から車で15分ほどの場所で行っています。 縫製スタッフのほとんどは、 20年、30年選手のベテランの方々。 中国から来ている方が多いですね。
タカ子 それぞれの体型や腕の力、得意・不得意に合わせて、 この方は薄いトップス、あちらの方は厚手のパンツ、と 細かく割り振っています。 しかもパーツごとの分業ではなく、 基本的に1アイテムを1人で仕上げる形にしているんです。
塁 自分がつくっているものの完成形が見えていて、 それぞれにしかできない持ち場があると、 “同じ釜の飯を食べている”ような 連帯感が生まれるんですよね。
─ ニットのプログラミングや編み機も拝見しましたが、 とても見応えがありました。 機械と人の手が一体になって、 服がつくられていくんだなあと感じて。
タカ子 実は、もともとは今の店舗の中に工房があって、 お客さんから作業の様子が見えるつくりにしていたんです。 だんだん手狭になってきて、 工場を別に設けることになったのですが、 それでも「自分たちでつくっている」という気配は、 ちゃんと服に現れている気がします。
─ FACTORYさんのものづくりは、 素材から丁寧に選んでいる印象もあります。
塁 素材は、いちばん大事にしています。 どういう背景でつくられているか、 その糸ならどう織るのがいいか、 その生地をどう加工するか、 どんな服にするか。 すべてを一連で見ていくんです。 コットンはペルー、リネンはベルギーのフランダース地方、 ウールやカシミヤ、ヤク、キャメルはモンゴル。 自分たちで現地に行って、判断しています。
─ 中でも、モンゴルが気になっていました。 FACTORYさんといえばモンゴル、 というイメージもあります。
タカ子 冬に向けたあたたかい素材を探して、 寒い地域の動物の毛を求めて モンゴルへ行ったんだよね。
塁 オーストラリアもあるけれど、 もっと寒い場所のほうがいいんじゃないか、 でも、ロシアはちょっと怖い、 じゃあ、モンゴルに行ってみよう! みたいな(笑)。 そんなノリで、母とふたりで行ったのが始まりです。
タカ子 最初は2000年代の初め。 モンゴルの情報なんて、ほとんどない時代でした。
塁 朝青龍が横綱になる前ですからね。 現地で日本語ができる女性をなんとか見つけて、 彼女たちに助けてもらいながら糸を探しました。 最初にカシミヤが見つかって、 ベビーキャメルのうぶ毛が見つかって、 次はヤクが面白そうだと、 どんどん深くなっていって。 当時のヤクは、モンゴルでもまだ珍しい素材だったんです。
─ それで今では、 モンゴルに工場まで構えていらっしゃるんですよね。
タカ子 最初は、そんなに大きくやるつもりはなかったんですよ。 本当に小規模で、必要な分だけ、というつもりで。 うまく言葉が通じていなかったのかもしれないけど(笑)、 話がどんどん大きくなって、 土地を1000坪買って、建物を建てて、機械を8台入れて。
塁 今では、モンゴルに7人スタッフがいて、 現地で原毛を集めて糸にし、日本へ送っています。
─ すごい‥‥。 まさに“素材から自分たちでつくる”ブランドなんですね。
タカ子 外の工場にお願いしていた時期もありましたが、 細かい部分まで突き詰めるのは難しくて。 時間の制約もありますし、 感覚を共有するにも限界がある。 だったら、自分たちでやっちゃおうって(笑)。
─ その「やっちゃおう」が、 FACTORYさんらしいですね。
「お母さん」みたいなブランド。
塁 母のすごいところは、 技術者が全部そろってから始めるというより、 「これやりたい」という衝動からスタートするところ。 とりあえず土地を買ったり、機械をそろえたりすれば、 もう逃げられないから、あとからちゃんと学んでいく。 母はそういうタイプなんです。
─ えっ。 じゃあ本当に最初は、 技術者の方はいらっしゃらなかったってことですか?
塁 はい(笑)。 やっている本人だって、もちろん経験値ゼロです。 「ここ、土地買えちゃうんじゃない?」みたいな感じで、 始めちゃったんですよ(笑)。
タカ子 みんなやってるし、 なんとかなるんじゃない? って思うのよ(笑)。 でも、周りの人に「これ始めるんです」と話すと、 「自分が教えてあげるよ」と言ってくれる方が現れて、 いろんな人に支えられながら形になっていくんです。 とはいえ、やっぱり最初は失敗の連続でしたね。
─ たとえば、どんな失敗が‥‥?
タカ子 大量に染めムラが出てしまって、 倉庫にその生地が山のように積まれてしまったことがあって。
─ ! どうされたんですか。
タカ子 絞り染めをしてみたんです。 ムラのある部分を活かして、 タコ糸で縛って染めてみたら、 思いがけずおもしろい柄ができて。 それがきっかけで、抜染したり色を重ねたり、 いろんなやり方を試すようになっていきました。 失敗は、成功のもとですからね。
塁 マニュアル通りというより、 レシピのない“煮込み料理”をつくっているみたいだよね。
タカ子 実際、本当に初期の頃は、 自宅のお風呂場やキッチンで試したりしていました(笑)。
塁 以前、「生活のたのしみ展」で糸井さんにお会いしたとき、 「ここは“お母さん”だね」と言っていただいたことがあって。 その言葉がすごくしっくりきたんです。 FACTORYのものづくりって、 きっちりした工業製品というより、 お母さんのお味噌汁みたいな、 そのときの感覚を大事にしているものなんですよね。
タカ子 それと、店舗があって お客さんと直接コミュニケーションが取れることも、 新しいことに挑戦するきっかけになっています。
塁 長いお付き合いの方が多いので、 「これちょっと苦しいかも」とか「履きづらいよ」とか、 率直に意見を言ってくださるんです。 自社工場があるから、 そういう声をすぐに反映できるのも強みですね。
─ お客さんと直結しているんですね。 〈O2〉チームのものづくりでも、 「あの人はこれ気に入ってくれそうだな」と、 乗組員の顔が思い浮かぶときほど、 いいものが仕上がるなと感じます。
ワイドパンツが苦手な方にもすすめたい、
ハカマバルーンパンツ。
─ では、そんなFACTORYさんと一緒に 今回つくったパンツについて、 詳しくお聞きしてもいいですか。
塁 パンツのデザインを手がけているのは、 妹の仁美なので、ここは仁美に話してもらいますね。
仁美 よろしくお願いします。 ハカマバルーンパンツは、名前のとおり袴が発想源です。 ワイドパンツって、 足の太さが強調されてしまうのが気になるから、と 苦手な方も少なくないと思うんです。 なので、足元を少し細くしたり、 左右で生地の分量に差をつけたりして、 あえてアンバランスな太さにしています。 そうすることで、視線が分散されるんです。
─ ワイドパンツに苦手意識がある方も履きやすいよう、 考えられているんですね。
仁美 ゴムは後ろ身頃だけに入れているので、 正面から見たときはすっきりとした印象になります。
─ それでいながら、立体感もありますよね。
仁美 平面的にパターンを引くのではなくて、 立体裁断でつくっているので。 着たときにどう見えるか、どう動くかを基準に、 分量や位置を調整していくことで、 自然と立体的なシルエットになります。
─ だから、動きやすさも兼ね備えているんですね。
仁美 そうですね。 股上は深いですが、 足さばきはいいように設計しています。 自転車もラクに漕げますよ。 あと、実はお腹まわりの内側に、 小さな穴を開けているんです。 そこに少し遊びが生まれることで、 体格のいい方が履いたときにも 変に突っ張ったシワが出にくくなっています。
─ 見えないところで、 シルエットを整えているんですね。 今回は〈O2〉のリクエストで、 足首が見える丈だったものをフルレングスにして、 さらに後ろ姿のアクセントになるよう 後ろポケットもつけていただきました。
仁美 ポケットの位置や角度も、 お尻が大きく見えないように調整しています。
─ 至れり尽くせりなパンツですね。
夏に快適。綿100%、近江晒加工の生地。
─ 素材についても、ぜひ教えてください。
塁 今回はコットン100%。 100番手の細い糸を使った平織りの生地です。 ペルー綿なども検討したのですが、 少し保温性があるんですよね。 今回は真夏にカジュアルに使えるものを目指したので、 さらりとした爽やかなコットンを選びました。
─ 今回、加工も特別だそうですね。
塁 滋賀県で近江晒(おうみさらし)加工を施しています。 灰汁(あく)を使って布をやわらかくして、 日光に晒して白くする工程を繰り返すのですが、 滋賀ではさらに手揉みで洗いをかけるんです。 そうすることで、不均一なシボが生まれるのが特徴です。 その自然なシワ感が、独特の表情につながります。
仁美 もともとフランスで似たような生地を見たことがあって。 シワ感があって、少しペーパーライクな質感なんです。 それをヒントに、つくり方を探っていく中で、 「近江晒でできるんじゃないか」とたどり着きました。
塁 さらに、綿糸にシルクのような光沢を与える 「マーセライズ加工」も施しています。 シャリっとした風合いで、折れジワもつきにくい。 熱がこもりにくく、暑い季節にも快適に着ていただけます。
一点ものの風合いになる製品染めで。
─ 今回のパンツは、生地の状態ではなく、 洋服に仕上げたあとに染める 「製品染め」をしていただいているんですよね。
塁 そうです。 製品染めは、染めることで服が縮むので、 縫製のわずかなズレが ねじれやシワとしてそのまま現れます。 だからこそ、縫製がきれいでないとできないやり方なんです。
タカ子 今回はウエストがゴム仕様ですが、 ベルト部分の幅も縮むことを見越して、 ほんの少し余裕を持たせて縫っています。 ただ、余裕を取りすぎると、 中のゴムが動いてねじれてしまうことがあるので、 きちんと収まりながら、 動かないギリギリの幅に調整しています。 細かな部分ですが、 こういうところにも技術が必要なんです。
─ 土台となる縫製の精度が問われるんですね。 実際、製品染めはどのように行われているんですか?
塁 染め場にご案内しますね。 ドラム式の機械もありますが、 今回のボトムスはパドル染色機を使っています。 薄い生地なので、デニムのように叩くのではなく、 水の中で“泳がせる”ように染めていきます。
─ タンクの数が多いですが、 もしかしてこれ、中身は水ですか?
塁 そうなんです。 下洗いから柔軟まで、全部で9工程あって、 1工程につき約1100リットルの水を使います。 なので、一度の染色でおよそ9900リットルですね。
─ すごい量ですね。 パターンや生地の話に加えて、 この製品染めの工程を聞くと、 一枚ができあがるまでに、 どれだけ手間がかかっているかがよくわかります。
塁 その分、洋服としての“ツラ”がすごくいいんです。 生地もミシン糸もすべて天然素材なので、 染めることで糸も一緒に縮んで、 生地にぐっとなじんでいく。 そうすると、パーツごとに縫われていたものが一体化して、 どこか一点もののような表情になります。 ほんの少し個体差があるのも、ご愛嬌ですね。
日常にも、よそゆきにも。
─ 今回のカラーは、ブラックとセージの2色。 どんなシーンで着るのがおすすめですか。
タカ子 旅行にはとてもいいと思います。 シワになりにくくて、動きやすくて、洗えるので。
─ たしかに、持ち運びもしやすそうです。
タカ子 でもそれだけじゃなくて、 日常でもたくさん履いてほしいですね。 ハカマバルーンパンツは、 これまでも素材や色を変えてつくってきましたが、 色違いで何本も買ってくださる リピーターの方もいらっしゃるんですよ。
仁美 カジュアルには必ず合わせられる、 というのを前提にしていますからね。 古着とも合わせられますし、 Tシャツ一枚でも成立する。 1回しか着ない服にはしたくないので。
─ お仕事などでも着られますか。
仁美 もちろんです。 合わせ方次第で、印象も変わります。
塁 近江晒の生地自体、 慶弔の場にも使えるような 品のある素材ですからね。
タカ子 しっかり湯通しもしているので、 縮みの心配もありません。 気にせず、どんどん履いていただけたらうれしいです。
FACTORYのみなさんに着ていただきました。
<着用アイテム>
バンブーコットン タンクトップ ¥8,030(FACTORY)
GIMAコットン ロールネックセーター ¥14,300(FACTORY)
黒は、上に軽さを足すのがポイントです。 白や透け感のある素材を合わせて 抜けをつくると、重たく見えません。 五分袖やロールネックなど、 首まわりや袖に少し動きを出すと、 より軽やかな印象に。
フルレングスなので足元はすっきりまとめて、 サンダルや軽めの革靴で バランスを取るのがおすすめです。
<着用アイテム>
アイリッシュリネン(シワ加工)カジュアル半袖シャツ ¥26,400(FACTORY)
バンブーコットン タンクトップ ¥8,030(FACTORY)
セージのような中間色は、 色数を3つに絞るとまとまりが出ます。 シャツを少し開けて、インナーに白をのぞかせることで、 全体のバランスがぐっと整います。 トップスは明るめの色を選ぶと、春夏らしい軽やかさに。 足元は黒で引き締めても、白で抜けをつくっても。
合わせる色によって、 印象がやわらかくもカジュアルにも変わります。
<着用アイテム>
和紙コットン スムースニットカーディガン ¥38,500(FACTORY)
ベルギーリネン シャツカーディガン ¥25,300(FACTORY)
セージは、黒とも相性がいいカラーです。 淡いトーンの中にほどよい締まりが生まれ、 重たくなりすぎません。 足元は軽さのあるスニーカーで抜けをつくると、 黒のトップスを合わせたときも軽やかに見えます。
〈O2〉× FACTORY
ハカマバルーンパンツ
各¥23,100(税込)
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セージ
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ブラック