置いておくだけでもカッコいい?
「Saravah」のフェルトハット。
帽子職人、帽子デザイナーである
坂口直顕(さかぐち・なおあき)さんが手がける
ハンドメイドのハットブランド「Saravah」(サラヴァ)。
店長の石川顕さんから坂口さんへのリクエストは、
「1970年代にアメリカのミュージシャンが
かぶっていたような、草花が飾りつけられた
フェルトハットだよー」とのこと。
それをイメージして、想像を膨らませ、
坂口さんがつくりあげました。
フェルトには高級素材のひとつである
ラビット(ウサギの毛)が使われているので、
頑丈でしなやかで、折りたたむこともできるし、
型くずれがした場合のメンテナンスもしやすいそうです。
帽子職人が手作業でつくる
魂のこもったフェルトハット。
なぜ、この素材で、この形? どうやってかぶるといいの?
そもそもなんで帽子職人になったんですか?
気になることを全部、坂口さんに聞いてみました。
ちょっとさ、
こういう帽子つくれる?
- ──
- 久しぶりにこんなに存在感のある帽子を
見ることができました。
ラフなものが好まれがちなこの時代に、
ここまでどっしりとしたものづくりと出会えて
ちょっと感動しております。
- 坂口
- ありがとうございます。
もうたぶん4、5年前になるのですが、
石川さんから「こんな帽子をいまつくりたくてさー」
って言われていて、それがようやく形になりました。
- ──
- すごく石川さんがかぶってそうですよね。
- 坂口
-
めちゃくちゃ似合いそうですよね。
最初は花がうまく消化できるか不安だったんですけど、
「いま、こんなの誰もやっていないし、
うまく落とし込めたら絶対おもしろいよね」
って石川さんがおっしゃっていて、
それじゃあ、ちょっと骨組みをつくってみますとなって、
「じゃあ、俺が花をやるよ」なんて言ってくれて、
コツコツ進めていたんですけど、
結局石川さんがご存命のうちには間に合わなくて。
花に関しては、石川さんがどうしようと考えていたのかは
わからなかったのですが、
原色系の造花だと
アミューズメントパーク感が出てしまうので、
アンティークっぽい感じが出るような
ドライで組めたらよさそうだと思い、
友だちのお花屋さんに手伝ってもらい、
ドライコサージュをつくりました。
ブルーベース、ゴールドベース、スモークベースの
3種類から選べるようになっています。
ネクタイピンがついているので、
リボンに挟み込めるようになっています。
なんなら別の帽子にもつけられますし、
ジャケットの胸ポケットにもつけられます。
- ──
- このドライコサージュがあるのとないのでは
まるで雰囲気が違ってきますね。
お花がまたフェルトとよく合っていると思うのですが、
何の素材を使っているんですか?
- 坂口
- ラビットの毛を使っています。
フェルトでは最高級の
ビーバーの毛のひとつ下くらいの良い素材です。
- ──
- ラビットだとどんなところがいいんですか?
- 坂口
-
薄くて、軽くて、しなやかというのがあるのですが、
いちばんは、型くずれしたとしても、
メンテナンスがしやすいところですね。
見た目は折りたためなさそうに見えると思いますが、
移動中くらいの短い時間なら全然折りたたんでも平気です。
もちろん、食用のうさぎをありがたく余すことなく
使っているのもいいところです。
僕が生きているうちはメンテナンスできますし、
リアルに50年以上、孫にもわたせるくらいの
ポテンシャルを持った素材だと思います。
- ──
-
3代でかぶれる帽子ですね。
形もクラシックだから、流行り廃りもなさそうですしね。
メンテナンスがしやすいというのは
つくりの工程がちゃんと手作業だから
というのがあると思うのですが、
このフェルトの帽子ってどのようにつくられるんですか?
- 坂口
-
まず、ラビットフェルトを仕入れます。
仕入れた時点でフェルト自体は既にやんわり
帽子の形のような立体になっているのですが、
それを様々な形の木型にはめて、
水と重たい鉄のアイロンを使ってしっかり蒸します。
熱いうちにフェルトを伸ばし
木型の形に沿わせていくんです。
そして、しっかり乾燥させれば
ある程度ここで形状が記憶されるんです。
あとは、スベリ(帽子の内側のおでこが当たる場所につける
帯状のテープ、サイズリボンともいう)をつくって、
ハットの内側に縫いつけ、ブリム(つば)の端を縫い、
表側に今回ならオルテガ柄のチロリアンテープをつけて
仕上げます。
- ──
-
素材が最初からある程度帽子の形をしているのが意外でした。
木型もものすごくたくさんお持ちだそうですが、
そもそも帽子づくりはどのように学んだのですか?
というか、その前に、
どうして帽子づくりをはじめたんですか?
- 坂口
-
身近に靴づくりをしている友だちがいたので、
ものづくりに興味が湧いたのがありましたね。
友だちが靴だったので、僕は帽子だろうと(笑)。
帽子は好きでよくかぶっていたのもあるのですが、
自分でドンピシャなやつがつくれたら楽しいだろうなって
思ったんですよね。
右も左もわからなかったので、
最初は帽子の専門学校のようなとこに通って、
それから千駄ヶ谷に職人さんがいるというのを聞き、
すぐに連絡して、会うことになって、
「じゃあ、明日から来なさい」と言ってくれて、
その師匠のもとで20代を過ごしました。
- ──
- それからすぐに「Saravah」をはじめたんですか?
- 坂口
-
すぐにははじめなかったです。
師匠のアトリエでは制帽や舞台衣装の帽子なども
作っていたので、
しばらくはそのつながりを大事にして
舞台衣装の仕事や洋服ブランドのOEM、
未熟ながらオーダーメイドもやっていましたね。
そして数年経った2013年に「Saravah」を立ち上げました。
春夏、秋冬と展示会をやったほうがいいよと
知り合いにアドバイスされて、
最初は型数も少なかったですけど、
ブランドらしい動きをしはじめました。
いろいろつくれるようになって、型数も増えましたが、
ひとりでやるには数の限界はあります。
キャップやバゲットハット、キャスケットなどの
布の帽子のオーダーが何百となると
信頼のおける腕が確かな職人さんに頼んで
手伝ってもらったりもしています。
職人気質で、めちゃくちゃ手がきれいなんですよね。
- ──
- ひとりでやられていますし、
ほんと職人の世界だから、数も限られてくるんですね。
- 坂口
- いまも絶賛、夏ものを納品中です。
- ──
- そういえば、フェルトハットをかぶるのに
いい季節ってありますか?
- 坂口
-
春、秋、冬と、夏以外は大丈夫ですよ。
通気の面でもさすがに夏はちょっと暑いかな。
汗かきますしね。
逆に冬はかぶるだけで結構あったかいんですよ。
あまり季節を気にして凝り固まってしまうと
出番が少なくなってしまいますからね。
Tシャツと短パンにかぶってもいいと思います。
白Tにデニムパンツでも。
「これが正解です」って顔をして歩いていれば大丈夫です。
意外とそんなに見られてませんから(笑)。
- ──
- いいですね、そのマインド。
ちなみに、かぶり方はどうするといいですか?
こういうハットのかぶり方の正解ってあります?
- 坂口
-
よく誤解されがちなんですが、
前髪を出して浅くかぶるのではなく、
眉毛が隠れるか隠れないかくらい目深に、
水平か斜(はす)にかぶるのが本来は正解です。
オノ・ヨーコさんや萬田久子さんのイメージ。
丹波哲郎さんもそうでしたね。
そうやってかぶることで
きれいにラインが出るよう木型がつくられているので。
- ──
-
ああ、その人たち、帽子のイメージ、ありますね。
たしかに、堂々とかぶっていていいですね。
ところで頭頂部の中折れの部分って
手でつまんでもいいんですか?
天然草のストローハット(麦わら帽子)だと
しょっちゅうそうやってつまんでいると、
割れちゃいそうになりますよね。
- 坂口
-
そうです。天然草の帽子の場合、
強くつまみ続けると割れの原因になりますが、
フェルトは大丈夫ですよ。
でも、やさしく持ってあげるといいですね。
前側のつば先部分に手を添えると
挨拶のときの脱帽と同じ意味になりますよ。
- ──
- なるほど、勉強になります。
お手入れはどうするといいですか?
- 坂口
-
基本、丸洗いはできないので、
風通しのいい場所で陰干しして、
湿気をしっかり取ってください。
カビの原因にもなるので
ビニールなどで密封して保管しないこと。
表面についた汚れなどは、
かたく絞った布でやさしく拭き取ってあげるといいですね。
内側のスベリには、付属の汗止めテープを貼ってあげると
汗染みとかファンデーション染みを防いでくれます。
サイズが大きい場合も、
1周貼ると1cmほど小さく調整もできます。
あとは弊社オリジナルの
ハットケアスプレーも作りましたので
それもオススメです。
- ──
- 天然素材ですし、なんだか生き物みたいですね。
脱いで、棚に置いておくだけでもカッコいいですし、
それが風通しのいい場所ならベストですね。
- 坂口
-
大事にしたぶんだけ、長く使えますしね。
石川さんと一緒にいいものがつくれたと思います。
もともと職人の出というのもあるんですけど、
僕自身長く仕事してると、
どこかで固定観念や先入観といった
既成概念にとらわれがちなところがあったりして、
石川さんはそういうものをサッと取り払ってくれますから。
「おー、坂口くん、元気?
最近、どんなのつくってるの?
こんなのつくりたいんだけど、どうかな?」って、
突拍子もないことをすごく楽しそうに話してくれて。
丸投げっぽいけど、「俺、ケツ拭くぜ」みたいなところが、
どこか安心してものづくりをさせてくれていたんだなあって、
いまになるとよく思いますね。
2026-10-02-FRI
(おわります)
「Saravah」のフェルトハット「Troubadour」は
2026年10月5日(月)11時〜10月20日(火)11時まで
オーダーを受け付けます!
[STAFF]
企画・プロデュース:石川顕
文:小笠原民織
Special Thanks:坂口直顕