「ミヒャエル・ゾーヴァの世界」の おすそわけ
第4回 絵になる瞬間。
糸井 今までの
インタビューを読ませていただいたら
「自分は仕事をしたくない人間だ」
みたいなことを
何度もおっしゃっているように
読めたのですが‥‥。
ゾーヴァ いやいや仕事は好きですよ(笑)。
仕事をしたくないというわけではないんです。

ただ依頼をされて引き受けた仕事を
やらなければいけない時に限って
自分のオリジナル作品を描きたくなる
という傾向はあります(笑)。
時々「やりたいことをやってしまえ」って
やってしまうこともあるのですが
やっぱり締め切りがあるからと
断念して
結局、依頼された仕事に戻るんですね。

あと、ぼくの家は田舎にあるので、
庭仕事といいますか、
芝生や木を
いろいろ管理しなければいけないんです。
そういう単調な仕事をしていると
ついつい絵の仕事のことを忘れて
打ち込んでしまったりもします(笑)。
糸井 単調な仕事は好きなんですね(笑)。
本当は人間みんなそうなのかもしれない。

ゾーヴァ 描くという作業は
とても孤独で一カ所に座って
こそこそやっているようなものなので
やはり体全体を動かすような作業とかが
楽しいですね。
糸井 特にゾーヴァさんの絵は
瞬間をつかまえる緊張感みたいなものが
ユーモアの後ろに感じられるので、
こりゃぁ、描いている人は大変だろうな、
と思うんですよ。
ゾーヴァ 絵を描くにあたって
一番難しいのは
構成や色使いはこれでいいであるとか
自分が納得できる作品をつくりあげていく、
その過程なんです。

納得いくポイントがなかなか見つからないと
描きかけていた作品でも
上から塗って、
全部描き直してしまうんです。
そういうところは
自分で自分を苦労させているのかもしれません。

絵を描くときの着想としては
何でもない日常のおかしな瞬間の
記憶というのが多いですね。

最近、絵になりそうだなと思ったのは
クリスマスの前に
教会のコンサートをに行ったときのことです。
ずらっとベンチに座っている
大人の頭が見えて、
寒いのでコートも着ていて
けっこうつまっているんです。
前の列に4歳の息子が
座っていまして
その部分だけ、
ぽこっと頭がなかったのですが
彼のテディベアが
ぴょんってそこから浮かんできたんですよ。

そういう瞬間を見た時には
ネタになりそうだと思ったりします。
何でもない日常のおかしい瞬間が
記憶に残っていることが多いかな。
糸井 ほぉ。
ゾーヴァ ほんとうに絵になるかはわからないのですが、
小さな記憶のことを
たくさん描けたらいいなって思ってまして‥‥
いろいろなシーンの断片が
頭の中にたくさんつまっているんですね。

ちょっと残念なのは時間的に
ひとつひとつをキャンバスに
描くことがないまま
おしまいになってしまうことが
多いことです。
糸井 頭の中で描けただけで
終わってしまうんですね。
(つづきます)
【通訳】
ゾーヴァさんと糸井重里の対談は
ゾーヴァさんの本を何冊も翻訳されている
木本栄さんに通訳をお願いしました。
2006-02-07-TUE



「ミヒャエル・ゾーヴァの世界」の おすそわけ

猫の皮はぎ屋「ナウマン」
(画像をクリックすると絵を拡大します。)
 展覧会の会場でこの絵を前に
 二人が語り合ったことを
 こちらからお楽しみください。