俳優の言葉。 006 池松壮亮篇

ほぼ日刊イトイ新聞

俳優の言葉は編集しにくい。扱いづらい。
きれいに整えられてしまうのを、
拒むようなところがある。語尾でさえも。
こちらの思惑どおりにならないし、
力ずくで曲げれば、
顔が、たちどころに、消え失せる。
ごつごつしていて、赤く熱を帯びている。
それが矛盾をおそれず、誤解もおそれず、
失速もせずに、心にとどいてくる。
声や、目や、身振りや、沈黙を使って、
小説家とは違う方法で、
物語を紡いできたプロフェッショナル。
そんな俳優たちの「言葉」を、
少しずつ、お届けしていこうと思います。
不定期連載、担当は「ほぼ日」奥野です。

> 池松壮亮さんのプロフィール

池松壮亮(いけまつ・そうすけ)

1990年7月9日生まれ。福岡県出身。
『ラストサムライ』(03)で映画デビュー。
2014年に出演した『紙の月』、『愛の渦』、
『ぼくたちの家族』、『海を感じる時』で、
第38回日本アカデミー賞新人俳優賞、
第57回ブルーリボン賞助演男優賞を受賞。
2017年には主演作『映画夜空はいつでも最高密度の青色だ』
などで第9回TAMA映画賞最優秀男優賞、
第39回ヨコハマ映画祭主演男優賞を受賞。
昨年の映画出演作に『万引き家族』、
「ウタモノガタリ」の『ファンキー』、
『君が君で君だ』、『散り椿』などに出演し、
『斬、』では第33回高崎映画祭最優秀主演男優賞を受賞。
最新出演作に『町田くんの世界』(19)、
『WE ARE LITTLE ZOMBIES』(19)、
『よこがお』(19)などがある。

第1回 物語に救われた経験。

──
池松さんは、どうしてぼくら人間には
物語が必要だと思われますか。
池松
神がいないからじゃないですか。
──
うわ。
池松
いや‥‥。
──
それ、以前から考えていたことですか。
池松
何となく、いま出てきた言葉です。
──
この質問、たまに聞いてるんです。

取材というかたちじゃなくても、
映画監督とか作家さんとか、
文化人類学者の人とか、
物語に関わっていて、
物語について、考えているような人に。
池松
ええ。
──
是枝裕和監督にも聞いたことがあって、
それぞれの人から、
それぞれの考えが返ってくるんですが、
今の池松さんの答え、
すっごくおもしろいなあと思いました。

その答えの「続き」を、聞きたいです。
池松
あの三船敏郎さんが、
おもしろい言葉を残しているんですね。

俳優というものは、
人間のクズがやるものなんだ‥‥って。
──
クズ‥‥ですか。
池松
なるほど、ぼくもそう思います、と。

人間のクズがやるもの‥‥っていうか、
クズでもやれる、
俳優なんか、誰でもやれる仕事だって、
ずっと思っていましたから。
──
そうなんですか。
池松
でも、三船さんは晩年に意見を変える。

俳優なんて人間のクズのやることだと
言ってきたけれど、ちがったと。
俳優は、
人間のクズがやるべき仕事ではないと。
──
へえ‥‥。
池松
それはなぜかと言えば、
俳優とは、神なきところで「人間」を、
それは「役を」という意味ですが、
「人間」を、構築しなければならない。

「人間」を、創造しなければならない。
──
はい。
池松
そして、その創造した「人間」を、
みなさんの前にさらして、
その人間を、
生きてみせなければならない、と。

そして、
何かを伝えなければならない、と。
──
なるほど。
池松
だとしたら、やっぱり
人間のクズがやっちゃあいけない、
人間のクズじゃできない仕事だと。

ぼくの解釈が入ってるかもしれませんが、
だいたいそんなことを、
三船さんは、死ぬ前に言ったそうです。
──
神はいない‥‥から、
俳優は、人間を創造しなければならない。
池松
その意味では監督さえも神じゃない。
──
おもしろいです。
池松
そして、物語というものも、
神さまがつくってはくれないですよね。
──
ええ、そうですね。
池松
だから人間は物語をつくるんですよね。

そして、物語‥‥
ぼくの場合はおもに映画ですけど、
映画をやってる人って、
きっと、ふつうよりも、
物語が必要だった人たちなんだと思う。
──
ああ‥‥。
池松
少なくとも、ぼくはそうなんです。

つまり、物語に魅せられたからこそ、
物語を紡いでいるんだと思います。
──
恩返しのように。なるほど。
池松
物語から学んだことがたくさんあるし、
物語から獲得した感情だって、
両手に抱えきれないくらいあるんです。

それが愛なのか憎悪なのか何なのかは、
人それぞれだと思いますけど。
──
ええ。
池松
ようするに、物語に救われたんですね。

だから、人間には物語は必要というか、
人間から物語を奪ってしまったら、
とんでもないことになると思うんです。
──
映画に限らず「救われた」というのは、
大きいことだろうと思っていました。

音楽家は音楽に救われたんだろうし、
小説家は小説に救われたんだろうし、
そういう経験をしているから、
こんなにも、
心に届く創造ができるんだろうなと。
池松
そうだと思います。

映画とか小説といった、
かたちになった「物語」だけじゃなく、
名もなき誰かの物語に触れたときも、
ぼくらは何かを感じて、
自分自身を見つめ直したりしますよね。
──
無名の、無形の物語に‥‥。
池松
大切な人への思いを、重ねたりだとか。
──
はい。
池松
そんなふうに思ったりしてます。
──
いつも考えてるんですか、そんなこと。
池松
考えちゃうんです。ひとりのときとか。

<つづきます>

2019-09-26-THU

写真:梅佳代

『宮本から君へ』 ©2019「宮本から君へ」製作委員会
9月27日(金)新宿バルト9ほか全国ロードショー
配給:スターサンズ/KADOKAWA 監督:真利子哲也
出演:池松壮亮、蒼井優、井浦新、一ノ瀬ワタル、佐藤二朗、松山ケンイチ

池松壮亮さん主演『宮本から君へ』
9月27日(金)から、全国公開。

試写で拝見したんですが、すごい作品でした。
その後、2週間くらい経ちますが、
映画から感じた音やにおいや手ざわりが、
まだ体内に残っています。
映画では、主人公の宮本浩にとって、
まあ、いろいろ厳しいことが起こり続けます。
以下、池松さんの言葉です。

「いまの時代を生きる者として、
ぼくは、宮本浩に
懇願していたような気持ちがあるんです。
宮本浩だったら、
いまの時代の世界の痛みとか、
人間の心の痛みを、ぜんぶはむりだけど、
一部、背負ってくれるんじゃないかと。
かつて自分自身が宮本に救われたように。
宮本は、冒頭からずーっと
自分を殴り続けて、
ずーっと自分に対して叫び続けています。
あんなキャラクター、
リアリズムとしては存在しないし、
存在する必要もないんですけど、
ひょっとしたら、
物語としては、
存在すべきなんじゃないかと思えました。
どこかキリストみたいな‥‥
ぼくは無宗教ですが、
ぼくは、どこかで、
宮本浩に、
キリストのような人を重ね合わせていた。
自分の20代が、
この映画で終わってよかったと思います」

ぜひ。
映画の公式サイトはこちらです。

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池松壮亮さんにも、おとどけします。

俳優の言葉。