SLEEP
「ほぼ日」は
<寝グルメ>を
提唱します!

3回まで、矢継ぎ早に掲載したにも関わらず
第4回目は「紅白」をはさんでしまいました。
初夢に向けて当寝グルメを期待していた
読者の方々、どうもスイマセンでした。
ところで、紅白は見ましたか?
ワタクシは見ました。

そういえば、昨年は、何かにつけて当委員会でも
寝グルメの話題がのぼっていましたっけ。
darlingさんはコタツの最弱モードでうたた寝するときの
快感をうったえていましたし、
セイヒローさんは「脂の海で泳ぐ夢」を見たいなら、
背脂こってりのラーメン「なりたけ」を
食えばいいと思う。
と熱く語ってくれました。
そして、正月休みの後、
しっかりと大物になって戻ってきてくれました。
最若年の日活ことモモンガ部長こと私は
読書と睡眠の間を行き来する快感に
酔いしれた年でありました。
おかげで「屍鬼」は、上巻しか読めませんでした。

さて、第4回目の寝グルメ。
まずは特殊な状況下で味わう睡眠。
「じゃ、俺もマネしてみよう」と、
簡単に言いにくいのが欠点といえば欠点ですが、
本人さえも再現しにくい「超・寝グルメ」です。

 

HOW?資料#009

骨折睡眠のすすめ

中学二年の時に、
鎖骨を骨折したことが
あります。
今ではどうなのか
知りませんが、
当時(二十年以上前)のギブスは石膏で
上半身と腕をがっちり固めるとゆうモノでした。
この状態で、
真夏の数ヶ月間を過ごさなければなりませんでした。
石膏でがんがんですから、ものすごく肩が凝ります。
そして、蒸れます。
石膏で覆われた部分に、
垢がたまっていくのが触らなくてもわかります。
それなりに洗浄するのですが、追いつきません。
寝ようにも痒くて臭くて、
それに寝返りも打てなくて熟睡できません。
でも、骨折は直るモノなので、
ギブスがとれる日がくるのを
とても楽しみにしていました。
で、とうとうギブスがとれる日がきました。
歯車が振動する機械で、石膏を切っていきます。
切り進むにつれモウサイ血管が脈打つような感じです。
凝り固まった筋肉や血管やその他が、
じわーっじわーっと
暖かくほぐれていくような快感です。
二十年以上たった今でも、思い出すだけでじわーです。

ギブスで固めた部分は、筋肉が退化してしまって、
使えません。
触るとたぷたぷしてました。
腕も上がりません。
アルコールで拭くと、
ずるずると真っ黒な垢がこぼれました。
さあ、あとは帰って寝るだけです。

ふとんに寝転がった瞬間、
肩からじゅわー腕からびわーっと
疲れ物質が波状になって、
ふとんに吸い込まれていくようでした。
じゅわーっとか、ドックンドックンとかがいつまでも続き
快感で気が遠くなり、
頭のてっぺんから何かを抜き取られるように
ふとんの中に落下し続けました。
あんな睡眠を、骨折なしでもう一度味わいたいです。

小柳 省三 

寝グルメ委員会のコメント
『疲れ物質が波状になって、
ふとんに吸い込まれていくようでした』
がスゴイですね。
疲れ物質という概念を発見したというだけで、
小柳さんは、日本の寝グルメ界に、
貴重な一石を投じたと言えるのではないでしょうか。
そうか、私たちは、「疲れ物質」を小銭のように
肉体に貯め込んで生きているのかもしれませんね。


HOW?資料#010

耳は目ほどにものを得る

今から5年ほど前の話です。
天気のよい、
ある土曜日の夕方。
その日、ぼくは
前日からの徹夜仕事を終え、
やっと家に帰ってきたところでした。
布団を敷いたはいいけど、
徹夜の興奮からか、なかなか寝付かれません。
その時、
「トゥルルー」
と電話が鳴りました。

「ハイ、小貫です」
「もしもし、私、○○○の×××というものですが」

とてもきれいな女性の声です。
でも相手に覚えはありません。
なんだかウサン臭いです。マルチな雰囲気満々です。

「小貫様は英語が喋れなくて
困ったことがございませんか? 実は私どもは〜」

そらきた。
どうやら英語の教材を買えと言っているようです。
でも、ぼくにはそんなモン買う気も、
買うお金もありません。
「けっこうです」といって
電話を切ろうかとも思ったのですが、
その女性の声が、鈴を転がすというか、
耳元で囁かれているというか、
なんだか受話器越しに
三半規管をくすぐられているような感じで、
たいへん気持ちよく
「もうちょっと喋っててもいいかな」と思い直しました。

「具体的にどんな商品なんですか?」

敷いた布団に寝転がって、そう尋ねると、
シメタとばかりに彼女が続けます。

「もしよろしければ、一度会っていただいて〜」
「いや、その前に少しだけでも知っておきたいので・・・」
「それでは。ウチの商品は・・・で、
・・・・な・・・・です。
ですから・・・・なわけで、
それで・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

彼女が一所懸命、説明しています。
ぼくは適当に相づちを打ちます。
とても気持ちいいです。
でも、でも、でも、でも。

ああ、三半規管が、三半きかんが、さんはん・・・・・
ぐるぐる目が回ります。
彼女の声がだんだん遠くなっていきます。
もう何を言ってるのかわかりません。

次に気づいたのは自分のいびきの音でした。
大いびきです。
よだれが出ているのがわかります。
受話器はしっかり耳に当てられていました。

「もしもし?」
「プー、プー、プー」

電話は切れています。
時計を見ると1時間が経過していました。
どうやらぼくは呆れられてしまったようです。
徹夜明けの、たった1時間の睡眠にしては
たいへん寝覚めがいいです。

でも、こんな気持ちのいい時間を
提供してくれたにも関わらず、
結局、会うことも、
教材を買ってあげることもできませんでした。
ちょっと後ろめたい気分です。

「なんて気持ちよかったんだろう。
マルチのおねえさん、ありがとう」

ぼくは、なんだかその電話が、
まだ彼女とつながっているような気がして、
しばらくの間、切ることができませんでした。

以来、ぼくにとっての「気持ちいい眠り」とは、
「耳」にあります。
子供を寝かしつけるのに、
おかあさんが昔話を聞かせる、
という行為をあなどってはいけません。
きっと生理学的にも理由があるんじゃないかと思います。

ちなみにその後、きれいな声の女性と付き合って、
同じような経験をしましたが、
それが引き金となってフラれてしまいました。
(真剣に悩みを相談していたそうです)

小貫 正貴

寝グルメ委員会のコメント
寝グルメのためにはマルチさえも利用するという、
このどん欲さは、見習うべきかもしれません。
この方法を知ってしまうと、
「マルチのお誘い」が来ないものかと、
逆に待ちたい気持ちにさえなってきます。
近所の道路工事の音とかでは、
無理でしょうね?
道路工事の騒音さえ利用できるとしたら、
もうコワイものなしですね。
ついでなので、「声の思いで」を、
語らせてください。
ワタクシ日活の体験談です。
私も前に勤めていた職場近くのソバ屋の出前取りの
女性の声に恋をしました。
声に恋なんて、しゃれてるでしょう。
その声は、細川ふみえを彷佛させるブリブリなもので、
その声の源泉には、その声を出させるだけの
豊かで満ち足りた「共鳴体」があるであろうことが
想像できました。
ああいう声は、ああいうボディから出る、のです。
これをうっかり、みなにしゃべってしまったために
荒ぶる同僚たちが毎日代わる代わる、
出前時の受話器を奪い合うことになってしまったのです。
この先に待っていたのは、
「無駄な探求心」によるゲームセットです。
だーめだよ!見に行っちゃ!
電話線の向こう側、ソバ屋の店内には、
細川はいなくて、太川がいました。
あらためて考えてみると、細川ふみえという人は、
基本の「太」を、
全体として「細」にまとめあげている奇跡の人かも。
いや、名前が細であったのがよかったのかもしれません。
どうも、無駄話をしてすみませんでした。


when?Where?資料#011

盗み寝は確信犯である

私やってます、
ここ最近、仕事中に。
忙しいのに、
お尻に火がついてるのに
判で押したように
お昼過ぎから悪魔(睡魔ですね)との戦いが始まるんです。
ずっと寝ちゃいけないと思って
ガムかんだり敷地内を散歩したり
(もしかしたらその方が居眠りより拙いかも)
していたのですが、もう今じゃ確信犯で
眠いなぁー、と思ったらトイレへ行き、
便座は和式なので予備のペーパーが置いてある
小さい棚に座って、十五分ほど悪魔の誘いに乗っています。
我慢するよりずっと天国ですよ。

どこかで聞いたのですが、
作業しているときに無理して起きているより
十分ぐらい仮眠してまた作業するほうが
効率的なのだそうですね。
ということを建前にして、
万が一上の人にばれても(すでにばれているかも)
うまく切り抜けて(?)
このひそかなお楽しみは当分続けて行くつもりです。

それから、うちの職場には
「眠り王子」と呼ばれている人がいます。
うちは開発部門なので
コンピュータの端末が沢山あるのですが、
その端末の前に座ると、
王子はまるでのび太君のように
三秒で眠りにつきます。昼間でもお構いなしです。
先日は私と喋っていて、
話が終わったら五秒くらいでもう寝てました。
寝言も言います。
最近そんな病気が増えているので、心配する人もいます。
今度ビデオにでも撮ってみたいです。
まるでお花の開花を早送りで見るような感じにすると
面白いかなぁ、と考えてます。

和田 進也

寝グルメ委員会のコメント
今となっては、どこにでも洋式のトイレはあるので、
和式のトイレでの盗み寝は盲点でした。
しかし、その「小さい棚」は信用おけるもんなんですかね。

とはいえ、洋式の座り加減はさすがといいたいですね。
特に便座のうしろにタンクがあるタイプ。
これなら、背もたれとして安眠を約束できます。
会社で安眠を! 職場に洋式を! 

ちなみにコンピュータの端末は、
電磁波のほかに、眠り光線を放出しているというのが
定説のようです。

カワハギ釣りで照明した、いえ証明した実力を、
寝グルメ委員会でも遺憾なく発揮する男!
それが、ひた走る日活こと私、モモンガ部長です。
つい、使い慣れない難しい漢字や言い回しを使って、
某氏の手直しの手間をとらせていますが、
ぜーんぜんめげることなく山崎邦正なみに、
臥薪嘗胆誠心誠意猪突猛進でやっていきたいと、
歯をくいしばって爆走していきます!!!

◆とろりとおいしい眠りはいかが?

 

1999-01-06-WED

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