乗組員やえの疑問

見る方向によって姿が変わる?

スカイツリーおじさんの解説

「ここから見えるよMAP」にあるように、
ほんとにいろいろな場所からツリーが見えますね。
たくさんの方々の投稿写真を拝見するのは
私たちも本当に嬉しいです!

富士山や日光の展望台、
霞ヶ浦ふれあいランド虹の塔など、
遠くからその存在が分かる一方で、
スカイツリーを中心にした半径1キロ圏内では
見る方向によって、
違うかたちに見えるのが分かります。
これは、以前にお話したように、
平面が三角形から円形へと
徐々に変化するために、
「そり」と「むくり」の2種類の稜線を描き、
足元から第1展望台までのシルエットが
見る方向によって変化するためです。

このような「変化して見えるもの」、
かつて、東京は千住に有名なものがありました。
それは「お化け煙突」の愛称で親しまれた、
千住火力発電所の4本煙突のことです。

場所は、上野よりも北側、
荒川と隅田川に挟まれた地域で、
今の住所でいえば、
東京都足立区千住桜木1丁目のあたりに
建っていました。

建設されたのは1926年(大正15年)
煙突の高さは83.82mでした。
1923年(大正12年)に起こった関東大震災の
3年後ですから、町の復興が始まって間もなく、
まださほど高い建物のない時期です。
それゆえ、戦前から戦後のある時期までは、
この「お化け煙突」は
東京でいちばん高い構造物だったそうです。

では、なぜ「お化け煙突」と呼ばれたのか?
それは、煙突の完成後しばらくしても煙が出ないので
誰ともなく「お化け煙突」といわれ始め、
やがて、見る場所によって、
煙突の本数が、4本にも3本にも2本にも1本にも
変わって見えることから
すっかり「お化け煙突」として定着したそうです。

煙突の本数が変わって見える仕組みは、
4本の煙突の配置にあります。
下の図のように、
細長いひし形の頂点部に煙突が配置されており、
そのために、見る方向によって煙突が重なることで
本数が変化して見えたというわけです。
特に、ひし形の短い対角線上にある2本は、
近接しているため、煙突が4本あるのに、
3本に見える範囲がいちばん広かったことが
この不思議な魅力を広めました。

記録や資料などによると、
いろいろな分野で紹介されています。
一例ですが、
文学では永井荷風の『断腸亭日乗』
澁澤龍彦『記憶の遠近法』、早乙女勝元『わが街角』
泉麻人『散歩のススメ』など。
映画では『煙突の見える場所』など。
写真では木村伊兵衛さんの「西新井橋からのお化け煙突」
漫画では「こち亀」こと
『こちら葛飾区亀有公園前派出所』59巻の
「お化け煙突が消えた日の巻」
ほか、新聞記事なども含め多数あります。
こうした資料の数々から、
ランドマークとして、いかに多くの方々の心に
刻み込まれ、親しまれていたのかがよく分かります。

不思議さは人を惹きつける魅力につながりますし、
単調な景観にしないためにも、
東京スカイツリーの設計においては、
姿が変化して見えることを当初より考えていました。
デザイン監修の澄川喜一先生が
この、見る方向で姿が変化するデザイン案を
ご覧になったときに、
そういえば、むかし千住にお化け煙突があった。
それにも似通って、これはいい! 
と、ご賛同いただきました。
「お化け煙突」との類似性については、そのときに
澄川先生からご指摘いただいたものなんです。

ところで「お化け煙突」は、
他の大容量火力発電所の稼動開始に伴い、
1963年(昭和38年)に役割を終えました。
翌1964年(昭和39年)に撤去され、
煙突の一部は足立区元宿小学校の滑り台になりました。
その後、小学校が合併移転し、跡地に建てられた
帝京科学大学千住キャンパスに2010年4月に、
「お化け煙突」のモニュメントが設置されています。
こんなにも長くたくさんの方から親しまれるのは
構築物にとっても大変幸せなことだと思います。

ちなみに、「お化け煙突」の構造設計は、
日建設計といっしょに東京タワーを設計された、
内藤多仲先生でした。
東京スカイツリーも見る場所によって姿が変わり、
それを日建設計が手がけさせていただいています。
ちょっと不思議なご縁を感じてしまいます。

なお、「お化け煙突」については、
私どもも詳しくは知らなかった話でして、
今回の解説にあたり、姫野和映さんの著書
『お化け煙突物語』(新風舎、2007年)から、
多くを学ばせていただきました。
ご興味をもたれた方はこちらをご覧になってください。

人生いろいろある中で、
何があろうとすくっと建っている、
いつ見ても変わらぬ佇まい。
東京スカイツリーも「お化け煙突」のように、
みんなの心のよりどころになれれば、
何よりの喜びです。

◆追記◆
6月11日〜10月2日まで日本科学未来館において
「メイキング・オブ・東京スカイツリー」展が
開催されます。
本展の会場設計は、
東京スカイツリーと同じ設計者が手がけました。
お近くにお立ち寄りの際は
ぜひご覧になっていただければ幸いです。

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2011-06-14-TUE