乗組員やえの疑問

どうやって地震の揺れに耐えるの? その2

スカイツリーおじさんの解説

前回ご説明した「心柱制振」の原理、
「おもり」を主体とは別個に揺らすことで
主体の揺れを抑えるという考えは古くからありました。
建物における実用例では、
製造工場など一定のリズムで生じる床の揺れを
抑える技術として、機械式の「おもり」を用いて
以前から使用されていました。

超高層ビルなどで用いられるようになったのは、
1980年代後半くらいからでしょうか。
日建設計でも実績があって、
千葉ポートタワー以降に設計した多くのタワーや
超高層ビルにこのシステムが採用されています。
ただ、それらは頂部に「おもり」を設置したものです。
通常は、建物全体の揺れをカバーするために、
地盤からいちばん端であり、他の機能の邪魔もしない、
建物頂部に「おもり」を設置するのです。

東京スカイツリーの場合、非常に細長く、
上にいくにつれて細くなるかたちですから、
タワー全体に効果のある大きな「おもり」を
頂部につけることはできません。
構造設計者が「おもり」をどこにどうしたものやらと
考えにかんがえ抜いた末、
もともと必要な中央の非常階段を「おもり」にしよう!
と思いついたものです。
これだと、タワーによけいな重量を加えることなく、
より自然な形のまま揺れを抑えることができます。
東京スカイツリーならではの応用方法なんです。

逆に言えば、この心柱制振を
他の超高層ビルに適用するのは妥当性を欠きます。
というのは、例えば、オフィスフロアの真ん中に
床とは別の動き方をする柱があると、
まず床面積的にマイナスですし、使い勝手も悪くなる、
さらに、床と柱の間もうまくつながなくてはならず、と
適用できなくはありませんが、実際的ではなく、
これは鉄塔ならではの解決策といえるでしょう。

なお、心柱制振ではさらに、
内陸直下型のような比較的短周期の地震に対して、
「おもり」となる円筒部(心柱と呼んでいます)が
地面から建っていることで、
効果が現れるという利点もあります。

従来の頂部においた「おもり」を揺らすのは、
地震の揺れが地盤から建物を伝わって、
「おもり」に到達してから揺れることになります。
ですが、心柱制振では「おもり」がダイレクトに
地盤からの揺れを受けるので、
制振効果がオンタイムで現れるというわけです。

これはほんの数秒ないしそれ以下の
ごく短い時間差の話なのですが、
阪神・淡路大震災を招いたような直下型の地震では、
最初の数秒で建物の被害がほぼ決まってしまうのです。

このように、心柱制振はタワー全体に
効かせようというものですが、
東京スカイツリーでは、
従来の方法のように、てっぺんに「おもり」を置いた
制振システムも併用しています。
これは、タワーの最頂部に設けたもので、
アンテナ取付け部である、
ゲイン塔の揺れを抑えることに、
目的を特化したものです。

おもり、ばね、ダンパーで構成される
TMD(Tuned Mass Damper)制振システムといいます。
ひらたく言えば、
周期をチューニングした「おもり」による
揺れの減衰装置、といったところでしょうか。

上端部なら軽ければ軽いほどいいんじゃない?
と思われるかもしれませんが、
ゲイン塔部分は140mもあり、
デジタル放送等の送信性能を満足させるために、
数センチオーダーの制御を目的に
このシステムを設置しています。
このシステムがない時と比較すると
ゲイン塔の揺れをかなり軽減することができます。

つまり、東京スカイツリーにおいては、
同様の原理に基づいた2種類の制振システムを設けた
ほかに例のない、オリジナルな構造になっている、
というわけなんです。

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2011-02-08-TUE