| シリコンの谷は、いま。 雑誌の記事とはずいぶんちがうみたいです。 |
| カレーといえばインド。 おしゃれといえば、パリ。 というように、 コンピューターといえば、シリコンバレーですよね。 いつごろからか、それは常識になってしまったようですが。 そこでいま何が起こっているのか、どんな場所なのか、 知ってるようで知らないと思いませんか。 雑誌や本で読むと、なんだか野心的で活気があって ものすごい場所のように思えるんだけれど、 実際、どうなんでしょうか? けっこう気になるITやら起業やらのメッカのことを、 そこに暮して仕事をしている人に聞いてみましょう。 2年半前に、本場シリコンバレーで仕事がしたくて、 日本から単身乗り込んだ、 ソフトウェアエンジニアの上田ガクさん、 よろしくお願いします。 |
| 第1回 シリコンバレーって、谷なの? ふとそんなことを考えました。 シリコンバレーの「シリコン」は コンピューターの部品を作る材料の 「シリコン」で、 「バレー」は谷という意味ですから、 日本風に言えば「シリコンの谷」と いうことなります。 仕事の帰りに高速道路を走っている時に 「谷だっけ?」と考えたものですから、 辺りをみまわしてみましたが、 どう考えてみてもここは谷には見えません。 僕の働く会社は、 サンフランシスコ湾に面した沼地の横にあり、 どうも埋立てて作ったような所にあるのです。 谷に海があるなんて おかしいですよね。 でもここはコンピューター産業の世界的な中心地、 「シリコンの谷」のど真ん中なんです。 辺りを見回して、 素直に印象を口してみると、 海に面した平野です。 谷じゃありません。 だから、ここに初めて来たとき、 えも言えぬ違和感を感じました。 シリコンバレーという言葉からは やはり渓谷のような風景を想像していました。 シリコンバレーとは言え、 さすがにシリコンがザクザク産出するのかと 思う人はあまりいないでしょう。 鉱山か何かから出そうですもんね。 シリコンバレーの名前に使われている 「シリコン」はコンピューターの部品の半導体を 作るために必要な材料です。 その半導体を作る会社が自然とこの地域に 集まってきたことから、 シリコンバレーという通称で 呼ぶようになったのです。 半導体に続いて この地でコンピューター産業が花開くと、 コンピューター自体ではなく コンピューターのソフトを専門に作る会社も現れ、 そしてついには インターネットを使って 商売をする会社が 登場してきました。 確かに「シリコン」は 半導体やコンピューターを 象徴する言葉なんですが、 ソフト会社やインターネット関連企業までくると、 どうもシリコンとはもう 直接関係ないんじゃない? という気がしてきます。 もう1つ面白いのは、 地元の人はあまり 「シリコンバレー」という言葉を使わない ということです。 どちらかというと、サンフランシスコを含め、 この一帯すべてを表す 「ベイエリア」という呼び方が 普通です。 地元の人が使わなくて、 地形も今ひとつしっくり来ない、 その上どうも産業もちょっとずれてきている、 そんな「シリコンバレー」という言葉なんですが、 そこには不思議な力があります。 日本の人に自分の仕事のことを話そうと思うと、 随分便利です。 「僕はシリコンバレーの会社で働いています」 といえば、大体の仕事は想像してもらえますし、 「シリコンバレーに住んでいます」 といえば、なぜか納得してもらえます。 これが 「サンフランシスコの南に1時間ぐらい行った ところのサニーベールという町に住んでいて、 インターネット関連の会社で働いています」 といってもイメージが湧きませんよね。 「シリコンバレー」という言葉は かなり知名度が高いように思います。 日本でIT革命が声高に叫ばれていた頃、 優れたアイデアを武器に ベンチャー企業を興した起業家が 次々に成功していく話は 様々なメディアで取り上げられました。 それらのベンチャー企業で働く人たちは みんな昼も夜もなく、 成功を夢見て休日返上で働いている というような話をよく見かけました。 しかし、僕が仕事を終えてオフィスを出るとき、 会社はしーんとしていますし、 休日にオフィスに忘れ物を取りに寄った時には、 会社の駐車場にクルマはほんの数台しか止まっていません。 少々規模は大きくなっているとは言え、 まさにそういう話に出てきそうな企業なんですが。 シリコンバレーの記事に書いてあることと 僕を取り巻く環境は随分違うよなぁと 来た当時から思っていました。 僕は 起業家でも、 ベンチャーキャピタリストでも、 メディア関係者でもありません。 僕は何万人もいるエンジニアの一人でしかありませんから、 メディアの目で見る「シリコンバレー」の姿は もしかしたら見えないのかもしれません。 でもそこでソフトウェアを作っている エンジニアという視点から見た シリコンバレーというのも 知ってもらえたらなと 思っていました。 日本の環境とは違うところがたくさんあります。 良いところも、悪いところもあります。 でも、話に聞くような 激烈な競争が日夜繰り広げられているだけの スゴイところでもなく、 普通にのんびりとしたところも あるんです。 そんなことを1つずつ書いていこうと思います。 どうぞよろしく。 上田ガク |
| 第2回 シリコンバレーの会社には どんな人がいるんでしょうか? 僕の同僚、元同僚から 適当に選んだ9人と僕の10人を対象に 出身地を並べてみると、 インド、シカゴ、シカゴ、 台湾、香港、象牙海岸(アフリカです!)、 ロサンゼルス、地元ベイエリア、 そして日本でした。 改めて列挙してみて 驚くべき事実を発見してしまいました。 「地元の人間がほとんどいない」 ということです。 10人中1人しか 地元の人がいません。 地元出身でない9人のうち、 大学で学ぶために、 このシリコンバレーにやってきた人は2人、 僕を含む残りの7人は働く段階になって この地域にやってきました。 日本でも、東京に来る人は、 大学入学時に東京にやってきたり、 社会人になるときに東京に来たりしますよね。 それと同じ感じではないかと 思います。 一つ日本の場合と違うのは、 若者の行き先となる都市が ほとんど東京というように 一ヶ所に集中しないことです。 映画ならハリウッド、 政治はワシントン、 金融ならニューヨーク、 そしてハイテク産業ならシリコンバレー というように、 人びとが目指す 場所がそれぞれ違っています。 「エンジニアやるなら やっぱりシリコンバレーで働きたいよねー」 という会話が繰り広げられているかどうかは 知りませんが、ハイテク産業で働きたい人は 自然にシリコンバレーに集まってきます。 その人を吸い寄せる力は強く、 アメリカ国内だけではなく、 インドや中国をはじめ、ヨーロッパ各国からも 優秀なエンジニアたちが集まってきます。 最初に挙げた9人の同僚たちの中にも 普通に中国やインドからやってきた人がいますし、 これは会社のほかの部署にいっても同じです。 西洋人風なのに、この人はちょっと英語が 訛ってるなと思えば、大抵スイスやドイツなど からやってきたエンジニアだったりします。 外国人であるということも、 英語が訛っていることも、 みんな普通のことなので、 「ふうん」という反応しかありません。 でも、色んな外国人の人もいるのに、 日本人はなぜか全然見当たりません。 僕の働いているインターネット関連の会社で、 エンジニアは何百人もいるのに、 日本人エンジニアはたった2人しかいません。 日本はほとんどの場合、アメリカに次いで 2番目に大きなマーケットです。 多くの会社が日本市場を相手にしているので、 日本語や日本市場の知識を持った人が もっと居てもいいはず、 とは思いませんか? ですが、どう見てもシリコンバレーの会社で働く 日本人は決定的に少ないのです。 ここで働くのは楽しいのに。 ならば何か理由があるに違いない。 なぜシリコンバレーの会社に日本人が少ないのか についての僕なりの考えを次の回に 書きたいと思っています。 上田ガク |
| 第3回 シリコンバレーの会社で働く日本人は少ない。 一体なぜなんでしょう? 日本人の人口は少ないわけではなく、 日本食スーパーマーケットや 東京新宿にある紀伊國屋書店があるほど シリコンバレーには多くの日本人が住んでいます。 しかし、大部分の人は日本企業から 駐在員として派遣されてきた人で、 シリコンバレーの地元企業で働く人は ごく少数です。 僕が今働いている会社も、 その前に働いていた会社も、 どちらにも数人しか 日本人が居ませんでした。 シリコンバレーの企業で働く外国人で 人口が多いのは、インド人と中国人です。 どちらの国の人も、 大学や大学院で学ぶために アメリカにやってきて、 卒業後、こちらの企業に就職をするという パターンがほとんどです。 それに対して日本の人の場合は、 ほとんどの場合が日本の大学に進学しますし、 理系の留学生というのは 僕の知る限りでは 随分少ないようです。 アメリカの大学に日本人が少ないから、 おのずと働く人も少なくなってしまいます。 言い換えれば、日本の大学もレベルが高いし、 アメリカに留学しなければ やりたい勉強ができないわけではないから、 わざわざアメリカに来る必要がないとも言えます。 でも、日本の大学を卒業しても、 仕事するのに必要な英語がしゃべれるようになるのは 多分、難しいと思います。 なんといっても、英語をしゃべる機会、 英語でしゃべる相手がほとんどないので これは何ともしようがないことです。 英語がしゃべれなければ こちらでは仕事になりませんから、 採用してもらえるわけがありません。 日本人が少ないのは 仕方がありませんね。 ・・・・・。 まあ現状はそうなんです。 でも、難しいんですよと言いたくて こんなことを書いているんじゃありません。 一見難しいように見えるけど、 不可能じゃないんです。 「シリコンバレーで働いてみてえ」という気持ちと ちょっとした行動力で、それは現実のものに なるんです。 英語の問題を除けば、 日本のエンジニアのレベルは高いと思います。 シリコンバレーには さぞかしすごい奴がたくさんいるんだろうと 思っていたのですが、 日本に比べてレベルが遥かに高いというわけではなく、 技術レベルで言えば、 シリコンバレーに来ても通用する エンジニアが日本にはゴロゴロしているのです。 だったら、世界のマーケットを相手に 自分の腕試しをしてみたいとは 思いませんか? 最先端の技術に 自分も関わってみたいとは 思いませんか? かく言う僕も、 日本の大学を卒業したわけで、 英語も日本の英語教育を受け、 そこそこ読み書きはできるけど、 全然しゃべれないという学生でした。 シリコンバレーで働いてみたいな とは思っていたけれど、 海の向こうのアメリカの会社に どうやったら就職できるのかは 全く見当もつきませんでした。 4年前の1999年夏に、 「最近登場したこのインターネットの会社、 良さそうな会社だね」 と友達にメールで送った会社に、 今こうして働いていることを振り返ると、 意外に実現しちゃうものなのねと思います。 エンジニアには「技術」という 世界共通言語があります。 なんとか英語で自分の作ったものを説明できるようになれば、 後はその技術力を見せればいいんです。 相手に技術力を認めてもらえれば、 仲間に入れてもらえます。 あとは少しずつ英語力を向上させていけば、 いずれはシリコンバレーの人たちと 肩を並べて働けるようになると思います。 こんな話を聞くと、 ちょっと現実味が出てきませんか? 折角の能力を仕事の場で発揮できていない人が 日本には結構いるように思います。 シリコンバレーにいればもっと活躍できる人が 日本にはいると思います。 腕に自信のある人は、チャレンジしてみてほしい。 そう願っています。 願っているだけだったら 誰でも出来そうなので、 次回はシリコンバレーでの活躍の場を見つける 具体的な作戦を考えてみたいと思います。 上田ガク |
| 第4回 シリコンバレーの会社で働くには? これは20世紀の世紀末が押し迫った頃、 僕は自分のワンルームマンションで 考えていた問題です。 当時既に僕は社会人になって 日本のIT業界のある会社で働いていましたから、 そこからシリコンバレーの会社で 雇ってもらうに至るまでには 大きな隔たりがあるように思えました。 僕の考えた作戦はこうでした。 「自分がうまく出来て、 アメリカの人たちが苦手な分野で 勝負するのが一番だ。」 実に当たり前のことなんですが、 これはいい作戦でした。 そして、その自分が得意で アメリカ人の苦手な分野というのは 「日本語の取り扱い」でした。 ほとんどのアメリカ人は日本語を読むことができませんし、 色々な製品で日本語を使えるようにしろと言われても、 手探りでそれを実現するよりありません。 何より問題なのは、日本語を使えるようにしても 彼らにとっては直接のありがたみがないわけで、 遣り甲斐を感じるのが実に難しいのです。 しかし、僕には英語より日本語の方が遥かに快適ですから、 色々な製品で日本語が使えるようになるのは、 それを使う1ユーザーとしても 大きなメリットがあり、それを仕事にする価値があると 言えます。 まずは、ソフトウェアの日本語化をする開発の仕事を シリコンバレーですればよいと考えました。 「じゃあ、どこの会社に行けばいいのか?」 確かにそういう需要はあるにしても、 シリコンバレーの会社にいきなり 「日本語化をやりたいから雇ってくれ」といって 雇ってもらえるほど僕は英語はできませんでしたから、 これまた難問です。 そこで考えた作戦その2は、 「日本で採用してもらって、本社に送り込んでもらう」 でした。 これなら採用面接は日本語でやってもらえるので、 一番難しい採用の部分を うまく潜り抜けることができそうです。 シリコンバレーに行ってしまえば、 あとは何とかなるだろうと思ったのです。 幸い日本はインターネット業界では 国別で世界で2、3番目に大きい市場のため、 シリコンバレーの企業は海外展開を考えると 早い段階で日本に現地子会社を設立します。 日本○○とか、○○ジャパンという名前の会社がそうです。 そういう会社を調べてみて、 シリコンバレーに本社があり、 日本の子会社が新しく、 規模がそれほど大きくないところに狙いをつけます。 日本の子会社の歴史が何十年もあったり、 社員が何千人もいると、 なかなか思い通りには行かないと思ったからです。 さて、結果は、、、というと、 ほぼ思った通りでした。 僕が入った会社でも アメリカで開発される日本語対応のソフトウェアは、 日本市場で成功するためには問題がありました。 そのため、日本人エンジニアを送るから 我々に作らせてくれと本社することになりました。 こうして、僕は本社の面接を受けることなく 大手を振って本社の開発チームに 入ることができました。 日本語化という作業は意外に大変で、 色々な部門のエンジニアに日本語が使えるように 設計の変更を頼まなければなりませんし、 なぜそうしてもらわないと困るか、 説明して回らなければなりません。 でも、それは日本語の取り扱いの話なので、 相手はほとんどといって知識はありませんから、 英語がうまくないハンデがあるけれども、 それを補って余りある専門知識での優位性で 相手にバカされることはありません。 シリコンバレーの企業で働く 日本人エンジニアの多くが、 このような日本語化、 あるいは日本語以外の世界各国の言語でも その製品を使えるようにする 国際化・多言語化と呼ばれる分野で 活躍しています。 ここでは日本語が分かるというのが 日本人ならではの強みになるんです。 入ってしまえばこっちのもの。 言葉さえ上達すれば日本語化とは関係のない 開発に移ってもうまくやっていけます。 日本で働いてから シリコンバレーに行ってみたいと思った人は 僕のような日本語を扱うという専門的な 仕事を手がかりにこちらにやってくるのが 一番可能性が高いと思います。 ただ、 シリコンバレーで働きたいと思う人が まだ学生ならば、アメリカの大学や大学院に留学し、 コンピューターサイエンスを学ぶという 選択肢があります。 卒業後にそのままこちらで就職する難しさは アメリカ人の学生と同じですから、 考えてみる価値はあるでしょう。 英語力や同窓生のコネクションの面でこちらの方が チャンスは広がる確かです。 シリコンバレーの企業で働く外国人の多くを占める インドや中国などの場合は、ほとんどがこのパターンで シリコンバレーにやってきます。 留学してこちらに来るパターンも増えると、 日本人エンジニアの活躍度もアップするだろうなと 思います。 上田ガク |
| 第5回 ネット企業のお仕事って どんなのがあるのですか? 〜ソフトウェアエンジニア編〜 前回までどちらかというと、 シリコンバレーにはどうやってくるんだ? というような話を書いてきましたが、 僕がどんな仕事をしているのか、 あまり書いていなかったように思います。 そこで、今回は僕の職業でもある ソフトウェア・エンジニアがどんな仕事なのか 紹介しようと思います。 僕の場合は、ネット企業でソフトウェア・エンジニアを やっているので、その役割をこんな風に考えています。 「インターネットを使って世界中の人の生活が より楽しく、便利になるような アイデアに溢れたサービスを作るのが 僕らの仕事です。」 ちょっとカッコつけすぎでしょうか。 でも、楽しくて面白いものを 作ることっていうのが大事なのは本当です。 つまらないものを作ったら 誰も使ってくれませんから。 面白いサービスを作ると一言で言ってしまいましたが、 実際には色々とやらないといけないことがあるんです。 インターネット上のサービスは、 1日に何百万人、何千万人もの人が 利用するという特徴があります。 下手をしたら、東京に住んでいる人の数と 同じぐらいの人が毎日使ってくれるのです。 インターネットを使った 無料のメールのサービスを例に考えてみましょう。 1人の人が1日平均1通のメールを出したとします。 でも、ユーザーが1000万人いると、 1日1000万通のメールを処理しないといけません。 もし平均10通だったら、 1日1億通のメールを処理しなければなりません。 朝、会社に出勤したら まずはメールをチェックするという人も 多いのではないかと思います。 たとえば3人に1人が 朝メールをチェックするとしたら、 300万人以上の人たちが 一斉にサービスを利用するということになります。 もちろん、たとえば、ですよ。 現実には使ってくれる人は 世界中に住んでいますから、 利用が集中する時間帯というのは 多少ばらつくのですが、 逆に24時間ひっきりなしに利用されるので、 シリコンバレー時間の夜はサービスはお休みと いうわけには行きません。 同時にたくさんの人が使っても遅くならないこと、 たくさんのメールが滞りなく送れること、 1年365日24時間営業できること、 そういった問題を解決しなければ アイデアが良くても みんなに使ってもらえるサービスにはなりません。 このようなサービスは、 そういった要求を満たすために、 何百台ものコンピューターを使って作られています。 普通はその何百台かのコンピューターを 色々な役割に分けて使います。 一部のコンピューターに仕事が集中して 遅くならないよう うまい具合に仕事の分散ができるような 役割分担の方法を考えたり、 それぞれの役割に何台のコンピューターを 割り当てればコンピュータを無駄遣いしないで 済むかなどを考えなければなりません。 アイデアを思いついたところから、 大勢の人が毎日使う実際のサービスを実現するには、 こういった様々なことを考えて システムを設計しなければいけないんです。 一旦、システムが出来上がったら、 「わーい、完成、おめでとー」といって スイッチオンすれば 後は勝手に動いてくれるというように 都合よくは行きません。 インターネットのサービスは日々改良して いかなければならないのです。 他社との競争もありますから、 サービスが開始してからも、 日々新機能を追加していかなければなりません。 また、人気が出ちゃったりすると、 予想以上のペースでユーザーが増え、 システムの処理能力が追いつかなく なったりすることもあります。 こういった場合には設計の見直しも必要です。 (設計がヘボくてなっちゃうこともあります) あーでもない、こーでもないとみんなで頭をひねり、 「こういう機能があったら絶対面白い!」 というようなアイデアを出し合ったり、 時にはトラブルの対応に夜中に 叩き起こされたりしながらも、 日々進化してゆくサービスを支えるのが ソフトウェア・エンジニアというわけです。 コンピューターを動かすプログラムを作るという 作業は、エンジニアの仕事の一部ですが、 他にもサービス全体が どう構成されるかの設計をしたり、 様々な問題の解決策を考えたりすることが できなければ、この仕事は務まりません。 そんなことから、プログラマーという呼び方は あまり使われないのでしょう。 インターネットビジネスのアイデアを 形にするには効率よく、しかも安定して動く 大規模なサービスを作らなければなりません。 しかし、こういった大規模なサービス作りは、 ノウハウが少ないので、エンジニアの 職人的な経験と勘がものをいいます。 そういう訳で、シリコンバレーでは どこの会社にいっても、エンジニアが とても大切にされているなと実感します。 エンジニアはシリコンバレーの花形の職業なのかな と思います。 「君はどんな仕事をしているの?」 と聞かれて、 「インターネット関連の会社で、 エンジニアやってます」 というと、 「いいなぁ、かっこいいねー」 といわれたりします。 つくづくエンジニアを職業にするにはいい環境です。 今回はソフトウェア・エンジニアという 仕事を取り上げて見ましたが、 もちろんネット企業が ソフトウェア・エンジニアだけで 動いているわけではありません。 次回は、ネット企業のエンジニア以外の お仕事について紹介します。 上田ガク |
| 第6回 ネット企業のお仕事って どんなのがあるのですか? 〜ほかにもいろいろあるのです編〜 前回はネット企業のエンジニアの仕事を紹介しましたが、 ほかにも色々な仕事があります。 普通の会社と同様に人事・総務などの裏方さんや、 営業やマーケティングなどもありますが、 今回はそれ以外のちょっと珍しい仕事について 紹介したいと思います。 僕らエンジニアが一番一緒に仕事をすることが 多いのは、「プロデューサー」と 呼ばれる人たちです。テレビ番組のプロデューサーは とっても偉い感じがするのですが、 シリコンバレーのプロデューサーは上から命令を 出す親分ではなく、実際に手を動かして仕事を する人たちです。 プロデューサーは、ネット企業が提供するサービスを どういった方向に進化させていくか、 どんな人をターゲットにするのかなど、 サービスのビジネス面を考えていきます。 前回使った無料メールを例にまた説明してみましょう。 無料のメールサービスが既に始まっていたとして、 次に 「コンピューターウィルス撃退の仕組みを組み込んだら みんな助かるに違いない」 と考えるか、 「迷惑メールが届かないようにブロックしちゃえ」 と考えるか、 「年会費を払ってもらったら、広告がつかないようにする」 がいいのか考えたりするのです。 全部はなかなかできませんから、どの方向で行くのか、 そういうことを、使う人の立場やビジネス面から 考えてくれる人たちです。 別の仕事を見てみましょう。 ネットのサービスを作る段階では、 使う人が見ることになる画面を作る必要がありますね。 画面の設計をするのが「UIデザイナー」のお仕事です。 「UI」は、「ユーザー・インターフェース」、 つまり使う人とコンピューターをつなぐ接点のことです。 エンジニアでも画面を作ることはありますが、 やはりデザイナーというだけあって、 彼らの作る画面は、一味違うプロの仕上がりです。 色使いやレイアウトなど見た目の綺麗さだけでなく、 画面上でクリックするところが分かりやすいようにとか、 サービスの中で迷子になりにくいようになど、 使い勝手についても考えて、 画面や画面同士のつながりを考えたりしてくれます。 UIデザイナーには女性が多いのが特徴です。 男性のデザイナーもエンジニアとは 全然ファッションが違います。 「デザイナー」と聞いて想像する そのままの人だと思っていてOKです。 彼らの机には、デザイン系の小物が 置いてあったりして、ちょっとお洒落にしていることが 多いように思います。 さて、サービスが一旦動き出したら、 24時間止められないという話は前回書きました。 また使うコンピューターの数も膨大です。 使うコンピューターの数が増えれば当然 壊れる数も増えてしまいます。 実際にサービスを提供するコンピューターは、 データセンターと呼ばれる、 インターネットで使うコンピューターばかりが 何千台もおかれた建物に置かれています。 そのデーターセンターは 会社とは別のところにありますから、 そこに新しいコンピューターを設置したり、 壊れたコンピューターを交換したりする 仕事が必要です。この仕事の人たちを 「Ops(オプス)」と呼びます。 オペレーションの略、 つまり運用担当ということです。 大規模サービスとなると、壊れた機械を交換すればいい というような単純な仕事というわけにはいきません。 コンピューターを繋ぐネットワークを上手に 設計しないと、そこがボトルネックになって コンピューターの性能が発揮できなくなって しまったりします。 どれぐらいのコンピューターを買えば、 コストパフォーマンスがよいのか、 どこの業者と契約をするのが 長期的にメリットがあるのかという コスト管理のことも考えなければいけませんし、 自然災害などがあっても、システムが 動きつづけられるようなバックアップ体制や 素早い復旧の計画も立てておかなければなりません。 ほかにも実際にサービスが動き始めると、 ありとあらゆる問題が出てきます。 理論上はうまく動くものでも、 物理的な制約で考えたほど うまくいかないこともよくあるのです。 こういった問題を解決するには、 オペレーションの人たちの協力が 不可欠です。 なかなかこういった職業にスポットライトが 当たることはありませんから、 あまり知られていないのかなと思いましたが、 ご存知でしたでしょうか? コンピューターに出ている 1枚の画面の向こうには、 色んな人が働いている というお話でした。 上田ガク |
| 第7回 会議で寝ちゃったら大変? これは僕がシリコンバレーに来て 間もないころのことです。 僕は前日、夜更かしをしてしまったため、 眠い目を擦りながら出勤をしました。 昼食後でのミーティングでふわぁーと いい気持ちになり眠気に襲われました。 ふと気がつくと、みんなが笑っています。 「ガク、寝てただろう!(笑)」と。 そ、そんな声を出して笑うことじゃないだろう? と内心思いつつ、ちょっと恥ずかしい思いをしました。 しかし、振り返ってみれば、 会議中に寝てしまうのは、 かなり大胆な行動だったのかもしれません。 そうなんです。 ここではミーティングでは 眠ったりはしないものなんです。 確かに僕はこちらに来てから ミーティングで眠ってしまった人は 見たことがありません。 僕は大体週に1度、1時間ぐらいの チームミーティングに出ます。 ミーティングする会議室には、 片側に5人ずつ、そして両端に1人ずつ、 大体12人ぐらいが座れる 大きなテーブルが1つあります。 大体会議の人数は5人〜10人ぐらいで、 チームミーティングでは 主に進捗報告をするのですが、 どちらかといえば上司に進捗報告をするというよりも、 チームの仲間に 「先週はこういうものを作ったんだけど、 なかなかうまく出来て、 たとえば、この機能を使うと、 ほら、すごいでしょ?」 というように成果を発表する場 のようになっています。 困っているところがあれば、 「この部分をユーザーにどういう風に見せるか 考えたんだけど、うまい方法が見つからなくて 困ってるんだけど‥‥」 といったように言うと、 そこから色んな意見が出てきて 議論になるという流れになります。 眠くならない理由は そこにあるようです。 ミーティングは常に、 発言者と残り全員との間のやり取りなのです。 発言者が上司に向かって報告をすると、 残りの人たちは話を聴く聴衆になってしまいます。 自分に関係ない話はつまらなくて、 つまらないと眠くなるのは当然の成り行きです。 大体のミーティングではミーティングに参加する人に 順番に発言する機会が与えられています。 一人ずつ順番に発言し、それに対し、 みんなが意見を出すということを繰り返し、 一周したらミーティングはおしまいです。 逆を言えば、 発言をしない人はミーティングに 参加しなくて構いません。 もちろん話を聴きたいなら 参加するのは自由なのですが、 眠くなるぐらい興味がないなら、途中で 「僕にはあんまり関係ないから、失礼」 といって出て行ってしまいます。 途中で出て行ってしまったり、 ミーティングに来ないのは、 上司にだって同じで、みんなで適当に決めといてと 意思決定に関わる必要がないと思えば、 形式的には呼ばれている上司も 会議には来ません。 悪いところを挙げるとすれば、 議論が沸騰すると、話が脱線しがちであることです。 小さなことに熱くなってしまい時間を使ってしまって、 ほかの大事なことが話せなくなったり、 また後で個別に相談しましょうと 先送りになったりすることもよくあります。 (その後で個別にというのは 忘れられてしまうこともしばしば) あるチームの成果発表というような形の、 発表者数人、聴衆多数の一方通行的なミーティングは すべて自由参加で、自分の仕事に役立ちそうだとか、 ただ単に興味があるなら参加をすればいいし、 そうでなければいかなくても構いません。 そうそう、 最後にこちらで見ないもの、 それは真ん中に空き空間のある 「口」の字型にテーブルを並べた会議室。 なぜか? 多分話がしづらいからでしょうね。 上田ガク |
| 第8回 お昼休みは1時間ですか? お昼の12時になるとチャイムがなって、 「そろそろランチ行きますか?」 というのが僕が大学生の頃 アルバイトしていた会社のお昼休みの風景です。 12時から1時が休み時間で、 ランチを終えて戻ってきたら 1時までは仕事をせず休憩、というのが 普通の過ごし方だったように思います。 別の会社では、昼休みが50分とちょっと短い 代わりに、3時ごろに10分のおやつ休憩(?) があったりもしました。 日本向けのインターネットサービスの 時間帯別利用頻度のグラフなどでは、 やはり12時〜1時の時間帯に急激に利用者が 増えています。食後のひととき、 「ほぼ日」を読んだりするのも良い過ごし方でしょうね。 さて、シリコンバレーのネット企業の 昼休みの過ごし方はどうなのでしょうか? あまり「昼休み」ということを気にしたことが なかったのですが、まずチャイムは なりません。多分チャイムが鳴ったら、 避難訓練かなにかだと思われてしまうでしょう。 そして、12時から1時が休み時間だという 意識自体もほとんどの人は持っていないでしょう。 もしかしたら、そういうルールが ないかもしれません。 大部分の人のお昼の行動パターンは、 食堂の混み具合にどう対応するかによって 決まっているようです。 以前紹介した、プロデューサーの人たちは、 ミーティングの機会の多いせいもあり、 混雑は覚悟の上で時間通り12時過ぎには ランチをとっています。時には、テイクアウトにして 自分の席に戻って仕事をしながらランチを 慌しくとっているのを見かけます。 一方のエンジニアは、仕事自体にあまり 時間的制約がないこともあって、大抵は 食堂の混雑のピークを外して食事にいったりします。 僕の場合は、自分の仕事の切りのよいところでいくので、 毎日昼の時間はまちまちで、 早く行くときもあれば、2時を過ぎることもあります。 僕に限らず、エンジニアはあまり食事時間は 気にせず、ランチで話が盛り上がれば 1時間以上のかかるときもあれば、 食べるだけで30分やそこらで戻ってくることも あります。 戻ってくれば特に休憩をすることなく、 仕事に戻ります。 決まった時間を休みにしないかわりに、 仕事が煮詰まった時や、集中力が切れてきたら、 チームの同僚の席にふらーっと行ってみます。 本当に他愛も無い雑談のこともあれば、 技術的な話の雑談のこともあり、そんな話で 気分転換をします。 技術的な雑談は、 「最近こんな面白いサービスを見つけたけど 知ってる?」 とか 「社内のなんとかプロジェクトで こんなことやってるんだって」 などという話ですが、 これが意外に仕事に役立つことも多いのです。 エンジニアの仕事は自分の作業だけに集中していると、 つい狭い物の見方になってしまいがちです。 また別のプロジェクトでも同じような問題に 直面していることも多いので、こういう雑談で 解決のヒントが見つかることもあるのです。 2人で始まった雑談が周りの人を巻き込んでの 議論になって、気がついたら1時間、 2時間経っていたなんてこともよくあります。 「仕事に戻りますか」 というのが、雑談の終わりの決り文句で、 「さて仕事するか」という気持ちになるので、 雑談は厳密な意味では 仕事ではないのでしょうけれども、 真面目にマシーンのように働いていると、 ちょっと損してしまいそうです。 仕事時間は仕事時間、休み時間は休み時間と きっちり分ける方法もありますが、 調子の出ないときに、 いくら仕事をし続けても いい結果はなかなかでませんし、 雑談が時にして大きな価値を持つ事もあります。 堅いことは言わないから、まあ適当にどうぞ、 というのがこちらのスタイルでしょうか。 上田ガク |
| 第9回 ベンチャー企業って、 今でもたくさん登場しているの? シリコンバレーといえば、 ベンチャー企業で有名ですね。 90年代末のドットコムブームと呼ばれた頃は、 雨後の竹の子のようにインターネット関連の企業が 次々に立ち上げられました。 それは本当にすごい数で、会う人のほとんどが みなベンチャーで働いていたように思うほどでした。 少々蛇足になりますが、 「ベンチャー企業」という呼び方は、 英語ではあまりしないようで、日常あまり耳にしません。 どちらかというと、始まったばかりの会社という意味の 「スタートアップ」とか「スタートアップ・カンパニー」 という呼び方が使われます。 では、ドットコムブームの去った今、 その「スタートアップ」事情は どうなっているのでしょうか? 統計的なデータは、 シリコンバレーウォッチャーの方にお任せするとして、 職場や友人の様子から判断すると、 新しい会社の数は一時ほどではないにしても、 今でも新しい会社は着実に生まれて来ているようです。 僕の知り合いで、 ここ数年で自ら事業をはじめた人が5人。 そして、まだ創業して間もないスタートアップに 経営陣として参加していった人が2人いました。 それ以外にもドットコムブーム以前から 会社を維持している社長さんもいますから、 僕のまわりだけ見ても、なんだかんだで 随分多くのスタートアップが 存在していることになります。 ドットコムブームの時は、 そういったスタートアップ企業に 早い段階で投資家がつき、 その資金を元に急激に会社の規模を 拡大させていきましたが、 さすがに今は昔のようには行かないようです。 そのため、 小さい規模で事業を続けている スタートアップが多くなっています。 大規模な投資を受けて規模を 拡大していっているなと感じるのは 上に挙げた会社のうち、たった1社ですから、 これが昔との大きな違いでしょうか。 しかし、驚くべきは、そういった知り合いの会社が 潰れていないということです。 確かに、大成功を収めることはなかなか難しいのですが、 規模は小さいながらも数人なら食っていけるぐらいの 事業を維持しつづけることは可能だということです。 インターネットを使った企業向けサービスの スタートアップ企業を立ち上げた友人と話をしていて 思ったことですが、 アメリカではこういった小さな会社の製品やサービスでも、 使ってみようという企業がたくさんあることに 気づきました。 「よいものなら、実績はともかく使ってやろう」 という態度が、新しい事業を育てる助けになっている と思います。 2つ目の驚く点は、創業者のほとんどがエンジニアだと いうことです。これは今に限ったことではなく、昔から エンジニア出身の創業者が多いのですが、これは 全く日本とは様子が違います。 日本ではどちらかと言えばビジネス寄りの人が ベンチャー企業を興すパターンが多かったように 思います。 僕の知るこちらのスタートアップ企業は最初は、 数人のエンジニアが、本職を別に持ちつつ、 プライベートな時間を使って新しいものを作り、 それがある程度形になった時点で 勤めていた企業や大学を辞めて起業する という始まり方をしています。 もちろん、成功を夢見る心はあるのでしょうけれども、 儲けたいから何かビジネスプランを考えるというよりは、 面白いものを作ってやろうという気持ちが強いのでは ないかと思います。 知り合いの興した企業のうち、実際に成功を収めた会社は、 投資家がつくまでに何十万人かのユーザーを獲得するまで エンジニア2人が個人で運営していました。 そこに投資家がつき、そしてスタートアップ企業経営で 実績のある人たちがやってきて、個人商店を100人、 1000人を超える企業へと成長させていったのでした。 ビジネスの専門家が登場するのは、 この個人商店からの脱皮の時点からなのです。 お金儲けをしたいという欲求が、 新しい企業を生み出す原動力であったなら、 短期間に大金を手にする可能性の減った今、 新しい企業はあまり出てこないのでしょう。 しかし、面白いもの、 便利なものを作ろうという気持ちが、 新しい企業を生み出す原動力ならば、 これからもシリコンバレーから サクセスストーリーが生まれつづけるのだと 思います。 上田ガク |
| 第10回 エンジニアは昇進に興味がない? シリコンバレーのエンジニアは、 あまり昇進のことを気に掛けていません。 もしかしたら、表に出さなくて、 心の中では野心メラメラなのかもしれませんが、 何年も一緒に仕事をしてきても そんな一面を垣間見ることはないので、 きっと本当に気に掛けてないんでしょう。 それもそのはず、 昇進というものが滅多にないからです。 こちらの会社はとてもフラットな組織なので、 会社には昇進する対象となるポジションが ほとんどないのです。 今の会社に至ってはエンジニアは、 全員ソフトウェアエンジニアという肩書きで、 大学を卒業したばかりの新入社員も、 業界歴10年を超えるエンジニアも みんなただのソフトウェア・エンジニアです。 普通の会社でもせいぜい、エンジニアと シニア・エンジニアの2つに分かれているぐらいです。 そして、年齢が上がってきたからといって、 自動的に現場を離れ、管理職になっていくという ことはありません。特に希望をしなければ、 働きつづける限り、エンジニアなのでした。 駆け出しのエンジニアでも、年季の入った エンジニアでも、肩書きは同じエンジニアです。 そのため、エンジニアの評価は、その実力だけで 決まってきます。 何度か意見を戦わせていくうちに、 どちらの方が能力があるのかは、 おのずと分かってくるので、 優秀なエンジニアは、プロジェクトの中の キーパーソン的な役割を果たすようになり、 より責任があり、影響力の大きい仕事を 担うようになってきます。 会社は、エンジニアの活躍の度合いによって、 評価します。 もちろん、会社がエンジニアに与える評価が 常に公平だという保証はありません。 しかし、会社には細かい肩書きはないので、 どちらの方が会社から金銭的に評価されているのか というのは同僚には分かりません。 実際の仕事を見れば、仲間うちで誰が会社に 貢献しているのかということはわかりますし、 基本的にはそういう人が 高く評価されているからです。 そのため、なんであいつの方が評価されているんだ というような不満の声があがることはまずありません。 実力が評価される一方、エンジニアである限りは 自分の技術力を常に高く保っておく必要があります。 技術の進歩は速く、そして、その技術は 誰かが教えてくれる訳でもなく、 本を読んだり資格をとればいいようなものでも ありません。 技術についていくために勉強するというより、 技術の進歩を追うことが好きな人でなければ、 とてもじゃないけれども、 この仕事をずっと続けていくのは 無理だろうなと感じます。 その証拠に、僕の周りにいるエンジニアは、 仕事時間以外にも個人的にソフトウェアを 作ったりしている人がたくさんいます。 僕も、ちょっと前に個人的に興味を持って、 作っていたものがありました。 そして、それが今はそれに似たものを 仕事で担当したりもしています。 こちらの会社は新しいことをやることに あまり躊躇せず、面白そうだから とりあえずやってみようといって 社員にやらせてしまうことが多いのです。 こんなことを仕事で出来るなんて 考えもしませんでした。 お給料を頂いて、 そして自分の趣味のようなものを 作らせてもらえる。 その上、それを会社の看板をつけて 多くの人に使ってもらえるようになると思うと 本当にたまりません。 しかし裏を返せば、好きじゃなかったら、 いつまで経っても楽にならない仕事とも言えます。 新しいものに興奮する情熱がなくなったら、 もうエンジニアはやっていけないのだろうなと 思いました。 上田ガク |
| 第11回 管理職が少なくても大丈夫なのですか? 前回の「シリコンの谷は、いま」で、 普通はエンジニアが管理職になっていくことは あまりない。そして その理由はそういう管理職のポジションが 少ないからだと書きました。 じゃあ、こちらの会社では、 なんで管理職が少なくても大丈夫なんでしょうか? いくつか理由は考えられるのですが、 まず1つ目に考えられる理由は ただ単純に会社の規模が小さいからでしょう。 シリコンバレーのネット企業の社員数というのは、 意外に多くありません。 業界大手のヤフー(Yahoo)やイーベイ(eBay)ですら、 社員数は4000人ほどしかいません。 普通は何千人も社員がいるわけでもなく、 数十人〜1000人ぐらいの会社ばかりです。 日本でいえば中小企業のサイズです。 会社の規模ばかりでなく、各プロジェクトも これまたかなり少ない人数でやっています。 管理する対象が少ないなら 管理者も少なくてよいというのが 2つ目に考えられる理由です。 僕が日本にいた頃経験した開発プロジェクトでは、 プロジェクトメンバーは合計で数十人いましたし、 何百人のプロジェクトもあるという話を聞きました。 しかし、こちらではかなりの大規模なプロジェクトでも 10人を超えることはなく、プロジェクトチームは 数人というのがほどんとです。 これには本当に驚きました。 シリコンバレーの開発は徹底した少数精鋭主義でした。 人数が少ない分、1人当りの仕事量は多いわけで、 実際の仕事の意思決定のほとんどは 現場のエンジニアに任されています。 つまり、細かい判断は任せるから 適当に判断してくれというわけです。 プロジェクトチームの人数が少ないので、 そのプロジェクトをどうしていくべきかという話は リーダー格のエンジニアを中心に、 全員で集まって話をすればいいだけで、 意思統一も簡単です。 プロジェクト自体が自律的に 走るような形になります。だとすれば、 細かい管理は必要ありませんよね。 小さいチームを作り、意思決定を任せて、 自由にやらせることで、管理の手間を省いていると 言ってもいいのではないでしょうか。 こちらの会社の管理職の人たちは、 プロジェクトが滞りなく進むようにするための 裏方的な仕事をすることが多いように思います。 組織の上に立って意思決定に大きな力を振るうという、 役割があまり必要ない分、 管理職がしなければならない仕事の量も おのずと少なくなってくるのでしょう。 だとすれば、管理職の数もそんなにいらないのも 頷けます。 シリコンバレーのある会社では、部下が7人以上いない マネージャーは不要と言って、 その職を廃止してしまったそうです。 僕の上にいるマネージャーも、 下には何十人かのエンジニアがいます。 こういう理由でシリコンバレーの企業は 中間管理職の少ないフラットな 組織になっているのではないかと思います。 上田ガク |
| 第12回 ベンチャー企業で働くってどんな感じ? シリコンバレーのベンチャー企業が 一躍有名になったのは、 それらのベンチャー企業が株式を公開して、 ストックオプションで、一夜にして 億万長者が誕生したというニュースが 繰り返し伝えられたからに違いありません。 しかし、そう簡単に誰でも 億万長者になれるほど、 シリコンバレーも甘くはありません。 スタートアップの大部分は、鳴かず飛ばずですし、 運良く株式公開に漕ぎ着ける企業を 見つけ出したとしても、 その株価がその後も どんどん上昇していかなければダメです。 最後に駄目押しをするならば、 億万長者になろうと思ったら、 会社の経営者になるか、 よっぽど会社が小さい時に入っていなければなりません。 そして万が一お金を手にしても、 その半分近くは税金で持っていかれてしまいます。 お金儲けだけを目的にシリコンバレーに やってくるのなら、その期待は裏切られる可能性は大きく、 ガッカリすることでしょう。 「なぜリターンがないのにリスクを取るのか?」 思ったほどお金持ちになれる可能性がないのに、 安定した生活を投げ捨てて、ベンチャー企業で働く人が シリコンバレーには多いんだろうと 思うかもしれませんが、 ここに1つ大きな勘違いがあります。 ベンチャー企業で働くということに、 それほどのリスクはないんです。 僕の持っていた日本でのベンチャー企業の イメージといえば、 成功した時のリターンと引き換えに、 安い給料と休日返上で長時間労働しなければならない というものでした。 しかし、こちらにはベンチャー企業とはいっても、 社員数人のものから千人近い社員を抱えるものまであり、 50人を越えるぐらいの規模になってくれば、 給料は大企業に比べても遜色ありませんし、 労働環境に至っては、社員が少ない分、 一人一人の融通が効いて、 逆に大企業に比べて良い場合がほとんどです。 一口にベンチャー企業で働くといっても、 リスクの小さいものもかなりあります。 そういった個人商店的なレベルを脱した ベンチャーでも、会社は設立からほんの数年で あることには変わりありません。。 ベンチャー企業で働くことのメリットは、 会社が新しく古い体質を引きずっていないこと、 自由な雰囲気で、自分たちの企業カルチャーを 作り出すことに参加できること、 そして、 自分たちの手で世の中に変化を与えることが できると実感できること と言えると思います。 そして何より、会社の成長してゆく過程を 体験できるということが一番のメリットです。 会社が成功しなくても、その会社の過ちを 振り返れば、次に働く場所でその経験が自分に とっての大きな資産になります。 そしてこれはベンチャーで働けば 必ず手に入る資産です。 金銭的なメリットもありますが、 それは副次的なもので、 運を含めすべてがうまくいった 時にはじめて与えられるボーナスのようなものです。 僕の働く職場でも、同僚が 株式公開の話をすることは滅多にありません。 会社が成功して、その恩恵に 自分たちも浴することができれば嬉しいけれど、 それは当てにはしていないというのが 僕の感じたところです。 創業者や会社の経営者が会社の成功とともに 莫大な報酬を得ることは事実ですが、 それはほんの一握りの人の話。 大部分の人はそこまでのリターンはなくとも、 ベンチャー企業で働くことを楽しんでいる というのが今のシリコンバレーです。 上田ガク |
| 第13回 日本人もシリコンバレーで 転職できますか? 日本人がシリコンバレーで働くには 取っ掛かりとして日本語化関連の仕事が一番だと考え、 僕はシリコンバレーにやってきました。 英語が上手でない以上、 正面突破は難しいと考えたからです。 そんな僕も、前の職場では環境に馴染むにつれ、 なんとか同僚のエンジニアたちと 同じように仕事ができるようになってきました。 2年以上経った今でも英語では苦労していますが、 一応チームの一員として、足を引っ張ることもなく 仕事はできるようになったと思います。 前の仕事場の環境はすこぶる良く、 その上、2年間ほとんど同じ面々と 仕事をしていたので、 その恵まれた環境に、 これならそんなに頑張らなくても大丈夫だなと 少々甘えてしまいました。 その頃、心の中では、 「僕もシリコンバレーで通用するんだ」 と勝手に考えていたのですが、 日本人であるという利点を生かして就職した以上、 本当に通用するのかは証明できません。 もともとアメリカに来る前には、シリコンバレーの 会社を1社か2社、見てみたいと思っていました。 1つの会社を見ただけでは、もしかしたら、その会社が 例外なのかもしれないし、2つを比較してみて分かることも 色々あるだろうと思ったからです。 そういう理由から、 僕はシリコンバレーで転職できるものなのか、 試してみようという考えが頭に浮かびました。 僕にはシリコンバレーに来る前から 気になっていた会社があり、 その会社の仕事は今でも大変面白そうで、 その上、技術力が高いという定評がありました。 転職してみようとは言っても、 切羽詰っているわけではないので気が楽です。 さっそくその会社を受けてみることにしました。 まずはインターネットで掲示されている求人を見て、 履歴書をメールで送りました。 後から考えると正攻法すぎて、 他にいい方法があることを知りましたが、 その時はともかく普通の手段で申し込んだところ、 しばらくして忘れたころに電話が掛かってきました。 まずは書類選考をクリアです。 履歴書は日本のものとはまったく形式が異なります。 まず写真はありません。 そして年齢も書く必要はありません。 アメリカでは人種差別問題がありますから、 その辺りは敏感ですし、採用に当って 年齢による差別もしてはいけないことになっています。 書くことは、自分にどのような技術があるのかと、 今までの職歴と学歴です。 その中で最も重要なのが職歴です。 日本の履歴書では、古い順に いつ入社して、どの部署、 どの役職だったかを書きますが、 アメリカの履歴書の場合は順番が逆で、 今の仕事のことを先頭に書き、 段々昔に遡って、 最後に学歴になります。 つまり、最近何をやっていたかが 重要だということです。 また、職歴もどういう役職だったかよりも、 その会社で働いていた時に どんな実績を挙げたかを1つずつ書いていきます。 ここでの実績が、書類選考で主に見られる内容なので、 ここでアピールできる実績を残していくことが重要です。 さて、書類選考を突破すると、 次は電話による面接に進みます。 電話での面接はもちろん英語で、 30分ほど色々な質問に答え、 これも何とか突破するすることができました。 そしていよいよ実際に会社に呼ばれて面接になります。 一般的には実際に足を運ぶ面接は1度または2度で、 1日に3、4人の面接官と会います。 幸い、僕は、こちらに来てから何度か 面接官の役回りをやったことがあったので、 大体聞かれる事は分かっていたのですが、 それでもかなり苦労し、自分での手ごたえは あまり良くなく、落とされたかなと思いました。 実際、僕の評価は微妙なところだったようですが、 それでも数日後に採用決定の電話が掛かってきました。 運が良かったということもあるのですが、 こうして僕は新しい会社で働くことになりました。 そして今度の職場では、日本語化とは離れて、 別の分野での開発をしています。 日本人ならではのアドバンテージを生かすことは できませんが、それでも特に困ることはないので、 シリコンバレーのエンジニアとして 一応通用しているんだろうなと、 今度はちょっと自信を持って 言えるようになりました。 以前、日本人エンジニアのレベルも意外に高い ということを書きました。その理由は、僕の 知り合いに、飛びぬけて優秀なエンジニアが 何人もいるからです。彼らと1対1で技術を 競ったら、僕にはとても勝ち目はありません。 それでも僕は何とかシリコンバレーで やっていくことができています。 だとすれば、彼らが活躍できることは 言うまでもないですよね。 今回は、僕が転職した時の話を書いてみましたが、 その採用プロセスの中で日本と違っていて面白いのが 面接の方法です。 次回はエンジニアの面接について もうちょっと詳しくご紹介したいと思います。 上田ガク |
| 第14回 日本の面接と、どう違うのですか? 前回は、シリコンバレーでの転職の体験を元に 転職をする応募者側からの ネット企業での採用活動について書いてみました。 今度は逆側、つまり採用側から 採用活動を見てみましょう。 シリコンバレーの企業では、1人の応募者に対して、 1日で3、4人の面接官が順番に面接を行います。 面接はそれぞれ45分〜1時間ぐらいですから、 応募者側から見れば軽く半日はかかる計算になります。 面接は、応募者に志望動機を聞いたり、 自己アピールをしてもらったりするというよりは、 応募者に対して色々な問題を出し、 それをその場で解いてもらうというテストに近い形式です。 エンジニアの採用の場合には大きくわけて、 2種類の質問があります。 1つ目は問題解決能力を確かめる問題、 2つ目は個々のコンピューター関連技術に対する 理解度を測る問題です。 ですから実際に聞かれる質問といえば、 こんな感じになります。 「じゃあ、早速ですが、一番得意なプログラミング言語で、 1000番目の素数を求めるプログラムを そこのホワイトボードに書いてください。」 問題はそれほど難しいものである必要はありません。 このような問題でも、その問題を解くスピードや、 それをホワイトボードに書いていく様子を見ると 大体応募者のレベルを知ることができます。 簡単にその問題を解いてしまったら、 その応募者はいい筋をしているかもしれません。 元の問題をちょっとひねった質問をしてみます。 「そのプログラムをもっと速くする方法について 説明してください」 質問の発展のさせ方には様々な方法があります。 答えが1つでない問題を出して、 それに対してどんな答えを出してくるか、 そしてなぜそういう方法を取るのかを説明させることで、 さらに実力を見極めることができます。 実際には3、4人が1日に面接官を担当しますので、 同じような質問が重ならないよう、 ある程度、面接で重点を置く分野の分担を 決めておきます。 面接が終わったら、それぞれの面接官が、 その応募者を採用したいかどうかをマネージャーに報告し、 その評価を総合して採用かどうかが決まります。 かく言う僕も、前の会社に居たときには 何度も面接官をやりました。 ちょっとおかしな英語をしゃべる外人(日本人)の僕に 面接されてしまうアメリカ人は可哀想だなと思う反面、 僕も相手の技術力をちゃんと 見極めなければいけませんから、 引け目を感じている場合ではありません。 なぜ僕が面接官をしたのかといえば、 面接官は通常、一般の社員がやるものなのです。 シリコンバレーの企業は、求人を出すときには、 どのプロジェクトにどういう役割の社員を 雇いたいかということをはっきり掲載します。 面接官になるのは、そのプロジェクトのメンバー、 つまり将来一緒に働くことになる人たちです。 僕が面接官をやったのは、僕のいたプロジェクトの 人員を補充するための募集を行っていた時でした。 将来一緒に働くことになるプロジェクトのメンバーが 面接官をする理由は単純で、 みんなが納得した人を採用するためです。 新しい社員を採用して、 その人が使えなかったら困るのは誰でしょう? 一番被害を蒙るのは同じチームで働くメンバーです。 人間関係がうまくいかなそうな人だったら? やっぱり困るのはチームメンバーです。 ですから自分たちの責任で、 誰を仲間に招き入れるのかを決めるのです。 一方、面接で目の前で問題を解かせる理由も単純です。 本当に実力のある人を取りたいからです。 誰だって「やる気はある」といいますし、 熱意をアピールすることはできます。 また、過去の経験や実績も、 履歴書に載せる時にはいかに見栄えが良くなるか 工夫するものです。 「私はこんなことをやってきました」 という話も、話し方次第で、 さぞかし立派に聞こえます。 しかし、面接の場で出された問題を解く時には、 そういった飾り立てが通用せず、 応募者の実力がハッキリでてしまうものです。 このシリコンバレー的な面接も 完璧に機能するという気はありません。 面接官が想定しないような隠れた才能を 発見することができませんし、 応募者に対する評価についても、 印象を元にした評価しかできません。 しかし、見掛け倒しの人を誤って採用してしまう確率は、 かなり低く抑えられる方法だと思いました。 この方法、一度試してみる価値ありだと思います。 上田ガク |
| 第15回 シリコンバレーでは転職が当たり前ってほんとう? シリコンバレーで転職はどれぐらい するものなのか、まわりの同僚や友人に 聞いてみました。 みな年齢は僕と同じぐらいの年代、 つまり社会人歴6、7年です。 一人目の友人は、大学院を卒業後に TV用情報端末のスタートアップ※ (※編集部註:ベンチャー企業)に入り エンジニアとして働きはじめました。 そして、その会社が後に ワークステーションメーカーに買収され、 その会社で働いた後、その職場の同僚が辞めて 作ったネット系のスタートアップに参加、 そしてその会社がまた買収されて、 今は大手ネット系企業で働いています。 別の友人は、大学を卒業してシリコンバレーに やってきて、グラフィックス関連のハードウェアの 企業でソフトウェア開発をした後、 別のネット系スタートアップに参加、 合併と買収を経た後、 自分でソフトウェアサービスの会社を友人とはじめ、 その会社が買収されてインターネット検索の会社で 働いています。 ほかにも例を挙げればきりがありませんが、 今までに渡り歩いてきた会社の数が3つ、4つある というのがごく平均的な人です。 我々エンジニアに限らず、会社の幹部も、営業の人も、 みな色々な会社を渡り歩いてやってきます。 転職が当たり前なのには、ベンチャーに入って 成功を追い求めるという理由もありますが、 シリコンバレーの産業の中心が目まぐるしく 変わっていっているという理由があります。 ものの本によれば、シリコンバレーと 呼ばれるようになったのは今から40年ほど前で、 当時は半導体がそのシリコンバレーの産業の中心でした。 そして企業向け大型コンピューターを売る会社が登場し、 続いて個人で買えるコンピューター、 パソコンの時代に突入します。 ハードウェアから、ソフトウェアへと産業の中心は移り、 そして90年代にはインターネット時代の幕開けです。 ソフトウェアから今度はインターネット上での 様々なサービスへと時代は凄まじい勢いで 流れていきます。 そんな中を成功した企業として君臨しつづける ことのできる企業はごく一部しかありません。 世の中が移り変わるにつれて、 産業の中心も移り変わっていきます。 この流れについていくためには 既存の企業は大きく方向転換をする必要がありますが、 規模が大きければ大きいほど、 その方向転換には時間がかかり、 もたもたしているうちに 新しい市場を狙って生まれた新興企業が あっと言う間に急成長を遂げ、市場を席捲していきます。 このようにコンピューター産業は、 移り変わりが激しい分野なので、 僕が定年になるまで 働きつづけることのできる会社を探すことは、 至難の業です。 しかし、そのことをそれほど悲観することは ありません。 今の職場で働いていて知ったことですが、 年季の入った人たちには、 かつてのシリコンバレーの有名企業で 働いていた人たちが多くいます。 つまり、会社は衰退していってしまっても、 そこにいた人たちは、 今も活躍しているのです。 シリコンバレーと言えど、 企業を変えることはとても難しいことです。 大きな会社になれば、 社長ですら会社を変えることが できない場合があるほどです。 ましてや一社員が会社の将来を憂いても どうなるものでもありません。 でも、シリコンバレーでは 変わらない会社は社員に見切りをつけられ、 優秀な人材は新しく成長している企業へと 流出していってしまいます。 彼らはそこで今の世の中にあった 新しいやり方を実践し、しがらみのない環境で その会社を成長させていきます。 逆に、世の中の流れから取り残された企業は ほかの地域よりも急激にその力を失っていき、 消えていってしまいます。 結局のところ、 シリコンバレーは廃れた産業から人を吐き出し、 そして人材を新しい産業に素早く送り込むことで、 地域全体ではその力を持続しつづけていると 言っても良いかと思います。 そしてそこで働く人は企業を乗り換えつつも、 いわば「シリコンバレー株式会社」の社員として、 この地で自分のキャリアを築いていくことが できるように思います。 上田ガク |
| 第16回 会社では誰が偉いの? ニュースなどで「CEO」という言葉を耳にしたことは ありませんか? 昔は、会社で一番偉い人といえば社長でしたが、 最近は、このCEOなる役割の人物が 会社で一番の力を持つようになりました。 このCEOは、 日本語では「最高経営責任者」と呼ばれています。 つまりは社長なのではと思うのですが、 不思議なことに、 僕の会社にはCEO以外に社長が二人います。 僕の見た限り、2人の社長より、 CEOの方が力を持っているようです。 そして、CEO以外にも「CなんとかO」には、 CFO、COO、CTO、CIOなどの役職があります。 日本語では CFOは、最高財務責任者、 COOは、最高執行責任者、 CTOは、最高技術責任者、 CIOは、最高情報責任者、 だそうです。 次に、アメリカの会社の幹部のインタビューなどでは、 「副社長」が良く登場します。 「副社長」だから、社長の次に偉い重要人物が わざわざインタビューに答えているのだろうと思うと、 ところがどっこい、 シリコンバレーの会社にはこの副社長がたくさんいます。 副社長が10人いても全然おかしくはありません。 会社によっては、副社長にもレベルがあって、 「上級副社長」と「平の副社長」がいたりします。 そして、この他にも 「創業者」とか「ファウンダー」と呼ばれる人がいます。 シリコンバレーに来た当初、 一体これらの役職がどういう位置付けなのか 正確な意味を知ろうと思って調べたことがあったのですが、 かなり時間をかけて調べてみても、 人に聞いてみても、 しっくりとくる答えを誰もくれませんでした。 調べても分からないけれど、 その力関係は見ているうちに何となくは分かるものです。 今回は、僕の働いた会社では、 こういった人たちの力関係や役割が どうなっているかを説明しています。 会社のリーダーは、誰か? それはCEOです。 会社全体に関わる重要な決断はこのCEOが下します。 このCEOが変わると、会社のカラーまで変わってきます。 CEOは会社や、その人物の経営スタイルによって、 会社の運営にどれぐらい関わるかが違います。 自分で日常業務を見るCEOもいれば、 そうでないCEOもいます。 日常業務は別の人物に任せる場合に登場するのがCOOです。 真ん中の「O」は「オペレーション」、 つまり日常業務のことです。 COOがいる会社では、COOはかなり力を持った存在で、 確実に社内ナンバー2の座を占めます。 CEOが社外を担当し、COOが社内の業務一切を監督する といった具合です。 つまりは番頭みたいなものでしょうか。 次に重要なのはCFOです。 真ん中の「F」は「ファイナンス」の意味で、 会計担当のボス、いわば金庫番です。 お金を握っているだけあって、 CFOはCOOと同じぐらいの力を持っています。 会社の資金調達や、将来の業績予想など、 数字が絡むと必ず登場しますので、 社外・社内を問わずかなり目立った存在です。 実は影の実力者だったりするんでしょう。 ファイナンス=女性のイメージがあるのか、 CFOが女性の場合も多いように思います。 以上の3人、つまり、会社のボスのCEO、 番頭のCOO、金庫番のCFOが会社の権力者といって 良いでしょう。 この3人以外はさほど力を持っていません。 創業者は文字通り会社を作った人ですが、 会社が大きくなっていくにつれて、 実務からはだんだん離れていきます。 役割は「会社の哲学の伝道師」とでも 言えばよいのでしょうか。 会社の進むべき方向を指し示し、 会社の精神的な柱となることと、 会社の広告塔としての活動が主です。 技術のトップのCTOは名前の割には影響力がなく、 会社幹部に対する技術アドバイザー、または、 会社の技術者のシンボル的な存在です。 エンジニア出身の創業者が多いので、 創業者がCTOに納まっている場合もあり、 役割としては創業者の役割に似ています。 さて、たくさんいる「副社長」は どういう位置付けでしょうか。 副社長はほぼ「各部門のトップ」といって良いでしょう。 営業、開発、マーケティングなど、 どの部門もピラミッドのてっぺんに座る人がいます。 これが副社長なのです。 また大きな会社では、企業向け、一般消費者向けなど、 市場に合わせて部署が分かれていたりしますから、 そういった場合にはそこにも「副社長」が座ります。 微妙に違いはあるものの、この副社長は 日本で言う「事業部長」みたいな位置付けです。 日本の会社には事業部長がたくさんいるのと同じく、 こちらの会社には副社長がたくさんいるのです。 先ほどの1つ残っていたCIOは、呼び名は違うけれど、 社内システム部門のトップで 社内システム担当副社長といった位置付けです。 副社長はたくさんいて、 その責任範囲には大小があって、 その区別をしないといけない場合には 副社長に階級をつけて、ヒラの副社長じゃない、 「シニア副社長」が作られます。 これを日本語に訳すと、 カッコいい「上級副社長」になるのです。 ですが、上級副社長といっても、 社内ナンバー2ではないということは 明らかですよね。 今回挙げた会社の幹部のうち、 会社のトップであるCEOは、 見ていると感心することが多々あります。 次回は、CEOについて 感じたことを書いてみようと思います。 上田ガク |
| 第17回 CEOの役割ってなんですか? 僕がシリコンバレーにやってきた頃は、 ドットコムバブル崩壊が進んでいた時期でした。 僕の働いていた会社でも、株価は毎日下落し、 大幅な赤字を出してしまいました。 そして、そのどん底の時に、 新しいCEOがやってきました。 全社員を目の前に、 彼は次のような意味のことを言いました。 「今、我々は一番辛い状況にあります。 でも、私はこの会社の将来に 自信を持っています。 この一番辛い時期を耐え、それを乗り越えることが できれば、我々は今よりももっと強い会社になり、 また成長軌道に戻ることを確信しています。 それを私は約束します。」 そして、具体的にどの分野に力を入れるのか、 どういう目標を達成するのかを社員に説明しました。 それから2年、 会社はどん底を抜け出し、CEOが言ったように 四半期毎に業績をアップさせて行きました。 その後に彼がこんなことを言いました、 「私は以前この同じ場所で、 この会社を成長軌道に戻すと約束しましたが、 その約束通り、会社はまた黒字を出すことが できました。そしてビジネスも上向いています。 これは皆さんの努力のおかげです。 皆さんに拍手を」 この自信に溢れた姿を見た時、 経営者とはこういうものなのかと強い印象を受けました。 僕が感じたCEOの役割は大きく3つあります。 1)決断を下すこと 2)責任を取ること 3)社員をやる気にさせること このエピソードに挙げたCEOに限らず、 どのCEOも会社が進むべき方向を明確に示します。 その方針は、CEO本人が考えたものでは ないかもしれませんが、 その方針を自分のことのようにすらすらと話します。 つまり、会社の進むべき方向について、 人々の意見を聞いた上で、CEO自身が納得をした上で 決断を下したということです。 そして、その方針に従って会社が突き進んでいった 結果についての責任はCEOが負います。 会社が期待された結果を出すことができなかった場合に、 「それは経済状況のせいだ」とか 「ある部門の業績が悪かった」 という言い訳をすることができますが、 「経済状況の悪い中なんとかできなかった責任」や 「ある部門が業績を上げられなかった責任」は CEOが取らなければいけません。 CEOは会社が期待する結果を出すことができなければ クビにされてしまうのです。 それは、彼らは雇われ社長だからです。 ある程度大きくなったシリコンバレーの企業のCEOは、 ほとんどみんな雇われ社長です。 といっても、決断のできない雇われ社長という意味ではなく、 CEOを仕事とするプロの人たちという意味でです。 シリコンバレーのCEOたちは社内での 出世競争に勝ち残ってきた者というよりは、 外からやってくるプロの仕事人の場合が多く、 彼らは別の会社でCEOや会社の幹部として 実績を挙げてきた人ばかりです。 ですから、自分がCEOをやっている間、 何事も起こらなければ良いという考えで 会社を経営するわけにはいきません。 成果を出せなければプロのCEOとしては失格です。 オーナー社長ではありませんから、 成果が出せなければ駄目なのです。 CEOは自分の方針を幹部に伝えるだけでなく、 社員一人一人に誰が会社を動かしているのかを 見せ、会社を自分の思うように動かさなくては なりません。 「私がCEOだ。今日から私の命令をきき給え。」 という態度を取るわけではなく、CEOは事あるごとに、 一般社員の前に登場し、自分のメッセージを社員に 語りかけます。 社員たちに自分の方針を伝え、 社員たちをやる気にさせなくてはなりませんから、 CEOたちはスポーツチームのチームのキャプテンの ような振る舞いをします。 CEOもチームの一員であり、みんなで頑張って 目標を達成していこうということを わかりやすい言葉で社員に伝えます。 共感を得るためには、 時には笑いも取らなければなりません。 社員をうまく使おうと思ったら、 それなりのコツがいるのです。 こういうことが出来て、 初めてCEOという仕事が務まるのです。 そして、CEOとしての振る舞いのノウハウは、 CEOを職業として複数回チャレンジいるうちに 身についてくることなのかもしれません。 プロのCEOたちは破格の報酬を得ていることが多く、 僕はそれはどうかなと思う反面、 会社の経営者の顔が顧客や全社員に ハッキリ見えるのは会社にとって 大きなメリットです。 上田ガク |
| 第18回 オフィスを持っているって本当ですか!? 僕の働く会社では、 ほとんどの人がオフィスを持っています。 こう言うと、「ええー!?」と思うかもしれません。 オフィスは普通、みんなで働くところで、 自分で持つものではないように思うのが 普通ではないでしょうか。 もちろん僕が、日本で言う「オフィス」を 持っているわけではなく、 ここでいうオフィスというのは、 仕事をするための小さな部屋のようなものです。 僕のオフィスは、 大きなテーブルを2、3個並べられるぐらいの 奥行きがあり、幅は机と椅子を置いて、 その後ろを人が通れるぐらいの空間があるぐらいです。 会社のビルの中には、このオフィスと呼ばれる部屋が 百以上もあって、廊下の左右にずらーっと並んでいます。 オフィスは一応部屋ですから、 もちろんドアもついています。 普通はこのオフィスを社員一人一人がもらい、 文字通り自分のオフィスになるのですが、 僕の会社は少々手狭になっているため、 1つのオフィスを1人〜2人で使っています。 オフィスの空間は、その部屋で働く人たちに 与えられた空間なので、皆思い思いに飾り付けをします。 たとえば、ポスターを貼ったり、 おもちゃを持ってきたり、 オフィスの外から見えるガラスのところに小物を置いたり、 新聞記事の切抜きを貼ったりと様々です。 僕のオフィスには、 日本で買ってきた小さなラジコンがあったり、 雑誌のオマケについていた ポスターを貼ったりしていました。 各オフィスの壁にはホワイトボードがつけられていて、 議論になったら、どこでもそのホワイトボードを使って 話をできるようになっています。 余談ですが、実際には廊下の 休憩コーナーのようなところにまで ホワイトボードがついています。 このオフィスの評判は、 特にエンジニアたちに良いようです。 皆が口を揃えて、オフィスの方が集中できる というのです。 その理由は音です。 ソフトウェアの開発をする時には、 「ここをああして、あっちをこうして」と 一人で頭の中で色々なことを考えながら作るのですが、 そこに人の話し声が聞こえると 集中が妨げられるというのです。 オフィスのドアは通常は開けっ放しにしておくのが 普通ですが、自分が集中したい時には そのドアを閉めてしまえば、 外の音はほとんどカットでき、 しいんとした静けさの中で仕事をできます。 エンジニアの場合は、集中出来た時と集中できない時では、 同じ人でも生産性に何倍もの差が出てしまいます。 ですから、集中できる環境を自分で作り出すことのできる オフィスの評判がいいというわけです。 しかし、僕はそれほどオフィスが大好きではありません。 まわりが少々騒がしくてもあまり気にならない方だからで、 オフィスのデメリットの方が気になるからです。 まずオフィスの場合は、知らない人に話し掛けるハードルが ちょっと高くなってしまいます。 他の人に話し掛けるには、オフィスの中を覗き込んで 話し掛けなければいけません。 そのため大体いつもドアが空いているとはいえ、 そのドアの部分に見えない障害物があるような感じがして、 話し掛けるのをためらってしまいます。 知らない人のオフィスには入るきっかけがありません。 知っている人ですら話し掛けづらいのですから、 知らない人のオフィスに入っていくのは 輪をかけて難しいのです。 そのため、同じ廊下にあるオフィスの人の顔は わかっているけれど、話し掛けたことがないということも あるぐらいです。 最後に、これはオフィスを 2人で共有しているせいでもありますが、 もう一人の人に話し掛けに人がくると、 今度は逆にその話の内容があまりにハッキリ聞こえて、 気になってしょうがありません。 僕のように考えるのは少数派のようですが、 僕はどちらかというと「キュービクル」の 職場の方が好きです。 このキュービクルというのは日本では聞きなれない 呼び名ですが、日本では違う呼び名で使われています。 このキュービクルというのはどんなものでしょうか。 ということで、次回は キュービクルの職場についてのお話です。 上田ガク |
| 第19回 キュービクルってどんなもの? シリコンバレーの会社の職場の形態は主に2種類あり、 その1つは前回紹介したオフィスを単位とするもの、 もうひとつはキュービクルを単位とするスタイルです。 キュービクルは、日本語で言う「パーティション」です。 何故か英語では、「パーティション」というと 空間を区切る道具のことを指すことが多く、 区切られた一人一人の空間を 四角いので「キュービクル」といいます。 略して、「キューブ」と呼ぶこともあります。 日本の方が空間を大事にする文化なのに、 この働く場所という概念については、 日本は壁を指し、英語は空間を指すという 逆になっているのが面白いところですね。 日本でもパーティションを使った職場は、 外資系なのでよく見られますが、 パーティションの高さは 大体座っていると見えないけれど、 立てば周りの人が見える ぐらいの感じが普通ではないでしょうか。 それに対して僕の働いた職場のいくつかでは、 大抵はパーティションが高く、 大体目線ぐらいのの高さがあります。 職種によっては壁の低いキュービクルの場合もありますが、 エンジニアの席はいつも高い壁のキュービクルで、 背伸びをしないと、となりのキュービクルは 覗くことができません。 そして壁の厚さも分厚いので、 パーティションとは大分違った印象を受けます。 それぞれのキュービクルは、 このように高い壁で区切られているので、 中にいると、入り口のある通路を 通りがかる人ぐらいしか見えません。 1つのキュービクルの大きさはかなり大きく、 大きな机が2つと本棚や物入れがついていました。 それでもまだ余りスペースがあり、 そこにはビーンバッグと呼ばれる 安くて大きなクッションのようなものが置いてありました。 前回紹介した「オフィス」と同様、 各人のキュービクルにはホワイトボードが 設置されていました。 それぞれのキュービクルは、そこで働く人に合わせて 多少の調整をしてもらえます。 例えば、前の会社では普通の高さの机か、 背の高い机とバーにあるようなイスの組み合わせの 好きな方が選べました。 キュービクルは1人が仕事をするためには 必要以上に大きい気がするのですが、 これが結構重要だと思うのです。 キュービクルには前回紹介した「オフィス」と違って ドアがありません。 そのため、まわりの音がうるさくても、 完全に外から遮断することはできません。 その代わり、遮断されることがないので、 他の人のところに話をしに行きやすいという メリットがあります。そして、 そこでビーンバッグが役立つのです。 仕事に詰まったり、設計上の問題が出てきたら、 同僚のキュービクルにふらっと行き、 「今、こういう問題があるのだけど、どう思う?」 というようにビーンバッグに座り、 目の前のホワイトボードを使って2人で 問題解決方法を考えるのです。 各キュービクルの無駄なスペースは、 お客さん訪問のために活用されるのです。 2人の人が話していると、まわりのキュービクルの人に その話し声が聞こえます。通常、まわりにいるのは 同じような仕事をしている人なので、 その人の興味のある内容だったり、 議論がおかしな方向に収束しそうになったら、 「ちょっとまった」とそのキュービクルにやってきます。 つまり、まわりの人が大体何をやっているのかが分かり、 また議論にも一応のチェック機能が働くのです。 キュービクルの壁は取り外し可能な部品になっているので、 隣が仲良しの同僚だったら、壁を取り外して 窓のようにしたりなんかもできます。 こういった理由で僕はキュービクルが好きなのですが、 オフィスと違って音がどうしても うるさく感じる時があります。 キュービクルの職場の悪いところは、 職場全体の見通しが悪いところです。 キュービクルの壁が高く、そのキュービクルがずらっと 並ぶため、職場にいると迷路の中に放り込まれた ネズミのような気分になってしまいます。 時にはそんな迷路のような中で、 ほんとうに迷子になってしまうこともあります。 また、共用スペースが少なかったり、 ほとんどなかったりするので、 すぐ近所のキュービクルの人や、 同じチームの人を除けば、 やはりあまり顔を合わす機会が少ないのも難点です。 このようにシリコンバレーでも、 職場をどのような形態にするのが一番なのかは、 ハッキリとした答えは出ていないようです。 僕の職場は近く移転することになっており、 移転先がどのような職場形態になるのか 色々な議論がありました。 新しいところでは様々な試みが行われるようです。 新しい職場がどんな環境になるのか、 今から楽しみです。 上田ガク |
| 第20回 内線電話は使いますか? 普通の会社でも、電子メールを使うことが 当たり前になってきたのではないかと思います。 電子メールの良いところは、相手を邪魔することなく、 連絡をすることが出来るところではないでしょうか。 読む側は自分の都合の良いタイミングで メールを読むことができます。 シリコンバレーの会社は、キュービクルやオフィスで 個人個人のスペースが区切られているので、立ち上がって、 「みなさんちょっといいですかー」と 大声で皆に何かを言うことができません。 こういったものもメールを使わなければなりません。 大部分の用途にはメールがうまく使えますが、 メールには、すぐに返事がもらえるかどうかは分からない ということと、相手とのやり取りが何度か必要な場合に 時間がかかるという問題があります。 何でもメールを使えばいいというものでもありませんね。 ややこしい話をする場合には、相手のオフィスに 出向いていくのが一番です。 相手のオフィスには必ずホワイトボードがあるので、 そこに絵を書いて話をしたり、 2人でパソコンの画面を覗き込みながら話をします。 やっぱり、顔を合わせて直接話をするのが 一番なのはどこでも同じです。 ただ、ちょっと聞きたいことがある、 そして、すぐに返事がもらいたい時もあります。 それもわざわざ相手のオフィスまで行くのは面倒です。 こういったときは インスタント・メッセンジャー(IM)を使います。 このインスタント・メッセンジャーというのは、 文字で会話をするためのソフトで、 登録しておいた同僚や友人に対して、 キーボードから打ち込んだメッセージを送ることが できるものです。 まあ、チャットのようなものだと 思ってもらって構いません。 A「今、○○のテストしてるのって君?」 B「そうだけど。」 A「あ、じゃあ、そのテストが終わったら連絡くれる?」 B「了解」 B「テスト終わったよ」 というような感じの 短いメッセージを交換します。 これぐらいのことだったら 内線電話を使えばいいのではないかと 思うかもしれませんが、 内線電話は滅多なことでは使いません。 何で使わないのだろうとちょっと考えてみました。 内線を使わない一番の理由は、 相手の仕事中に否応なく割り込んでしまうからです。 電話がかかってきたら、作業の手を止めて、 電話を取らなければなりません。 つまり、どんな大した内容ではなくても、 受ける側からしてみれば 最優先で処理しなければならなくなってしまいます。 電話をあまり使わないことに慣れた人に電話をかけると、 何か大事な用件があるのだと思われてしまうのです。 インスタント・メッセンジャーの場合も 相手の邪魔をすることには変わりはないのですが、 画面上に小さなウィンドウが開いて、 一言メッセージが表示されるだけなので、 作業を続けつつ、ながら対応ができるのです。 また、エンジニアの仕事の場合、 電話で言葉で説明するよりも、 文字で書いた方が間違いなく伝わる用件が多いので そういった理由もあるように思います。 この他にも、ヘッドフォンをしていて 呼び出し音に気づかない人が多いことや、 電話をかけるためには相手の内線電話の番号を 調べなければならないのが面倒だという こともあるのではないかと思います。 唯一、内線電話を確実に使うのは、 ミーティングに遅れた人を呼び出す場合です。 相手の都合も何もなく、 「今すぐこっちへこい!」という内容ですから、 内線を使うのでしょう。 ミーティングに呼び出すのにメッセンジャーを使ったり、 メールを使ったりするのを見たことはありません。 使用頻度は実際にはどれぐらいかというと、 僕の場合は、多い順に、メール、直接話しに行く、 インスタントメッセンジャー、そして内線電話の順です。 メールは1日にかなりの量、 直接話しをする回数は5回ぐらい、 インスタントメッセンジャーは1日数回、 内線電話はほとんど使いません。 せいぜい1週間に1度ぐらいでしょうか。 つまり大部分の用件はメールで済ませていることに なります。でも、僕はメールが届いたらすぐに 「メールが届きました」 と知らせる設定にはしていません。 1時間に1度しかその通知がこないようにしています。 メールの良いところは、 相手の仕事の邪魔をしないところなのですが、 メールがくるたびにそれを読んでいては いちいち仕事が中断されてしまいます。 大半のメールは それほど急いで返事をする必要がありませんし、 急ぎの用であれば、返事がすぐにこなければ、 他の手段で連絡を取ってくるはずです。 1時間に1度、その間に届いたメールを まとめて始末すると、 仕事があまり中断せず案外いいものですよ。 上田ガク |
| 第21回 社員研修や社員教育はありますか? 僕がこれまで働いてきた会社で 社員研修を受けたのは、 日本で社会人になった時に新卒採用で入った 会社だけ、それ以外の会社では社員研修を 受けたことはありませんでした。 今、僕が働いている会社で、隣で働いているのは、 同じチームのエンジニアですが、 彼は今年大学院を卒業したばかりです。 その彼と僕は同じ日に入社をしたのですが、 入社のその日からいきなり 2人ともプロジェクトに突っ込まれてしまいました。 つまり、この会社には、 新人社員研修といったものがまったくないのです。 確かに、電話取りをすることもありませんし、 日本のように敬語の復習をする必要や、 名刺の渡し方を習う必要がないせいもありますが、 それを差し引いてみても、 良く言われる「即戦力しか要らない」というのは本当で、 どうやら会社には採用してから育てるという 悠長な考えは、ないようです。 以前紹介した面接の方法でも触れましたが、 実際にプロジェクトに入ったら、 すぐ戦力になってくれなければ困るのです。 長期的に見ても、定期的に社員の配置転換を行って、 計画的に社員の育成を図るという話も聞いたことが ありません。 いわば会社は社員教育については何もやってくれません。 ‥‥といっても、それは受け身でいたらの話。 こちらの会社では、自分で勉強しようとすれば、 それを手助けしてくれる仕組みが色々あります。 たとえば、多くの会社では社内勉強会みたいなものが 毎週のように開かれています。たとえば、 「今回、○○チームが開発した改良版××を使うと、 従来に比べて2倍の処理能力が実現できます。 その仕組みがどうやって実現されているかを紹介します」 というような感じです。こういう勉強会への参加は自由で、 自分が興味のあるものに出席して話を聞くのが第一歩です。 開発に関連するほとんどの資料は、エンジニアならば すべて見ることができるので、 勉強会などで興味を持ったら、自分でそれを試してみたり することができます。 分からないことがあったり、意見があったりすれば、 それを作った人のところへ行って質問をするなり、 議論をするなりすればよく、 質問すれば誰でも快く教えてくれます。 裏を返せば、社員教育について何もやっていない という訳ではなく、各プロジェクトで 重要なポジションにある人たちや、 技術力の高い人たちには、こういった勉強会を開いたり、 資料を用意したりして、会社全体の技術水準を上げるための 努力が求められているのです。 さらに言い換えれば、技術力がとてもあって、 生産性も高いエンジニアがいても、 それだけでは所詮一流とは見てもらえません。 自分が作り出したものが他のエンジニアでも すぐに習得でき、彼らの生産性を上げることが出来て はじめて一流のエンジニアと呼ばれるのです。 そしてもう1点気づいたことは、 社員を疲弊させるほどこき使わないということです。 仕事に追われると新しい技術を学ぶ機会や余裕がなく、 数年後に気が付いたら、技術の進歩に 置いていかれてしまったという話を 耳にすることがないでしょうか。 エンジニアを馬車馬のように働かせたら、 勉強をする時間がなくなるのは当然で、 いくら勉強会があってもそんなものに参加する 余裕などあるはずがありません。 そういう状況に社員を追い込んでしまったら、 いずれ時代に取り残されて、 使い物にならなくなるということを 会社は分かっているようです。 僕の働いてきた会社では、メインのプロジェクト以外に 常に自由研究的な課題を決めるように言われます。 それは仕事に直接関係無くてよく、 例えば僕の場合は、 「インターネットで日記をつけるシステムが 色々あるけれど、それの更新情報を集めてくる技術が 面白そうなので、それを使った簡単なシステムを 試作してみたい」 というものにしています。 もちろん、これは仕事時間中にやることで、 たまに時間を取ってメインの仕事を中断して、 その「自由研究」をやります。 これも一応は仕事ですから、定期的に自由研究が どう進んでいるのかを話さなければいけません。 「こういう発見があった」とか 「こういう考え方が新しくて面白い」などと みんなに紹介したり、 試作システムを社内で公開したりしなければなりません。 この自由研究を全然やっていないと、 評価の時に怒られてしまいます。 真面目一辺倒ではダメなんです。 会社も無理強いをしないなら、 エンジニアもあまり無理はしません。 どんなに忙しくても興味のある勉強会があれば そちらに行ってしまいます。 エンジニアにプレッシャーをかけて 能力以上のものを要求することで社員は伸びて 生産性は高くなるように思われがちですが、 余裕を持って仕事しているエンジニアのいる シリコンバレー企業の方が継続的に成果を挙げているのは、 常に新しいものを捕まえるアンテナが ちゃんと機能しているからなのかもしれません。 上田ガク |
| 第22回 仕事サボる奴っているの? 僕の働いている会社は、放任主義的な社風を持っている ということを何度か書いているうちに、 こんな疑問が浮かんできました。 「社員の自由にさせたら、 サボる奴が必ず出てくるのではないか。」 ところが、実際には、「この人、全然仕事をしてない!」と 思う人はほとんどいません。嘘みたいに聞こえるかも しれませんが、本当にサボる人はいません。 みんな言われなくても、そこそこ一生懸命、 仕事をしているのです。 この放任主義がうまく機能しているのは、 第一に会社の規模が小さいことが理由ではないかと 思います。 たとえば、 自分の働いている会社が社員3人の会社だったら、 自分の仕事ぶりが会社の運命を左右しますから、 大抵の人は一生懸命働きますよね。 シリコンバレーのネット企業は、 どこも比較的会社の規模が小さく、 一人一人の仕事が会社の業績に 多少なりの影響を与えてしまいます。 また、社内のプロジェクトは数人のエンジニアで 構成されていることが多く、一人が手を抜くと、 まわりにもろに迷惑をかけてしまうことが挙げられます。 それ以外にも大きな理由がもう1つあります。 それは、アメリカでは一般的な 転職やレイオフという事情です。 たしかに、周りの目があってもサボろうと思えば サボることはできると思うのですが、 それでも会社にいることができると考えるのは早計です。 会社の業績が悪くなれば、レイオフが実施され、 全社員の数パーセントから十数パーセントが 解雇されるというのはよくある話です。 そんなときに仕事をしていない人は真っ先に 解雇されてしまいます。また、レイオフがなくても、 転職が一般的なシリコンバレーでは、 誰でも転職をしながら生活していかなければなりません。 そんなときに、今の職場で仕事ができていなければ、 次の仕事がなかなか見つかりません。 「仕事をサボってもいいけど、将来はないよ」となれば、 なかなかそんなリスクは冒せるものではないですよね。 性悪説にたって考えてみると、こういった 社会の仕組みによって、社員が仕事をサボることを 防いでいると言えるのですが、 シリコンバレーでは基本的に 性善説で物事が動いているのだろうと思います。 ソフトウェアを作るということは、 それが趣味にもなるぐらい面白いことです。 仕事が終わってから、家に帰ってから 趣味でソフトウェアを作り、無償でソフトウェアを 公開しているという人も世の中にはたくさんいます。 そういった人たちに、 「うちの会社では、こういうことをやりたいのだが、 それを実現するソフトウェアを作ってくれないか? 良いと思う方法で作っていいから」 と言えば、喜んでそれを作ってくれることでしょう。 その上、生活に困らないほどの給料ももらえるのなら 文句はありません。 そして、そうして作ったものが、広く世の中で 使われることで自分の仕事が社会に貢献している 実感があれば、エンジニアは人に言われなくたって 一生懸命働きたくなるものなのです。 また「自分の良いと思うやり方でモノを作る」 と言う部分も重要です。ソフトウェアを作るという仕事は、 モノ作りという観点からすれば、 まだまだ原始的な段階にあり、 マニュアル化された手順に従えば、誰でもできるという 仕事にはなっていません。 言い換えれば、人によってやり方が違いますし、 出来上がったものの質も違ってきてしまうような 手工業的な仕事なのです。 ですから、押し付けではなく、自分の信じる正しい方法で モノ作りをさせるとき、ソフトウェア・エンジニアは 一番力を出せるものなのです。 改めて思うことですが、 仕事が好きで働いている人たちの会社には、 嫌々仕事をやっていたら勝てるわけがありません。 楽しく働ける環境を作り出し、 放っておいても社員が仕事するような雰囲気にすることが、 企業の競争力アップの原動力になるのだと思います。 上田ガク |
| 第23回 人事異動みたいなものはありますか? 社員教育があまりないという話を書いた時に、 計画的な社員の配置転換がないという話を 簡単に触れましたが、今回はそのことについて 書いてみようと思います。 普通日本の会社では、新卒社員を年に1度一括採用し、 その後、定期的な人事異動で色々な部署に配置し、 社員を育てていくと言うスタイルを採るのが一般的です。 これに対し、こちらでは人事異動ということが 滅多にありません。 まず採用の段階で、採用されたら、どのプロジェクトで 働くかがはっきり決まっているので、 入社直後はそのプロジェクトチームで働くことになります。 そして、そこで1年、2年と働いたとしても、 人事異動で「来月からどこそこへ行ってくれ」 ということはおこりません。 黙って仕事をしている限りは、 ずーっと同じ職場にいることになります。 では、人事異動はどんな時に起こるのでしょうか。 それには2つの場合があり、 一つは自発的に希望して動く場合と、 もう一つは止むを得ない場合があります。 同じプロジェクトで長い間働いていたなど、 今の仕事に興味を持てなくなった時には、 希望を出して他のプロジェクトに移ることができます。 各個人は自分のキャリアや自分の興味のあるものを考えて、 社内で仕事内容を変えていくのです。 ただし、この社内での異動も希望すれば誰でも希望する プロジェクトに参加できるというわけではありません。 プロジェクト自体が人員募集をしていなければ そこに入ることはできませんし、社内の異動の場合でも、 希望先のプロジェクトは面接をした上で、 その人をメンバーとして迎え入れるか決めるのです。 そして、その面接の内容も、通常の採用活動と ほぼ同じような内容なので、転職するのと同じぐらいの 難しさがあります。 もう一つの止むを得ない理由による人事異動は、 様々な理由で起こりますが、例えばプロジェクトや 部署が消滅してしまう場合などがあります。 こういった場合でも、基本的には その時点で出ている社内募集に応募して 行き先を見つけなければなりません。 (僕は実際にはプロジェクトが潰れるのを 目の当たりにしたことはないので、 違う仕組みの会社もあるかもしれませんが、) こういった場合には、一定の猶予期間が与えられ、 その間に自分の行き先を見つけなければ、 さようならということになるようです。 この仕組みを改めて眺めてみると、 「みんながやりたい仕事をやったら、 みんながやりたがらない仕事が残るじゃないか」 という問題が出てきますよね。 しかし、それが現実に問題となっている感じはしません。 まず、本人の希望を無視して配置された社員が 少ないということから、 しばらくこの仕組みで運営されている会社は あまり異動したがる人のいない、 平衡状態にあるといえます。 そして、時々出てくる異動したいという希望も、 人それぞれ、自分のやりたい仕事というのは異なっていて、 一つの仕事に希望が殺到するということも 通常あまりないものです。 それでも、みんながやりたがらない仕事からは 人は抜けていきます。 しかしこれも、それでもいいから 仕事を得たいという人は必ずいるので 結局はなんとかなるものです。 本人にとって嫌な仕事をさせたとしても、 成果はあまり期待できませんし、 転職が一般的なシリコンバレーでは、 下手をすればよその会社に転職されてしまいます。 人それぞれ、自分に一番あった仕事を選ぶのが、 適材適所の状態で、その時、会社全体として 一番力を発揮できるはずです。 嫌なことでも我慢してやれば人間として成長する というのも、もっともな考えだと思いますが、 自由意志で移動先を選べるのですから、 そう考える人は自分でそういう仕事に 進んでつくことだって可能です。 ここでは誰も人のキャリアのことは考えてくれません。 すべて自分で考え、自分で行動しなければならないのです。 上田ガク |
| 第24回 なんか幼稚園みたいだねぇ。 以前、僕が働いている職場を日本から来た人に 見学してもらったことがありました。 その方がポツリと仰った言葉がこうでした。 「なんか幼稚園みたいだねぇ。」 確かにそう言われてみれば僕の職場は、 廊下に直径1メートルぐらいのボールが転がっていたり、 等身大の立て看板があったりしますし、 各個人のオフィスやキュービクルには 名札がついているのですが、 それが幼稚園で工作に使うような金色の紙で作られた 大きな星に名前が書いてあったりと 職場はどうも子供っぽい雰囲気が漂っています。 その上、社員はオモチャを色々会社に持ってくるので、 水鉄砲あり、ラジコンあり、 何故か今日、僕のオフィスの外には 一輪車が止まっていました。 なぜこんな風なのかというと、会社側が 楽しい雰囲気の職場を作ろうと 努力しているからなのです。 念のため、誤解を生まないよう書いておきますが、 アメリカの会社がどれもこうだと いうわけではありませんし、 シリコンバレーの会社でも そうでないことも多いでしょう。 しかし、僕が見たことのあるいくつかの インターネット企業では 大体みなこんな感じだったのです。 ではなぜ、インターネット企業は職場を 遊び場のようにしてしまうのでしょう? 僕はこういう風に説明できるのではないかと 思っています。 インターネットで商売をするということには いくつかの特色があります。 まず1つ目は、その商売の分野で 1番にならなければいけないということ。 1番手が圧倒的に有利で、 2番手や3番手の企業にはほとんど市場がありません。 ある分野で1番をキープするためには、 常に新しいものを生み出す独創性が重要です。 インターネットの商売で成功した企業は、 今までに誰もやったことの無かったことを 最初に実現した企業という場合がとても多いのです。 そして、それを他の企業が真似をしても、 最初にやった人には追いつくことができません。 2つ目は、インターネット企業は、 何千万人、何億人という人に 毎日サービスを提供しているという規模に比較すると、 とても少ない人数で商売をやっていくことができます。 電気製品や自動車など、実際に形のあるものを作る 商売の場合は、工場を立てたり、 実際に商品を大量生産する必要があり、 そのためには設計から生産まで多くの人が 関わらなければなりません。 それに対して、インターネットで商売をする場合には、 大量生産の必要がありません。 大勢の人が同時に使うことのできるサービスを 1つ作ればいいのです。 そしてその1つのサービスを作るのに 必要な社員の数は極めて少なくて済むのです。 この2つの理由、 「独創性」と「少人数でできる」ということが 会社の雰囲気を楽しくしようとする動きに つながっているのだと思います。 人が多くなれば多くなるほど、ルールを決めて、 みんながそのルールを守っていかなければ 無秩序になってしまいます。 しかし、独創的なアイデアが出てくるためには、 自由な環境が必要で、各個人の個性を 大切にしなければなりません。 となると、あまりルールは厳しくない方が よいのです。 人数が少なければ、明文化されたルールがなくても、 常識とか最低限のマナーというもので、 秩序を保つことができるのです。 そして、 朝から晩まで言われた仕事ばかりをやっているだけでは 新しいものは出てきません。 同様に、社員が仕事は仕事と割り切って、 お金と引き換えに労働力を提供するような雰囲気では アイデアなど出てきようがない という考えなのでしょう。 社員を比較的自由にさせて、会社にくることが楽しく、 まわりの同僚と面白いことを考えられるような環境に 置けば、面白いアイデアが出てくるという発想です。 また発想だけでなく、 社員を気持ちよく仕事をさせることで、 社員の生産性は逆に高まっているのだろうと思います。 実際に、インターネット企業の システム開発の生産性は、 他のソフトウェア産業に比べても極めて高く、 普通なら10人20人を投入して開発するような 大規模なシステムでも、 ほんの数人で作っている場合が とても多いことを見ても、 それが言えるのではないかと思います。 僕もこの楽しい職場という考えには大賛成で、 リラックスして仕事ができるのは 本当にいい環境だと思っています。 短期的に見れば、プレッシャーをかけられた方が 成果が出るのだと思うのですが、 仕事は終わりがなく毎日続くものですから、 毎日を楽しく仕事ができる方が 長期的には結局勝るのではないかと思っています。 上田ガク |
| 第25回 スタートアップはなぜ速く動けるのか? 最近仕事をしていて、なぜスタートアップ企業 (第9回「ベンチャー企業って、 今でもたくさん登場しているの?」)が あのように素早く動くことができるのかという 理由がわかったような気がしました。 スタートアップは、典型的に数人のエンジニアが 集まって始まります。最初は会社ですらない状態で、 趣味の延長や大学の研究のような形で始まります。 お金もなく、投入できる労働力も限られていますし、 お客さんも最初はゼロですから、 作り出されるものの規模は 極めて小規模なものから始まります。 今ではインターネット企業の大手になっている会社でも、 最初はほんの数台のコンピューターを使って始まります。 生み出されたサービスが段々多くの人に使われ、 知名度が上がってくると、コンピューターが混雑し 始めたり、扱われる情報の量が大きくなってきます。 それに応じて、システムを改良していくことで、 段々システムが複雑化してきます。 最初は1台のコンピューターで扱えたデーターも、 1台には納まらなくなりますから、それを複数台の コンピューターに分散して持たせる必要が出てきます。 また、少ない量のデーターを処理するのであれば、 コンピューターの計算性能を生かして 力技で処理することができるものも、 情報量が増えてくると、 短時間で処理できなくなってきますから、 あらかじめ時間のかかる計算を済ませておいて、 結果だけを利用したりする仕組みを追加したり、 計算方法を気の利いたものに 改良したりする努力が注がれます。 サービスが成長するにしたがって、 日々システムの改良を続けていきますから、 気が付いたときには利用者が百万人、一千万人を超えても うまく動くシステムが出来上がっているのです。 しかし、すでに規模が大きい会社で 同じサービスを作ろうと思うと、 なかなか短期間に同じものを作ることができません。 それは、極めて小規模のシステムを 世の中に出すことができないからではないかと思います。 大きな会社の場合、その会社のブランドを 傷つけてはならないので、各製品はそれなりの品質を 保つことが要求されます。 ですから、例えば、作られたシステムは、 24時間止まらず動くようにしなければなりません。 大体このためには、同じようなものを2つ作り、 1つ目が壊れたら、自動的に予備のコンピューターに 切り替えるといったような方法を使うのですが、 最初の段階でこの仕組みを考えなければなりません。 さらに、会社の知名度が高い場合には、 サービス開始直後に急激に利用者が増えることが 考えられます。 ですから、最低でもその利用量に耐えられるだけの、 中規模のシステムを最初から作らなければなりません。 この2つだけでも、システムの複雑度は、 スタートアップ企業が作り出す最初のシステムに比べ 高くなってしまいます。 それ以上に問題なのは、この難しいシステムを 机の上で設計しなければならないことです。 実際このように設計した後にシステム作りをはじめると、 頭の中で考えた時には想定しなかった問題が 次々に出てきます。 ある程度の問題は開発を進める段階で 軌道修正していけばいいのですが、 時には大幅な設計変更をする以外に 問題解決の方法がない場合があります。 こうなると、設計から開発に至る多くの労力を捨て、 もう一度出直すことになります。 もちろん、時間も余計にかかります。 僕も同じようなものを何度か作る機会に恵まれたので、 その両方を経験することができましたが、 1つ目の開発の経験を元に2つ目を設計する場合にも、 すべての落とし穴を事前に察知することはできずに 苦労をしました。 スタートアップでのシステムの開発と、 大きな企業でのシステムの開発の難しさの違いは、 こう言い換えることができます。 スタートアップのように開発は、 目前に迫ってくる問題は、今よりも少し難しい問題で、 これを1つ1つ解決していくことです。 例えれば、階段を1段ずつ登っていくようなものです。 これに対し、いきなり大きなシステムを作ろうとすると、 10段目の高さまで、一気にジャンプしようとする ようなもので、1つ1つ解決していくのに比べ、 一度にたくさんの問題を解決することは 一筋縄ではいきません。だから難しいのです。 そして、スタートアップ企業は、小さくても サービスを運用し、収益をあげていくことができますが、 いきなり大きなシステムを開発する場合、 完全に出来上がるまではお客さんに使ってもらうことが できません。 そして、ようやく出来上がった時には、 すでに他社はその先を行っているなんてことに なりかねません。 僕の場合は今、いきなり大規模なシステムを 作る方の環境にいます。 そして、今回書いたような問題を 実際に毎日肌で感じています。 スタートアップの手法がそのまま通用するとは思いません。 しかし、スタートアップ企業のように、 とりあえず動くものを作って世の中に出し、 そして、それからその規模を大きくしていくという アプローチを応用すれば、成長した企業でも効率的な 開発ができるのではないだろうかと、最近考えています。 上田ガク |
| 第26回 シリコンバレーの住み心地はいかがですか? (その1) ここのところ、仕事の仕方についての記事が 続いていたのですが、それはちょっと一休みして、 しばらくシリコンバレーでの生活について 書いてみようかと思います。 シリコンバレーと呼ばれる一帯は サンフランシスコの郊外にあり、 そこでの生活は都市型というより、 郊外型の生活です。 いわゆるアメリカと聞いて連想する クルマ社会だと思って構いません。 近くのスーパーマーケットに お買い物にいくのもクルマ、 友達のうちに遊びに行くのもクルマ、 とにかく家から出るには クルマがなければ 何もできないようなところです。 もちろん、会社に通勤するのもクルマです。 そのため、どこの会社の場合でも、 会社の建物のまわりを広大な駐車場が 取り囲んでいます。 会社の駐車場には、誰がどこに止めるという 決まりはないので、毎日早い者勝ちです。 そのため、朝出勤が遅いと、 建物の近くの駐車スペースはすべて埋まっていて、 建物から離れた遠くの方に 止めなければならなかったりします。 通勤時間は平均すると、 30分ぐらいが普通のようです。 僕はアパート暮らしで、 特に住む場所にこだわりがないので、 なるべく会社に近いところに住んでいます。 そのため、片道の通勤時間は約10分と短いのですが、 シリコンバレーは不動産の値段が高いので、 日本と同じように、家を買った人は ちょっと離れたところからの通勤になります。 また、最初に書いたとおり、 シリコンバレー一帯は都会ではなく、 都会的な楽しみが まったくといっていいほどありません。 飲みにいくバーもなければ、 遊びにいく場所もない。 そんなわけで、若い独身の人ほど、 そういうことのできる サンフランシスコに住んでいることが多いのです。 サンフランシスコは都市型の生活が満喫できる反面、 シリコンバレーの中心からは離れているので、 通勤時間は片道1時間近くになってしまいます。 日本的に考えれば、会社が町の真ん中にあり、 その町の周りに人々が住んでいるという形が普通なのですが、 サンフランシスコとシリコンバレーの関係というのは、 それが逆転している面もあり、面白い現象です。 このように、シリコンバレーでは、 サンフランシスコに住み、 都市型のライフスタイルを維持しながら働くことも、 職住接近を実現することのいずれも可能です。 シリコンバレーのようなものを作ろうという動きが 様々な地域で試みられていますが、 それがなかなかうまくいかない理由の一つには、 その地域が、働く人にとって 生活をするのに十分魅力的な場所でないということも 挙げられるのではないでしょうか。 サンフランシスコに住むか、 シリコンバレーに住むのかという選択は できるのですが、 その通勤手段については、事実上クルマ以外は あまり現実的ではありません。 シリコンバレー一帯の公共交通機関は極めて貧弱で、 サンフランシスコからシリコンバレー一帯を結ぶ、 カルトレインという鉄道はあるものの、 ほぼ1時間に2本しか走っていません。 しかも、このカルトレインは電車ではないんです。 アメリカ風のごっつい機関車が 客車を引いて走るという昔ながらのスタイルです。 その上、今年は改良工事のため、 カルトレインは週末は運休で、 1本も走っていません。 これだけでも不便なのに、その前後、つまり、 駅から会社までは何の交通手段もなく、 同様に家から駅まで行くのも一苦労です。 鉄道の駅を中心に町が形成されているわけではないので、 クルマ以外で生活しようと思うとなかなか大変です。 さて、このクルマ通勤、一見、 満員電車に乗らなくてよく、 魅力的に聞こえるかもしれませんが、 実際にはそんなに良くないもののように思えてきます。 そこで、次回は クルマ通勤をテーマに書いてみたいと思います。 上田ガク |