シリコンの谷は、いま。
雑誌の記事とはずいぶんちがうみたいです。

第9回
ベンチャー企業って、
今でもたくさん登場しているの?



シリコンバレーといえば、
ベンチャー企業で有名ですね。
90年代末のドットコムブームと呼ばれた頃は、
雨後の竹の子のようにインターネット関連の企業が
次々に立ち上げられました。

それは本当にすごい数で、会う人のほとんどが
みなベンチャーで働いていたように思うほどでした。

少々蛇足になりますが、
「ベンチャー企業」という呼び方は、
英語ではあまりしないようで、日常あまり耳にしません。
どちらかというと、始まったばかりの会社という意味の
「スタートアップ」とか「スタートアップ・カンパニー」
という呼び方が使われます。

では、ドットコムブームの去った今、
その「スタートアップ」事情は
どうなっているのでしょうか?

統計的なデータは、
シリコンバレーウォッチャーの方にお任せするとして、
職場や友人の様子から判断すると、
新しい会社の数は一時ほどではないにしても、
今でも新しい会社は着実に生まれて来ているようです。

僕の知り合いで、
ここ数年で自ら事業をはじめた人が5人。
そして、まだ創業して間もないスタートアップに
経営陣として参加していった人が2人いました。
それ以外にもドットコムブーム以前から
会社を維持している社長さんもいますから、
僕のまわりだけ見ても、なんだかんだで
随分多くのスタートアップが
存在していることになります。

ドットコムブームの時は、
そういったスタートアップ企業に
早い段階で投資家がつき、
その資金を元に急激に会社の規模を
拡大させていきましたが、
さすがに今は昔のようには行かないようです。
そのため、
小さい規模で事業を続けている
スタートアップが多くなっています。
大規模な投資を受けて規模を
拡大していっているなと感じるのは
上に挙げた会社のうち、たった1社ですから、
これが昔との大きな違いでしょうか。

しかし、驚くべきは、そういった知り合いの会社が
潰れていないということです。
確かに、大成功を収めることはなかなか難しいのですが、
規模は小さいながらも数人なら食っていけるぐらいの
事業を維持しつづけることは可能だということです。

インターネットを使った企業向けサービスの
スタートアップ企業を立ち上げた友人と話をしていて
思ったことですが、
アメリカではこういった小さな会社の製品やサービスでも、
使ってみようという企業がたくさんあることに
気づきました。

「よいものなら、実績はともかく使ってやろう」
という態度が、新しい事業を育てる助けになっている
と思います。

2つ目の驚く点は、創業者のほとんどがエンジニアだと
いうことです。これは今に限ったことではなく、昔から
エンジニア出身の創業者が多いのですが、これは
全く日本とは様子が違います。

日本ではどちらかと言えばビジネス寄りの人が
ベンチャー企業を興すパターンが多かったように
思います。

僕の知るこちらのスタートアップ企業は最初は、
数人のエンジニアが、本職を別に持ちつつ、
プライベートな時間を使って新しいものを作り、
それがある程度形になった時点で
勤めていた企業や大学を辞めて起業する
という始まり方をしています。

もちろん、成功を夢見る心はあるのでしょうけれども、
儲けたいから何かビジネスプランを考えるというよりは、
面白いものを作ってやろうという気持ちが強いのでは
ないかと思います。

知り合いの興した企業のうち、実際に成功を収めた会社は、
投資家がつくまでに何十万人かのユーザーを獲得するまで
エンジニア2人が個人で運営していました。

そこに投資家がつき、そしてスタートアップ企業経営で
実績のある人たちがやってきて、個人商店を100人、
1000人を超える企業へと成長させていったのでした。

ビジネスの専門家が登場するのは、
この個人商店からの脱皮の時点からなのです。

お金儲けをしたいという欲求が、
新しい企業を生み出す原動力であったなら、
短期間に大金を手にする可能性の減った今、
新しい企業はあまり出てこないのでしょう。

しかし、面白いもの、
便利なものを作ろうという気持ちが、
新しい企業を生み出す原動力ならば、
これからもシリコンバレーから
サクセスストーリーが生まれつづけるのだと
思います。

上田ガク

2003-10-14-TUE


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