糸井重里が知りたいことシリーズvol.1歩く 糸井重里が知りたいことシリーズvol.1歩く
些細な悩みから哲学的な話まで‥‥
学びたいこと、知りたいことは、
おとなになってもつきることはありません。
むしろ、歳を重ねることで、
興味が広がっていくようにも思います。
そこで新しい座談会のシリーズを
はじめることにしました。
糸井重里が「知りたいこと」をテーマに選び、
その専門家の方と一緒に学んでほしい方をおよびして
学びを深めていきます。
テーマから、自由に話は広がっていくでしょう。
第一回のテーマは「歩く」です。
歩くことは運動の基本、
健康にも大きく関わってきます。
東京大学で老いについて研究している飯島勝矢先生と、
犬のお散歩やロケで日々歩くカンニング竹山さん、
おふたりとじっくりお話しました。



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第1回 運動神話。
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糸井
僕は今年で70歳になりまして、
老い、についてずいぶんと考えるようになりました。
中でも「歩く」というのは、
健康や老いに関係が深いことだと思うんですね。
それで「歩く」について先生に相談したり、
ざっくばらんに質問させていただいたりしたいなと。
今日はよろしくおねがいします。
飯島
よろしくおねがいします。
竹山
よろしくおねがいします!
糸井
飯島先生とは初対面です。
普段はどのような研究をされているんですか?
飯島
東京大学の高齢社会総合研究機構というところで、
フレイル予防、つまり老いによる衰弱について
研究をしています。
あとは大学病院で高齢者医療を専門とする
医師もしています。
私は歩くことの超専門家ではありませんで、
「歩く」だけでなく、食や食環境、
オーラルケア、社会参加など
老いについて広い視点で研究をしています。
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糸井
最近『東大が調べてわかった衰えない人の生活習慣』
という本を先生が出版されていて、
本屋さんで買いました。
竹山
へえー、衰えない人の生活習慣。
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飯島
ありがとうございます。
はじめからテーマに物申すようで申し訳ないですが、
本の中でも「歩く」だけで健康になれるとは
まったく書いていません。
歩くという動作や手法というよりも、
「誰と歩くのか、ワイワイと歩けるのか」、
そういうことが大事だと話をしています。
竹山
でも先生、いわゆるウォーキングって、
ワイワイ、というよりは
ひとりで黙々と歩くイメージがありますが。
糸井
ありますね。
竹山
でも、みんなでワイワイ
歩いた方がいいんですね。
糸井
まあ、その方がたのしそうですよね。
あの、最初に僕が「歩く」ことについて
興味をもったきっかけについてお話しますね。



先日ゲーム作家の友人と話していたときに、
健康云々というよりは趣味として、
彼はときどき断食をするんですね。
断食って、ピークをすぎれば平気なんですが、
それまでのお腹が空いている時間が辛い。
その苦しくてしょうがない時間を、
彼は寝るんじゃなくて、歩く、らしんですよ。
歩いて気を紛らわせるんですって。
飯島
お腹が減って辛いときに、さらに歩くんですか。
かなりストイックな方ですね。
糸井
歩いていると、耐えられるらしいんですよね。
なんでわざわざ、そんなことをするんだろうと、
ふたりで考えたんです。
そのときにわかったのは
「歩く」とは人間のベースなんだろうなと。
たとえば動物などは、
お腹が空いたら獲物をとるために「歩く」。
人間も休むよりも動きたい欲望が
勝るのかなと思いました。
それ以来「歩く」に興味を持ったんです。
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竹山
人間のベース、というのはわかりますね。
普段、歩かない日はないですもん。
糸井
竹山さんはロケとか多いから、
特に歩くでしょう。
竹山
こんな体型ですけど、けっこう歩いているんですよ。
だから健康じゃないといけないんですけど、
どうも違うみたいで(笑)。
健康診断でだいたいの先生に
「運動しなさい」って言われます。



なので、数年前までは
1日10キロとか走っていたんですけど、
辛くなって飽きてしまったんです。
でも、ふと思ったのが、
僕らの仕事って
デスクワークの多いサラリーマンよりも、
下手したら歩いているんじゃないかと。
海とか山にも行きますし。
だから余計なことをしないでもいいのかな
と思うこともありました。
糸井
走ったり泳いだり、純粋な運動はしていなくても
ちょこちょこと動いているわけですもんね。
万歩計はつけてます?
竹山
今はつけていないですね。
以前は計算していた時期もありましたけど。
糸井
僕は毎日iphoneの歩数計を見ちゃいます。
でも、最近テレビかなにかで、
「1万歩歩いても健康に意味はない」という
研究発表を見てしまって、ガッカリしたんですよ。
この辺も、先生にお聞きしたいなと。
飯島
運動神話、というのはありますよね。
健康維持のためにたくさん運動をしよう、
歩くなら1万歩より2万歩だ、と。
私も純粋に「運動は健康に資する」と思っています。
国民の常識ですよね。
ただ、運動量よりも、
運動を「継続してやっているのか」が大事です。
運動はやはり、継続して意味があるものですので。
糸井
継続ですか。
飯島
健康診断で「習慣的に運動なさっていますか?」
と必ず聞かれませんか?
あれは、けっこう大事な質問なんです。
重要な運動の「継続性」について聞いていますから。
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糸井
じゃあ、毎週末ゴルフに行くようなお父さんは、
いいってことですね。
飯島
そうですね。まあ、
仕事関係だとストレスもあって
別問題も発生するかもしれませんが(笑)、
ラウンドをしながら一緒に歩いて、
ゴルフ終わりに一杯飲んで、
ワイワイと悩みを打ち明けたり、聞いたりする。
ゴルフをすることだけでなく、
トータルでゴルフはいいと思います。
ママさんバレーとか、ゲートボールとかも同じで。
竹山
コミュニケーションが大事、ってことですか。
飯島
継続とコミュニケーションは大事ですね。
私は医師であり研究者ですので、
ちょっとした研究結果をご提示しますね。



これまで約5万人、65歳以上の自立高齢者を対象に、
「フレイル(衰弱)」について研究してきました。
自立されているので、みなさん活発です。
具体的にどういった活動を継続的にしているのか、
3つの活動をピックアップしたんですね。
ウォーキングやジムなど
ひとりで黙々とやるような「運動習慣」、
囲碁や将棋など「文化活動」と「地域ボランティア活動」。
個々の高齢者にこれらの何を生活習慣に組み入れて、
何をやっているか調査して、
要介護一歩手前の状況なのか全く問題ないのか、
衰弱の状況を調査しました。



結果、3つすべてやっている人は心配ありません。
対して3つともやっていない人は、
フレイルへのリスクが16倍くらい高いんです。
糸井
16倍‥‥!
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竹山
「運動習慣」と「文化活動」と「地域ボランティア」を
やっているかやっていないかで、
それだけ身体は衰えるんですか。
飯島
はい、それだけ差が出るんです。
でも、いちばん驚いたのは、
いずれか1つだけをやっている人の調査結果です。
普通は3つの中だと「運動習慣」がある人が
いちばんリスクが低くて、
「地域ボランティア」、「文化活動」
という順だと思いますよね。
糸井
思いますね。
竹山
身体を動かす量で考えると。
飯島
ところが実は「運動習慣」だけの人の方が、
「地域ボランティア」や「文化活動」をされている方よりも
3倍くらいリスクが高いという結果が出たんです。
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糸井・
竹山
へえー!
飯島
運動の継続性というのは、
非常に大事なことです。
ですが、黙々とひとりで、というのは
フレイルへのリスクがむしろ高いんですね。
それに対して地域ボランティアや文化活動は、
対人関係が発生しておしゃべりしますから
「人とのつながり」があります。
それに、純粋な運動でなくても
活動場所に行ったり用意したり、
みんなでちょこちょこ動きます。



「継続性」もですが、「人とのつながり」の強さは、
老いに対してとても大事なことなんですね。
ですので、最初に
「誰と歩くのか、ワイワイと歩けるのか」、
そういったことが大事だと話したんです。
糸井
黙々とではなく、ワイワイと。
飯島
先ほど竹山さんが、
1日10キロは辛くて続けられなかったと
おっしゃっていたじゃないですか。
ひとりでやるのが億劫なのは当然です。
でもロケでなら、ちょこちょこと動いていられる。
純粋な運動でなかったとしても、
人とのつながりが強い中で動いている方が
よいということです。
糸井
竹山さん、バッチリだ。
竹山
ちょっとうれしいです(笑)。
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糸井
それを聞くと、
女の人が元気だという理由もわかりますね。
スポーツクラブとかでも男の人って、
ひとりで黙々と走ったり泳いだり
しているじゃないですか。
でも女の人は運動時間自体は少ないけど、
休憩してはずーっとおしゃべりしていて。
竹山
ああ、たしかに。
飯島
ある、女性だけのスポーツクラブがあって、
そこはすごくいい結果を残していて
急成長していると聞きました。
きっと、そういうことなんだと思います。
糸井
はあー、なるほど。
なんだか、気持ちが楽になりますね。
竹山
そうですね。
今のままでいいのかもなって思えました。
(つづきます。)
2018-10-09-TUE