第9話

まんがのルールを守ってない。

simico
私、じつはいま
バイトを辞めようかと思っていて。
糸井
おぉ!
simico
いままでメインでやってた仕事を辞めて、
まんが一本にするかどうか‥‥いや、でも、
不安だから、ちょっとキープしています。
みなさんは、どこかで辞めたんですよね?
とよ田
ぼくは最初、まんが賞に作品を送りました。
そのとき、90万円ほどの賞金をいただいたんですが、
賞を獲ったことを、
バイト先のロッカールームで着替えてるときに、
携帯の留守電で知りました。
90万もらうとわかった瞬間に、その足で
店長のところへ行って
「辞めさせてください」って言いました(笑)。
糸井
それがデビューなんだ。
とよ田
そうです。
その90万を使って
「これでしばらくバイトしなくていいや。
 できるだけ作品描こう」
と思いました。
糸井
simicoさんは、バイトはバイトでも、
ご自分に向いてるバイトが
いま、できてるわけですよね?
simico
そうなんです。
辞めちゃうのが、いま、もったいない。
もしまんががだめだったら、
後悔するんじゃないかなぁ。
とよ田
むずかしいですよね、たしかに。
糸井
ぼく個人の意見でいえば、それは
そのままやってればいいんじゃないかな、
と思います。
そのままでいて、そのうち、
はっきりわかる日が来ます。
simico
あぁ、きっとそうですね。
糸井
おのずとね。
とよ田さんは最初から辞めるつもりで
バイトしてましたか。
とよ田
そうですね、
絶対に辞めてやると思ってやってました(笑)。
糸井
辞めるときが来なかったら、
「俺は芽が出ない」ってことですね。
だから、ほんとうは辞めるに決まってた話なんですよ。
いま、simicoさんは、
決めるときが来ていないのです。
辞めたい気持ちはあるけど、じつはいま、
うまくまわっているんですよ。
simico
はい、そうですね。
糸井
もっとまんがを描きたくなっちゃったら、
もっとずーっと、悩みます。
そのときちゃんと答えは出ますよ。
とよ田
人生相談みたいになってます(笑)。
糸井
ついつい。
一同
(笑)
糸井
自分にもそういうことがあったんです。
昔のことを思い出すと、
「あの時代、悩まなければほんとうによかったのに」
ということが多い。
こうして若い子たちが悩んでるのが
「そんな余計なこと考えて」
と言いたいことだらけなんです。
自分がどうなっていきたいか、というところが
やっぱりいちばんおもしろいんですよ。
小山
でもね、ぼくはこの先、
自分の行動として
「出版社に持ち込む」という
段階があると思うんですけど、
そのやり方が具体的によくわからなくて、
ただただ、待っているという状態なんです。
とよ田
小山さん、2冊も本が出てるわけですし
けっこう声がかかるでしょう?
小山
いや、ないんです。
だから出版社に持ち込もうと思ってて。
ぼくはいつも
コピー用紙に鉛筆で描いてるんですが‥‥
とよ田
そうなんだ。
小山
はい。そんな原稿を持っていって
ほんとに大丈夫なのかとか(笑)、
そういうことすらわからないんです。
山本
‥‥これ、鉛筆なんですか?
小山
そうなんですよ。
ほら、これも鉛筆で(絵を出す)。
とよ田
見たい、見たいです。
ああ!
これ、鉛筆なんだ。
糸井
いいな、こういう会話。
山本
あの絵が、鉛筆!
小山
「コピー用紙に鉛筆」だと、
死ぬほど力抜いて描けますよ。
どちらも高くないし、
コピー用紙なんて何枚でもあるので。
とよ田
この座談会に、
担当編集さんが何人か同席されているので、
いま、プロの編集者に
訊いてみたらいいじゃないですか。
小山
あぁ。ほんとだ。そうだった。
とよ田
どうですか、編集のみなさん、
原稿を鉛筆描きで持ってこられたら。

編集の方
びっくりします。
一同
(笑)
小山
そうですよね。
とよ田
でも、小山さんは、すでに
認められてるわけだから。
糸井
そうそう。
人に支持されるかどうかのテストを
すでに受けてる人たちとして、扱われますよね。
編集の方
はい。それはそのとおりです。
持ち込みの方で、いままでこういう人がいなかった、
という意味でびっくりするだけで。
糸井
「これですか?」ということにいったんはなるけど、
それを活かせる場所が
あるかないかの問題だけでしょうね。
とよ田
ひそひそ。
(帰りにね、「ヒバナ」とか「スペリオール」の人に
 今後を相談していくといいね)
小山
ひそひそ。
(そうですね)

山本
雑誌の作品応募だと、
原稿のサイズ規定があったり、
鉛筆じゃ無理だったり、
いろんなルールが決まっています。
10年前だったらTwitterもなかったし、
小山さんや私は、
たぶんまんが家にならなかったと思います。
とよ田
編集さんのフィルターを
通らなかったかもしれないですね。
鉛筆の原稿を持ってきたら、
「ちょっとごめんなさい」って、
編集さんも言ったかもしれない。
山本
そうですね、きっと前なら通らなかったと思います。
糸井
いま思い出したけど、そういえば昔、
まんがの審査員をやってたことがありました。
投稿の規定を「守ってる」ということの意味は、
ほんとうに、ない。おもしろくない。
小山
ぼくは「ジャンプ」の新人さんの読みきりとか、
闘魂漫画だけが集まった「赤マルジャンプ」を読んで
ケチつけるのが
小学校の頃からの趣味だったんですけど(笑)。
とよ田
嫌なガキだな(笑)。
小山
「こんなんでいいんやったら、俺だって!」
みたいなことをずっと言ってたんですよ。
糸井
ほんとうなんじゃない? それは。
投稿する力がなくても、
何を自分がおもしろいと思ってるかは
わかっているわけです。
それをさんざん経験してる人たちが
こうしてまんがを描こうとしてるわけですよ。
俺がおもしろいと思ったものを描こう、
という気持ちはあるでしょ?
小山
そうですね、それはあります。
糸井
それは強いですよ。
小山
せめて「自分が笑ったらOK」みたいに
思っているところはあります。
山本さんのまんがで、
山本さんがお父さんを肘掛けにしてる
シーンがあるんですけど。

山本
はい、あります。
小山
山本さん的にも笑いながら描いてるはずなので、
そういうのがいいと思います。
山本
ありがとうございます(笑)。
糸井
4人のみなさんが持っているおもしろさは、
苦労してる中からは、出てこないんですよ。
長年誰かのアシスタントや助手を
やらなきゃいけないってことはない。
ペンで描かなきゃいけないこともない。
もう、みんないい気になったほうがいいと思う。
人として間違ってなければ大丈夫。
小山
はい!

つづく!

2015-10-09-FRI