HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

はじめまして、しいたけ.です。

VOGUE GIRLで毎週掲載されている
「しいたけ占い」やnoteの連載で
大人気の占い師・しいたけ.さんが、
ほぼ日に遊びに来てくれました。
きっかけは、糸井重里がもともと
しいたけ.さんの占いを愛読していて、
さらに最近ではTwitter上での
やりとりも生まれていたこと。
「はじめまして」の機会でしたが、
実は物事の感じ方が似ていたふたり。
話はおおいに盛り上がりました。
この日は占いの背景にある、
しいたけ.さん自身の過去のお話や、
大事にしている考え方などを
いろいろと教えてもらいました。
全6回、どうぞおたのしみください。

しいたけ.さんプロフィール

イラストレーション:タロアウト

3. 遠くに見えるピカピカしたもの。

しいたけ.
毎週「しいたけ占い」を出していて、
ぼくにはひとつ、楽しみにしている
瞬間があるんですね。
何かというと、1年に1回くらい
「この星座の今週の運勢はよく分からない」
と書くときなんです。
糸井
へえー。
しいたけ.
実は、占いをしていると、
出た結果をどう読み解けばいいのか、
どうしても分からないときがあるんです。
だからそのときは正直に
「今週はいいのか悪いのか、
よく分かりません」
「たぶん悩み事も解決できないと思うから、
願ってください」
みたいなことを書くんですね。
もちろん見る人が見たら
クレームが来てしまうから、
もちろん回り道してちゃんと説明して、
どういう経緯でこういう
「分からない」っていう結論を出したかを
ちゃんと書くわけなんですけど。
糸井
はい。
しいたけ.
やっぱり「占い師」といっても
すべてがわかるわけではなくて、
ぼくがもし
「占いをやってるから
すべての答えを知っている」
という立場になっちゃうと、
ことばってもう、
絶対に届かなくなると思うんです。
だから、そうやってちゃんと正直に
なれるときが嬉しいんですね。
読んでくれてる人たちとの信頼関係がないと
できないやり方なんですけど。
糸井
まさにいまのお話のように、
ぼくは「占い」と言っても、その中に
「うわぁ、分かりません。
一緒に見てみましょう」
があってもいいと思うんです。
未来がうまく分かったからって、
何かがサクセスするとは限らないんで。
実際には
「分からないけど、一緒に見てましょう」
みたいな友だちがいるだけで
背負ってる荷物がちょっと軽くなることって
あると思うんですよ。
しいたけ.
はい、はい。
糸井
すこしぼくの話をすると、
自分にとってのしいたけ.さんの占いって、
いつも自分がよけいに考えすぎるのを
削る仕事をしてくれてるんですね。
ぼくはよく、よけいなことを考えすぎて
自分の荷物を
不必要に重くすることがあるんです。
それを「しいたけ占い」は、毎回だいたい
「減らしなさい」って言ってくれる(笑)。
で、それは自分でも
言ってあげたいようなことだったり
するんで、いつも
「あぁ、そうだな」って思うんです。
重い荷物をしょってようが、
軽い荷物をしょってようが、
他の人に迷惑をかけるかどうかは
あまり変わらなかったりするので。
しいたけ.
ありがとうございます。
糸井
で、さきほどの「手紙」という話で
本当によく分かったんだけど、
しいたけ.さんって、
いろいろな人にとって
「あいつに手紙もらって、
なんかとても楽になったよ」
とか、
「グズグズしてたのが
あの手紙のことばで前に行けたんだよね」
とか、そういうことを
してくれてるんだと思いますね。
それは、すごく社会のために
なってると思います。
しいたけ.
いやぁ‥‥それは、嬉しいです。
糸井
なってると思うよ、ほんとに。
しいたけ.
自分の占いについて、
ぼくがどう考えているかというと、
糸井さんが以前どこかで
「ほぼ日」という会社について
「場を作りたい」という表現を
されていたかと思うんですが、
ぼくにとっての占いってまさに
「場を作る」ような感覚があるんです。
糸井
あ、そうなんだ。
しいたけ.
もちろん場にもいろいろあって、
強い人が話しはじめたら
全員がそれを聞かなきゃいけないとか、
人の出入りがないとか、
そういう空間は嫌なんです。
けど、そういうのじゃなくて、
もっとみんなにとって自由な場所が
作れたらと思っているんですね。
糸井
はぁー。
しいたけ.
それで、ぼくには自分のなかに
常に憧憬としてある
「場」の景色があるんですけど、
それが学生時代のバイト先の
控え室なんですよ。
糸井
どんなバイトですか?
しいたけ.
飲食店です。
とてもいいバイト先だったんですけど、
そこの控え室が、休みの日に
「暇だから」みたいにみんなが来て、
勝手に失恋話とかして帰ってくような
場所だったんです。
働いているとき、ぼくはそこが大好きで
「自分はこの控え室をあたためる
ヌシになろう」
みたいなことを考えていたんです。
糸井
うん。
しいたけ.
ぼくは外見が優れているわけでもない、
おもしろいギャグが言えるわけでもない、
話を振るのが上手いわけでもない、
目立たない人間ですけど、
いつもその場にいて、
別に説教とかアドバイスでもなく、
みんながなんとなく話しかけるような
人であれたらと思って、
そういうことをやってたんです。
‥‥全部で12年やってたから、
長くやりすぎたんですけど(笑)。
糸井
あぁ、いいね。
しいたけ.
で、その後、自分がそのバイト先を
卒業して大人になったときに
「ああいう場所ってあまりないな」
と思って、いまは占いで、
似たような何かを作れたらと
思っているんです。
糸井
なるほどね。
しいたけ.
あと、ぼくは個人的に
「目的」ということばが
すこし苦手なんですね。
「なにかをするとき、必ずしも
目的がなくてもいいんじゃないか」
と思っているところがあるんです。
「目的」基準で考えることって、
ぼくにとってはベンチのない
商業施設のようなイメージがあるんですね、
「用事がなければ行ってはいけない」
みたいな。
でも実はおもしろいことって、
井戸端会議とか世間話とか、
そういう目的がない場から生まれることが
けっこうある気がするんです。
だから、その「目的」じゃないところで
集まる場ができたら、と思うんですけど。
糸井
「目的」っていうことばで
表されるものって、
よく「それがあるからしっかりしろ」とか
「我慢しろ」とか、そういうもののことを
言いがちなんですよね。
しいたけ.
そうなんですよ。
糸井
もちろん「目的」自体がピカピカしてて、
楽しくてしょうがなかったら、
目的を持つのもぜんぜんかまわないと
思うんですけどね。
先に見えてるピカピカしたものが、
今日の自分を生かしてくれるみたいな
ことって、ぼくはあると思うんです。
たとえばこれを
「目的」ということばで言うかどうか
分からないんだけど、
ぼくはお寿司屋さんの予約があると、
数日前から楽しいんですよ。
しいたけ.
ああ、それは楽しいですね。
糸井
ガチガチの「目的」は
ちょっと息苦しいんです。
でも毎日の中には
「そんなに強制力はないのに、
あっち見てるだけで嬉しい」
というものもある。
それこそ、恋をしはじめた少年とか、
もう「あの子」がいるだけで
嬉しいじゃないですか。
何かこう、北極星というか、
おおいぬ座のシリウスというか
「目に入っている遠くの明るいもの」
みたいな存在があるだけで、
生きることが嬉しくなるんですよ。
金曜日に翌週の『週刊少年ジャンプ』を
待ってる少年とかもいますよね。
それ、素晴らしいと思うんですよね。
たぶんそういう少年は、
土日に死なないと思うんです。
しいたけ.
そうですね。嬉しい、それは。
糸井
「世の中は悪くないものだから
明日も生きましょう」とか
「今日死んではいけません」
といったことば以上に、
「月曜日に少年ジャンプが出る」
ということが人を元気にするすごみ。
それって、目的とも目標とも言えない
よく分からないものだけど、
なんだかぼくは
「生きるって、その明るいほうを
向いてるだけでいいんだ」
とよく思うんですよ。
そしてイキイキと『週刊少年ジャンプ』を
待ってる男の子と、
なにかガチガチの目的に縛られて
辛そうにしている人がいたら、
みんなが話しかけたいのは
『ジャンプ』を待ってる
男の子のほうだと思うんです。
しいたけ.
はぁー。わかります。
糸井
ぼく自身、そういうものばかり
作っていきたいという
思いがあるんですけど、
しいたけ.さんの作りたい「場」にも、
きっと通じるところがありますよね。
しいたけ.
はい、そうですね。

(つづきます)