永江朗さんが聞き、糸井重里がこたえた 「宣伝会議」の特別講義。いま、「コミュニケーション」とは。
永江朗さんが聞き、糸井重里がこたえた 「宣伝会議」の特別講義。いま、「コミュニケーション」とは。
 
第1回 「シンプルで陳腐」な言葉が  通じたときの、ちから。
永江 糸井さんはこの講座の
出身でらっしゃるんですよね。
糸井 そうなんですよ。
虎ノ門に教室があったり、
東銀座に教室があったりした頃に
通っていました。
永江 この講座を受けると
糸井重里になれるっていう(笑)、
そういうことなんでしょうか?
糸井 なっていいかどうか分かりませんけれども(笑)、
そうですね、僕が今やっていることの
基礎を学んだのはこの場所でしたし。
専門コースの先生が、
授業の後、よく飲み屋とかに
連れて行ってくださったんですが
そのとき飲み仲間に、
「これ、糸井君っていうんですが、
 天才です」って、言ってくれてたんです。
永江 ええ。
糸井 何の根拠もないんです。
だけど、言われている本人としては、
「へー」って思って。
天才だって言われたら、嘘でも
「あ、オレはやっていける」
って思うんですよ。
ああいう言葉が
その後のその人を決めちゃうんだ、って。
永江 このあいだ、雑誌の仕事で
「マネーに関する本」を25冊選んで下さい、
というのがあったんです。
25冊を選ぶのには、
50冊くらいは読まないと
いけないですよね。
何十冊か読んだんですけれど、
同じテーマの本を大量に読むと、
「球が止まって見える」んですね。

「動体視力」がついてくるんです。
この本はちゃんとした本か、
この本はダメな本か、が分かってくる。
その時に気がついたのが、
本当のことや、
ちゃんとしたことっていうのは、
ある意味、
「とてもシンプルで陳腐」だと。
糸井 はい。
永江 要するに、
お金を貯めるにはどうしたら良いか、
という本が大量に出版されていますけど、
お金を貯める方法っていうのは、
ひとつしかないんですよ。
つまり、たくさん稼いで、
少ししか遣わなければ貯まる。
それだけのことを
ちゃんと伝えている本は、
まともな本ですよね。
反対に、
特別なやり方があるんだ、
というように見せているのは、
ダメな本なんだなっていうのが
分かったんです。

コピーをはじめとした糸井さんのお仕事って、
とても当たり前のことを、
とても素直に言うことによって、
成り立たせていますよね。
でも、素直なことを言って伝える、
ということは難しいことですよね。
糸井 ものすごく難しいですね。
永江 そのへん、どうお考えなのかを
ぜひお聞きしたいと思って。
糸井 そうですね、今日も『ほぼ日』に
「みんな風邪が流行ってきたけど、
 気をつけてね、元気でね」って書いたら、
何だか自分でおかしかったんですよ。
永江 と言うと?
糸井 あんまりじゃないかと。
つまり、この季節に
風邪が流行っているから
気をつけてね、って言うのは、
「いいお天気ですね」とかと同じで、
様式の単なる一部分をさし出しているだけで、
何にも言わないのと同じことなんじゃないかって。

でも、書くとあまりにも通り一遍なんだけれど、
本当にそう思ってるんで
すみません、宜しくってことなんです。
永江 はい。
糸井 剣の道でいえば、
たとえばナントカ流みたいに
流派の違いで月謝を取る、
というような発想からすると、
「いや、ただ叩けばいいんだよ」ってことを
教えとして言ってしまったら、
商売にならないんだと思うんです。

つまり、私が私である理由、
だからお金くださいっていうことにはならない。

だから、みんなそのことを
なるべく言わないようにしている。
必ず女の子を口説ける
名文句集があったとしたら
きっと「僕はあなたが好きです」とは、
書いていないと思うんですよね。
永江 なるほど。
糸井 だから、
「僕はあなたが好きです」に勝るような
何かがあるならば見せてくれ、
という気持ちで、
みんな本を買うんだと思うんです。

でも僕は、
「僕はあなたが好きです」っていうのも
「通じる」ことなんじゃないかなと思うんですよ。
永江 それって、
すれすれですよね。
裏目に出るかもしれない。
糸井 俺じゃなくてもいいっていう、
ぎりぎりのところ。
今までやってきた仕事っていうのも、
僕がたまたま言ったけれど、
僕じゃなくても
実はみんなが言ってきていた。

誰でもあんなこと言えるよな、っていう
悪口を言われながら生きてきたんですよ(笑)。
永江 「不思議、大好き。」、
そりゃ不思議は好きだよ。
「おいしい生活。」、
いいよ、まずい生活よりは、って。
糸井 そうそう。
永江 でも、たとえば「茶の湯」って、
当たり前の約束事を
形式化したものじゃないですか。

お茶会をするときの招きかた、
お呼ばれしたあとの返礼のしかた、
茶席に入ったときにも、まず掛け軸を見て‥‥とか、
全部マニュアルで決まっているんですよね。
糸井 ええ。
永江 うわべだけ眺めてると、
なんだかバカみたいなんですけれど、
でもその通りにやって、
そこに気持ちを込めると、すごくよい。
糸井 それが通じたときの快感って、
とんでもないはずなんですよ。

たとえば、
「おはようございます」っていう
言葉のなかには、
ほとんど意味はないとも言えます。
でもある寒い日に、ある表情で、
ある年齢の、ある表情の人が
「おはようございます」って言ったとします。
その中にはきっと
すごく嬉しいと思える場面も
あるはずなんです。
永江 はい。
糸井 「おいしい生活。」にしても
「不思議、大好き。」にしても
その場所で、その状況の中で
置かれている言葉だったから
面白かったんだろうなと思うんですよね。
<続きます!>
2006-01-30

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