HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN 中竹竜二×糸井重里 にわかラグビーファン、U20日本代表ヘッドコーチに会う。
6 エディー・ジョーンズの基準。
糸井
さて、監督になった中竹さんが、
コミュニケーションを意識したことはわかりましたが、
10年そのまま続いちゃって、
今ではU20日本代表のヘッドコーチ。
「アンダー20」ということは、
2019年に日本で開催するワールドカップでは、
その人たちが選手になるということですよね。
中竹
その可能性が高いですね。
糸井
これは、大変な重責ですよね。
「戦術が苦手なんです」とか言っていたのに(笑)。
中竹
それを言うと怒られそうなんで、今は控えています。
今では、ラグビー大好き(笑)。
ちょっと歯が浮く感じですけど‥‥。
糸井
正直なところ、競技に関わっているうちには、
好き・嫌いじゃなくなっていきますよね。
中竹
そうですね。好きとか嫌いを超えて、
勝負に勝たないといけないので、
スイッチが入ると、そこに全力を注ぎます。
2015年に、イタリアで大会があったんですけど、
人生で一番のいい監督ができて、
僕自身もコミットできました。
じつは3年前にも同じU20の試合があって、
その大会では決勝戦で負けていたんですね。
ロスタイムに逆転されて、負けた。
糸井
それは痛いですね。
中竹
その決勝で負けたことで、
もうコーチ人生も終わって、
二度とできないだろうなと思ったんです。
でも、僕にもう一回チャンスがきて、
初めて自分から「監督をやりたい」と言ったんです。
そういうときはだいたい「考えます」と言うんですけど、
指導者として現場で勝負したいという気持ちが、
初めて湧いたんじゃないでしょうか。
▲U20日本代表ヘッドコーチとして指導する中竹さん
糸井
任期はある程度決まっているんですか。
中竹
多分、2016年の大会までですね。
20歳以下の大会って、
ワールドラグビーとしては大きな大会で、
どこの国もすごく力を入れてくるんです。
それがイングランドであって、初戦が南アフリカ。
ちょうど、ワールドカップと同じカードです。
糸井
ああ、なかなか手強いですね。
中竹
この間、エディー・ジョーンズと話していたら、
「滅多打ちにされるから、気をつけておけよ。
 向こうは本気でくるぞ」と言われましたね。
糸井
エディーさんは、日本の監督から
南アフリカの監督になったんでしたっけ。
中竹
あっ。それからすぐに、
イングランドの監督に変わったんです。
糸井
変わった途端に変わったんだ。
そういうこともあるんですね。
中竹
南アフリカのチームへの監督就任が
決まっていたのはわかっているけれど、
イングランド協会がオファーして交渉したんです。
日本のワールドカップでの快進撃が、
そのまま彼のキャリアに繋がりましたね。
糸井
それはやっぱり、見る人が見れば
エディー監督が日本にどんなことをしたかが
とっても胸に響くわけですよね。
中竹
はい。本当に日本の躍進ぶりは、
エディーさんにしかできなかっただろうなと。
糸井
彼にしかできなかった。
中竹
今ではこんなふうに賞賛されていますけど、
ワールドカップの前なんかは、
メディアも含め、彼に対する批判がひどかった。
選手の不協和音もありましたしね。
糸井
あっ、そうなんですか。
中竹
コーチングの世界でも、
エディーさんに対するバッシングはひどくて、
日本代表が1日に4回の練習をやるというのは、
科学的に間違っていると言われるわけですね。
やり過ぎだ、こんなので勝つはずがない。
これで勝ったらスポーツ科学が狂っちゃう、
みたいなことまで言われていたら、本当に勝っちゃった。
狂っちゃいましたね、みんな(笑)。
一同
(笑)
中竹
僕はずっとエディーさんと仕事していましたが、
彼はとても勇気を持っていますよね。
批判されても、嫌われても、まったく気にしない。
批判にも、一切なびかずに貫いたのは、
本当にすごいなと思いますね。
糸井
なかなかいないタイプですね。
中竹
彼の人格について言い出すときりがなくて、
たぶん、バツをつける人もいると思いますよ。
人柄とか人望とかを、褒める人は殆どいませんが、
そのぐらい極めているからこそ、
あの結果が出せたんだと思います。
糸井
へえー、おもしろい!
いわば、別世界の人ですね。
中竹
そうですね。
でも、特別な人かと言われると、そうではなくて。
あそこまで貫けたのも、彼自身の努力だと思うんですね。
なぜ選手たちが、
1日4回のハードワークを続けられたかというと、
誰よりもヘッドコーチがハードワークしていたことが、
全員、明らかにわかっていたみたいで。
糸井
えっ、選手がそう思うくらい。
中竹
指導者として、あんなに学ぶ意欲の高い人はいませんね。
だからこそ、他人に対しても攻撃的に言えるし、
文句を言われてもひるまない。
朝5時からの練習でも4時に起きて、
自分は先にバイクで汗をかいて
フレッシュな状態で選手たちを迎える。
夜もずっと分析して、選手のデータを取ったり。
昼間にゆっくりしているのかというと、
打ち合わせを昼に入れたり、
ラグビー以外の指導者の人とつながって、
自分を高めようとしていました。
エディーさんほど仕事する人を、僕は知りません。
糸井
たしかに、他のスポーツの人たちとも
つながっていますよね。
中竹
一流の人によく会いに行っていましたね。
僕も、よく海外のカンファレンスなんかに行って、
いいなと思った情報はエディーさんに伝えるんです。
むこうも定期的に読んだ本とかの情報を共有して、
お互いを高めようという意識がすごくありました。
糸井
どちらかというと、中竹さんもそういうタイプでは?
中竹
僕は、とにかく自分が勉強しないといけないのと、
いい情報はやっぱり共有したいので。
糸井
頭も筋肉みたいに、使わないとダメになりますもんね。
頭の働きを俊敏に保つためには、
やっぱり鍛えていないと無理ですよね。
中竹
エディーさんがよく言っていたことですが、
日本人の悪いクセで、
仕事もそうですけど、練習も長いんですよ。
それを、いい習慣に変えていかないといけない。
糸井
ああ。
中竹
これは、日本教育の弊害なんです。
ほとんどのスポーツは中学や高校で始めますが、
校務で多忙な学校の先生が指導しているから、
たいてい練習メニューが変わらないんですね。
同じことをずーっとやらせるんで、
すぐに本気になれないんですよ。
外国人のエディーさんはそこを見抜いていて、
練習の時にも、いかに最初の入りが悪いか、
罵倒するぐらいに言っていました。
糸井
最初の入りですか。
中竹
選手たちは本気でやっているんですが、
クセをつけていないので、
体がそうなってはいないんですよね。
「今日の練習3時間あるな、よし頑張ろう」
と思って練習に臨むのと、
「今日の練習3分で終わっちゃうから本気でやるぞ」
というのは、違うじゃないですか。
練習時間が3分しかないなら
ウォーミングアップも本気でやる。
こういうマインドに、どう持っていけるか。
そのために、現場のコーチングを変えたいんですが、
選手もコーチも、気づかないんですよ。
本人たちは「僕たち本気です」という顔をしているけど、
いざ練習をまわしていくと、30分ぐらいに顔が変わる。
糸井
別の本気が顔を出す。
中竹
最初の顔と、30分後でまったく顔つきが違う。
その顔がなんで最初にできないのかを、
コーチングで変えていくんですね。
そうすると、他のコーチも違いに気づいていく。
僕がエディーさんに一番教わったことは、
「基準」ということです。
本気の基準だとか、スキルの基準。
最初は僕も、彼が求める基準に慣れなくて、
エディーさんが怒っている理由もわかりませんでした。
それでも、悪いクセの中で生きているこの目を、
エディーさんの基準へと引き上げてくれました。
糸井
人間ってやっぱり生き物だから、
放っておくと、何もしないでいい方にいきますよね。
どんどん頑張って楽にしていこうとしても、
目的は楽な方にあるわけだから、
放っておけばそうなることは、もう明らかです。
本能に任せて快適にしていきたいというのは、
ひとつのエネルギーの素でもあるけど、
もう一人の自分が、悪いほうへ流れないように
上から指令してあげることが必要ですね。
中竹
それが成長意欲ですね。
留まっていると弱くなるということに、
本人が気づくことがだいじです。
<つづきます>
2016-02-17-WED