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コウノドリ先生の風疹講座

2018年の秋から「風疹」の流行が続いています。
風疹にかかることで最も怖いとされるのは、
妊娠中のお母さんへの感染によって
生まれてくる赤ちゃんに障害が残ること。
風疹は、2度の予防接種でほぼ防げる病気です。
「ほぼ日」では全社員が予防接種を受けました。
そして、風疹について知るきっかけづくりとして、
産婦人科医の荻田和秀先生にお話を伺いました。
漫画『コウノドリ』の主人公・鴻鳥サクラの
モデルでもある荻田先生に教わる風疹講座です。
担当は、妻が現在妊娠中のほぼ日・平野です。

荻田和秀先生のプロフィール

おぎた かずひで荻田和秀

1966年、大阪府生まれ。
香川医科大学卒業。大阪警察病院、
大阪府立母子保健総合医療センター等を経て、
大阪大学医学部博士課程修了。
現在は大阪府泉佐野市の
りんくう総合医療センター
泉州広域母子医療センター長を務める。
産科医にしてジャズピアニストという
異色のキャラクターが人気を博す
「週刊モーニング」の連載漫画
『コウノドリ』の主人公・鴻鳥サクラの
モデルとなった医師である。
著書に『妊娠出産ホンマの話』
『嫁ハンをいたわってやりたいダンナのための妊娠出産読本』

風疹の流行は悔しい

ーー
大流行が続いている風疹について、
産婦人科医である荻田先生から、
妊婦さんや、その家族が気をつけたいことを
教えていただけたらと思います。
荻田
どうも、よろしくお願いします。
ーー
荻田先生がモデルになっている
漫画『コウノドリ』の中でも
先天性風疹症候群について
取り上げたエピソードがあって、
「風疹は悔しい。阻止できたはずの障害」
というふうに表現されていました。
まずはじめに、風疹ウイルスに感染すると
どのような症状があるのでしょうか。

荻田
まず、みなさん大人が風疹にかかった場合、
重症化すると、後遺症が残りうる高熱が出ます。
発熱をしてどこに症状が出るかというと、
脳がやられたり、神経がやられて血小板が減ったり、
希ですが後遺症が残るという報告があります。
ただ、怖いことに「不顕性感染」といって
症状が出ないことが多いんですよ。
つまり、風疹にかかっていないつもりでも、
知らない間に他人に感染させている
可能性があるということです。
ーー
いつの間にか、風疹になっていることがある。
妊婦さんが感染した場合は、
どのような影響がありますか。
荻田
妊婦さんが風疹にかかった場合は、
特に免疫能が下がっているので、
ICUに入らなアカンぐらいの
症状になる場合もあります。
そして風疹ウイルスの一番の特徴が、
インフルエンザなどのウイルスと違って、
胎盤を通って赤ちゃんに届いてしまうこと。
ーー
風疹ウイルスは胎盤を通る。
荻田
インフルエンザだとか、
ノロやロタといったウイルスは
胎盤の手前で引っかかるんで、
体内に入っても胎盤を通らないんですよ。
フィルターのようなものがついていると
想像していただけたらわかりやすいと思います。
ところが風疹のウイルスは特殊な機能を持っていて、
ポッと胎盤を通り抜けちゃうんです。
この「胎盤を通って」というのが、
風疹ウイルスの一番の特徴なんですよね。
ーー
胎盤を通り抜けるウイルスって、
珍しいものなんですね。
荻田
他にも肝炎のウイルスなんかは、
お母さんの血液を通して
胎盤をすり抜けると言われていますね。
お母さんと赤ちゃんの血というのは、
量が多くないとはいえ、
混じりあうことがありますから。
ーー
お腹に赤ちゃんがいる状態で
ウイルスに感染するとどうなるのでしょうか。
荻田
風疹ウイルスが妊婦さんの体内に入ると、
胎盤を通って赤ちゃんに向かっていきます。
で、ウイルスっていうのは
何かに取りついて子孫を残していくので、
赤ちゃんの体の中でバーッと増えてしまいます。
妊婦さんの風疹ウイルスが胎児にも感染して、
「先天性風疹症候群」をもたらします。
ーー
先天性風疹症候群は、
どのような症状が出るのでしょうか。
荻田
生まれてくる赤ちゃんに出る症状は、
ウイルスが増える場所次第なんですよね。
メカニズムはまだ詳しくわかっていませんが、
ウイルスの好む場所があって、
特に多いのは目、網膜の部分を好むようです。
ウイルスが目で増えたら白内障や緑内障、
網膜症になって目が見えなくなります。
聴神経で増えると難聴になって、
耳が聞こえなくなることもあります。
脳の比較的重要なところでウイルスが増えると
精神の発育遅滞が起こるし、
心臓でウイルスが増えて先天性心疾患になったり。
ーー
赤ちゃんへの影響が大きいですね。
2018年の秋から風疹が大流行していると
ニュースをよく見るのですが、
どんな経路で感染するのでしょうか。
荻田
東京を中心に全国で流行していますよね。
風疹の感染ルートは飛沫感染です。
風疹患者が咳をして、
体液が飛び散る2mよりも外にいれば
大丈夫とは言われているんですけど、
風疹の場合、感染のしやすさが強烈なんです。
「基本再生産数」という感染しやすさの数値が、
インフルエンザの数倍といわれています。
ーー
2018年は風疹が大流行しましたが、
予防接種で防げるものなんですよね?
2012年や2013年にも大流行があったのに、
何年かおきに大流行が起きてしまうのは
なぜなのでしょうか。
荻田
正直、ちょっと難しい話なんですよ。
ここまで風疹を流行させてしまったのは、
日本のワクチン行政の失敗としか
言いようがないと思います。
2013年に起きた大流行で
ほぼアウトブレイクといわれていた時代に、
我々学術団体は「ええ加減にせなあかんぞ」
という話になって声を上げたこともありました。
国が立てた目標で
「2020年までに日本から風疹を撲滅する」
なんて言ってますけど、
おそらく達成できそうにありません。
日本のワクチン行政の失敗で、
接種をしていない年齢層があるんですよ。
これはもう明らかな失敗ですよね。
ーー
ぼく自身も、家族が妊娠していなかったら
風疹について関心がなかったと思うんです。
じぶんが何歳で打ったとか、
予防接種を2回打つべきだとか、
恥ずかしながら知りませんでした。
大人になってから、インフルエンザ以外で
予防接種を打つ機会があるとも思っていなくて。
荻田
普通はそういうものなんですよ。
「えっ、どうだったかな?」が、じつは正しい。
「いやあ、受けた‥‥かな?」と言いながら、
それでも抗体はできているのが
公衆衛生の正しいあり方なんですよ。
ただ、風疹に関してはうまい具合に働かなかった。
これが致死性のウイルスだったら、
すでにバイオハザード(生物災害)です。
それぐらい、爆発的に拡がっているんですよ。
風疹が日本で大流行した2013年には、
アメリカのCDC(疾病対策予防センター)から、
「妊婦さんは日本へ渡航するな」っていう
注意情報の通達を出していたくらいです。
そんなのはもうね、国辱モノですよ。
ーー
日本が危険な国として
指定されていたわけですね。
荻田
もっと、危機感を持つべきなんです。
それなのに、ぼくら現場の人間と、
妊婦さんが周りにいるような立場でないと
伝わっていなかったんです。
これは恥ずかしいことだと思います。
ーー
本来なら、みんな子供の頃に
学校で予防接種を受けているべきですよね。
荻田
そう、すべての人が
予防接種を受けているのが望ましいです。
かと言って、
「大人も今すぐ打ったらいいじゃないか」
というのも、また難しい話があるんです。
実はワクチンが足りていないんです。
今、子供さんに打っているワクチンは
絶対に外せない分だとして、
余剰のワクチンの本数は数万人分だそうです。
ワクチンの接種が必要な数と比べると、
かなり少ないんですよね。
風疹を本当に撲滅させたいなら、
妊娠しそうな年齢の家族も含めた全員が、
抗体検査を受けないでも
タダでワクチンを打ってもらわないと
いけないぐらいだと思うんです。
お金の問題もあるんでしょうけど、
ワクチンの本数が少ないのでは困りました。
ーー
予防接種を打ってさえいれば、
防げたことはあったはずですよね。
荻田
ほんとにね、防げたはずなんですよ。
インフルエンザのように、
毎年流行する型が違うのはしょうがないですけど、
風疹の場合は「終生免疫」といって、
抗体ができれば、よほどのことがない限り、
年を取るまで免疫が続くんです。
稀に抗体ができない人もいますけど、
子供のときに予防接種を打っておくべきでしたね。
ーー
大人になったら抗体を調べてみる、
という意識でいたいですね。
(つづきます)
2019-02-04-MON

「ほぼ日」乗組員全員に、風疹の予防接種をおこないました。「ほぼ日」乗組員全員に、風疹の予防接種をおこないました。

日本で風疹が流行しだした2018年の秋頃、
「ほぼ日」では、全乗組員を対象に、
風疹の予防接種をすることになりました。
社内には、妊婦さんや妊娠を希望する女性、
そして風疹の抗体価が低いとされている
「30代~50代の男性」が多く働いているため、
風疹ウイルスによる被害を防ぐために、
会社負担で風疹の予防接種をしました。

予防接種を受けたのは2018年11月下旬、
時間を決めて集合場所に集まります。
問診票を書いて体温を計り、
問診で問題がないのを確認できたら
接種をしてもらうという手順です。

風疹ワクチンが不足しているので、
今回みんなが予防接種を受けたのは、
「麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)」。
つまり「麻疹(はしか)」と「風疹」を
まとめて予防するワクチンです。

風疹のワクチンは「生ワクチン」という
生きたワクチンを接種するので、
妊娠中の女性は注射を受けられません。
その他の人は性別や年齢を問わず、
抗体検査を受けなくても接種可能としました。

乗組員を代表して、糸井重里から注射を受けました。
「はーい、ちょっとチクッとしますねー!」、
糸井は「全っ然、痛くなかった!」と笑顔です。
注射が苦手な乗組員に聞いてみても、
インフルエンザの注射より痛くない、
という感想が多く挙がったのが印象的でした。

続々と予防接種を終えて、
みんな、ほっとした表情で席に戻ります。
ちなみに、事務所以外で働く乗組員も、
自宅のそばで予防接種を受けました。
これで、ほぼ全員が風疹への
抗体をつけることができました!
予防接種は、誰にでもできる対策です。
「自分や家族はどうだろう」と気になったかた、
お近くの医療機関での予防接種を、
ぜひ受けに行ってみてくださいね。