第3回 でも、ダウンはします。第3回 でも、ダウンはします。

糸井
試練は、ごほうび。
自分を振り返ってもそうだよなぁ。
宮沢
そのことに
最近ちょっと気づきはじめたんです。

これから先、病気とか心配じゃないですか。
40、50、60となってくるにつれて。
糸井
からだが変わるからね。
宮沢
「試練は、ごほうび」と、
いまから考えるようにしておけば、
将来、それを受け止めたときに
からだへの負担もすくないかな、と。
糸井
うん。
逃げてるときに叩かれるとすごく痛いけどさ、
「さあ叩けよ」と言って叩かれれば、
「そうか」って思うよね(笑)。
宮沢
あと、「叩かれるの怖い!」
と思っているときのほうが痛い。
糸井
痛いね。
痛いし、立ち上がりにくい。
でも、「よし来い!」と言ったときは、
案外、次のことを考えて、すぐ立てる気がして。
宮沢
うん。
糸井
‥‥前にりえちゃんと会ってたとき、
おれはこういうことをわかってなかった。
宮沢
そうですか?
糸井
うん。やっぱりおれはだいぶ馬鹿だったと思う。
宮沢
ええー(笑)。
糸井
りえちゃんから見れば年齢がずいぶん上だから、
何でもわかっている人みたいに
見えてたかもしれないけど。
宮沢
何でもわかっている人だと思ってました。
糸井
ぼくもわかってるつもりでいました。
だって、そりゃそうだよ、
親子の年の差なんだから。
ウワサにもならない(笑)。
宮沢
ね(笑)。
あんなに頻繁にデートしてたのに。
糸井
そうだよ、毎日デートしてたのに、
ひとっつもウワサにならないの。
一同
(笑)
糸井
あれはたぶん1988年とかそのあたりだから、
自分もまだ若いんです。
それこそ、ちょうど40くらいじゃないかな。
でもぼくの場合は、
試練のようなものに対して
そんなに向かっていく気持ちじゃなかったんです。
いまのりえちゃんみたいに、
しっかり受け止めてなかったと思う。
「くるなら来い!」と言いながら、
「ほんとに来たら、サッとかわしたい」とか(笑)。
宮沢
(笑)
糸井
それがだんだん、
「かわせないんだ」って、
あきらめることが増えていくんです。
宮沢
あきらめることはでも、美しいです。
糸井
‥‥いいね。
あきらめることは美しい。
「かわせないんだ」ってわかったら、
自分しかいないって本気で思えますよね。
そこからです。ごほうびを蓄えられるのは。
宮沢
はい。
糸井
まわりから「大変ですね」と言われる経験ほど、
栄養価は高いでしょう。
宮沢
栄養、高いです。
糸井
高いねー。
宮沢
高い。
たのしかったことの栄養は早く消耗するけど、
たいへんだったことの栄養って
長く保たれると思います。
糸井
そうだねぇ。
その、りえちゃんがあめ玉だとしたら‥‥
宮沢
はい。わたしがあめ玉だとしたら(笑)。
糸井
まんなかに芯があるんです。
甘くない芯が。
それはある種、暗い芯なのかもしれない。
甘いものに囲まれているけれど、
なめ終わったときにちょっと粒になる苦い芯。
それをかならず持ってますよね。
宮沢
‥‥そうなんでしょうか。
糸井
で、その芯がないと、往復運動ができない。
甘いものばっかりだと、
楽しい! って飛んでっちゃう。
宮沢
帰ってこれない(笑)。
糸井
そう、帰ってこれない。

で、りえちゃんの根っこにある、
そのちいさな暗い芯というのは、
ぜんぶの人が帰っちゃった後に
ひとりっきりで考える時間につくってるものです。
宮沢
ああーー。
‥‥(長く考える)‥‥そうですね。
でも基本的に、立ち直りが早いというのかな‥‥
その苦い芯っていうのは、
ポジティブなのかもしれないです。
糸井
苦い芯がポジティブ。
宮沢
たぶん。
糸井
あのね、りえちゃん。
宮沢
はい。
糸井
それを、「強い」っていうんだよ。
宮沢
うーーーん、そうなんでしょうか。
糸井
ダウンはしますよね。
ノックアウトされますよね?
宮沢
ダウンはします。
「ダウンしていない!」ってやってると、
あとでクラクラッとくるから。
「ダウンしましたー!」というときは、
ちゃんとダウンして、
それで手当をして、
それから立ち直ろうじゃないか。
というところがあります。
糸井
ひとりですることですよね、それは。
宮沢
そうですね。
それはぜったいに、自分自身じゃなきゃ。
糸井
励まされたり、
助けの手を差し伸べられたりしても、
自分がダメだと思ったらダメだよね。
宮沢
励ましはありがたいですけど、だめです。
糸井
足から崩れるでしょう。
宮沢
崩れます。
糸井
なんですかね。
宮沢
ねえ(笑)、なんですかね。
まあでも、結局、
自分を動かすものは自分でしかないし、
自分を立たせるものも自分しかないんでしょうね。

(つづきます)

2014-11-06-THU

©2014「紙の月」製作委員会

宮沢りえさん主演映画のおしらせ「紙の月」

直木賞作家・角田光代さんのベストセラー小説、
『紙の月』を宮沢りえさん主演で映画化。
11月15日(土)より全国ロードショーされます。