194 コース料理のたのしみ方。デザートの時間が始まったら。

メインディシュが終わりを告げると、
テーブルの上が一旦、キレイに片付けられる。
お皿の両側にあって、隣の人との間を隔てていた
ナイフやフォークがきれいさっぱりなくなって、
それと一緒にテーブルをかこむ
みんなの気持ちがひとつになっていく。
たのしかったネ‥‥、とみんなの共通の思い出が
完成に向かって出来上がっていくのです。

西洋料理において、食事がはじまる前に
テーブルに並んだナイフやフォーク。
それは「あなた」が自由にふるまえるエリアを
表しているモノ。
つまり「国境」のようなモノなのです。
ズラリと何組ものナイフやフォークがならぶ食卓は、
万里の長城で守られた頑丈な国境。
一方、ナイフフォークがひとセットだけ。
それも右側にまとめて置かれている
ビストロのようなお店は、
国境はあっても自由に行き来ができる、
EUみたいな共同体だと思えばいい。

ズラリとナイフ・フォークが並んだときでも、
食事が進むにしたがって一組、そしてまた一組と
隣を隔てる障害が、少なくなって行く。
食事をしている人たちが、
仲よき友達になっていくというコトなのですネ。

その仲よきコトをたしかめる場所が、
隣同士を隔てるナイフやフォークのないテーブル。
つまりデザートがやってくるテーブルだと
いうコトになります。

この場になにかルールはあるのか?
特別なマナーがあるのか、
というとみんなが仲間になったテーブル。
自由に、好きなようにデザートをたのしみ、
今日の良き食事の思い出話を花を咲かせるコトが、
ただひとつのルールでしょうネ。


ところで大抵の場合、デザートの注文は
料理がすべて食べ終わってからというのが一般的。
そもそもメニューが
料理のメニューとは別になっていることがほとんど。
テーブルの上のお皿やナイフ、フォークを片付けて、
クロスの上に散らかったパン屑を
銀製の小さなちりとりみたいな器具でキレイにとって、
気持ちを変える。
そして恭しく、デザート用のメニューが、
どうぞと差し出されます。

まるで、別のお店にやってきて、
また食事がスタートするみたいな
気持ちになっちゃうネ‥‥、と、
あるお店で言ったことがある。

するとお店の人が、とてもウレシげな顔をして、
今までは私たちがお客様をもてなす時間。
これからは、お客様同士が互いをもてなす時間。
だから、今までとは別のお店にやってきたんだ‥‥、
とお客様に思っていただけるようにと心がけている。
本当は、テーブルクロスを替えて
差し上げたいくらいなんですよ‥‥、って。
だからご婦人方がこのタイミングで
化粧直しに立ち上がられるのも、粋なコト。

お店の人がデザート用にテーブルの上を整えると、
「レストラン部」はコレでおしまい。
ココからは「カフェ部」がはじまるという合図でもある。
つまり、デザート用に整えられる前であれば、
あの料理がおいしかったから、
また作ってくれないかしら。‥‥、とか。
まだお腹が一杯になっていないから、
他になにかおいしいモノはないかしら。
と、お願いすることは失礼じゃない。
ボクなんて、お腹が空いてしょうがなかった
30台の半ばには、コースを2回、
やり直すことがよくあったもの(笑)。
けれど一旦、デザート用のテーブルになると、
もう厨房のあずかり知らない場所になり
料理を再びおねだりすることは、
ちょっとお行儀の悪いことになる。
お腹の具合に合わせながら、
デザートメニューをみながら何にしましょうか‥‥、って、
確かにもう一度、レストランにやってきたときを
なぞりながら、たのしい時間のはじまり、はじまり。

レストランとは人と人とを仲良くさせる、
よい場所だなぁ‥‥、と思い知ります。


そうそう、実は食事を終えたあとにはじまるデザート。
これも2皿コースのようなモノだとボクは思ってる。
そのひと皿目は甘いお菓子。
今日の食事を思い出しつつ、甘いお菓子でお腹に蓋する。
ふた皿目は何かと言えば、これがコーヒー。
あるいは紅茶のような飲み物。
レストランのデザートは、それそのもので
完結している甘美な世界。
口の中が甘くなるからといって、
それをコーヒーで流し込むというのは、
お菓子を作った人に対して、無礼千万。
ある意味、お菓子も料理と一緒。
プロの料理をコーヒーと一緒に飲むのが
あまり感心できないコトであるのと同じで、
お菓子はお菓子。コーヒーや紅茶は
それ自体の味をじっくりたのしみましょう‥‥、と、
それが大人の流儀と思う。

ところでサカキさん‥‥、
最近、とても失礼なお客様が増えてるんです、と、
イタリア料理のシェフに言われたコトがある。
さて、どんな失礼なお客様?
って、また来週といたします。
今回でコース料理の話は一旦終わり、
次からは、ちょこっと違った趣向になろうかと思います。




2014-09-25-THU



© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN