飲食店では、だいたい、使った食材の価格の
3倍の値段をつける。
つまり30%くらいが料理をつくるための
「原料費」ということになる。
残り7割の使い道は、普通、こんな感じになるでしょうか。

料理を作ってくれるシェフや、
快適に食事をたのしめるように気を配ってくれる
サービススタッフの人件費。
それがだいたい25%。

電気代やガス代、それから水道代。
レストランという場所は、結構、
そういうモノを大食らいする場所で、
7%ぐらいかなぁ‥‥。
いろんな飲食店の中でも、
ラーメン屋さんとかうどん屋さんがこの費用を一番使う。
麺を茹でるためのお湯を
ずっと沸かしておかないといけないから、
忙しい、忙しくないにかかわらず電気やガスを使い続ける。
お蕎麦屋さんなんかに遅い時間に行くと、
「申し訳ありません、茹で釜の火を落としちゃったから
 麺を茹でることができないんです」
と、謝られたりすることがある。
それほど、節約したくてしょうがない経費のひとつ。

割り箸のような消耗品を購入したり、
宣伝をしたりするための費用が6%ほど。
お店の人気をだすためには使いたい。
けれど、あまり使いすぎると利益が減ってしまうから、
賢く使うコトを心がけなきゃいけない費用。

それから家賃が10%。
これ以外の費用はみんな、
節約すれば減らすことができるけれど、
家賃は一度契約すると
その金額をずっと払い続けなくちゃいけない。
以前も書きましたが、
お店をはじめる人たちは、だから一生懸命、
安い物件が手にはいらないかしらと
足を棒にして歩いて探す。
いい物件が手に入っても、
果たしてここの家賃を
ずっと払い続けることができるだろうかと、
判子を押すまで眠れぬ夜を過ごすほど。

30%と25%、7%に6%。
それから10%を足した合計が78%で、
残り22%から借りたお金を返したりして
手元に残るのがせいぜい1割くらいというのが
飲食店のお金の仕組み。


飲食店の経営って、華やかなようにみえて案外大変。
好奇心と小さな野望をいだいて飲食店をする人たちの
ほとんどが、以外に儲からないことにビックリする。
飲食店には夢がないから、やめてしまおうと
あっさり手を引いてしまう人も数知れず。
でも、そういう人たちは知らないのです。
夢を作り出すにはお金がかかる。
自分が夢をみることばかり追いかける人には、
人にステキな夢を見せてあげようという
サービス精神がわからない。
一人でも多くの人がよろこぶ顔をみながら、
それでも儲けることができるんだ‥‥、
と思える人でないと
飲食店の経営はできないのかもしれません。

ステージの上で踊るバレリーナ。
優雅なふりつけと、満面の笑みで踊る姿の足先は、
ひとときたりとも休まずずっと動いてる。
一生懸命、つま先だって踊る
足元ばかりを見るのが無粋であるように、
この店って儲かっているんだろうか? とか、
この料理ってどのくらいの原価でできているんだろう、
って思いながら食事をするのは、
手品のネタ探しをしながら食事をするようで、
夢のないことだとはわかってる。
けれど、業界人のクセとでもいいますか。
この料理って、売価の3分の1の原価で
できてるんだなぁ‥‥、って思いながら
食事をしてしまうコトがあります。

大抵、ビックリさせられます。
ハンバーガーショップで
100円で売られているハンバーガーを、
30円で作れと言われると、まず完全にお手上げで、
そこまで極端なコトはそれほどないにしても、
どうやったらこんな値段で売れるんだろうって、
感心します。
ハンバーガーショップの場合は
大量仕入れによるコストダウンが、理由のほとんど。
もうひとつは、コカコーラのような、
売れば売るほど安く仕入れることができる、
魔法の水を一緒に売っているから、
結果、原価を安く抑えることができるという、
ちょっと複雑なからくりもある。
その詳しい説明は、いつか機会をみつけてお話しましょう。


大量仕入れをするわけじゃない。
魔法の水との抱合せ販売をして
原価を安く抑えることもしていない。
そんなお店では調理人の技術と経験で、
例えばたった300円の食材が1000円で売られても、
納得できる料理に変わってく。

調理人の腕の見せどころというのは、
なにも「おいしい料理を作る」ことばかりではないのです。
お客様からお預かりしたお金を、
大切に、賢く使って納得できる料理をつくる
「経済観念」とでもいいますか。
そのために、必要なモノだけ仕入れる習慣だったり、
仕入れたものを無駄にせず使い切る手際だったりが
良いシェフに求められる技量のひとつであったりもする。
調理上手とシェフの違いは、
原価を意識するかしないかというコトなのでしょう。

ボクは調理師学校の講師をしていたことがあります。
とは言え、調理を教えていたわけではなくて経営のコト。
シェフとしていつか自分の店をもつとき
必要になるであろう知識と心構えを学ぶ、
というのが講座のメインのテーマで、
中でも「利益を出すためのメニュー作り」
という科目には力が入った。

その講義の冒頭で、必ず彼らにこう問いかけます。

調理人としてではなく、
経営者として仕入れるとしたら
どういう食材を仕入れますか? と。

答えは3つ。
若き調理人の気持ちになって、
どんな答え考えてみてくださいませな。
また来週。


2014-04-10-THU



© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN