クーポン券をもらうとやっぱりウレシイものです。
あるいはポイントカードのようなモノ。
何回か利用すると、なにか商品がただになったり、
あるいはそれが金券みたいに使えたりする。
貯めるたのしみみたいのもあって、
ボクも何枚か財布の中に入れていたりする。
けれどほとんどのチケットやカードは
そのまま捨ててしまうのですネ。
捨てずに持っていようと思うお店は、
そんなモノなどくれなくても通うだろうと
思う店のものばかり。

そもそもクーポン券とか
ポイントカードというモノを作って、
それを管理、維持する。
そのためには、多かれ少なかれ
コストがかかってしまうモノ。
コストをかけずにお客様を呼ぶ。
その唯一無二の方法は
「一度来てくれた人に何度も戻ってきてもらう」コト。
つまり、おなじみさんが増えれば増えるほど、
飲食店は無理せず儲けるコトができるという定石を、
一生懸命守るがあまり、
そこにコストをかけてしまうという矛盾。
ナヤマシイったらありゃしない。

お客様に負担をなるべくかけぬよう、
おいしい料理を作るためにいろんな工夫をお店はします。
例えば、農家から直接、食材を仕入れる努力。
あるいは、すべての料理を一から仕込む努力をしてる。
だからうちはおいしいものを
お得な値段で提供できているんですと、
自慢する店はたくさんある。
けれどそういうお店が、
お客様を集めるために広告媒体にお金を使ったり
値引きクーポンのチケットを配ったりする。
そんなコトをしないで、
その分、安くしてくれたらウレシイのになぁ‥‥、
って思ったりすることが結構ある。

考えてみれば、クーポンというのは、
食べることができない原価のひとつ。
だから節約するにこしたことがないモノなのに、
お客様を仕入れるコストを節約しているって、
自慢するようなお店はまずない。
けれど、お客様を集めるために
特別のコトをしなくていいお店は、
探せば確実にあるのです。
宣伝費だとか、クーポンだとかをつかわなくても、
料理がおいしく納得できる値段の店には
お客様は戻ってくる。
顧客リストのようなものをわざわざ作らなくても、
何度か来ていただいたお客様の顔が自然に覚えられ、
そのお客様の好みや趣味までわかった上で、
もてなしてくれるような店。
ボクは何軒も知っています。


そんなお店には、共通点がいくつかあります。
いつも同じ人が働いている。
人事異動で何年かするとスタッフが
まるっと入れ替わってしまうような
会社経営のお店ではなく、
アルバイトやパートを使いまわすような店でもない。
そしてほどよく小さいです。
お店のどこに座っても、厨房の様子を感じるコトができ、
お店の人にいつも見守られているような感じがする。
かと言って、小さすぎると見守られているのじゃなくて、
見張られているような窮屈を感じてしまう。
だから20席から30席ほどの大きさが
一番、居心地がいいでしょうか。
何を売っていようが。
いくらで売っていようが関係なくて、
笑顔がやさしくいつもお客様でにぎわっている。
しかもクーポンやメンバーカードなんかを使わない。
日々の営業がすなわち広告‥‥、と、
そんな心意気を持ったお店を見つけたとしたら、
長いお付き合いをするにふさわしいお店かもしれません。

20年以上ものお付き合いを
させていただいているお店があります。
はじめて行ったときから、
気持ちのいいお店だなぁ‥‥、って気に入って、
しかも料理がボクの好みにあっている。
行くたび、いろんな料理をすすめてくれて、
季節ごとにおいしい食材がかわるか
メニューがガラッと変わるのがとてもたのしく、
最初は料理を目当てに何度も通ってた。
ところがある日。
電話で予約をしようとしたら
「申し訳ない、その日は
 テーブルをご用意できないのですけれど」‥‥、と。
ただボクはどうしても
その日に一緒に食事をしたい人がいて、
どうにかならないかしらと聞くと、
言いにくそうにこう答えます。

満席というわけではなく、
テーブルをご用意することはできるのですけど、
サカキ様がいつもお使いのテーブルだけは、
そこでなくてはという方の
ご先約をちょうだいしておりまして‥‥、と。

そう言われて、なるほど確かにここしばらくは、
ずっと同じテーブルをもらっていたことに気がついた。
そのテーブルをくださいな‥‥、
とわざわざ言って予約した記憶はほとんどなくて、
なのにいつも同じテーブル。
「サカキ様がお越しいただくようになって
 5回目くらいのことだったかと存じます。
 このお店のこのテーブルが
 一番気持ちいいねとおっしゃって、
 それからそのテーブルは
 サカキ様のテーブルとこころがけておりました。
 ただ、同じようにあのテーブルが
 お好みのお客様がいらっしゃって、
 その方がたまたま先にご予約されたものですから」
と、そういうのです。
あぁ、このお店の人は、ボクのコトをいつもみて、
ボクが気持ちいいようにと
その空間や料理をボクに合わせて作ってくれていたんだと、
とてもウレシクなったものでした。


そしてそれから20年。
ずっと人は変わらずそのまま。
お客様がお客様を呼んだのでしょう‥‥、
予約がなかなか取れない人気のお店になった。
もっと大きな場所に移ればというお客様も数多く、
けれど彼らは絶対そのお店を動こうとしなかったのです。
一人ひとりのお客様に目の届く程よい大きさ。
そしてお客様の思い出を決して台無しにしないように、
昔のままにずっとこだわりでも一度だけ。
厨房の設備が古くなったからと、
お店を改装したときも
改装前のテーブル配置はほとんど変えず、
「サカキさんのテーブル」もほとんどそのまま残ってた。

飲食店はお客様の思い出とともにあって、
お客様と一緒に作り上げるもの。
そう思って日々努力をしているお店の人から、
このお客様にまた来ていただきたいと
思ってもらえるお客様になるのはシアワセ。
どうもボクにはそういうシアワセに恵まれやすい
特徴を持っているようで、
それで随分、得しているのかもしれません。

お店の人たちがよくこう言います。

「サカキ様はおいしそうな人ですものネ」‥‥、と。

来週は「おいしそうな人」って何かを
お話しようと思います。


2014-02-13-THU



© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN