同じ家賃を払うなら、
なるべく営業時間を長くしようという考え方。
つまり、営業時間1時間あたりの家賃を節約すれば
利益を出せるという経営手法がある一方で、
同じ家賃を払うなら、一度に沢山、
お客様に料理を提供することができれば
家賃の節約になるんじゃないかという人もいる。

「ひと席あたりの家賃」という考え方で、
飲食店に独特のモノだと言われるのです。

どんなに人気のあるお店でも、飲食店である以上、
満席になってしまうと
それ以上の売上を上げることがむつかしくなる。
余程の人気のお店だと、
行列をして席があくのを待ってくれたりするけれど、
それでも誰かが食事を終えて帰らなくては、
次のお客様は入れない。
しかも普通、人が食事をしようと思う時間は
どうしても限られる。
ランチタイムだったら正午を挟んで3時間ほど。
晩ご飯は7時くらいから9時ぐらいまで。
限られた時間の中で、売上をちょっとでも
多くつくろうと思うと当然、
同じ面積に一席でも多くの席を作りたい、
と思うようになって当然。

ちょっと話が変わりますが、
絶対的に家賃が高い場所といえば駅前にある繁華街。
目立つ場所にあり、人通りの一日中多い通りのビルの一階。
そこに大抵ある飲食店といえば、
ハンバーガー系のファストフードか、
セルフサービスのコーヒーの店。
高い家賃が払える理由がふたつあります。

ひとつは、そういう場所にあるお店は、
どこもテイクアウトに力を入れてる。
持って帰ってどこかで食べる。
だから客席に依存しない売上なんです。
たとえお店の客席が満席だったとしても、
料理の製造能力を上げさえすれば
いくらだって売ることができる。
ファストフードのお店でなくて、
お弁当だとか仕出しだとか、
あるいはお土産モノだったりを一生懸命売ろうとする店。
あぁ、この店は「客席以上の売上」を作ることで、
家賃をちょっとでも節約しようとしているんだと、
そう思えばいいのです。

それからもひとつ。
どんな時間にでも利用できる商品に
力を入れているというところ。
昼食、夕食という食事の時間以外にも、
おやつやお茶なら1日中、
どんなときにでも人はお金を使ってくれる。
お腹いっぱいになるための食事は
1日3回程度と決まっているけど、
お腹いっぱいになること以外の
たのしさを提供してくれる飲食店には、
1日何度でも利用できるというコトなんですね。
テイクアウトもできて、
1日中、どんなときでもフラッと入れる
スターバックスなんて、
高い家賃が払える今最強のコンセプト。
日本全国、人が集まる便利な場所にはスタバができるって、
こういう理由なんですネ。

 



客席分の売上高しか作れない。
しかも1日最高でも3回、普通は2回の食事の時間に
お客様に来ていただく他はない、一般的な飲食店は、
同じ面積でひと席でも多くの客席を
作る努力をしようとします。

メニューの種類を少なくすれば厨房の面積が小さくてすむ。
そうすれば、同じ大きさのお店でも
客席部分が増やせるよねぇ‥‥、とか。
通路の幅を狭くする。
テーブル同士の距離をちょっと狭くする。
ついでにテーブルの大きさを数センチだけ小さくすれば、
何席か余分に捻出できるに違いない‥‥、とか。
空席がでないように、
カウンターや相席用の大きなテーブルを作れば
もっと、お客様を座らせるコトができるよね‥‥、とか。

と、こんなふうに客席数を増やす工夫を重ねていくと、
結局、ファストフードのお店のようになっていく。
通路の幅を狭くすれば、
サービススタッフが優雅に
料理を運ぶコトをむつかしくする。
隣のテーブルが近くにあると、プライバシーがそこなわれ、
小さなテーブルではいくつものお皿を並べるコトが窮屈。
テーブルに肘をつくようなスペースも出来はしないから、
その分、姿勢正しくお行儀よく食事ができるネ‥‥、
って強がってみせてもやっぱり、
快適な食卓からはどんどん気持ちが遠ざかっていく。

客席を増やすこと。
それはすなわち、客単価を下げてしまうこと。
売上高を増やそうと思ってしたことで、
結局、売上が下がってしまうようなコトがときおりおきる。
そのバランスをいかにとるのか。
それが飲食店の経営者の腕のみせどころの
ひとつでもあるのです。

 



ただこう考えると、日本でずっと昔から
専門店と呼ばれてずっと生き残ってきた、
例えば寿司屋のような業態はとても特別。
カウンターに肩を寄せ合うように座って食べる。
メニューの種類は限定的で、サービスだって最小限。
こう特徴を書いていくと
まるでファストフードのような特徴を持っているのに、
フルサービスのフランス料理のお店よりも
値の張るお店がざらにある。
海外の外食関係の人にとっては、
日本の神秘のひとつなんでしょう‥‥、
お連れするたびビックリされる。
日本の料理文化とは、
なんとユニークで特別なものなだろう‥‥、って。

そして、ひと席あたりの家賃を
究極にまで安くする手段が立ち食い。
お店の中から椅子をなくしてしまえば、
ギッシリ人を収納できる。
テーブルやカウンターの周りに人が立てるだけ立って
食事ができるから、
何人がけのテーブルなんて感覚すらもなくなって、
「ひと席あたりの家賃」から
「お客様一人あたりの家賃」という、
究極の家賃の節約ができるようになるのです。
しかも、立って食べると長居ができない。
お客様の回転が早くなるから、
人気の店であればお客様の絶対量も増えて
ますます、一人あたりの家賃が下がる。

今、東京の街ではそういう理由で
立ち食い、立ち飲みのお店がどんどん増えている。
家賃を節約することだけが目的じゃなく、
立って食べたり飲んだりすることが、
おしゃれでカジュアルなコトと思う人が増えていることが、
そういうお店が増えることを後押ししている。
そして何より安く感じる。
なかにはいくつか圧倒的に安いお店がいくつかあって、
あんなに安く売って
それでも利益を出すことができるなんて、
スゴい努力をしてるんだろうと、
感心させられるお店もあって、
それでますます人が集まり、行列までができたりします。

その圧倒的な安さの理由のひとつがたしかに
「家賃を安くする工夫」を徹底的にしているから
ではあるのだけれど、ただそれだけじゃ、
あんな安さは実現できない。
さて、来週。
家賃以上に飲食店が、
下げる努力を必至でしているとある費用の話をしましょう。
重くて深い、お話です。


2013-11-21-THU



 

© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN