もてなされる側ともてなす側が同じ方向をみて、
同じモノをみる。
そして同じ感動を得るという、
鉄板焼きのレストランのような店。
実は日本にはたくさんあります。

カウンターで食事をするということは、
欧米においてはカジュアルで値の張らない
実質的な食事のスタイル。
最近、日本ではやっている
「バル」なんていうのはその代表的なお店のひとつ。
サービスがつかぬ分だけ、値段をサービスいたしましょう。
‥‥、とそんな感じのお店がほとんど。
あるいはカフェのような店で、
テーブル席はご用意できませんが、
カウンター席でよろしければと、
つまり「満席になってしまったときの緊急避難場所」
のような使われ方をすることもある。

ところが我が国、日本。
カウンターでこそ味わえる、この上もない贅沢な店、
料理がたくさん存在している。
世界的にも不思議の国なのであります。




典型的なのが寿司屋でしょう。
寿司屋のカウンターの客単価と、テーブル席の客単価。
どちらが高いかといえば、一目瞭然、カウンターに座って
「おまかせでいただきしょう」と宣言するとき。
そして勧められるがままに季節のおいしいネタをいただき、
酒を飲み、ときおり、
「ところでウニのおいしいのって入荷してるの?」
なんて一言つぶやけば、
あっという間に最高額紙幣が何枚か、
財布の中からなくなっていく。
テーブル席に座ると基本は「お決まり」と呼ばれる定食。
そちらの方がサービスが付く。
カウンターの中にある厨房の気配を感じつつも
そこにはプライバシーがあり、
中居さんが恭しくも出来上がったばかりの寿司を運んで
どうぞ、とサービスをする。
けれどその場所が、本当の寿司をたのしめる場所かというと
決してそんなコトはないのです。

調理人みずからがお客様にサービスする場所。
そこを高級と感じ、接待の場として使える国民って
日本人くらいなのかもしれないなぁと思ったりする。
例えば天ぷら。
外国からのお客様をおもてなしするのに、
目の前で天ぷらをあげてくれる
上等な天ぷらの店が昔から重宝されていたのです。
見目麗しい新鮮な食材が目の前にある。
それを見事な手際で下ごしらえし、
油に落としてカラッと揚げる。
その芸術的な仕事に思わず言葉を忘れる。

エビは塩でいかがでしょうか?
カレーをちょっとつけると風味が豊かになります。
大根おろしはたっぷりと。
天つゆをたっぷりつけると、ちょっとつけるでは
味や風味がまた違いますからと、
お店の人の説明を聞きながら、
いろんな食べ方を試して味わう。
そのおいしさに、再び思わず言葉を忘れる。
互いの言葉を完全に理解し合うことができない
異国の人たち同士が、
同じように言葉を忘れ同じモノをみて感動する。
銀座の有名な天ぷらの老舗では、
5、6人で一杯になる
コの字の天ぷらカウンターのある個室が
いくつも用意されてて、接待の場として重宝されてる。
カウンターで言葉を忘れて、
調理人の手際とおいしい料理をたのしみ
互いにステキな時間を共有。
そして気持ちが温まったら
銀座という街には、
ビジネスの話をするのに適した大人の遊び場所が
たくさん用意されている。
ホテルのバーやしっとりとしたオーセンティックバー。
あるいはクラブと食後の時間をすごす場所を
自由自在に組み合わせつつ、
接待という物語を完成させていくことが
「上等なカウンター業種」の店ではたのしめる。




ちょっと話がそれますが、言葉を忘れるという点では、
かに料理を食べるときのあの静寂。
殻ごとのカニがテーブルの上に置かれた途端に、
みんな話すことを忘れてかにと格闘をする。
ぽきぽき脚をおる音や、バリバリ殻を砕く音。
肉をほおばり、殻にむしゃぶりつく音がするだけ。
かにとは食卓の会話を食べて
おいしくなっていく食べ物じゃないかと思うほどに、
誰も話をしなくなる。

感動的で言葉にならないほどのモノではないけれど、
言葉を奪ってしまう食べ物。
それがあると、会話がないことがさみしくはない。
あるいは会話なんてしている暇がないような食べ物って
いくつかあります。
スペアリブとか、鶏の手羽揚げ。
大抵それらは10本の指でむさぼる料理で、
けれど接待に向いているモノはといえば
カニをおいて他になく、
だから、カニ料理でもご一緒しませんか? と言われたら、
あぁ、話題のきっかけがつかめぬ相手と思われたのかと
ちょっと心配したりします。

ところで作り手がお客様に直接サービスをする、
しかも上等な飲食店の代表でもある寿司屋で
接待というのはありなのでしょうか、どうなんでしょう。
究極の接待とは、とっておきのレストランや
とっておきのおいしい料理を分けあい、
互いを分かり合うコトなんだと勉強させてもらった人。
ボクのとっておきのイタリアンレストランで
打ち明けるコトができた、あの人との後日譚を
来週、ご用意いたしましょう。


2013-08-08-THU



© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN