「どんなにすばらしいレストランにも、
 嫌なお客様はいらっしゃると思うのですが、
 どんなお客様が嫌われますか?」

勉強会で出たそんな質問に対し、
志摩観光ホテルの「ラ・メール」の料理長は
こういいました。

『10人のお客様がいらっしゃれば、
 10の個性がそこにはある。
 その個性を『ステキ』と思う気持ちをなくしては、
 よい調理人にはなれません。
 ただ、『あぁ、野暮だなぁ‥‥』、
 と勿体無く思うお客様はいらっしゃる」

どんな人を彼は「野暮」といったのでしょう?
彼の答えを、ご紹介いたしましょう。




いろいろなありがたいお褒めの言葉をちょうだいします。
けれど、どう受け止めればいいのか
戸惑ってしまうお褒めをいただくことがあって、
そういうときにココロからの笑顔で
受け答えができなくなってしまうことがあるのです。

例えば‥‥。

「毎日でも食べたくなるほど、おいしゅうございました」
というお褒め。

私たちは毎日食べておいしいように、
料理を作っているわけではないのです。
一生に一度の思い出になるゴチソウ。
大切な人と一緒に同じ料理を食べたという思い出を
分けあってもらうためのおもてなし。
こんなに遠くにあるレストランです。
ワザワザお越しいただいた方を失望させず
喜んでいただくために作れる料理は限られている。
だから、メインのメニューは変わらないのです。
いつお越しになっても同じお料理。
でもそれこそがとても大変なコトで、
季節が変われば食材が変わる。
その日の温度や湿度で、召し上がる方の感じる味や匂い、
風味がみな変わる。
にもかかわらず、同じようにおいしいと
感じていただくために私たちは心血注いで料理をつくる。

安心に満ちた驚き
が私たちの料理の一番の魅力なのかもしれません。

噂通りだったという安心。
けれど、その噂以上であったという驚き。
前回通りだったという安心。
けれど、二度目、三度目であるにもかかわらず
感動が薄れず、初めてここにやってきたときの感動が
お皿の上に降りてきたかのような驚き。

毎日食べてもなおおどろきに満ちた料理を、
私は作るコトができないのです。
「毎日でも食べたくなるほどおいしい」とおっしゃる方は、
何気なくその言葉を選ばれるのでしょうけれど、
そう言われた作り手の私たちは、
真意を探ってたじろぐのです。

ご接待を受けてはじめてお越しになったお客様が、
「今度は妻と一緒に来ようと思います」と。
そう言いながら、ほぼ半年後の週末が結婚記念日だから
その日を、予約させていただけませんか?
手帳を出して、その日にしるしをつけられる。
私達もその日にお客様の名前を書き込み、
再びお目にかかる日のことを心待ちにする。

すばらしいお料理がいただけて、シアワセでした。
帰りの電車の中でずっと、あのお料理の話をしてたら、
あっという間に家についていた。
夢から醒めるのが勿体無いほど、ステキな体験。
どうもありがとうございました。
‥‥、と、はがきを頂いたりするコトもある。
そういうお褒めの言葉がどれほど励みになるか。

そうかと思うと、こんなコトをおっしゃるお客様も
少なからずいらっしゃる。

自分の街でもこの料理を食べれればいいのに。
店を作ってやるから、支店を出せよと‥‥、
とおっしゃる方。

遠くにあって、ワザワザやってきて味わうという
このロケーションが、私が作る料理の最大のスパイス。
だから他の場所で営業することは考えられないんです。
しかも、この地域でとれる食材があってのこの料理。
宝物のようなこの食材は世界中、
どこを探しても手に入れるコトができないのですよ‥‥、
というと、それならそれを飛行機で運んでくれば
いいんだろうと無粋なコトをおっしゃったりする。
ココで生まれて、ココで育って、
しかもココで生活をしている私だから
その素材のコトをココロから理解してやるコトが
できるんです。
料理というのはその土地に根ざした文化のひとつ。
飛行機で飛んできた素材を使って
「おいしい料理」を作ることはできるけれど、
そんなおいしい料理は日本のいろんなところにある。
魂がこもった人を感動させるコトができる料理を
私が作れるのは、この場所あってのコトなんだと、
お断りするのが心苦しくてしょうがない。

このお店のコトを愛して頂いているということが
伝わってくるだけに、そんな野暮だけは
おっしゃらないでくださいな‥‥、
とココロの中で泣くんです。




相手のコトを思わず、
ただただ自分の思いを伝えるだけの恋愛表現。
それじゃぁ、野暮って言われる。
相手のコトを考えた愛情表現をしなくちゃいけないって、
まるで「愛の奥義」を学んだような気がします‥‥、
とその日の質疑応答のしめくくりにして
大いに講演会は盛り上がったものでした。

それにしても日本で、いやいや、
世界で唯一無二の存在になることができたこのレストラン。
世界中を商圏とした、地域一番店として
「人生をたのしむ人垂涎の場所」となったのですネ。

自分の店はどんな地域を対象とするのか。
歩いていけるご近所という小さな地域で
一番になろうとするお店もあれば、
地球全部を相手に一番になろうと思う。
お店によって「地域」の意味が異なっている。
地域の意味が異なれば、お客様のもてなし方も当然変わり、
使い手である私たちのそれぞれの店の愛情表現も
変わって当然。
さて、来週は本題に戻って
「レストランにおいての地域の意味」を再び考えましょう。



2013-01-31-THU



© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN