おいしい店とのつきあい方。
サカキシンイチロウの秘密のノート。
(四冊目のノート)

レストランから、おなじみの称号をめでたく頂戴。
さて、友達のような特別なお客様としてみとめられるために、
どうすればよいのでしょうか?
という、今日のおはなし。

結果をいいます。

調子にのると、ろくなコトはない。
適度な距離感。
お客様としての節度ある関係を前提として、
でもレストランの人たちの何か役に立てることは
ないかしら‥‥、と思うことこそが、
お友達レストランを手にするための心がけ。

調子にのるとどうなるのか?
‥‥、ってコトをボクの失敗話を交えて、まず考えましょう。

まず、ボクが絶対にやりたくないコト。

ただただそのお店に何度も何度も、
足しげく通うということ。
売り上げに貢献してくれる
素敵なお客様にはなれるでしょう。
けれど、それもあまり度が過ぎると、
毎回、何か変わった対応をしなくちゃいけないって、
お店の人にプレッシャーをかけてしまうことになりもします。
下手をすると、ストーカーです。
一方的にして過ぎたる愛情は、ときにして迷惑となる。

戒めたいです。

お店の暇な時間を狙っていって、
お店の人を独占し、あれこれ話をしてみたりする。
これも迷惑。
サービスとサービスの合間にかわす、
気のきいた会話とは違ってこれ。
夜中に長々、話を一方的にしてくる
迷惑電話みたいなモノでしょう。

これも駄目。

で、ボクが選んだのは、お土産作戦‥‥、
でありました。

友達が、友達の家を訪れるとき、
ときたまお土産を持っていく。
いつもどうもありがとう。
これから変わらず、よろしくね。
という、素直な気持ちを伝えるための、
親しき仲にも礼儀あり。
‥‥、であります。
だからお土産。
こんなお土産。

とあるイタリアンレストラン。
背筋の伸びた凛々しいマダムがサービスをし、
厨房の中では寡黙なご主人が、
ひたすら鍋をふっておいしい料理を作ってくれる。
小さいけれど、情熱タップリのすてきなお店。
ボクが好意をもっている、
というコトを伝えたくてうずうずしていた、そんなとき。
北海道の知り合いから、
ホワイトアスパラガスの届き物がありました。

初夏の美味。

ああ、そうだ。
これをもっていってあげたら喜ぶかなぁ‥‥。

そう思って、ボクは届いたばかりの
アスパラガスの荷をといて、一本一本、
きれいに洗って袋に詰めて、それでお店に出かけていった。
ワクワクしながら。
マダムの喜ぶ顔を想像しながら、
ドキドキしながらお店に入った。
ボクたちの前に、すでに一組のお客様が入ってて、
もう食事をはじめていはしたけれど、
まだまだ忙しくなる前の時間。
マダムがニコリと近づいて、いらっしゃいませ。
そこですかさず、ボクは彼女にお土産の入ったバッグを
そっと渡した。

頂き物なんです。
おすそ分けにと思って、もって来たんです。

大人であります。
さりげなく、押し付けがましくもなく、よし、いいぞ。
自分としては、これでつかみはオッケーよ‥‥、
って感じで心の中でほくそえむ。

あら、ありがとう。
何かしら?
と、マダムはペーパーバッグを開いて、覗き込む。
中身を一瞥。

あらっ‥‥、と小さな声を出し、
ありがとうといいながら、袋を閉じる。
次の瞬間。
厨房の中からシェフのご主人の声がします。

温かい前菜できあがったヨ。
ごめんなさいネ、ってマダムが言って
料理を持ってホールに出てきた。
もう一組のお客様のテーブルに料理をおいて、こういいます。

「ホワイトアスパラガスのグリルでございます」

ああ、なんてこと。
恥ずかしいにもほどがある。
季節の野菜。
それも、イタリア料理やフランス料理のお店であれば、
この季節にホワイトアスパラガスを
仕入れないはずがない‥‥、に違いない。
いくら産地から送ってもらった、とはいえ、
レストランが仕入れる野菜と比べるのはかわいそう。

意気消沈気味にテーブルでぼんやりとするボクに、
マダムがこういう。

ごめんなさいね。
今日は飛び切りすばらしい
ホワイトアスパラガスが入ってたの。
いただいたのは、あとでお店のみんなで
食べさせていただくわ。
本当にどうも、ありがとう。

その日は長い食事になった。
当然、ホワイトアスパラガスの
すばらしくおいしいグリルをいただき、
いつも以上に陽気とご機嫌をふりしぼり、
楽しい食事を心がけることとなったのでありました。

 
2007-09-20-THU