おいしい店とのつきあい方。
サカキシンイチロウの秘密のノート。
(四冊目のノート)
カウンター数席のとても小さな寿司屋さんに
行くことのシアワセ。
それは、かならずそのお店で一番上手に
寿司を作ってくれる人の寿司にありつける、
という安心感につきるでしょう。
そこのお店を予約する、というコトは、
その人が握るお寿司を予約する、
というコトでもあるわけですから、間違いがありません。

これがちょっと大きな店になると、
カウンターの中に何人かの握り手が
あなたを待っている、ことになる。
自信たっぷりの職人さんが中にはいます。
元気はあるけれど、とても若くてこの人は
まだこのお店にはいったばかりの人なのかなぁ‥‥、
という職人さんもいたりします。
できればあの人に握ってもらいたいなぁ‥‥。
ああ、あの人のお寿司って
とてもおいしそうにみえるなぁ‥‥。
なんて、おもいはじめると
どんどん食事がたのしくなくなる。
そんな不安に悩まされたくなかったら、
握り手を指名して電話する‥‥、という仕方もある。
‥‥、のでしょうけれど、
一番良いのは、そう思わなくて済むお店をさがしてくる。
そう思わなくてすむお店の常連になることが出来るのが
一番でしょう。


寿司の世界に限らず、
料理の世界の上下関係はとても厳しい。
先輩後輩の関係は、そのまま師弟の関係でもあるわけで、
その厳しさが嫌な人たちは
どんなに才能があっても
よい料理人になるのは難しい。
なぜなら、料理を作る、
作った料理でお客様に喜んでいただく、
‥‥、というコトはチームワークを必要とすることで、
チームワークとは上下左右の役割を正しく理解し
全うするということでもあるからです。

ただこの上下関係。
仕事をする上では必要ですが、
お客様にとっては関心のないこと。
関係のないことでもあります。
お客様にとってこのお店の中で誰が一番、
目上で偉い人なのかなぁ‥‥、
なんてことは本来必要のない情報です。
どの人も同じこの店の人。
ボクの目の前にいるこの人が、
ボクにとってはこのお店の代表であるわけで、
だからお客様の前にまで
厨房の中の上下関係を持ち出すお店は、
良いお店ではない。
と、そう思うのです。

お店のひとたちが一体となって
お客様をおもてなししようとしている寿司屋さん。

発見するヒントはひとつ。
カウンターの中で働いている人たちが、
それぞれを「さん」づけで呼ぶお店。
若い人たちを大声で呼び捨てする
えらそうな人のいないお店です。
簡単でしょう?
あるいは、なにかをたのむときに
「おねがいします」というお店。
あるいは、なにかを同僚からしてもらったときに
「ありがとう」というお店。
つまり、あいさつし合える人間関係が
お店の中を支配している寿司屋さん。
これに尽きます。
ますます簡単。

なのだけれど、こうしたお店を見つけることが、
とても難しかったりするのが
少々、哀しかったりもしますけれど。
でも、探せばある。
にこやかで寛容なお客様に
そのお店の良さを発見されることを、
静かにまっているお店がどこかにあるはずなのですね。


ところで‥‥。

寿司屋に代表される日本に昔からある
専門料理のレストラン。
海外の人たちにはなかなか理解できない、
ちょっと変わった特徴があります。
それは‥‥。

メニューに関する特徴。
たとえば「時価」というあの恐ろしい文字。
メニューがあってないような店があったり、
あるいはメニューそのものが
用意すらされていないようなレストランがあったりもする。
どうしてなんでしょう?
そうして、どういうふうにこうしたお店と
付き合えばいいんでしょう?
来週から。
ちょっと、そのことを考えてみたい、と思います。
 
2007-03-29-THU