おいしい店とのつきあい方。
サカキシンイチロウの秘密のノート。
(四冊目のノート)
ボクたちをしあわせにするために
一生懸命働いてくれる、レストランの人たちを
勇気付けたり元気付けたり。
あるいはちょっとしたアドバイスを
してあげたりもしながら、
育てるお手伝いをすることができたなら、
すてきなレストランがそれだけたくさん、
ボクたちの周りに出来る‥‥、というコトになる。
外食をたのしむことは、助け合いである。
‥‥というコトの究極の姿のひとつであろう、と思います。

どのようにすれば、そうしたたのしい企みの一部に
ボクらがなることができるのか?

簡単です。
レストランを嫌いにならない努力をすること。
レストランで働いている人を、嫌いにならないような、
レストランの使い方を心がけるコト。
‥‥、だと思います。

子供が嫌いな人に、子供を育てることが出来ない。
動物が嫌いな人に、ペットを飼う資格がないように、
レストランが嫌いだったり、
レストランで働く人が嫌いな人に、
レストランで働く人がよりステキになるお手伝いなんて
出来はしない。

簡単でしょう?


ところが、レストランを嫌いになるのはもっと簡単。
行ってはいけないタイミングでレストランに行く。
要求してはいけないことを、要求をする。
期待してはいけない人に、過大な期待をかけてしまう。
すべて、そのレストランやそこで働いている人に
ワザワザ失望するために、
レストランに行ってしまうようなコト‥‥、なのです。

特に、新しくできたばかりのレストランでは、
こうした期待はずれがとても起こりやすくなるのですね。
お客様は今までにないレストランが出来るのだろう‥‥、
と期待する。
普通以上の期待です。
でも、お店の人たちはまだ営業にはなれなく、
結果、お客様の過大な期待にこたえることができなくなる。
新しいお店を開くという、とても重要で、
レストランの人が命をかけたセレモニーが、
一転、そのお店に失望するお客様を作り出す哀しい出来事、になってしまう。
ならば、開店早々のお店に行くことをやめればいいのか?
‥‥というと、それじゃあ後ろ向きすぎますよね。
本当に、お客様がやってきてくださるのかどうか
不安で仕方ない人たちを、勇気付けるためにも、
ちょっとした準備と心構えでお店を訪ねる。

レストランで働いている人を嫌いにならない方法の、
第一弾。
まずは、新しく出来たばかりのお店との付き合い方‥‥、
です。

まず、お店が開店するタイミングが発する
メッセージを読み取ることが第一ステップ。

12月に開店する店を、
ボクはよほどのことがない限り、
信じないことにしています。
年末という飲食店の書き入れ時を
ワザワザ選んで開業する。
こうしたお店は、お客様の満足よりも、
売り上げを大切に考える人のすることだからです。
たとえば経営基盤のシッカリしている大企業の支店‥‥、
であったりするようなお店は特別です。
でも、オーナーシェフ。
独立したばかりの若い人たちが、12月の半ばにあける店。
ボクはしばらく待ってからゆくことにしています。
たいてい、彼らは疲労困憊。
肉体が‥‥、ではなく、年末、
お客様から叱られ続けて、精神的に疲労困憊の状態で、
そうした気持ちを慰めに行くのがボクの仕事、
というような、そんな気持ちで落ち着いた頃に覗いてみる。
年末の忙しい時期を避ければ、
お店の人を嫌いになることもない。
落ち着いた頃に顔を出し、
笑顔をタップリお店の人にプレゼントして差し上げれば、
ステキなお店の再生のささやかだけれど、
確実なお手伝いが出来た。
‥‥、というコトになるのでしょう。

同じように、7月や8月、
あるいはゴールデンウィークの只中に
郊外立地や住宅地の中でお店をあけようとするレストラン。
これらのお店も同じように、まずは遠巻き。
しばらくしてから、笑顔を両手にユックリとゆく。
のが順当、というコトになるでしょう。


一方、2月。
コノ時期にオープンするレストランは
お客様に迷惑をかけないように、
徐々に忙しくしていければいいな、
という地道な考え方を持っている店であることが
ほとんどです。

出来たばかりのお店に行く‥‥、というシアワセ。
誰よりも先に新しいお店の魅力を味わいたい、
という気持ち。
それを味わいたければ、
2月から3月にかけてオープンする
レストランを選ぶといい。
ボクはその前後で販売される雑誌の
レストランの開店情報が、たのしみで仕方ない。
信頼のおける情報になる確率がとても高いから‥‥、
でありますね。

ただ、この時期の新規オープンのレストランに
初めて行って、
お客様が入っていなくてもビックリしないこと。
お客様を呼ぶ準備をしていないだけで、
お客様を満足させる準備は滞りなくしている店が多いから。
広いホールがガランとしてて、
ちょっと寂しいなぁ‥‥、と思ってもその分、
ボクらで余分に盛り上げる工夫をすればいいだけです。
お店の人に、あかるくて寛容なお客様である、
というコトを覚えてもらうチャンスでもあります。
店長さんや調理長さんの名刺をもらう、
とてもよい機会でもあるのですから、
ガッカリしないで笑顔でにこやかに、
あいたばかりのお店に華をそえればいいのです。

飲食店には厳しい季節が1年間に2つある、
といわれます。
一つは2月。
年末年始の遊び疲れで
お客様の気持ちがちょっと内向的になっちゃう時期。
もう一つが6月。
ゴールデンウィークが終わった疲れと、
ツユどきで家をでるのさえおっくうに感じる時期。
どちらもお客様が少ない時期で、
だから誠意あるレストランの開業時期にはピッタリです。

しかも同じ暇な時期でも6月。

この月にお店をあける。
それはどこよりも
「人を丁寧に育てたレストランなんだ」
というコトになる。
‥‥、のです。
 
2007-01-18-THU