おいしい店とのつきあい方。
サカキシンイチロウの秘密のノート。
(四冊目のノート)
役割分担を決めてからお店に実際に行くまでの2週間ほど。
その間、みんなはあれこれ考えました。
どうすれば自分の役割を
果たすことができるんだろうか‥‥、って一生懸命。
ひとりで悩んでもなかなか結論が出ず、
それでみんなで頭を寄せ集めて、
あれこれ楽しく相談をしながら考えました。

で、出たのがこんなアイディアでした。

まずワインを選んでテイスティングする係がすべきこと。
別にワインの専門家でもない彼のこと、
いまさらワインのコトを勉強しようとしたって、
ソムリエと互角に張り合えるなんてコトは絶対ありえない。
ならば逆にレストランにいる
ワインのプロフェッショナルの知識を
借りる方法を考えればよい。
‥‥、というコトで、ざっとこんな手順になりました。


テーブルに案内されて、
お食事の前に何かおのみになりますか? と聞かれたら、
グラスでシャンパンをお願いしましょう‥‥、と言う。
グラスシャンパンならばほとんどの店が一種類。
だから銘柄を気にせず
安心して注文することが出来るのですネ。
気の利いたお店で、
何種類かのグラスシャンパンの準備があるときには、
さりげなく「辛口のをいただきましょうか」と受け流す。
望みのモノを間違いなく口にするコトが可能です。
それでは料理の注文が終わって、
ワインをたのむという段階ではどうするのか?
初めてのお店では、
まず赤を一本だけ飲むつもりで出かけます。
ワインは、
すばらしい食事ですばらしい時間をプレゼントしてくれた
レストランと、一緒に分け合うご褒美です。
パッとしないお料理。
パッとしないサービス。
多分、二度とこないだろうなぁ、
と思うレストランでワインのお替りをするコトほど、
もったいないことはない‥‥、とボクは思ってます。
だから赤をまず一本。
最初に白をたのんでしまうと、
赤を勧められたときに断る理由を考えるのが
面倒くさくなってしまいます。
だから赤。
で、こうたのみます。

まず赤をいただきましょう。
もしかしたら今日は2本いただけるかもしれませんし、
1本で終わっちゃうかもしれません。
出来れば1本目として適当な、
程よいワインをいただけませんか?

2本のめるかも知れないときの1本目。
めちゃくちゃいいワインでなくてもいいんです。
それより楽しく気軽に飲めるワインを
勧めてはいただけませんか? という、
わかりやすいメッセージです。
逆に、行きなれたレストランで、
本当に良いワインを楽しみたければ
こう言えばいいでしょう。
今日はたった1本を大切に味わいたいので、
おいしいワインをお勧めください。
伝わります。
そしてとびきりコストパフォーマンスの高いワインが
1本、目の前にやってくる。
確実です。

ボクらがレストランでワインをたのむとき、
それは「銘柄」や「ビンテージ」を
たのんでいるワケではない、というコトです。
ワインのプロにボクらがワインをたのむときに
必要な情報は
「何のために、どのくらいの心積もりの
 ワインを飲みたいのか」ということがまずいちばん。
その次に、ワインの好みをイメージとして伝えればよい。

「軽やかで香りがさわやかなモノをお願いできませんか?」
「どっしりとして、飲めば飲むほど
 味わいが深くなるようなモノがいいのですが?」
そんな具合に。
これまたしっかり伝わります。

なるほど、ワインのコトを勉強する必要はないんですネ。
自分の好みを伝えるボキャブラリーと
表現力が大切なんだ‥‥、
それなら出来ます、と彼はホッと一安心。


「ワタシはどうすればいいんでしょう?」
と、いちばんいい席に座らなくちゃいけない係の女性が言う。

それでボクの経験を彼女にそっと教えました。
エレガントでかわいい女性は
いちばん良い席に座ることが出来る人。
立派で堂々としてみえる男性の前には請求書がやってくる。

それならワタシは普通にしてても
いちばんいい席に案内される、というコトよね‥‥、
と彼女は言う。
逆にお金を払う担当者は、
どうすれば堂々として見えるんだろう、とガックリきます。

立派で堂々。
当人ひとりが一生懸命、
立派で堂々と見せようとすればするほど、滑稽になる。
立派なことと、偉そうなことって違いますから。
堂々としていることと、
態度がでかいことはまったく別のコトですから。
立派で堂々と見える人というのは、
一緒にいる周りの人がそう見せてあげている人‥‥、
なんですね。
気をつかってあげている。
その人がいうことに耳を傾けてあげている。
するとその人は立派で堂々としてみえる。

つまり、なにかあって悩んだときに、
目をみて判断を仰ぐべき人こそが、
お金を払うに値する人なんじゃない。
だからチームワークでがんばろうネ。
あとはあたって砕けろ。
失敗をしてもみんなでそれをまた楽しめばいいんだよネ。
なんてことで、盛り上がったのでありました。
 
2006-08-17-THU