おいしい店とのつきあい方。
サカキシンイチロウの秘密のノート。




さあて、お料理が出来上がるまでの間、
おしゃべりで盛り上がるのもいいですけれど、
ちょっと回りの景色を見てみましょう。
どんなお客様が来てるでしょうか?
いろいろな人がお客様としてやってくる
ファミリーレストランの醍醐味の一つは、人間観察。
そういうと、ちょっと変な人のように
思われるかもしれませんけど、でも楽しい。
楽しい以上に、このお店はどういう店なんだろう、
というコトがわかる。
それから、この店でこれから
どういうことが起こるだろう、
というコトもわかってとても勉強になるんです。

気長に待つ覚悟が必要なのは
こんなときです!

例えば小さなお子様連れのファミリーがたくさんいる。
今日はお料理の提供がちょっと遅れるかもしれません。
実は、お子様メニューっていうのは
レストランの厨房の中でも一番、
面倒な料理であることがほとんどなんです。
例えばお子様ランチ。
ケチャップライスを作って、鶏のから揚げを乗っけて
それと一緒にフレンチフライにアイスクリームに‥‥、
といろんな調理場で一度にいろんなものを作らないと
完成しない。
人手もかかるし時間がかかる。
それにお子様用の商品は
大人用の料理よりも先に出してあげましょう、
という決まりもあるので、
子供が客席に多い、ということは
ボクらの料理は後回しになる可能性が高い、ということ。
だからファミリーでにぎやかなファミレスは
料理提供が不規則になる。
そう思って間違いありません。

サラリーマンでお店が一杯。
ランチタイムなんかによく見る光景ですけれど、
こんなときにランチメニューを頼むと
驚くほど早く出てくる。
だけどランチメニューにない商品を頼むと
気が遠くなるほど待たされる。
気がついたら昼休み中、
おじさんたちがビジネスランチを食べている景色を
ひたすら眺めて料理を待つ、
というようなことになったりする。

若い人たちがお茶やケーキで盛り上がっているのが
目立つようであれば、頼んだ料理は思いがけずも
すんなり提供されるでしょうし、
お店の奥に10人ぐらいのグループがいる、
そんなときには気長に待つ覚悟をしましょう。

私たちの料理、いくらなんでも、
待たされすぎじゃないかしら?!

料理の提供時間というのは、
そのときのお客様の状態で大きく変わるものなんですね。
だからテーブルについて注文をしたら周りの観察。
そうするとたまにあることに気がついて
イライラしたりするこもある。
なぜだか知らないけれど、
自分が注文した料理だけが
遅れているような気がしてならない。
後からやってきた人の料理はどんどんやってくるのに、
私たちのテーブルだけは料理が素通りしてしまう。
どうしてそんなことが起こるんでしょう?
ワタシ達だけが意地悪されているような、
そんな気持ちになって不機嫌になる。
相当待って料理がやってきて、
それでめでたしめでたしになればいいのだけれど、
待たされてしまった、ということで気持ちが萎えて、
料理を楽しむ余裕がなくなる。
どうしてそんなことが起こるのでしょう?

そもそも、ファミリーレストランでは
料理が出来上がって提供されるまで、
どのくらいの時間を我慢すればいいんでしょうか?
ファミリーレストランで商品開発するとき、
どんな料理でも注文が入ってから
15分以内に提供できないと商品化することは出来ない、
というのが不文律になってます。
その料理がどれほどおいしくても、
提供時間がかかりすぎる商品は導入しない。
どうしてもそれを商品にするときにはキチンと
「調理時間が○○分くらいかかりますから」
と、メニューに告知するような配慮をします。
たいていの人が、待たされたような気がしない
ギリギリの限界時間が15分くらいだから、
というのが時間設定の理由です。
だから15分以上商品が出てこなかったら、
待たされた、というコトになる。
そういうことです。

それ以上でなければ
他のテーブルと多少の商品提供の前後があっても、
それは良し、と思うのがスマートでしょう。

15分以上待ってもなかなか料理が出てこないときは、
こんな理由が考えられます。

同じ調理器具を使う注文が、
たまたま集中してしまったとき。
例えばオーブンで仕上げる
グラタンやドリアのような料理の注文ばかりが
大量に入ってしまってた。
一度に4個のオーブン料理しか作れないのに、
もう20個分の注文がある。
そんなことは知らずに
「マカロニグラタンを下さい」と言ってしまうと、
あなたのマカロニグラタンが
オーブンの中に飛び込むまでに
優に30分は待たなきゃいけない。
あなたの料理だけが遅れてしまうのは
誰のせいでもありません。
ただただそんな料理をたまたま注文してしまった
不運を恨むしかない。
悲しいけれど。
フライパンを使わないとおいしくできないピラフ。
麺を茹でるボイラーとフライパンの料理を使わないと
作ることが出来ないパスタ。
厨房泣かせの料理がいくつかあって、
それらの料理にオーダーが集中したとき、
厨房の中はてんやわんやの大騒ぎになったりする。
我慢です。

ファミリーレストランには
「同時同卓」のルールがあるんです。

それはそうかもしれないけれど、
その商品だけを頼んだわけじゃないんです。
他にも別の料理を注文したのに、
なぜだか全部の料理が出てこない。
それってどうしてなんだろう?

ファミリーレストランの商品提供には
「同時同卓」というルールがあります。
同じテーブルの注文はなるべく同時に提供すること、
というのがそのルールの意味するところで、
シアワセな食卓は
みんなが一緒に食事を始められないといけない、
というこだわりがあるからなんですね。
だから同じテーブルを囲む人の注文が一つでも遅れると
みんなの料理が届くのが遅れてしまうということになる。
ファミレスのテーブルを囲む仲間は
まるで運命共同体のような関係なのですネ。
他のテーブルに続々と料理が運ばれるのを尻目に、
「ボクのグラタンが原因なのかなぁ、
 それともお前のピラフ?」
とか言いながら待つことを楽しめればいいのですが、
やっぱりお腹がすいているときには早く食べたい。
注文するときにこんな一言を付け加えると
ちょっといいかもしれません。

「全部一緒でなくていいですから。
 出来上がったのからもってきていただけますか?」

厨房のストレスがちょっとは減ります。
「同時同卓でなくてよい」
と、オーダー伝票に書かれたコメントを見た
シアワセな作り手は、
調理手順の面倒をあれこれ考える必要もなく、
ただただおいしく料理を作ることだけに集中すればよい。
もしかしたらそのことが理由に勢いがつき、
難しい注文を楽々こなすことが
できるようになるかもしれない。
バラバラに出てくる料理たち。
仲良くみんなで分けながら食べるのも良し。
あるいは一番最後まで出てこなかった奴に、
みんなでデザート一品頼んでやろうヨ、
とみんなで盛り上がるのも良し。
テーブルの上に何もない15分を
ただぼんやり過ごすのよりも、
たったサラダ一品でも食卓の真ん中に
ポツンと置かれた30分。
そっちの方がずっと楽しい経験だ、と思うのです。


illustration = ポー・ワング

2005-06-30-THU


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