おいしい店とのつきあい方。
サカキシンイチロウの秘密のノート。




さて、メニューを開く時が来ました。
「今日は何を食べようかなぁ‥‥」
ワクワクしながらメニューを開く。
メニューの中にはこれからの一時間前後を楽しむための
大切な手がかりが潜んでいます。
それは何?
レッスン・ツーです。

わかり易いメニューを使っている店は
スタッフにあまり説明をのぞまないように。

メニューを開いたときに、目に飛び込んでくる第一印象。
これはサービススタッフの自分の店の商品に対する
理解の深さと、サービスのレベルの高さを量るための
良いヒントになります。
こういう具合にです。

メニューには二つのタイプがあります。
一つはとても単純で、
見た目にわかり易くできているメニュー。
ほとんどの商品の写真が載っていて、
商品名もわかり易く一つ一つの商品に
キチンと説明が付け加えられている。
サービススタッフに説明されなくても、
自分が食べたいものを自分で簡単に
選ぶことができるメニュー。
親切です。
かと思うとその逆で、一目見たくらいでは
なかなかメニューの全体像がつかめない
難しいメニューがあったりします。
商品の写真もあまり載ってない。
商品名もちょっと特別でわかりづらい。
商品の説明にしても、
ちょっと読んだくらいではわからないほど
抽象的であったり、あるいは専門用語に満ちていたりと、
決して親切とは思えない作り方。

わかり易いメニューを使っている店。
この店のサービススタッフは
必要以上のサービスをするようには教育されていない、
と思って間違いないですネ。
商品説明をする必要のないメニューを使っている、
ということは、
商品のコトをしっかり教わらなくても働ける、
ということ。
お客様に何を食べて欲しいか?
ということを考えなくても仕事ができる、
ということに他なりません。
だからそうしたメニューを使っている店で、
お店の人に過大な期待をすると必ず失望させられる。
「何がお勧めなんですか?」
そんな質問をしても、
シッカリした答えが返ってくると思っちゃいけない。
「この料理って、どんな味なんですか?」
そう質問しても、多分、
彼らは試食をしているワケでもなく、
教わっているわけでなく、質問した側、された側、
どちらもが不愉快になってしまうに違いない。
料理の注文をとった後でも、
「気のきいたサービス」なんて期待しても仕方ない、
定型サービス。
マニュアルだけのサービスとは、
こうした店のサービスを表すために
あるような言葉でしょう。
「お客様に親切」である、ということが
いいことばかりではない、ということ。
ちょっと皮肉ですけれど。

一見、わかりにくいメニューには
「不親切というおもてなし」が
隠れていることもあるんです。

ある地方都市で、つい最近まで
普通のファミリーレストランだったのだけれど、
それをちょっと新しいスタイルに
変えたんで来てください、
と言われて訪問したときの話です。
今の流行っぽく、カフェのような雰囲気の
明るいおしゃれなお店になって、
「ああ、気持ちがいいね」
といいながらテーブルにつく。
メニューを渡されて、開くと写真の一つもない。
お料理の雰囲気をイメージした
イラストがいくつか描かれてあるだけ。
おやおや、メニューも随分変わったネ、
と商品の名前と説明書きを一つ一つ、
解き明かすように読んでいました。
するとテーブル担当の女性スタッフが
近づいてきてこう言いました。

「サカキさん。わからないことがあったら
 何でも聞いてくださいネ。
 迷ったら今日のお勧めは蛸とキノコのパスタ、
 ワタシのお勧めはイカ墨のオムライスです。
 どっちを食べても後悔させませんヨ!」

不親切というおもてなし。
なるほど、ココの店の本当のメニューは、
お店の人の頭の中に入っているんだ。
こんな人なら、とても素敵なサービスを
してくれるんだろうなぁ、と期待満々。
果たしてその期待通り、いやいや、
期待以上のおもてなしにまみれた1時間、
それもたった1000円少々の1時間。

商品を説明するためのメニュー。
お客様との楽しいコミュニケーションの
キッカケとしてのメニュー。
どちらも同じメニューですけど、
それを使う人の心構えは全然、違う。
当然、そこで提供されるサービスの質も量も全然、違う。

メニューを開いて、
「おおっ、わかり易い!」と思ったら、
サービスを当てにしないでただひたすらの満腹と、
楽しいおしゃべりに没頭しましょう。
注文すべきは、メニューの一番目立つ場所にある安いモノ。
「おおっ、ちょっとこのメニューは難しいぞ!」
と思ったら、お店の人に甘えましょう。
甘えられ上手のサービススタッフが
揃っているでしょうから。
注文すべきは、お店の人が自信を持って薦めるモノ。
あるいは、いまだ食べたことのない
初めて出会う珍しい料理。
多分、それで大丈夫。

メニューがこんなだったら、
その店はこんな店です!

最後に、手の中にあるメニューがきれいかどうか?
目と手のひらを使って確認してみましょう。

グランドメニューの角が折れてる店。

──乱暴な店です。
  使い終わったメニューを保管しておく箱の中に
  バサッと放り込んで平気な、
  繁盛していて忙しいかもしれないけれど、
  作業に追われて気配りのできない店。
  そんなお店のサービスは
  スピーディーだけれど荒っぽい。
  料理をドスンと置かれてもビックリしないように、
  心の準備をしておきましょう。

紙面を丈夫にするための
ピカピカの表面加工がはげてしまって、
なんだかみすぼらしいメニューになってしまってる店。

──このお店はあんまり儲かってない店ですね。
  レストランでは利益が出ないと、
  メニューを新しいものに交換することができない。
  一つのメニューを擦り切れるほど
  使わなくちゃいけない‥‥、
  ということは思ったように売り上げが上がっていない、
  ということの証拠です。
  売り上げが思うように上がらない。
  理由はだいたい想像がつきますよね。
  料理がまずいかサービスが悪い。
  あるいはそのどちらとも。
  どう転んでも期待をしてはいけない、
  ということになります。

メニューの表面を手で触ると
ペタペタ貼りつくような肌触りがする店。

──清潔の意識に欠ける店です。
  お店が暇でお客様がいないときでも、
  レストランの従業員の人たちはいろんな作業で
  快適にお客様が食事を楽しめる工夫をします。
  ほとんどがお店をキレイに整えることに関する
  作業なのですが、その数々の作業の中に
  「メニューの汚れを丁寧に拭き取る」
  という作業があります。
  商品の実物をお客様に直接見せて
  選んでいただけないレストランで、
  メニューというのは料理の代わりになるもの。
  それをキレイにする手間を惜しんでしまう店は、
  テーブルや椅子も汚れたままかもしれません。
  気をつけましょう。

さてさて注文すべき商品も決まりました。
手を上げて、あるいはテーブルの上のベルを押して、
テーブル担当の人を呼びましょう。

illustration = ポー・ワング

2005-06-02-THU


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