おいしい店とのつきあい方。
サカキシンイチロウの秘密のノート。



ファミリーレストラン。
郊外にたくさんある、気軽で便利なレストランです。
最近は、街中にもできるようになりましたけど、
やっぱりファミリーレストランといえば
郊外にゆったりした敷地をもって、
タップリの駐車場を準備して
お客様を待っているのが一般的。
家の近所に一軒、
ファミリーレストランがあるのとないのとでは、
生活の便利さが全然違う。
ある意味、なくてはならない存在になってしまった、
そんなファミリーレストランの話を
ちょっとしようか、と思います。

なぜ「ファミリー」レストラン、
なんだろう?!?!


ところでなぜ
「ファミリー」レストランというんでしょう?
来ているお客様がみんなファミリーかというと、
そんなことはない。
場所と時間帯によってはファミリーが一組もいない
ファミリーレストランがあったりする。
なのにファミリーレストラン。
なんででしょう?

ファミリーレストランの原型はアメリカにあります。
なのに実はアメリカには
ファミリーレストラン、という呼び方はありません。
「この辺りにファミリーレストランはありますか?」
と聞いても、まず通じることはない。
ならどういうか? というと、
「コーヒーショップレストラン」。
あるいはただ単純に
「コーヒーショップ」と言ったりします。
その意味は、コーヒーを飲むような気軽さで
利用できるレストラン、という具合になります。
レストランのドアを開け、出迎えてくれたお店の人に
「食事はしたくないんです、
 コーヒーだけでもいいですか?」
と聞いたとしましょう。
普通、申し訳ありません、それはちょっと、と断られる。
理由は単純、レストランは食事をするところ、
と決まっているからです。
でもそれでは不便だ、というのでコーヒーだけでも大丈夫、
ついでに2時から5時という、
普通のレストランが店をクローズしてしまう時間にも
営業をしましょう、というレストランが出来たのです。
それがコーヒーショップレストラン。
つまり日本の「ファミリーレストラン」
ということになるでしょう。

便利です。
予約をする必要もなければ、
思い立ったときに利用することができる。
腹ペコのときにも使える。
小腹がすいた程度のときにも使える。
お腹がすいていないんだけど、
ちょっとおしゃべりをしたい、
あるいは喉が渇いた、というようなときにでも
使うことができる。
お客様想いといえば、これほどお客様想いの店はない。
すべての基準が、お客様にゆだねられている、
という点では右に出るもなく、
ですから良いファミリーレストランを知っている、
ということは普段着の生活がとても楽しいものになる、
ということになる。
ファミリーレストランとの
正しい付き合い方を知っている、
ということは、それだけ日常生活で
得することが多くなる、ということでもある。
そう思います。
ですからしばらく、ファミリーレストランとの
素敵な付き合い方を考えてみよう、と思います。

ファミリーレストランの
「おでむかえ」はこんなに大事!

まず、ファミリーレストランの
もっともファミリーレストランらしい
サービスのひとつ、「おでむかえ」。
専門用語では「グリーティング」といったりします。
グリーティング=ご挨拶。
気持ちの良い挨拶とともに
お客様をお迎えする、という瞬間。
たいていはこのようなやりとりが繰り広げられます。

お客様であるあなたが店先に立つ。
するとお店の人がやってきて、こう声をかけてくれます。

「いらっしゃいませ。何名様でらっしゃいますか?」

満面の笑顔とともに!
面倒だな、と思いながらも
「1人です」とか、あるいは
「今は2人ですが後から3人やってきますから、
 全部で5人になりますネ」
というように答えます。

見ればわかるだろう、という人もいます。
こんな質問はマニュアルどおりでつまらない、
という人もいますけど、
実はこれはお客様に喜んでいただけるテーブルを
選んで差し上げるためのヒントを得るための質問なのです。
ファミリーレストランの定義を思い出してみてください。
ファミリーレストランというのは
「いろんな使い勝手を提供している店」なのですね。
つまりこの店にお客様が、
いったい何をしにきたのかわからない、
不安をもってお店の人はお客様をお出迎えする。
この人は食事をしに来たんだろうか?
この人は飲み物だけで帰られるんだろうか?
本当はそれを知りたくて仕方ない。
なぜなら「食事用のテーブル」と
「おしゃべり用のテーブル」は全然、違うテーブルで、
良いファミリーレストランはその両方を
用意しているものなのです。
食事したいお客様を、
もし、食事をするよりもおしゃべりをするのに
適したテーブルにご案内したら、
快適に食事を楽しんでいただくことができなくなる。
どうしよう。
このお客様をどのテーブルにご案内すればいいんだろう。
悩んで悩んで、そうして不安でしかたなくなっちゃう。
だから本当は、こう聞きたい。

「お客様、失礼ですが、今日はお食事ですか?
 それともお茶をしにいらっしゃいましたか?」

あまりに不躾で失礼な質問ですよね。
昔、そう聞きなさい、とマニュアルで教育をしていた
ファミリーレストランのチェーン店もありました。
でもそれがとても評判が悪かった。
店に入っていきなりそんなことを聞かれても、
メニューみるまでわからないヨ、
という人たちがあまりに多くて、
だから今ではそうした質問をするファミリーレストランは
なくなっちゃいました。

そこでファミリーレストランの素敵なお客様になる
一番最初のヒントです。
本当はしたくて仕方ない質問を
させてもらえなくなっちゃったお店の人のために、
一言、こう添えてあげましょう。

「2人です。お腹ペコペコで仕方なくて来ちゃいました」

笑顔でこう言ってみましょう。
人数を言うだけでなく「目的」を告げる。
案内係のお店の人は、ほっとします。
聞きたいことが聞けてほっとして、
多分、満面の笑みとともに
「こちらへどうぞ!」と
あなたを客席ホールへいざなってくれる。
このときあなたを待っているテーブルは、
まさにあなたが必要としているテーブルであるはずです。

さてファミリーレストランには
どんなテーブルが用意されているのでしょう?


illustration = ポー・ワング

2005-04-28-THU


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