おいしい店とのつきあい方。
サカキシンイチロウの秘密のノート。



朝ごはんの外食、特にホテルで
朝ごはんを格好よくとるために、
どんなことに気をつければいいんでしょう?


ニューヨークにボクが大好きなレストランがあります。
レストランと言っても、店の半分が食品販売店。
スモークサーモンやソーセージなんかが並ぶ
デリカテッセンの奥に10個ほどのテーブルが並ぶ、
ささやかでひそやかなレストラン。
しかも比較的高級な住宅街の中に
ポツンとあるような店で、知る人ぞ知る系のレストラン。
日本に場所を移せば
「麻布のはずれの干物のおいしい魚屋さんの横にある
 直営食堂」のような具合になるのかな?
ここの朝ごはんがすばらしくおいしい。
スモークサーモンのスクランブルエッグは
ニューヨークでいちばんおいしいとボクは思う。
そこで飲ましてくれるオレンジジュースは
マンハッタン島の北半分で多分、一番おいしいし、
ここのトーストしたベーグルは
セントラルパークの西側では有数のモチモチさ加減。
朝をことほぐような店。
なのにいたずらに高価なわけじゃない。
気取ったところも全然なくて、
普段着でフラッと立ち寄れる、そんな店。
もし何かの幸運に恵まれてボクが
ニューヨークに住むようなことがあったなら、
この店の近所で多分、マンションを探すだろうなぁ、
と思わせるそれほどの店。
だからニューヨークに行くと必ず、
この店で一度は朝食をとる。
ニューヨークに戻ってきたぞ‥‥、
となんだか懐かしいような気持ちにまでさせてくれる、
そんな店での出来事です。

いつものようにお願いネ!!

季節は初夏。
午前9時ちょっと過ぎという時間にもかかわらず
もう汗ばむような、季節外れに蒸し暑いその日、
たまたまボクはその店にいて
メニューを開いて何を食べようか、
あれこれ考えをめぐらせていました。
当然、この店に来たら
スモークサーモンのスクランブルエッグを
食べなきゃいけないし。
でもたまにはコーンビーフなんかを
食べるのもいいだろうし。
何しろ一年に数回程度しか来れぬこの店で、
何を食べればいいのかを
たった数分で決めるなんて不可能に等しいよな、
と思いながらメニューに首っきり。
ウェイターが何度もボクのテーブルに近づいてくる。
そのたびにコーヒーを足し注ぎ、
注文は決まったか? と愛想良くきいてくるのだけれど、
なんどもそれを制してあれこれ悩んでいた、
そのときでした。
一人のおじいちゃんがドアを勢いよく開けて入ってきた。
手にはクリーニング屋のビニール袋に入った
ハンガー吊りのシャツを数着。
Tシャツにショートパンツという
スーパー普段着でしたから、
この近所に住んでいる人なんでしょう。
当たり前のようにテーブルにつき、
当たり前のようにこういった。
「いつものようにお願いネ!」

そういうと彼は持っていた新聞を開いて読み始める。
ほどなくしてオレンジジュースとコーヒーが手元にあって、
新聞を数ページめくる間に
ベーグルのトーストとスモークサーモンが目の前に揃う。
そしてそれをユッタリと食べ、
クシャクシャのドル札何枚かを置いてそのまま立ち去った。
お勘定書きを確かめることもなく、いつものように。
そう、これがその人の「いつものように」なんですネ。
かっこいいなぁ‥‥、と思いました。
いきつけの朝食レストランを持っている、
ということがまずかっこいい。
それにもまして「自分が食べるべき朝食が決まっている」
という、その生きてゆくスタイルがかっこいいな、
と思ったわけです。

朝食で悩むのはカッコ悪いよ!

大体、朝食のメニューに
そんなに変わったものがあるわけじゃない。
家で朝ごはんを食べるときだって、
毎日、たいてい同じようなものを食べている。
昼ごはんが毎日同じようなものはいやという人でも、
不思議と朝食は毎日同じようなものでも大丈夫。
逆に、「朝はこれを食べなきゃ駄目」
という定番朝食が決まっている人もいる。
朝食というのはそういうものです。
なのにあれこれ食べるものに悩んで注文が決まらない。
粋じゃないですネ。
あきらかに
「私は朝食をレストランで食べるような
 習慣のない人です」ということを
自分で暴露しているようなもの。
‥‥そう猛烈に反省しました。
いきつけの朝食レストランを持つことは
現実的じゃないし、難しい。
だけど「自分なりの朝食のスタイルを持つ」
ということは可能です。
「この人は、朝食をレストランで食べることに
 慣れている人なんだ」とお店の人に思ってもらえる、
それだけでかっこいい。粋です。

それからボクはなるべく朝食の食卓では
悩まないようにしています。
レストランで注文するときには迷うだけ迷え、
と考えているボクも朝食だけは特別。
レストランに行くまでに
「今日はこんなものを食べよう」
と頭の中にイメージして、
それからテーブルに座ることにしているのです。

洋風の朝食は基本的に3種類です。

洋風の朝食は非常に簡単にできています。
いくつかのグループを覚えれば大丈夫!
まず「玉子料理」。
それから「グリドル料理」。
パンケーキやワッフル、
あるいはフレンチトーストのようなものがグリドル料理。
あるいはこれ以外の特別料理。
この3分類。
あとは玉子の焼き方やそのサイドに添えるものを選ぶ。
コーヒーか紅茶、
ジュースはオレンジかグレープフルーツ‥‥、
のように何種類かから選んでいけば
自然と注文ができてしまう。
簡単です。
和朝食なんかもっと簡単にできていて、
普通はご飯かお粥を選ぶだけで良いようにできている。

朝はたいていが腹ペコです。
ブレックファストの語源なんて「断食を破る」ですから
それこそ絶食状態から脱出するのが朝食の目的でしょう。
そもそも人間は行過ぎた空腹状態では、
緻密な情報収集と正確な選択なんか
できないようにできている。
だから難しくて複雑なメニューを作って
お客様に迷惑をかけないように、
という心遣いなのかもしれない。
それほど朝ごはんのメニューは単純にできています。
だから今朝は何を食べようかなぁ、
と具体的な料理をイメージしながらお店にいって、
それからメニューを見れば
比較的簡単に食べたいものは決まるはずです。
簡単です。
日本のホテルのメインダイニングの朝食時間、
欧米のお客様はほとんどが
メニューも開かず注文をテキパキ決める。
かっこいいです。
日本のお客様は悩むだけ悩んで、
結局、お勧めのアメリカンブレックファストを、
というような注文の仕方になっちゃうことが多い。
残念です。
まして海外のホテルで朝、悩みに悩む日本人の姿、
優柔不断で不慣れなように見えてしまう。
もったいないです。

ホテルに泊まるときは、
ルームサービスメニューでお勉強。

それでもどんな料理が朝ごはんに準備されているのか
確認してから注文したいときもあります。
お国柄、あるいはホテルオリジナルの
朝食のメニューが準備されていることもたまにあります。
そんなときはどうすればいいのか?
これまた簡単。
部屋においてあるルームサービスのメニューを
あらかじめ見て勉強をする。
寝る前にベッドに入ってからでも結構。
どんな朝ごはんを用意しているのか
確かめながら食べるものを決めてゆく。
例えば「ハーブのオムレツ、
ポルトベーロのキノコを添えて」
という一品があったとしましょう。
こりゃ食べなきゃ‥‥、って具合になりますネ?
そしたら翌朝、レストランに入ってテーブルにつき、
メニューを手渡されるのを待たないでこう聞いてみます。
「ハーブのオムレツをいただきたいのですが、
 今日はどんなハーブを使っていらっしゃるの?」
あなたはこのホテルのこのレストランを使い慣れた人、
とみなされます。
それどころか、あなたはホテルのレストランで
朝食を食べなれた人でもあるのかな?
と思われるでしょうし、それは決して損なことじゃない。
気持ちの良いサービスが保障されたのも同然です。
なによりこんなにかっこよく始まった一日は、
とても輝かしく楽しいものになるものです。
だからホテルの部屋に入ったら、
まず寝る前にルームサービスメニューで
朝食メニューを確認する。
試してください。

もっとも、明日の朝、食べたいものが
頭の中をグルグル回って眠れなくなっちゃった。
もしそうなったらちょっとした不幸ですけれど、
でもそれはそれで楽しい旅の思い出になる。
そうじゃないですか?


illustration = ポー・ワング

2005-03-03-THU


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