おいしい店とのつきあい方。
サカキシンイチロウの秘密のノート。



レストランを楽しむための
お正月の準備、ってあるんですか?

まず今年一年を振り返ってみましょうか?
今年、あなたが行ったレストランの中で印象に残る
「一番素敵だった店」を思い出してみましょう。
あなたが幸運にも日記をつけている人だとしたら、
これは比較的簡単です。
2004年の1月1日のページから
日記を一日づつめくりながら、思い出す。
楽しいです。
ああ、彼の誕生日にはあの店に行ったんだった。
あの日はあの店であんなことがあったんだ。
そう言えばあの店は前評判と全然違って、ひどい店だった。
そんなことを思い浮かべながら、
今年一年を反省したり復習したり。
楽しいです。
日記をつける習慣が無い人でも、
アドレス帳や携帯電話の電話帳を
最初から読み返していけば、なんとかなる。
そうだ、この店は今年の春、初めていった店だったなぁ。
とあるレストランの店名をそこに発見して、
それがきっかけでその時の楽しい思い出が
まるで昨日のことのようにパッとよみがえったりします。
楽しいです。

年末に「レストラン大賞」を選ぼう!

ボクは一年の最後に、必ず
「今年のナンバー1レストラン」を選びます。
サカキシンイチロウレストラン大賞!です。
いろんな部門で選びます。
・ニューオープンレストラン部門
・今年、初めて出会ったレストラン部門
・一番美味しかった料理部門
・ベストスマイル部門
・おなじみになってて本当に良かったな部門
この5部門は必ず選びます。
一番美味しかった料理部門に関しては、
イタリア料理やフランス料理に始まって
和食、中華、はては定食屋やラーメン屋まで
ありとあらゆる業種があって、
それぞれに一等賞をつけていくと
とんでもない数の受賞レストランが出てくる。
ああ、今年もこれだけ食べたんだなぁ、
と呆れ半分、感心半分。
それでもう一度それらの受賞店舗を見比べながら、
今年一番の大賞レストランを選び出します。
ちなみに2004年度版の大賞は今のところ
「オステリア・ナカムラ」という
六本木にある正直なイタリアンレストランです。
夫婦2人でマネッジできるほどに小さな店だけれど、
誠実さと情熱は天下一品、今年一番の収穫でした。

そうやってそれぞれのナンバー1レストランの
リストアップが終わると、ボクは次に電話をします。
それぞれのレストランに電話をするのです。
どんな電話か?
「おめでとうございます、あなたのお店は
 ワタクシ的今年のナンバー1レストランになりました!」
なんて馬鹿な電話をするわけじゃありません。
そんなことを言われて誰が喜ぶわけじゃなく、
この人、なんか勘違いしてるなぁと思われるのが関の山です。
それじゃあどんな気持ちで電話をかけるのか?
と言うと、こうです。
「ワタシはあなたのお店が大好きです。
 そうそう何度もいけるわけではないですが、
 ボクのことをどうぞ忘れないでくださいネ。
 来年もよろしくお願いします。」
と言うような気持ちを伝えたくて電話をかける。
ただ実際にそのように電話で言うか?
言わないです。
友達や恋人になら、そう思ったときに
何気なく普通に電話をかけて
思ったとおりに気持ちを伝えることもできますが、
レストランの人たちに「あなた達のことが好きですヨ」
‥‥ちょっと恥ずかしくて言えないです。
そもそも、用も無いのにレストランに電話をかける、
普通ならできないですネ。
でも実はこの時期は、そんな気持ちを
レストランの人たちに伝えるために、
用も無い電話をかけるのに
ものすごく良い時期なんです。
良い口実がある一年でも珍しい時期なんだ、ということ。
こういう具合にです。

まずクリスマスが終わって年末までの一週間、
レストランは比較的、暇になります。
暇になる、というかひと時の
「暇を楽しむことができる一週間」
という表現の方が適当かもしれません。
それだけお店の人たちの気持ちは
忙しさを乗り切った伸びやかでシアワセな気持ちに
満たされています。
そんなときなら用の無い電話にも、
ある程度の寛容さを持って対応してくれる。
当然、電話をかける時間帯は
お店が幸せを満喫している時間帯、
ランチとディナーの間の
休息の時間帯を狙ってゴー! です。

「サカキです。どうもお久しぶり。
 今年も本当にいろいろありがとうございました。
 ところで年末年始の営業スケジュールは
 どんなふうに予定されてます?」

年始の予定を入れちゃいましょう!

年末年始のレストラン、
いつもの定休日が意味をなさず
とても不規則な営業をすることが一般的です。
大晦日まで営業する店。
お正月から営業する店。
かと思うと、30日くらいから思い切って
一週間ほどの休みを取る店。

「お正月休みの間に、機会があればお伺いしたいのですが
 無駄足にならないように
 今から年末年始の予定を伺えますか?」
 
とても理に適っていてしかも自然な、
でも約束をしなくてもすむ
とてもよい電話のキッカケでしょう。
そしてついでに
「また美味しいピッツァを頂きにまいりますんで、
 そのときはよろしくネ」
というようなことを一言告げて受話器を置く。
さりげない、でも熱烈な感謝の気持ちが
これでレストランに伝わります。
そうした電話のやりとりを、
思い浮かんだ素敵なレストランの数だけ繰り返し、
手帳のスケジュール表に書き込んでゆく。
年末年始、もし何か食べるものに困ったら
どこに駆け込めばいいのか、
傾向と対策がそれを見ながら
舌なめずりしながら考えることができるでしょう。
年末年始、遠来の友と楽しい時間をすごすために
どうすればいいのか、
その手がかりが潜んだデータベースが手元に残ります。
素晴らしい。
レストランで食事する予定が全然無くても、
自分の手帳の多分、予定が無くて
さみしい状態になっているだろうスケジュール表に
いろんなレストランの名前とその休業を示す
何本もの棒が書き込まれる、
それだけで楽しくてにぎやかな気持ちに
なるんじゃないでしょうか。

もし幸運なことに、この冬休みの間、
あるいは年があけてから恋人や友達と一緒に
外食する予定がもうすでにあるとしたなら、
電話のついでに予約をしちゃいましょう。

「来年の営業は何日からされるんですか?」
「年末年始、フランスにスタッフみんなで
 勉強に行くので年始の開店は
 7日からになっちゃうんですヨ。ごめんなさい。」
「ああ、うらやましい。一緒についていこうかぁ‥‥。
 ところでそれなら10日にお伺いしましょうか。
 3人で夜の7時半をちょっと過ぎちゃうかも
 しれませんけど‥‥」

お店の人は来年用のレセプションブックを開きます。
多分、まだ誰の名前も書き込まれていない
まっさらのノートブックです。
当然、その10日の7時半前後に
誰の名前も書き込まれているわけではないですけれど、
予約を受ける人はそのノートの
1月10日のページを開いて
特別の気持ちで名前を書き入れます。
サカキ様、3名でご予約。
その文字はおそらくとても丁寧で、
ひときわ力が入ってうれしそうに踊っているに違いない。
ボクならその文字の周りに花丸を書いて、
ビックリマークを5個ほども書き込まないと
気がすまないかもしれません。
新しい年の一番最初にやってきてくれるお客様も
素敵な存在ですが、新しい年の予約表に
一番最初に記入される名前、
それは一年ずっと残る名前です。
素敵なコトです。
予約をするあなたにとっても、
予約を受けるお店にとっても
それは素敵なコトなんです。

「承知しました。1月10日、お待ちしております」
「フランス、気をつけて行ってきてくださいネ。
 面白い話、楽しみにしてまいりますから。」
「はい、サカキ様も素敵な新年を
 お迎えになれますように。
 いつもどうもありがとうございます。」

王様が受けるようなサービスと心のこもった料理、
そして天国のような時間が
来年の1月10日には保証されたも同然です。
こうした電話を年末に
何十軒分もしなくちゃいけなくなったら‥‥
それは本当に素晴らしいこと。
来年の年末、
「レストランにご挨拶の電話をかけるのが忙しくて大変だ」
とあたふた出来るあなたでいられますよう。
さあボクもがんばらなくちゃ。

ことしも1年ありがとうございました。
よいお年をお迎えくださいネ。

illustration = ポー・ワング

2004-12-30-THU


BACK
戻る