おいしい店とのつきあい方。
サカキシンイチロウの秘密のノート。



12月になりました。
もうまもなくクリスマス。
さあ、今年のクリスマス、
あなたはどう過ごそうと思っていますか?
クリスマスの準備をする。
そのためにまず「クリスマスってどんな日?」
ということを考えてみようと思います。

1年はトランプ。
クリスマスのカードは「ジョーカー」です。

いきなりですがあの七並べをしたりババ抜きをしたりする
トランプを思い浮かべてください。
スペード、ダイヤ、クラブ、ハートと
4種類の模様を背負った1から13までのカード。
あれは何を意味しているのか? というと、
ボクは1年のカレンダーになっている、と思います。
13枚のカードが4組分。
つまり52枚のカード。
1枚が1週間だとすれば52×7で364、になります。
1年365日には1日足りないけれど、
4組の模様があるというのが
1年にある四季を象徴しているようであり、
ボク達の1年はまっ更なトランプの封を切って
テーブルの上に置くことから始まって、
1週間に1枚づつめくってゆき、
大晦日に1年の最後のカードを開いて終わる‥‥、
ような感じがする。
ロマンティックじゃないですか。

そこで足りない1日です。
実はトランプには大抵、
2枚のジョーカーが入っています。
オールマイティーのカードです。
その1枚が普通の年に足りぬ1日分。
もう1枚は4年に1度のうるう年用の1枚で、
まあこれはあまり出番のないカードです。
ではその365日目のカード、
ジョーカーをどこに置くのか、というと、
ボクはそれをクリスマスイブの日に置きます。
12月24日用のカードというワケです。
最後の1枚をめくる前に、
今年1年の感謝を込めて1枚。
そのジョーカーをめくり終えると、
あとは25、26、27、28‥‥と
カウントダウンが始まって、
ちょうど1週間分1枚の最後のカードで
1年が終わることになります。

キリスト教徒でもないのに
何でオールマイティーの大切なカードを
お正月じゃなくてクリスマスに置くの?
といわれるかもしれませんネ。
けれどお正月こそ1年分のカードの重みを確かめて、
封を切るのにふさわしい日。
決してジョーカー1枚の日ではない、と思います。
自分の誕生日に使ってもいいんじゃないの?
といわれるかもしれないけれど、
でもジョーカー1枚がもつ重さが
実は1週間分あったとしたら?
その1週間の贅沢とエネルギーを
たった1日に使うとしたら、
あと1週間を残して今年1年を振り返りながら、
あれこれ自分の人生のことを考えるのにぴったりの
12月24日に使うのが、一番賢く、
一番素敵だと思うのです。
大晦日だと遅すぎますもんね。

1週間に匹敵する1日。
今年1年を振り返り、
新しい年に思いをはせるのにふさわしい1日。
つまりクリスマスイブというのは、
1週間分の贅沢と、1週間分の思いやりと、
1週間分の愛情を込めて過ごすべき1日で、
そうした日の外食といえばやはり
1週間一緒にいても苦痛でもなければ重荷でもない、
本当に愛する人とするべきなんです。
さてさて今年、今月のカレンダーを開いてみましょうか。
おやおや12月24日は金曜日の夜。
こりゃ大変だ。
神様がくれたご褒美のようなカレンダー周り。
用意周到で望みましょう。

クリスマス特別メニュー、
これが曲者!!

クリスマスイブにしなくてはならない会食。
しかも海外から鳴り物入りでやってきた、
その年一番の話題となったフランス料理店で、
おじさんばかり4人でテーブルを囲むという蛮行を
バブル絶頂の昔、決行したことがありました。
まあ気恥ずかしさもここまでくればすがすがしいもので、
たまたま4人のスケジュールがその日しか合わなかった、
という忌々しさを、
初々しいばかりのカップルを鑑賞することで
紛らわせながら食事しました。
他の日だったら彼らのほうが場違いなのに、
と不謹慎なことを言いながら。

クリスマスといえば特別メニューです。
料理そのものには幾つかの選択肢が
用意されてはいるでしょうけど、
でも普通のメニューほど豊富な品揃えがあるのでなく、
その日のために用意されたとっておきの料理をいただく。
そんな日です。
そしてそれが時にして曲者。
とんでもない失敗のキッカケになったりするのです。

その日、ボク達の近くのテーブルで20代の前半も前半、
おそらくこうしたレストランで
クリスマスを2人だけで祝うのも
初めてであろうカップルが食事を始めていました。
彼は一生懸命でした。
彼女をしっかりエスコートしなくてはならない、
という気合一杯。
多分、彼がすべてを準備したのでしょう。
彼女にとっておきのクリスマスをプレゼントしたくて、
そしてそれを完璧なるサプライズにしたくて
一生懸命、ひとりで準備をしたのでしょう。
このお店の歴史とかあるいはワインセラーには
何億円分ものワインが置いてある、
というようなことを話していました。
そして今日のメニューも、もうあらかじめ決めたんだ、
特別メニューで喜んでくれると思うヨ、とも。
彼女はその情熱に答えようと、にこやかに受け答えし、
他人ながらも頑張って‥‥! と
声援をかけたくなるような二人でした。
料理の提供に多少の遅れはあったものの、
それでも食事はつつがなく進み、
メインディッシュがやってきたとき、
彼女はアッと声を出しました。
出てきた料理は「鳩のグリル」で、
説明を聞くと同時に彼女は
「ワタシ、鳩はダメ‥‥」と言ったっきり
手をつけることも無く、
悲しくなるから下げてくださいとまで言い、
結局、そのままデザートを食べ帰っていきました。
多分なにか鳩に対して思い出があったんでしょう。
あの2人はあの後、どんなクリスマスを過ごしたんだろう。
彼の気まずそうな顔、彼女の決して怒っているのでなく、
どことなく無力感漂う哀しげな後姿。
僕らまで見ちゃいけないものを見てしまったような
気持ちがしました。
まるで運命のジョーカーが
ラッキーカードじゃなくて意地悪な呪いのカードに
なっちゃったみたいで‥‥あの2人にとって。

クリスマスは、誰かが誰かをもてなす日ではない、
ということです。
自分が自分をもてなすのでもなく、
みんなが感謝の気持ちをもってもてなしあう日、
であるということなんです。
だから準備をひとりでするなんてことはしないこと。
どんなところでどんなふうにクリスマスを楽しもうか、
そんな話を2人で話しましょう。
あるいは気のおけない仲間みんなで話し合い、
今年は大変な年だったから
パァーッと贅沢にワインでもあけて散財しようよ、
なんてそんなアイディアの一つでも出てくれば、
ジョーカーはラッキーカードになってくれるでしょう。

どんなレストランでどんなふうに
クリスマスを送れば楽しいのか?
来週はそんなヒントを考えてみましょう。

illustration = ポー・ワング

2004-12-09-THU


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