第10回 お菓子の場所にいる人。

ぼくは、お菓子そのものが
概念として好きなんですよ。
お菓子というものが
世の中にあるっていうこと自体が、
ハーッと、気持ちいいんです。
わかります。
お菓子は、ぼくらを
甘えさせてくれるものなんです。
お砂糖が必要不可欠かどうかの話じゃなくて、
お菓子は、みんなが好きなものなんです。

お菓子の話をするときは、
みんながにこやかでしょう。
ぼくは、お菓子は花よりすごいと
思うくらいなんです。
そこの仕事をしてるということ自体が、
斎藤さんっていいなぁと思うんですよ。
この「社長に学べ」のシリーズでは
いろんな方と話してきましたが、
次に誰に出ていただこう、と考えたときに
「そうだ、斎藤さんだ。
 あの人は、お菓子の場所にいる人だ」
と思いついたんです。
はははは。
例えば「自転車部品ってすごいんだよ」という
物語だとして、
とてもいいお話を伺えたとしても、
きっとこんなには広がらないと思うんです。
景気がもっと悪くなったり、
争いが起こったとき、
「お菓子の話すること少なくなったね」
となったら、もうそれは終わりです。
そうですね。悲しいです。
お菓子の話をできるぼくたち、
ということの裾野を、
もっとつくっていけたらな、と
思うんです。
本当に。
お話をうかがってて、
何よりおもしろかったのは‥‥
斎藤さん、悩んでないじゃないですか。
え?(笑)
いや、そんなことはないんですけど。
大局を語りすぎず、
自分がやりたいこととやれることを
順番にやってきたという感じが
やっぱりしました。
これは今の時代に勇気がいるなと思うんです。
「世界はこうなるから」
と言いながら、一生懸命考えたって
どうにもならないですよね。
「やっぱり、できることを順番に」
そういう社長が、本当は
世の中にいっぱいいると思うんです。
それは会社員にも役に立つ。
こういうコンテンツを
みんなに読んでほしいなと思う時期が
来たんだなと思うんです。
うーん‥‥。
チョコレートを割ったり
モデムつけちゃって怒られたり(笑)、
そういう社長が。
うん、そうですね。
斎藤さん、これから
どうなりたいですか?
この会社がクオカという名前になって
ちょうど10年経つんですけど、
クオカは、30年、50年、100年と
お客さまのお菓子づくりを
お手伝いしていく会社にしたいなと
思っています。
ですから、会社としては
もっとしっかり組織を
つくっていかなきゃいけないという、
そういう段階に来ちゃったなと思っています。
ぼく自身は、昔のほうが絶対たのしいんですよ。
あの、寝ないでやってたときのほうが、
たのしいんです。
だけど、社長としてやらなきゃいけないことに、
自分の仕事をシフトしているところです。
それを喜びにしていくしかないと思ってます。
今、何名ぐらい方が
働いていらっしゃるんですか。
正社員が50人で
パートさんも40人ぐらい。
ホームページを見ると、スタッフの方も
たのしそうにやってらっしゃいますね。
たのしそうにやってると思います。
売上げがどうのとかいうことよりも
それが今、いちばんうれしいですね。
「クオカのみなさん、元気いいですね」とか
「たのしそうですね」って
お客さまに言ってもらえるのが
何よりの喜びです。
ぼくも、そこはよくわかります。
ああ、たくさん話しましたね。おもしろかった。
斎藤さんが、普通で、ほんとうにおもしろかった。
ありがとうございました。
言い足りないこと、ありませんか。
あの‥‥前に「いろどり」の横石さん
トークイベントをさせていただいたときに
糸井さんの言葉に
ぼくは感銘を受けたんですけど。
なんか、いらんことを言いましたか。
いや、そうじゃなくて(笑)。
糸井さんは
「買うことがいい製造者を育てる」という
話をされたんです。
ああ、言いましたね。
よく考えると、製造する人とお客さまの間に
ぼくらのような小売りする人間がいます。
ですから、我々は両方見なきゃいけないです。
いい消費者も育てて
いい製造業も育てなきゃいけない。
糸井さんのお言葉を聞いて
ぼくらは社会的使命が大きいなと思いました。
製造者とお客さま、そこに我々が間違いなく
介在していて、
いいものが売れれば
いいものをつくる人ができる。
だから、我々も
いいものを売っていいものをつくってもらい、
いいものを買ってもらって喜んでもらう、
それはすごく大切だなと思いました。
そうですね。
お客さんに対していい顔できても、
製造する人がどう喜んでくれるだろう、
ということについては
つい後回しになっちゃうんですよね。
バレンタインが終わると、
ぼくらも少しは時間ができる時期が来るので、
そのときには
できるだけ製造者の方々のところを
回ることにしています。
そこはとても大事なことですよね。
ぼくらも見習うようにします。
最後に、お父さんのことを訊いていいですか?
徳島で、インターネットを熱心にやってる
斎藤さんを
柱の影から見ていたお父さんは、
今、何とおっしゃってますか?
「えらいところまで行ったな」とか‥‥
「もっともっと行け。早く世界に出て行け」
はははは。
お父さんって、
砂糖の悪口言ってると電話する人でしたよね、
たしか。
ラジオで歯科医師会が
砂糖で虫歯になると放送したとたん、
歯科医師会に電話して怒鳴り込み、
2時間説教してきました。
そこにもビール会社の社員と
共通したものを感じるなぁ。
うん、どこもあたりまえのように
本気ですからね。
(おしまい。ご愛読、ありがとうございました)

2009-03-26-THU


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