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社長に学べ!<おとなの勉強は、終わらない。>


第13回 トライアンドエラーの本質。



岩田さん、いまも、任天堂で、
HAL研究所でやっていた面談を
復活したというおウワサをききますよ?(笑)
(笑)はい。
全員にできるはずがないでしょうけど。
うちはいま、一三〇〇人以上ですから、
もちろん全員は不可能です。
不可能ですよね。
自分が人事評価もしますし、
異動も決めますしという立場になったときには、
その人たちのことを
ちゃんとわかろうとする意志があるわけです。

だから今回は「ハッピーですか?」ではなくて、
「なにを大学で勉強して、
 どうして任天堂に入ろうと思って、
 入ってきてからこれまでなにをしてきて、
 なにをやっていたときにたのしくて、
 なにをやっていたときに
 つらかったのですか?」

ということを、自分の担当するようになった、
わりと直属に近いところで
見ているような場所の人たち
全員にきいたんです。
今回はそれぞれの人の
歴史をきいたんですね。
何人、やったんですか?
百五十人ほどです。
最近は、全部長四十人ぐらいとも
面談しました。
(笑)HAL研の頃より、
ずっと多くなっちゃったんだ!

岩田さんから教わったことで
はっきりおぼえているのが、
さっきもいった
「長年やってわかったことは、
 なにが得意でなにが不得意かを知ることと、
 得意なことに向けてひた走ることなんです」
ということですけど……。
マネジメントとはなにかというと、
凝縮してひとことでいえばそうなんです。
やろうと思えば
簡単にできることなんですけど、
これがむずかしい。
ええ。ちょっと意識すれば、
適用範囲がすごく広いことなんです。
だけどついつい無意識のうちに、
それを使えるチャンスを逸しているんです。
得意なことを探すということだけでも、
じつはかなりの努力が要りますもんね。
自分はいい男じゃないと思ったとたんに
ギターがうまくなるみたいなことですから。
(笑)
「俺がちょっと声をかければ、フフフ」
とかいってるうちは
欠けているみたいなところがあって、
自分の優位性を見つけるというのは
なかなか残酷なものだと思うんです。
そうですね。
企業のトップをやっていたらなおさらで、
優位じゃないところにも人はいるし、
あるいはなくすべきっていう場所にさえも
人がいるかもしれないし、
「人はあんまり
 くりかえしてやることはイヤなんです」
というところにだって人はいるし……
と考えたら、決断というのは
なかなか簡単なことではないと思うんです。

だけどそれを決めていくのは
基礎工事みたいな、必要なことですからね。

しかも人はすぐに変わるし、
全員ちがうことを考えているし……
面談が半年ごとに必要なのは、
そういうことですよね。
はい。

人は変わるし環境は変わるんだから、
一度面談したから終わり
ということはないんです。
ぼくは岩田さんから
コンピュータについて
教わったことがいっぱいあるんですが、
とくにぼくにとっておおきかったことは
「コンピュータの進歩が速いのは、
 トライアンドエラーの回数が
 圧倒的に多いから」ということでした。
ソフトウェアとハードウェアの
ちがいについて話したことですね。

たとえばハードウェアの
金型を直すとかいうことになると
試すのにすごく時間がかかるけど、
コンピュータのソフトは
「マリオがどのぐらいの高さでジャンプするか」
を一日に何度でも試せる。
それは岩田さんには
たいした話ではないかもしれないんですけど、
ぼくはそれをきいたときから、世の中に
なんかちがう目を向けられるようになったんです。
なるほど、視点が増えたんですね。
コンピュータの
ソフトウェアの進化の理由がそうだときくと
「試す」「失敗する」
という意味が、あたらしく見えてくるんです。

それをきいたあとは、
自分なりに仕事をするときでも、
「試す」ということに
すごく重きをおけるようになってきた。


「この目的はもうけることじゃないよね」
とはっきりいえるような事業も
設定できるようになりました。

人には誰にもわからない成功があるとか、
成功したように見えてじつは失敗だとか……
そういうものが、見えるようになったのは、
あの言葉からなんです。わかりますよね?
わかりますよ、
どうつながっているのかは。

だけど糸井さんに伝えると
自分が予想もしなかったところに
考えが広がるのがおもしろいです。

わたしはそのとき
「コンピュータが発展してきた理由」
の真理をしゃべっているだけでしたけど、
そこからちがうインスピレーションを得て、
糸井さんの頭のなかで
ちがうものがつながったんですね。
トライアンドエラーのなかには
「サクセス」なんて入っていないんですよね。
ええ。
「サクセス」なんていうことは、一種の
パラダイス像でありユートピア像であって、
現実はつまり、トライとエラーなんですね。
現実には、パーフェクトはないですからね。
「あ、ちょっとましになった」
「あ、ちょっとましになった」
とくりかえしているわけで。
次に進めるなにかが
見つかっただけでもオッケーですし。

逆にいうと、
次に進めるなにかが
見つからないままに仕事をやっていても
意味がないと思えると、
仕事の質や豊富さについて
語れるようになるじゃないですか。
おたのしみを語れるといいますか。

コンピュータについて、
岩田さんから学んだ
もうひとつおおきなことは
「安くてちいさなコンピュータを
 ものすごくいっぱいつなげるだけで、
 ひとつのコンピュータでは
 百万年かかるかもしれないテストを、
 あっというまに処理できてしまう」
ということです。

世界中のコンピュータをつなげれば
あっというまにすごいことでも
できてしまうというのは、
きいているときよりも、
あとになって何度も驚きました。

つまりぼくが
「ほぼ日」を作るための基礎的な部分で
「人がおおぜいいる」
「出来事がたくさんある」
ということはそれ自体が価値なんだ、
ということにつながるお話なんです。
いつそれをきいたのかは忘れているんだけど……
たぶん、ゲームを作っている最中ですよね。
ヒレカツ定食かなんかを食いながら。
「プロセッサを並列に増やすと
 時間が短縮できる」
ということにはもうひとつ概念があって……

仕事には、
たくさん並列にして
きれいに割れる仕事と
きれいに割れない仕事があるんですよ。


「きれいに割れる仕事」では
たくさんのプロセッサを並べて
どえらいことができるんです。
たとえば気象の
シミュレーションみたいなことはできます。
複雑であっても要素ごとにわけられることなら、
ばらばらのプロセッサで計算をすれば
処理が高速化できるんです。

ただしこちらのことがあちらに影響されて、
あちらのことがまたこちらに影響を与えて、
という種類の仕事ではじつはそれができません。

だからそのやりかたで解ける仕事と
解けない仕事がある、ということが、
もうひとつ一緒についてくるんです。
(笑)また、いいことをいいましたね!

つまりコンピュータの正体は
「スーパー電卓」であって、
それ以上のものでも
それ以下のものでもないということなんだなぁ。
ええ。


第13回おしまい。明日に、つづきます
2005-03-17-THU