Hobo Nikkan Itoi Shinbun 社長に学べ! おとなの勉強は終わらない。vol.6  株式会社パソナ社長 南部靖之×糸井重里


第9回 あの人たちがおもろい!

僕がなぜ30年前に、
大学卒業と同時にどこにも勤めずに
自分で会社を興したかといったら、
母親の影響もあるんです。

母は僕にいつも
「算数で100点取るのも
 100メートル走でいちばんになるのも
 絵がうまいのも、同じ価値観だよ」
と言っていました。
「お兄ちゃんは数学が得意だから、
 数学で身を立てればいい。
 靖之は絵が好きだから、
 絵を描くのを忘れてはいけないよ」と。

兄は、そのとおり数学でがんばって、
今は技術者です。
一方、僕は絵が好きだったんですよ。
  はい。  
中学1年やったかな、友だちといっしょに
絵を描きに淡路島か大阪城か、
出かけたんです。
ご飯食べるのも忘れて
夜の9時とか10時に家に帰ったわけ。

僕の友だちの母親は、
「こんな遅くまで何してたの?
 あんた、絵では食べていけないから
 勉強しなさい勉強を!」
と怒ったわけ。
  その怒り方、よくありそうですねえ。  
それが、僕の母親は、
僕の絵を1枚10円で買ってくれました。
10円って、当時にしたら
大きいお金です。
10円で、キャンバスから絵の具から、
いろんなものが買えるわけです。
勉強では人に負けるけど、
絵は母が買ってくれるんだから、
認めてくれてるんだから、
自分は勝てるんだと思うわけ。
これがひじょうに、自信につながりました。

数学でも、絵でも、徒競走でも、
同じ才能です。
こういう教育をもし
学校の先生か親がやれば、
もっと「落ちこぼれ」はいなくなると思います。
僕なんてほんとうに、
今で言うなら落ちこぼれだった。
  でも、ちゃんとよみがえらせる人や
日をあてる人がいたから。
 
僕、よみがえってきたの(笑)。
  僕がしょっちゅう言ってることなんですけど、
成績がいいやつより、
友達同士で集まってるときに
「あいつがいなくて残念だ」
って言われるやつになりたいんです。
 
いいねえ。
  勉強できるやつのことを
そんなふうに言わないし、
喧嘩の強いやつのこともそうは言わないんです。
「何だか知らないけど、あいつといたいな」
と思われるやつが、
仕事してても、いちばんおもしろいんです。
 
わかりますよ。
  チームみんながそうなったら、
勉強の成績はよくないかもしれないけど、
最高の仕事ができると思うんです。
 
いや、ほんとうですねえ。
よくわかります。
できすぎて、何聞いても全部答える
ってのもね、
例えば旅行にいっしょに行くと
ちょっとつらいとこあるでしょう?
人生をお互いに味わうという意味では、
つらくなるよ。
それより
「ちょっと助けてやらなあかんな」
「お前、もう座っとれよ」とかね、
そういうことを言えたりするほうがいい。
  今までだったら、
競走馬として優秀な人を集めて、
ステロイド打ちながら走らせて
足を折ったりする人を出しました。
でも、
「あいつがいたほうがいいな」のチームが
遊んでるような会社ができないかな、
というのが僕の夢なんです。
 
個性集団ねえ。おもしろいだろうねえ。
  今までは無理だったけど、
もうできかけてるんじゃないかと思います。
 
エクセレントカンパニーというのは、
上場してるとか株価が高いとか
売上規模が大きいとか
そういうことで評価されてきたんです。
  はい。  
でも、これからは
エクセレントパーソンだと思うんです。
今までは「売上1兆円」とか「一部上場」
と言ってたのが、これからは、
「あの会社、50人しかおれへんけど、
 一人一人見てみい。
 おっもろいで!

そういうエクセレントパーソンが
評価されるような時代が来たと思うんです。
  それができてもおかしくない
土壌はあると思うんです。
 
うん。ただ、いまの国家は
そうじゃないと思うんです。
どういうふうに国民をおさめるか、
どういうふうに会社を通して
税金とっていくかを集中して考えていますから。
  南部さんはきっと、
僕らよりずっと実感なさってるでしょうね。
 
消費税をどんどん上げていくこととかね、
ちょっと何考えてんの!と。
僕はアメリカに15年住んでいましたが、
アメリカの8%の消費税、
喜びはしないけども納得できましたよ。
なぜならば、それが自分に
将来どう返ってくるかが
全部ディクスクローズされてたから。

日本に帰ってきたら、5%どころか
1%になってもイヤ。
だって、官僚の第2の退職金に変わってんだもん。
(次回最終回です!)
2006-09-15-FRI
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