Hobo Nikkan Itoi Shinbun 社長に学べ! おとなの勉強は終わらない。vol.6  株式会社パソナ社長 南部靖之×糸井重里


第8回 「年寄り」は唯一の価値。

  このあいだ、鍼の治療に行ったときに、
先生にうかがったことがあるんです。

スポーツマンがこの頃
どんどん怪我するでしょう?
あれは筋トレのやりすぎが原因だと言うんです。
体を外の鎧で守っちゃうから、
インナーマッスルが
鍛えられなくなるんですって。
だから、ねじったりなんかすると
すぐに故障が起きるらしいんです。
「それがだいたいの、怪我の原因なんですよね」
って、その鍼の先生は言っていました。

勝ち負けのゲームをしてる人たちに
ステロイド打ってでも勝ちたい、という気持ちが
あるのはわかります。
そういう本能みたいなものって、
いわゆる競走馬と同じですよね。
 
競走馬(笑)。
  骨折ってでも走りたい、それはわかる。
でもそれは、人間じゃないんですよ。

鍼の先生は、こう続けました。
「でも、引退のない世界がある。武道だ」
考えてみると、合気道の先生は
年寄りほど強い。
あれは「勝ち負け」で決まる
スポーツじゃないからです。

おそらくこれからの社会のイメージも、
競争ではない場所で活かしあうほうに
行くのではないでしょうか。
僕は、
「年寄りだけが尊敬できる」というのが
唯一の価値になればいいと思う。
 
それ、けっこう大切なことだと思うね。
  やっぱり長く生きた人、すごいですよね。  
うん。偉い。
  それ以外の価値はないと僕は思います。  
核家族と同じで、
社会もまた、
年配の方々と若者が
分かれつつあるでしょう?
  そうですね。  
会社でも、今までは
60歳70歳の方が相談役や会長など、
ちゃんと表舞台にいたんですよ。
その人たちは、10年や20年に1回起こるような
会社の大事件を
知識的に経験的に処理できた。

でも、今、そういう人たちが
リストラでいなくなったでしょう?
だから大変なんです。

家に帰って、親父とかお袋は
勉強せえ、ああだこうだ叱るけど、
おじいちゃん、おばあちゃんは、
「あんたあんた、ええとこあるんやから。
 これ食べ」
とか、ものをくれたりするわけです。
子どもながらに、それが効くんです。
やっぱり若者って
誉められたり、ちょっと何かされると
よみがえるんですよ。
  よみがえる‥‥。  
僕の祖父母は
「今日もあんた新聞取ってきてくれた。
 おばあちゃん取りに行こう思うたら、
 あんた先に取りに行ってくれたおかげで、
 おばあちゃん今日は楽やわあ」
しょうもないことを誉めてくれたんですよ(笑)。

その愛しいおじいちゃん、おばあちゃんが
亡くなったら、どうなります?
慈しみや愛や死を
子どもなりに見つめるわけです。
見つめることによって命の尊さがわかるわけ。
それが、今は別々に暮らすでしょう?
別々にいたら、
死を見つめるチャンスもなければ、
愛を感じることもないわけ。
家は核家族、
会社はリストラで老人がいなくなる、
社会全体としても、老人ホームを建てたりする。
学生は学生で、土地が高いから
地方のキャンパスに通う。
  隔離ですね。
混ざることやうねりがなくなっていく。
 
年配の方々のいろんな知識が
伝授されることもなくなるだろうし、
小学生が味わうべき感性も
乏しいものになっていくでしょう。
  南部さんは、とにかく
混ぜたいんですね。
 
ええ、混ぜたいんですよ。
(明日につづきます!)
2006-09-14-THU
前へ
次へ