「失敗してもいいさ、
ミスだってするだろう」


「はい」


「ジタバタしてもいい、
うまくできないこともあるよ」


「はい」


「だけど、その代わり‥‥」


「その代わり？」


「絶対おもしろくしろよ！！」


「ひーーーーー！」


「おもしろくなかったら、承知しねぇぞ！」


「やめてーーーーーー！」

帰ろうと思っていたところ、
山下さんに遭遇。


「聞いたよ、ごろうちゃん。
テキサス行くんだって？」
（山下さんはぼくのことを、
下の名前で呼びます）


「そうなんです。
海外でのテキスト中継だから、
けっこう不安もあって‥‥」


「そうか、そうか。
じゃあ、ぼくがひとつだけ、
キミにアドバイスしてあげよう」

そう言いながら、
なぜか階段を下りていく山下さん。

ん、アドバイス？

ちのくんから預かったものを、
それぞれ持ち帰ります。

送るとたぶん間に合わないので、
飛行機の手荷物で持っていく作戦です。

会社からもっていく
スーツケースの中には‥‥
あれ、どせいさんも？

あしたは８時半に羽田集合です。
きょうはそろそろ帰って、
じぶんたちの荷物も
パッキングしないとですね。

さあ、あしたから忙しくなるぞー！

ちのは本気で、
ふたりを説得しはじめた。

ここでサイズミスなんてことがあったら、
もう確実に明日の飛行機までには
まにあわないからだ。

ちのはメジャーを取り出した。


「だって１メートルでしょう？
ということは、ほら、ここここ！
みんな、このメジャー見て！
ここで１メートル！
つまり、大丈夫です、寸法通りです！」


「‥‥‥‥うーん」


「ほら、このメジャー見て！
ここ見て、１００センチ！
１００センチってことは１メートル！
だから寸法通りです！」


「‥‥‥‥あってますね」


「たしかに、すみません。
ぼくたちの勘違いでした」


「よかったーーーーーーー！」

修羅場をのりきったちの。
大きなため息をつく。

いやー、ほんとほんと、おつかれさま。
こっちもヒヤリとしましたよ。

出発前日の夕方を過ぎ、
いろんなものができはじめてます。

ブースのメインデザインも
印刷が完了したということで、
デザイン担当のちのくんから
招集がかかりました。


「できました、できました！
いやぁ、まにあってよかったです。
これです、じゃじゃーーん！」

おお、かっこいいじゃないですか！
黒をベースにした
落ち着いたデザインなんですね。

と、じょうくん、
何かに気づいたようす。


「あれ、なんか幅、せまくないですか？」


「‥‥えっ？」


「だって、ブースの広さが
これの３倍だから‥‥。
え、幅、あってます？」


「‥‥えっ？」

ふたりのあいだに流れる不穏な空気。
そこに、まつださん登場。


「あ、いいじゃないですか。
‥‥ん、なんか寸法、違くない？」


「‥‥えっ？」

どうする、どうなる！
ちのの運命やいかに！

できたてほやほや、
現地で着るTシャツです！

胸に地球、背中にORコード。
なかなかいいじゃないですか。
真っ黒な宇宙に、
ほぼ日グローブが映えますね。

これをみんなで着て、
アピールしまくりましょう！

編集部のが、
満面の笑みで声をかけてきました。

「‥‥羊羹、あげます」

うわぁ、びっくりした！
なになに、急に。
えっ、羊羹？３つも？

「明日からアメリカですよね。
たぶん日本の味が恋しくなると思って、
さっき買ってきたんです。
３人分あります。
アメリカで食べてください」

あ、ありがとう。
でも、なぜ‥‥羊羹？

「日本の味が恋しくなると思って、
ほんとうは味噌汁が
いいかなと思ったんです。
でも、ほら、かさばるでしょう？
だから、そう、羊羹です」

ちょっと何言ってるかわからないけど、
そのきもちがうれしいよ。
ありがとう、どこかで食べます。

そういえば先週のこと、
「SXSW Japan Office」が主催する
「直前ミートアップ」というものにも
参加してきました。

ミートアップ。
つまり、交流会のことですね。

会場にいるのは、
SXSWに参加する企業や視察する方々。
自己紹介したり、情報交換したり、
最後は全員で自由におしゃべりです。

日本からの参加者は
ブースの場所も近いそうなので、
向こうでもお世話になると思います。
こんなぼくたちですが、
どうぞよろしくお願いします。

いやぁ、こういう集まりに参加すると、
どんどん現実味がましてきますね。

ていいつつ、出発は明日なんですけどね。

うってかわって、
こちらはある日の会議室でのこと。

今回のアメリカ出張では、
アースボールの素晴らしさを
アピールするのが目的なんですが、
ちょっと心配なのは‥‥英語力！

旅行で使う程度なら
身振り手振りでなんとかなりますが、
魅力をしっかり伝えていくとなると、
それなりの準備が必要です。

まあ、数日でどうにかなる
問題じゃないですが、
なにもやんないよりマシですよね？

そこで相談したのが、。

手帳の海外販売などを担当していて、
英語でのコミュニケーションはバッチリ。
ということで、
英語で説明するときのポイントを、
いろいろ教えてもらいました。

「これはどういう商品？」
「どういう仕組み？」
「どこでいつから買える？」

現地で訊かれそうな質問に対して、
どう答えるかをあれこれ話しあいました。


「わたしの知っていることは、
あなたたちにすべて伝授しました。
もうこれで大丈夫ですよね？」


「はい、大丈夫なはずです！」

ともにアメリカ生活を送る
松田さんと青くんと
３人での最終ミーティングです。

「日本からの荷物はこの日に届くはず」
「会場では電源が使えるはず」
「このへんでUberがつかまるはず」

遠く離れたアメリカでのイベント。
すべての予定が「はず」という、
なんとも不安定な状態で
話をすすめるしかありません。


「モニターの手配は大丈夫ですか？」


「大丈夫なはずです」


「車の手配は大丈夫ですか？


「大丈夫なはずです」


「パネル制作、間に合いますか？」


「大丈夫なはずです」


「みなさん、体調は大丈夫ですか？」


「大丈夫なはずです」

だれひとり「大丈夫です」と言わない、
この緊張感もすごい‥‥。

このあとも明日の集合時間から、
現地のスーパーの場所、
設営から撤収の確認まで、
ひととおり話しあいができました。

そしてミーティングを終え、
ぼくは確信しました。
今回のテキスト中継は、
過去一番ハードなものになるだろう、と。

安全第一、おもしろ第二。

体調管理をしっかりしつつ、
とにかく精一杯やりたいと思います。