こんにちは、「ほぼ日」の武井です。
このコンテンツを担当しながら、
ぼく自身も、写真が(そしてカメラが)
どんどん好きになっているひとりです。

この夏、菅原さんといっしょに
プラハ~ヘルシンキの撮影旅行に出かけました。
歩きながら菅原さんが見つける
「いま、この光がきれいですよね」
「この石畳の反射は、きっといい感じにうつりますよ」
というような場面。
「ここはあえて逆光で」
「いまは絞りはいくつ、
 シャッタースピードはいくつで」
なんていうぜいたくなアドバイス。
そのおかげで、じぶんで言うのもなんですが、
できあがった写真は、とってもよい出来でした。
考えてみたら菅原さんが撮っているすぐ横で、
菅原さんに勧めてもらったカメラで撮っていたのですから、
そのまま菅原さんの視線と技術をいただいたようなもの。
(ちょっとズルイですよねえ。)
でもシャッターを押したぼくとしては、
きれいに撮れたのが、ほんとうに嬉しかったです。

いいアドバイスをもらって実践すると
写真って、あっという間にかわる!
そこで今回の企画へとつながります。
菅原さんに、
「ほぼ日」の若手ウェブデザイナーたちに
写真を教えてください!
とおねがいしました。

ことし「ほぼ日」には、
若手のデザイナーが6人入りました。
じつは彼ら、仕事で「写真を撮る」機会が多いのです。
商品まわりなどは、もちろんプロのカメラマンに
お願いするのですけれど、一般的な読みものだと
「あしたの取材、同行して撮影をお願いします」
「こんどの対談、社内でやるのでよろしく!」
「これ、物撮りしてね」
なんていう機会がけっこうあります。
そうなると、前日から社用のキヤノンEOSをもって
右往左往したり、同じカメラを使っている先輩に
「どうしたらいいんでしょう」なんて訊いたりしています。
そしてけっこう緊張しながら当日を迎える。

そう、彼らは写真のプロじゃありません。
デザインのソフトウエアを使うことはできても、
カメラを使うのは、みんなと同じアマチュアです。
「一眼レフを触るのは初めて」だったりするものもいます。
だけど仕事のうえでは、
それなりのクオリティを求められちゃう。

文章のニュアンスで、ウキウキしたり、
買いたい気持ちになったり、
そこに行ってみたい気持ちになったりするのと同じように、
デザインや写真、画像、イラストレーションにも、
その役割があると思いますが、
そういうことを考えれば考えるほど、
入ったばかりの彼らとしては
「できませーん!」なんて言いたくはないわけだし、
けれどもいい写真が撮れなかったら、
必要な写真素材がないのは自分の責任でしかない‥‥!
「とにかくたくさんシャッターを切って、
 そのなかから、いいものを探す」
という方法もあるのですが、
母数が多いからいい写真があるとは限りません。

これ、「ほぼ日」だけじゃないと思うのですね。
そこそこちゃんとした写真が必要な場面で、
カメラのプロじゃない人が撮ることが増えている。
あるいは、自分で撮った写真を、
FacebookやTwitterやブログで
公開する機会も増えましたから、
そういうときにじょうずなほうが、嬉しいです。

ということで、
「ほぼ日」の若手ウェブデザイナー6人を生徒に、
菅原一剛さんに講座をひらいてもらいました。
「若きウェブデザイナーのための写真講座」。
今回から、数回にわけておとどけします。
菅原さんも「じぶんに教えられるのかなあ」と、
戸惑いながら引き受けてくださったのですが、
だいじょうぶです、ぼくが上達したんですから!

最新のカメラは「いいカメラ」?

「ほぼ日」では、社用カメラがあるんですね。
きちんとしたデジタル一眼レフカメラです。
レンズもそろっている。
これをさわってみて、たぶん、みんなが驚いているのは、
「うわ、カメラってこんなに複雑な機械なんだ?!」
ということだと思います。

でも、安心してください。
僕もここにあるカメラの機能を、
10分の1くらいしか、使いこなせないと思う。
そして、その意味もよくわかっていないと思う。
プロの僕でもそうですから、
こういった最近のやたらと設定が多い
デジタルカメラを目の前にして戸惑う
みんなの気持ちはわかります。
ところで、ここにこうやって並んでるカメラを、
どんなふうに思いますか?
かっこいいなとか、好きになれそうとか。

 すごいなぁ、って思います。
こういう本格的なデジタルカメラを持ってみると、
気負ってしまいます。重さもあるし‥‥。
わたし、フイルムの安い一眼レフカメラを
持っているんですね。
学生のときに作品が撮りたくて買ったのですが、
そんな自分のカメラがおもちゃみたいに思えちゃいます。

なるほど。
でも、その「安い一眼レフカメラ」と、
最新のデジタル一眼レフカメラの、
どちらがいいのかは、
ちゃんとくらべてみないとわからないですよね。
案外、「安い一眼レフカメラ」のほうが、
よかったりするのかもしれない。
「最新型だからいい写真が撮れる」ということではないし、
「古いカメラだからダメ」ということも、ありません。

たとえば、最近発売になったiPhone6だけれど、
カメラ機能が、すばらしく進化しています。
以前は「画像」だったのが
「写真」と呼んでもいいくらいの雰囲気があります。
暗いところで撮ってもノイズが少ないし、
極端なことを言えば、もちろん場合によりますが、
みなさんの仕事にも使えるレベルかもしれません。
僕の感覚では「コンパクトデジタルカメラは、
もうもうなくてもいいかも」
という時代がすぐそこまで来ています。

ふだん僕もデジタル一眼レフカメラも
ライカのようなレンジファインダーの
デジカメも使いますが、
毎日の「今日の空」では
連載で強く言ってきた「写ルンです」です。
プラスティックレンズが1枚だけの
とてもシンプルなカメラですが、
空以外の写真も、これで十分なときもあります。
けれども、シンプルなぶんだけ、
うまく写らない場合もたくさんあります。
そのことをわかって使わないといけない。
すべて、場合によるんですね。

みなさんの「ウェブデザイン」という仕事は、
とてもあたらしくて、
表現にも、幅広い可能性をもっています。
会社にある、自由に使えるデジタル一眼レフカメラも、
もちろんいいのですけれど、
カメラって。自分の分身のようなところがありますから、
まず「好きになれるか」どうかは、とても大事です。
性能が高いから、最新型だから
「いいカメラ」なのではありません。
まずは、自分が好きなカメラを見つけることが
大事だと思いますよ。

 対談にカメラマンとして同席する際に
こころがけたほうがいいことはなんでしょうか。
邪魔をしないように、とは思いながらも
もう少し距離を近づいた方がいいのかとか、
自分の行動に迷いが生じてしまいます。
自分自身、撮られることが少し苦手と感じているからか、
撮られる人もそういう思いをしているのかなあとか
考えすぎてしまうところがあります。
でも、本当はそのひとの魅力的なところを
撮りたいなあと思っていますし、
そういう写真を見るのが好きです。

そうですね。
そのひとの魅力的なところを探す。
それでいいんだと思います。
「ほぼ日」の仕事はきっと
そういうことが多いでしょうね。
まず覚えておいてほしいのは、
皆さんが取材の現場に行く時、
「デザインの上での素材として」
写真を撮ろうとしてはだめだってことです。
ウェブには、そういう写真が多く見受けられます。
こんなこと言ったら編集者に怒られるかもしれないけど、
うまくいかなくて、失敗してもいいと思うんですよ。
「自分はこう思いました」ってことに
チャンレンジするんであれば、
失敗をしてもいいと思うんです。
それでも、そのことを優先させたほうがいい。
たとえば、対談の現場を撮ろうとして、
緊張感でどうしていいかわからなくなった。
そうしたら「わからなくなった」が結果です。
そこでなんとかしようとすると、
もうどんどん深みにはまっていきます。
対談ならその内容に集中して、
「自分がこう感じました」というときにシャッターを切る。
これは、そもそもの話なんですけど、
「いい写真を撮ろうと思って写真を撮っても、
 写真にならない」んですね。
どういうことかっていうと、
写真を撮るってことは、物を見て、
「自分がこう感じました」っていう1つの結果なんです。

そしてもし、そんなことが少しでも写ったら、
その時点で、その写真は失敗ではありません。
結果として、もし連載の回数用に不足したとしても、
できあがったウェブページを見た時に、
読者に必ず「届く」と思うんです。

闇雲にバットを振ってもホームランは打てない。

「いっぱい撮っておけ、その中に使えるものがある」
というのは、ぼくは間違いだと思いますよ。
だったら「これだ」って思うときを待って、
じっくり1枚、確実に撮ったほうが絶対いい。
それで説明が足りなかったとしたら、
経験が足りないだけだから、しょうがない。
編集者がいくら
「いっぱい撮っておけば使えるものがある」
なんて言っても、だめなものはだめです。

徐々にできるようになればいいのではないでしょうか。

写真って、実はスポーツによく似ています。
いきなりホームランを打とうと思っても打てないですよね。
やっぱり常にこう、ミートする練習を繰り返す。
確実にバントを当てることができるようになる。
いきなりいつでもいい写真が撮れるようになるなんて、
野球をやったことがない人が力任せに
バットを振り回してるようなものですから。

いっぱい撮ることを課すと、
いっぱい撮ることに集中してしまいます。
それって闇雲にバットを振っている状態です。
もちろんホームランなんか絶対打てない。
まずはバットに当てるっていうことをやっていると、
たまに、偶然にもいい感じの当たりが出て、
結果としてヒットになって、
しかも、そこから確実に次につながりますよね。

 それは、撮る時には落ち着いて、
ぶれないように撮るってことでしょうか。

いや、その前に、
まずはゆっくり相手を「見る」ってことです。
そして、その時感じたことに正直に、
「今、何をこの場所で撮るべきなのか」と。
みんなの意見に振り回されないで、
自分がその場所で必然を作っていく、
関わりを作っていく。
たとえば、下世話な言い方をしますけど、
「このひとが好き」、それでもいいですよ。
それでも、そこで関係ができますよね。
なんでもいいので、そんなちょっとした
関係のようなものを一所懸命探していく。
だから、「ぶれないようにしよう」よりも、
「その内容に対して自分が興味を持てるか?」
って考える。たぶん、
「仕事として割り切ってやってるんですよね、」
というの人は、「ほぼ日」にはいないでしょう?
糸井さんがおっしゃっていたけれど、
頼まれた仕事は、
ほんとうに自分から頼んででもやりたい仕事かどうかを考えるって。
そうなれば、少しだけでも自分発の企画になるから、
「こうしたい」「ああしてやれ」って発想ができる。
カメラ1台でも、おんなじことなんです。

(つづきます)

2014-11-14-FRI