主役でもある竹久夢二役の沢田研二さんと、女将役の大楠道代さんの見開きページ。特に沢田研二さんの写真は、個人的には別カットの方がよかったかなあと思っていたのですが、いざこのレイアウトを初めて見た時、映画「夢二」を彷彿するストーリーが生まれてくるようで、ちょっとびっくりしました。これら2枚の写真は、撮影した場所だって屋外と屋内ですし、すべてが違うにも関わらず、こうやって並ぶと、違和感がありません。これも、写真のおもしろいところですね。
『switch』のページより

前回の「ノーファインダーで撮れ!」では、
「まっすぐの気持ちを忘れずに」ということでしたが、
続いて、荒木さんに教わったことで、
いまもぼくが鉄則のように守っていることの
2つ目は、三脚についてです。

『夢二』の現場で、ぼくは三脚を立てました。
沢田研二さんのスチールを撮る時でした。
今思うと、よくやってくださったなと思いますが、
沢田さんに、ススキ野原の奥のほうまで行ってもらって、
遠くからちょっと長い(望遠の)レンズで狙いました。

ススキ野原は、起伏があって、
ぼくが三脚を立てた場所も平坦な場所ではなく、
そのままだとちょっと曲がってしまいます。
それを、水平になるように、
水準器という器具を使って直していたら、
また、荒木さんのお叱りがありました。

「お前、だからだめなんだよ!」

ぼくは「えぇ?」と思って、
「なんでですか?」と聞き返しました。

すると、荒木さんが笑いながら近づいてきて、
「お前、今これ、一所懸命、真っ直ぐに直してただろう?
 下が平らじゃねぇんだから、そのままでいいんだ。
 傾いてるんだったら、傾いたまんま撮れ」

「あぁ、なるほどなぁ」と思って、
あらためてそのまま三脚を立てて撮影をしたのですが、
ページのレイアウトの都合で、
掲載は水平がとれたバージョンになりました。
けれども、写真的には、やっぱり
傾いたままのほうがよかったと思っています。

秩父の山の中に、ちょっとくぼんだところがあって、それはまるで、そのあたり一帯にひとつの大きな“ひだまり”のようでもありました。ぼくはその中に8x10のカメラを立てて、撮影しました。もちろん、水準器も使わずに、カメラをかまえて「そのまま、そのまま」。するとそのことで、そこにたまっていた光とともに、浮遊感のようなものが写りました。

こちらも同じ場所で撮影した写真ですが、こちらはたまたまぼくが立っていた場所が平らだったので、そのことで、この場所が斜面であることが写し出されました。こちらは、まるでその斜面を光が進んでいるかのように感じます。

ぼくはあの日以来、その教えをずっと守って、
基本的には水準器を使うことはしなくなりました。
8×10の大型カメラでも、
確認用には使ったりしますが、いきなりは使いません。

それでも、ついつい水平線だったり、
地平線だったりを、
生理的に真っ直ぐしてしまったりしますが、
けっして、それがわるい、
ということではないのだと思います。
ただ、あの時のように、
撮影したその場所が、“起伏がある”とか、
“斜面である”という場合は、
撮影者である自身も、
それに合わせて傾いているわけですから、
だったら、いっそのことそのまま撮ればいい。
──ということなのだとも思います。
すると、それだけで臨場感のようなものが生まれます。
しかも、三脚を立てているわけですから、
写し出される写真も、しっかりと、
安定した絵として“静止”します。
そうやって撮影された写真は、
あたかもその時空が静止したかのようで、
その分、ゆっくり見ることが出来るのです。
ですので、ある意味では、
“とても写真的な写真”といえるのかもしれませんね。

きっと荒木さんは、あの時、
「カメラを使うのであれば、絵づくりしないで、
 『写真』を撮れ」
ということを、教えてくれたのではないかと思っています。

一般的に、“三脚”を使うとなると、
露出的に暗い時だったりとか、
基本的には、「ブレないように」だったりしますが、
ぼくは、そうでなくとも三脚を使う時があります。
それは、なんとなくなのですが、
自身が写したいと思っているものの写り方が、
「うすいなあ」と思った時。

もちろん、あきらかな原因が
他にある場合もあるかもしれませんが、
これといった理由もなく、なんとなくそう感じた時は、
ちょっと面倒だったりするのですが、
三脚を立てて、写真を撮ることにしています。

すると、それだけで、今回お話しているように、
その場所、地面のようなものを感じることが出来ます。
「地に足がついた」感覚です。
そして、なによりも、それが、
“ゆっくりと”そして“じっくり”と、
見ることにつながります。
これもまた、正しい三脚の
使い方のひとつなのかもしれません。

サバンナの丘の上に立てた8x10の大型カメラ。三脚は通称“大ジッツォ”と呼ばれる、戦時中は機銃を乗せたりもしていたようなので、ものすごく重い三脚です。今でもぼくは大型カメラを使うときは、この安定感抜群の、かれこれ30年経つ傷だらけの“大ジッツォ”を使っています。

おすすめの三脚

基本的には“しっかりとした三脚”=“重たい三脚”だったりするのですが、ここ数年、カーボン製の三脚でしっかりしたものが出てきて、今ではすっかりそちらが主流になっているようです。ぼくもどこかに出かけるときは、「GITZO」トラベラーというモデルに、「UMEMOTO梅本製作所」の小さな自由雲台を付けて使っています。専用のケースに入れてもおよそ45センチほどなので、機内に持ち込めるカーゴケースの中にも入ってしまいます(*)。もちろん「GITZO」以外の三脚に雲台だけ付け替えてみるというのでも、いいかもしれませんね。 (*)編集部註 機内への三脚は、航空会社や路線により規定があります。基本的には畳んだ状態で60センチ以内なら持ち込み可とされていますが、かならず事前に御確認ください。


「GITZO」トラベラー
「UMEMOTO梅本製作所」

次回は、荒木経惟さんに教わったこと、その3です。

2014-10-03-FRI