その3 何をもって「写りがいい」と言うんだろう。

 
▲ 2013/08/04 11:21 @モエレ沼公園・北海道

カメラ GR

12年間日々続けている「今日の空」より。
先日、札幌のイサム・ノグチ氏設計の
「モエレ沼公園」にて行われた
「GR TOUR 2013」という
ワークショップで撮影した一枚です。
驚くことに、手前の雲と、奥の方にある雲が、
この写りを観ていてもよくわかるほど。
これは大きな進化だと思います。
そして、頂上付近にいる数人の人々も、
なんとなくではなく、しっかりと写っています。

 
 

写りがいいというのは、
見えてるものがしっかり写っているということです。
目では見えていたものが、
カメラで写してみたら、滲んでいたり、
流れていたりすることがあります。
デジタルカメラについている
小さな液晶画面ではわからなくとも、
パソコンで見てみたり、プリントをしてみたりして、
大きくなればなるほどわかってきます。
そうすると、なんだかととても残念な気持ちになる。

人間の目というのは、すごくよくできています。
パッと見た瞬間は視覚認識ができていなくても、
感覚認識はできているということがある。
例えば、地平線に木が生えていたとしますよね。
それは杉なのか、カエデなのか、
木のディテールのこまかいところまでは
わからなかったとしても、
針葉樹か落葉樹かは、わかったりする。
それが人の目です。
これが、デジタルカメラのズームレンズだと、
もう針葉樹だか、落葉樹だかわからないような感じで
写ってしまうことがあるんです。
けれども単焦点のレンズっていうのは違う。
「あ、杉だ」、「カエデだ」、
「クヌギだ」ってわかるくらい、ちゃんと写る。
ぼくが「まず単焦点のレンズ」を勧めるのには、
そんな理由があるんです。

 
▲カメラ GR

 

 
▲拡大部

青森県と秋田県にまたがる白神山地の中にある、
不思議な青色をたたえる“青池”。
その色彩と表情はとても繊細で、
それこそがこの湖の最大の魅力です。
普通のデジカメやiPhoneなどでは、
その色彩こそいい感じに写るのですが、
その繊細さはなかなかうまく写ってくれません。
しかし、なかなかの単焦点レンズを搭載している
この新しいGRでは、そんな水の瑞々しさが
写ってくるようになりました。
いいレンズに、いい空気なのですから、
うまく写って当たり前ではあるのですが、
後でパソコンで現像する際に気付いたのは、
なんとそこには、撮影時には目視出来ていなかった、
魚影がしっかりと写っていたことです。

 
 

トイカメラがブームになって、
「あんまり写りすぎないほうが、
 雰囲気が写る」って思う人たちもいるけれど、
僕は、やっぱりちゃんと写ってほしいのです。
トイカメラは「意外なふうに写って、おもしろい」
かもしれませんが、
「私が思っていた雰囲気がそのまま写る」
わけではありません。
僕はせっかく自分が見て「あぁっ」と思ったものを、
できるだけごまかしたくないし、
オブラートで包んで、別のものにしたくはない。
大事なものにする時には、ちゃんと大事にする、
それが、「印象がそのまま写ってる」ということです。

僕がずっと続けている「今日の空」は、
ほとんどリコーの「GR」で撮っていますが、
この「GR」には、28ミリ単焦点の
かなり本気でつくられた
しっかりしたレンズがついています。
リコーの「GR」は、
出た当時、唯一の単焦点のデジタルカメラでした。
その頃のデジタルカメラって、銀色で、
ズームレンズが付いて、
「便利ですよ」みたいなので売り出していたものばかり。
ぼくはそれがとても嫌でした。
「なんで銀色なんだよ」
「なんで、ピロロロロとか音するんだよ」
なんて思っていた時に、
非常にオーセンティックな、カメラらしいカメラとして
「GR」が出てきたわけです。
そして、一般的なデジタルカメラの画像の比率が
4対3だったなか、
「GR」は、デフォルトで3対2、
それはライカサイズと言われてる、
いわゆる35ミリのフイルムサイズの比率でした。
そのとき、僕は、いの一番に飛びつきました。

4対3というのは、感覚的に、昔のテレビのサイズです。
センサーがビデオ用に作られたものだから、
そのまま静止画の世界に入ってきたのでしょうね。
それまでズームレンズのデジタルカメラを使って、
「今日の空」を撮ってたんですけど、
「GR」にしてみたら、圧倒的に写りがいい。
それからずっと、僕は「GR」を
代替わりしてもなお、使い続けているわけです。

今までズームレンズを使っていた人が、
「GR」などの単焦点カメラを使うと、
当然、不便に感じるはずです。
「それしかない」わけですから。
だけど、その分、
ちゃんと写ってくれるっていう安心感がある。
とくに空なんていうのは、雲だとか光だとか、
目には見えるのにうまく写らないようなものが
多かったりする世界だから、
レンズがいいっていうのは、すごく大事なんです。

 

【トイカメラ】
最近では、ちょっとしたブームということもあって、その意味は多岐にわたっていますが、もともとは“LOMO”や“HOLGA”といった、ロシア製の、特にプラスチック製のレンズを使用したカメラのことを言います。“LOMO”などはガラス製のレンズを使用していることもあって、うまく条件が合えば、しっかりと写ることもありますが、基本的には、その少しゆるめの“低性能”ならではの写りが魅力なのではないでしょうか。

 
 
▲カメラ GR

 

 
▲拡大部

2013/05/25 07:13 @弘前・青森

これも「今日の空」の中からの一枚です。
あいにくの曇り空ではあるのですが、
実は曇り空というのは、太陽の光が雲によって
デュフューズされて、やわらかい光になることもあって、
写真にとっては、とても“写りのいい光”と言えるのです。
そんな光のおかげで、よく見てみると、
岩木山の山肌の表情もとてもきれいに写っています。
そして、空の光のグラデーション、
水面の映り込みの表情もとても自然で、
同時に細かいディテールもしっかりと写し出されています。
まさに「レンズの力」ということなのかもしれませんね。

 
  「GR」について話すと、
最新機種はすばらしい進化を遂げています。
まず、センサーが、今までの5、6倍、大きくなっている。
APS-Cという、
一眼レフカメラにも使われているサイズのセンサーで、
シグマの「DP」シリーズもほぼその大きさです。
そして、起動がメチャメチャ速い。
レンズもすごい。
撮ったまますぐ出せる画をつくります。
以前は、ちょっと色がぶれちゃうことがあって、
パソコンで修正をしなければいけないこともありましたが、
今回の「GR」は、そのままで大丈夫。
「GR」史上、最高じゃないでしょうか。

パッと撮って、そのまんま「いいね」っていうのは、
これまで、キヤノンの独断場でした。
キヤノンってそういう画づくりが上手なんですね。
「そうそうそう、こういう感じでした」っていう、
ちょうどいいところに持って行ってくれる。
ただ、ときどき、それは自分とは関係ない、
キヤノンっていう箱庭の中の色世界なんだって、
気が付いてしまう瞬間があって、
ちょっとそれが寂しかったりする時があります。
そんな点においても、
今回の「GR」は、非常にプレーンな印象です。


 
▲カメラ DP1 Merrile

北海道十勝地方における一枚です。
ここ十勝地方は、北海道一の農場でもあることもあって、
雄大な田園風景が拡がっています。
そんな大きな空の下での夕暮れ時は、時として
とても魅力的な表情を見せてくれることがあります、
この日は、快晴という程ではなかったのですが、
うっすらと雲がかかったような空が、
日没直前に一瞬だけ、ピンク色に染まりました。
もうかなり暗くなって来たこともあって、
三脚を立てて撮影をしました。
後程、パソコンで現像をしてみると、
手前の地面まできちんとピンク色に染まっていたり、
予想以上にその場の光が写っていました。
これはまさに“中判カメラ”の写りのように感じました。

 
  では、前述したシグマのDPシリーズはどうでしょう。
ほぼ同じ大きさのセンサー、同じ単焦点で、
「DP1 Merrill」なら画角は28ミリと、
「GR」とまったく同じ画角です。
けれどもこの2台のカメラは
「目的が違う」と思ったほうがいい。
一見、どちらも黒くて小っちゃくて、価格帯も近いから、
そこがすごくわかりづらくなっちゃってるんですけれども。

「GR」のセンサーは
23.7mm×15.7mmサイズのCMOSで、
有効画素数約1,620万画素。
「DP」シリーズのフォビオンセンサーは、
23.5×15.7mm、RGBの3層になっているので、
有効画素数が4,600万画素です。
けれども、あくまでの僕の感覚ですが、
実感としては×3ではなく、×1.5くらい。
2300万画素くらいかな、というのが実感です。

でも、このコンパクトなカメラの世界の中で
1000万以上の画素数っていうのは、すごく大きくて、
それがさらに2000万画素を超える感覚になると、
一般的なフイルムより大きなフイルムを使う
中判カメラ」に近いのですね。
そう、シグマのカメラは、まさしくデジタルの
中判カメラだと思っていいと思います。
「GR」は、いわゆるコンデジで、
ポケットに入れて、パッと使うカメラですから、
スナップシュートに向いている。
「DP」とは用途がまったく違うと思います。

フイルムの中判カメラは、
ブローニーフイルムという大きなフイルムを使うんですが、
1ロール、35ミリだと36枚撮れるところが、
67サイズだと、10枚しか撮れないんですね。
そういうカメラを使う時は、やっぱり丁寧に撮る。
1枚1枚、対象をしっかり見て、
ゆっくりシャッターを押す。
「DP」シリーズも、起動からピント合わせ、
書き込みまですごくゆっくりだし、ぶれやすい。
だから中判カメラと同じように、
丁寧に撮ればいいわけです。
ときには三脚につけて撮ってもいい。
そういうカメラだと思ってください。
現像ソフトも特別なものが必要ですが、
そのソフトも、そんなに難しくないし、
現像結果も、使い勝手もすごくよく出来ています。
それも含めて、とにかく、
ゆっくり、ゆっくり、が基本です。

「写りがいい」とか、わるいとかというのは、
ぱっと見はもちろんのことなのですが、
むしろ、ゆっくり、じっくり観た時に、
粗が見えてこないであるとか、
むしろ、じんわり感じるものがあるとか、
そんな風に感じることが出来る写真のことを
「写りがいい」写真だと言うのではないでしょうか。

次回は、その「写り」はもちろんのこと、
何とも言えない永遠の魅力を持っている
ぼくも大好きな「ライカ」のお話をします。

 

【中判カメラ】
一般的には、ブローニフイルムという幅6センチのフイルムを使用するカメラのことを指します。通常のフイルムの幅が約2.5センチですので、同じ比率の場合の面積は、5倍以上となりますので、特に拡大した際の描写力は圧倒的に異なります。その描写力こそが、中判カメラの魅力です。

 
2013-09-19-THU
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