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第18回 写真はカメラが撮るものではなくて、
     レンズが撮るもの。



01/04/2006 Koganei Kouen, Tokyo
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東京の桜は、すっかり葉桜になってしまいました。
それでも今年の桜は、昨年に比べると、
ゆっくりと楽しむことが出来ましたよね。

第16回で、皆さんにも
「早朝の桜を観に行きましょう」
とお話ししましたが、
ぼくも改めて、そのことを確かめてみようと
早朝の小金井公園に出かけてみました。

ぼくは毎年、小金井公園の中で、
湿板写真で桜の花を撮っているのですが、
今年は、先日の番外編で「秋葉原編」のレポートがあった
「東京観光写真倶楽部」の撮影会もあったので、
だったらと、その日はちょっと早起きして、
集合時間の前に小金井公園に向かいました。

そして、そこで第16回でもお話しした
“桜の花びらが紫外線を乱反射させている”
という事実を、偶然にも、
とてもわかりやすいかたちで、
写すことが出来ました。
そこで今回は、その作例をもとに、
レンズのお話をしたいと思います。

レンズによって、こんなに描写がかわります。

その日の、ぼくのカメラ機材は、
いつものように「Leica M3」
それに最近、持ち歩いている
デジタル一眼「Nikon D50」。

写真を撮るという行為の中で、
みなさんも、
「どのカメラで撮ったか」という話になっても、
なかなか、
「どのレンズで撮ったか」という話には
なりませんよね。

でも、実は、このレンズというものが、
写すということに関しては、
そのすべてを担っているのです。

この2枚の写真を見比べてみて下さい。


カメラ:Leica M3(アナログ)
レンズ:Hektor 50mm
フイルム:Fuji PRO400
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カメラ:Nikon D50(デジタル)
レンズ:AF-S Nikkor 18-55mm(40mm)


このように、たとえモニターの画面上であっても、
その違いは、一目瞭然ですよね。

1枚目の写真は、
ライカに「Hextor(ヘクトール)」という
沈胴式(ボディーの内部に収納されるように引っ込む)
と呼ばれる、古いタイプのレンズで
撮ってみたものです。



一見、ソフトフォーカスレンズのような
描写をしていますが、
よく見ていただくと、
見事なほどに、桜の花びら以外は
それなりにシャープなのがわかりますよね。

それに対して、2枚目の写真は、
コンシューマー向けのニコンのデジタル一眼に、
標準ズームレンズという
一般的な組み合わせで撮ったものです。

確かに、最近のデジタルカメラの画質の向上には
目を見張るものがあります。
“高精細”という点では、以前の写真に比べると
圧倒的に、その精度は高くなっています。

にもかかわらず、
いくら、写真の精度が上がったからといって、
その印象も、常に向上していくのかというと、
そうでもなかったりするものなので、
ある意味、とても不思議なことですよね。
その具体的な理由については、
また改めてお話ししたいと思っていますが、
とにかく今回、
知っておいてもらいたいと思ったのは、
このように、同じ被写体であっても、
レンズによって、その見え方は
こんなにも大きく変わるということです。

「こう写したい」と思ったところから
うまれるもの。


だからといって、そういった光学的な事実を
具体的に知ることが大切だ、
と思っているわけではありません。

レンズによって描写が変わるという事実を知っていると、
あなたが、被写体と向かい合うときに、
「どのように見えるのか」
「どのように感じているのか」
「どう写したいと思っているのか」
ということを、思い出して、
撮って欲しいと思っているのです。

そう、大切なのは、
どう写るか、ではなくて、
どう写すか。

ぼくは以前から、桜にたいして、
とても「ぼんやり」とした印象を持って見ていました。
しかし、いざ写真に撮ると、
その「ぼんやり」とした印象は
なかなかうまく写ってくれません。
しかし、それでもなんとか写してみたくて、
湿板という手法を使ってきたりしました。

それが今回、こうやってレンズを変えたことで、
偶然、そのぼんやりした感じが写ったのです。
この2枚の写真を比較した場合、
ぼく自身は、圧倒的にこの「Hextor」で撮影された
写真の方に惹かれますが、
だからといって、その理由にしても
もし、もともと感じていたことでなかったとしたら、
きっとこの写真も、ただの“変わった写真”
ということになってしまいますよね。
(昨今の「HOLGA」[すべてプラスチックで出来た、
 ロシア製のもっとも人気のあるトイカメラ]に代表される
 トイカメラ・ブームにしても、
 いいところと、悪いところがあって、
 “何となく変わった写真”を撮るために使ったのでは
 あまり意味がないとぼくは思っています。)

もしも、あなたが感じたように写っていないな、
あるいは、なかなか上手く写らないな、
と思ったときに、
このレンズの問題を、思い出してみて下さい。
そしてゆっくり、少しずつで構わないので、
現在、あなたのカメラについている
レンズの特徴みたいなものを、
考えてみて欲しいと思っています。
持っているカメラのレンズの特徴が
少しでもわかったら、
おそらく撮影前の印象と、撮影後の印象を、
少しでも近づけることに役立つはずです。

実は、驚くほどに
世の中には、多くの種類のレンズが存在しています。
それは言い換えると、それ程に
ものごとに対する印象というのは、
多種多様ということなのかもしれませんね。
同じように、それ程に
ものごとに対する感じ方というのも
人によって、様々なわけです。

それを同じカメラと、同じレンズを使って
表現しようとしたところで、
必ず限界が生まれてしまいます。
もちろん、レンズを変えてみたり、
カメラそのものを変えてみるのも
写真を変える方法のひとつではあるのですが、
なかなかそういうわけにもいきませんよね。

だから、写真を撮るときに、
使っているレンズのことをすこしだけ気にしてみる。
自分自身が、そのレンズになったような気になって
シャッターを切ってみましょう。
そうやって、各自が“自分というレンズ”を通して
見えた、写った世界というのは、
かならず、あなたならではの写真に
なっているはずなのです。



あなたのカメラについているレンズのことを
ちょっと考えてみよう。
どんな特徴があるんだろう。
どんな個性があるんだろう。
やさしいのかな、イジワルなのかな。
何を撮るのが得意なんだろう。
そんなことを考えて、
自分がレンズになったような気持ちで
シャッターを押してみよう。
そのとき、かならず「あなたらしい」1枚が
撮れているはずだから。



01/04/2006 Koganei Kouen
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次回は、
「きっと、偶然なんてものはない」
というお話です。お楽しみに。


2006-04-14-FRI
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