PHILADELPHIA
遙か彼方で働くひとよ。
ニューヨークの病院からの手紙。

手紙140 家庭内暴力・11 おわりに(1)

こんにちは。

先日、久しぶりに会った友達と話しているときに
「ねえ、どうして家庭内暴力について
書こうと思ったの?」と尋ねられました。

このシリーズの最初でご紹介したように、
外来で上司の先生が胸につけていた
「もし、あなたが暴力を受けているのなら
わたしにそのことを話してください。
力になります」

という缶バッジを見せてもらって
医師が家庭内暴力の予防に携わることができるんだ、
ということを学んだのが
そもそもの始まりなのですが、
それはもう3年半くらい前のことで、
折りに触れて思い出してはいたものの
とりたてて、このことに関して
「ほぼ日」でお話をするつもりはありませんでした。

ところが、昨年、親しい友人のひとりが
「夫から暴力を受けている」と打ち明けてくれました。

自分の身近な人が、
そんな辛い目にあっている、ということを知るのは
すごくショックで、とても悲しいことでした。

しかも、彼女が少しずつ話してくれた経験を聞くにつれ、
友人として、というだけでなく、
健康の分野で働く者でありながら
それに気づけなかったことが本当に申し訳なく、
深く後悔することになりました。

「開いていた戸棚の扉の角にぶつけたの」と
頬にできたあざについて話してくれたときも、
彼に殴られた、なんて疑いもせず、
「危なかったねえ。気をつけてね。」
としか言えなかったし、
「今度から、電話は携帯にだけかけてくれる?」
と言われた時も、
まさか誰にも言わずに家を出て
アパートを借りていた、とは思いもよらず、
「家の電話はインターネットにつないでるのかな」
というくらいにしか思っていませんでした。

「何度も美和子たちに話そうと思ったんだけど、
迷惑をかける、と思うと
なかなか切り出せなかったの」という
彼女の優しい思いやりに、
聞いているわたしたちは泣きそうになりました。

ついに彼女が詳しく話してくれた
夫にふるわれている暴力の内容は、
わたしが「知識としては知っていた」、
家庭内暴力の3つのステップ
そのまま踏襲するものでした。

「知っていたのに、それが必要なときに
使うことができなかった」という自分に、
とてもがっかりしてしまいました。

ですから、今回のシリーズは
知っていることを、実際に使えるようになるために
読んでくださる方へ、というよりも、
むしろ自分に向けて、書いていたようなものです。

と、いうわけで
長々と続けてきたこのシリーズですが、
思いがけなくたくさんの方々から
メールをいただいています。
中には、ここでいくつかご紹介したような
ご自分の辛い思い出を語ってくださったものもありました。
本当にありがとうございました。

友人の話については、続きがもう少しあります。
それは、次回にまわすことにして
今日はこの辺で。

みなさまどうぞお元気で。

本田美和子

2002-04-14-SUN

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