#11ピーター・ティールと糸井重里の対談:日本は驚くほど世界と異なっている

糸井
どのような組織にとっても
「使命感(Sense of mission)」 というのは
なくてはならないものなのですね。
ティール
使命感は、とても有用だと思います。
どのような企業にも
「成功する前の時期」というのがあります。
問題は、その成功していない時期に、
「いったいなにが前へ進む原動力となるか?」
ということです。そのときに、
その企業が「使命感」を持っているかどうか。
それはたいへん大きなことだと思います。
たとえば、こんなふうに考えてみましょう。
多くの人が「起業はクールだ」と言いますね。
やはり創業者になるのはカッコいいです。
では、10人目、20人目として、その会社に
入ってくる人たちはどうなんでしょう?
10人目、20人目が入社するころというのは、
おそらく、その会社がまだ
十分には成功していない段階です。
「お金が欲しい!」という人がその段階で
入ってくるということはあまりないでしょう。
ですから、創業者から10人目、20人目の
仲間が入社する段階では、
「ここで働きたい!」と強く思える
動機となるような、非常に説得力のある物語、
本気のストーリーが組織に必要だと思います。
その意味では、本気のストーリーや、
「使命感」がなければ、その会社が
つぎの段階に行くことはできないでしょう。
糸井
なるほど。
ティール
未来は、ただ自動的に、
瞬間的に起こるものではありません。
よりよい将来を築いていくためには、
さまざまな人々の協業、インスピレーション、
そして動機が必要です。
スティーブ・ジョブズ氏を考えてみてください。
ジョブズ氏の伝記が書かれていますが、
それを読むと、彼が上司として
非常に意地悪だったりとか、
けっこうひどい話もありますよね。
シリコンバレーでは、
中間管理職が部下にこのジョブズの伝記を渡して、
「私もジョブズみたいに、
 少し意地悪な上司になるかもしれない」
と示唆するというようなことが
流行っていると聞いたことがあります。
でも、ジョブスから学ぶべき点は、そこではない。
仮に部下を怒鳴りつけたとして、
なぜ部下がそれを我慢することができるのか?
それは、厳しいことを言われても
上司にやる気をかきたてられる
なにか新しいことが感じられるから。
「この人にはほかの人とは違うなにかがある」
と思わせることがあるからです。
ジョブズはiPhoneを生み出ましたけれども、
瞬時に生まれたわけではありません。
何年もかかって社内外の協業を実現し、
サプライチェーンを少しずつ構築するなかで
やっと生まれてきたのです。
アメリカでは、そういうふうに
じっくり時間をかけて取り組むことが
減ってしまっているのですが、
それだけに、ジョブズのそういう一面は、
私たちに大きな示唆をを与えてくれると思います。
糸井
だんだん時間もなくなってきました。
お話をうかがっていると、
いま、ティールさんには
世界のいろんなことが見えている
という気がするんですが、
いま、怖いものって、なにかありますか?
ティール
たくさんありますよ(笑)。
なにも怖いものがないなんてことはありません。
私はもちろん失敗を恐れています。
またここに立ち戻ってきますが、
失敗というのは、非常に失望させられますし、
自分のやる気をくじいてしまいます。
私は、自分の本の中で、
「新しいことを考えよう」と主張しているので、
よく、聴衆から、
「いま、新しい考えをひとつ教えてください!」
というふうに言われるんですが、
新しい考えをみなさんに披露するというのは、
とても怖いことだと思っています。
いま、こうしてみなさんに、
つぎつぎに自分の考えを話すということ自体、
ちょっと怯えてしまうようなことでもあるのです。
糸井
しかも、本にしっかり書いた新しい考えを、
また、かいつまんで
話さなければならないわけですし(笑)。
ティール
そうですね(笑)。
もちろん講演すること自体は楽しいんですけど。
糸井
わかりました。
せっかくこうして日本に来ても、
きっとあちこち見て回る時間も
とれないと思うんですけど、
日本に来てから、特別に思ったこととか、
感じたこととか、あったら最後に教えてください。
ま、なくてもいいですけど(笑)。
一同
(笑)
ティール
ひとつ、直感的に「あれ?」と
違和感を感じたことがあります。
昨日、東京でこんな質問を受けたんです。
「日本の文化はイミテーション、
 モノマネの文化だと言われているが、
 それについてどう思うか?」と。
日本の文化がイミテーションであるということを
その人はごく一般的な
考えであるように言ってましたが、
私は、そうではないと思いました。
日本は、決してイミテーションやコピーではない。
日本は驚くほど世界と異なっていると思いますし、
挑発的な表現をするならば、
むしろ、世界のほかの国々から、
もっとも影響を受けてない国だと私は思います。
日本の現在文化にはクリエイティビティがあり、
多くのものが創造されています。
たとえば明治時代、あるいは1950年代、1960年代、
欧米のマネをして
安価なものがつくられた時代があり、
アメリカでもそのようなイメージが一般的でした。
しかし、2015年の日本は、
まったくそうではないと私は思います。
日本の人たちは世界に対しての意識が高く、
それでいてほかの国の文化に
決してとらわれることがない。
ITの分野においては、
多少の模倣があるかもしれませんが、
自国と他国の切り離しはできていると思います。
つまり、日本は世界とまったく異なっている。
実際に、日本のような世界観を持つ国は、
世界に少ないと思います。
アメリカはいま、新しいことを
十分に行ってないと感じる私からすると、
それはアメリカに対する
ある種の宣告のようにも受け取れます。
かつて日本は欧米をマネしようと
してきたかもしれませんが、
いま、そういった国々の進歩は滞っています。
ですから、これまでは
常識のように言われてきたことに
反論すべきだと私は思います。
「日本はモノマネ文化だ」と
以前は言われたかもしれませんが、
いまはもう違うセオリーで語る必要がある。
むしろ、「グローバリゼーションから
もっとも影響を受けてない国」といった
観点からとらえていくべきだと思います。
糸井
いや、本当にありがとうございます。
「日本は大いに世界と異なっている」っていう、
勇気づけられる感想をいただきました。
どうも時間みたいなんで、終わりますね。
今日は、どうもありがとうございました。
(観客席に向かって)
今日は対談ですって言ってたけど、
ちょっとウソだったね(笑)。
どうもありがとうございました。

(ピーター・ティールさんのお話は今回で終了です。
 最後までお読みいただき、
 ありがとうございました。)

協力:株式会社タトル・モリエイジェンシー
2015-05-01-FRI

書籍紹介

ZERO to ONE
ゼロ・トゥ・ワンー君はゼロから何を生み出せるか

ピーター・ティール

出版社:NHK出版
定価:1600円+税
ISBN-10: 4140816589
ISBN-13: 978-4140816585

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