あの会社のお仕事。TOTO株式会社 篇

外国の人に褒められてうれしいものに、
日本のトイレがあると思います。
きれいで、快適で、デザインもよくて、
勝手に水まで流れたりして。
今や「くつろぎの空間」ですよね。
でも、そこって、ほんの何十年か前までは、
「暗い・汚い・寒い」の代名詞だった場所。
日本のトイレは、いつからこうなった?
このおもてなし感覚、日本独自なの?
仲畑貴志さんの名コピー
「おしりだって、洗ってほしい。」で有名な
「ウォシュレット」をはじめ、
さまざまなイノベーションを起こしてきた
TOTO株式会社の麻生泰一常務に、
トイレのお話、いろいろうかがってきました。
土を焼いてつくる便器が、
職人さんの手先で仕上げられていくところも、
うわあ、すごいなあって思います。
全部で5回、担当は「ほぼ日」奥野です。

>麻生泰一さんのプロフィール

第3回 信頼を、どうやってつくるか。
──
TOTOさんで大切にされている考えには
「親切、良品、満足、信用」
などがあると教えていただきましたが、
「利益」について、
もう少し、お考えをお聞かせください。
麻生
ある意味で、「需要家の満足が実体」で
「利益が影」というと、
きれいごとにも聞こえるわけですが、
わたしたちは、当然、
利益を追求しませんとは、言ってません。

ただ、いま、TOTOでは、日本以外にも、
18の国と地域に、32の拠点があります。
衛生陶器の工場に限って言えば、
海外の8つの国と地域に12の工場が建ってます。
──
そんなにも、世界中に。
麻生
でね、衛生陶器の工場というのは、
これは、大きな声では言えませんけども、
初期投資に莫大なお金がかかるので、
建ってから長い間、
もうけの出ない状態が続くんですよ。

つまり、何年も先を見据えながら、
その国や地域に根づいて、
少しずつ、少しずつ、
市場やお客さんを、つくっていくんです。
──
そうなんですか。
門外不出、陶器の原料の調合表。TOTOミュージアム所蔵。
麻生
わたしたちが、新しいお客さんを求めて
海外へ出ていくときには、
まずは、たとえば空港をはじめとした
大きな公共施設、
商業施設にねらいを定めるわけですよね。

あるていど売れ出したら事務所をつくり、
販売拠点を整え、販売ルートを開拓し、
最終的には工場を建てて、
事業をさらに拡大していくわけですけど。
──
ええ。
麻生
さっきも言いましたように、
衛生陶器の工場は、
建ってしばらく「真っ赤っ赤」なんです。

その状態を何年か引っ張りながら、
じょじょに、もうけを出していくんです。
──
ある意味、すごく「地道」なんですね。
麻生
これは、現地に工場を建てることで、
現地に根付きたいと思っているからですが、
そんな時間のかかることをせず、
大ヒット商品をね、
ドドーンと輸出して大量に持っていって、
サーッと市場をさらってくることも、
正直ね、うちの商品力ならできるんですよ。
──
ええ。わざわざ工場を建てずに。
麻生
でも、わたしたちは、そうしないんです。

なぜかと言うと、
現地に根を下ろして現地とともに発展し、
他ならぬ現地の人たちに
必要とされる会社に、なりたいからです。
──
なるほど。「必要とされる会社」。
麻生
で、20年や30年という時間をかけて、
現地の人たちと
密にお付き合いさせていただきながら、
しっかり、もうけさせていただく。
──
短期的な利益の追求、みたいな考えとは
まったく反対なわけですから、
バリバリの投資家さんみたいな人からは‥‥。
麻生
まどろっこしいことをやってるなあって、
見えるかもしれませんね。

でも、仮にそう思われたとしても、
その国にじっくり腰を据え、
どうぞ長く付き合っていきませんかって、
そういうやりかたをしてきました。
──
つまり、そっちのほうがいいと思うから、
そうされているわけですよね。
麻生
それは、ひとつには、
絶対に負けない自信があるからです。

つまり、大きなお金を出して工場を建てて、
30年からの年月が過ぎたときに、
どこにも負けない、
現地に必要とされている会社になっとるね、
そういう自信があるんです。
──
その自信の源は、やはり「商品力」ですか。
麻生
変な話、海外には
ものすごい素早さで新商品を真似してくる、
そういう人たちもいるんですよ。
──
便器の世界にも、コピー商品が。
麻生
全体の精度や品質は、
わたしども製品の比じゃないんですけど、
デザイン面はもちろん、
TOTOでは、トイレの穴の形状をはじめ、
汚物を流す機構全体のことを
「洗浄エンジン」と呼んでますが、
そこまで、すっかりコピーしとるんです。
──
ええ。へぇー‥‥。
麻生
で、そのとき、TOTOだけじゃなくて、
ヨーロッパの優良メーカーのコピーなんかも
出回るんですけど、
中でも、うちの便器のコピー品が、
いちばん性能がいいって言うんですよ(笑)。
──
すごい。‥‥複雑だとは思いますけど(笑)。
麻生
そうそう、コピーされてるわけだから、
よろこんでる場合じゃないんだけど。
──
悪い気はしない‥‥ような(笑)。
麻生
そういう意味で、商品力に自信はあるけれど、
日本人の営業マンが急に来て、
こんなに素晴らしいから、
ぜひ便器を買ってくれって言ったとしてもね、
相手は、必ずこう思いますよ。

「この人たち、いつまでいるんだろう」って。
──
ああー、なるほど。
麻生
いくら、熱血の営業マンが熱心に
「この地に骨をうずめるつもりでやります!」
とか何とか言ったって、
売れなければ撤退するのは当然だから、
やっぱり、なかなか信用してもらえないです。

でも、現地にでっかい工場を建てちゃったら、
現地のみなさんだって、さすがに
「ちょっとやそっとじゃ、引かんやろう」と。
──
工場は、現地の人たちに対する覚悟と言うか、
メッセージにもなっているんですね。
麻生
時代遅れのように聞こえるかもしれませんが、
わたしたちにとっては、
工場というのは、ひとつのシンボルです。

現地のみなさんに信用していただくためには、
「この土地に根を下ろして、
 みなさんと一緒に発展していきたいんです」
という宣言が、どうしても要るんです。
──
買う側にも安心感が生まれますよね。
麻生
販売店さんの気持ちだって、
工場があるのとないのとじゃ、ちがいますよ。

あれば「がんばって、売っていきましょう」
という話になりますし、
工場の中を隅々までご案内しながら
「われわれは、こんなものづくりしてます」
という姿を、見てもらえますからね。
──
まさに、地に足をつけた信頼づくりですね。
麻生
ですから「利益」について言ったらね、
すべてが「きれいごと」でやってないですよ。
きちんと、もうけさせていただきます。

でも、利益ばっかりでやってないのも本当で。
──
なるほど。
麻生
創業当時もそうですし、今もそうなんですが、
やはり親切が第一で、需要家の満足が第一。

追い求めるものは、
利益じゃなくて、お客さんの信用を得ること。
──
はい。
麻生
そうすることによって、
しっかりと商売を土地に根付かせていって、
長い時間をかけてでも、
豊かな生活文化の助けになるような仕事を、
その土地その土地へ広げていく。

TOTOが、100年も続けてこられたのには、
そういう地道さにも理由があると思います。
<続きます>
※「ウォシュレット」はTOTO株式会社の登録商標です。
2017-12-02-SAT