ルールを原始的に。 ルディー和子さんと、お金と性と消費の話。
 
第6回 お金を使う人、使われちゃう人。
ルディー 報酬系って、もともとは、
たとえば、好きな食べ物を食べてるときに、
すごく活性化してるんですが、
それがだんだん動機づけになるんです。
好きな食べ物を手に入れるために
一所懸命働けと促す役目を果たすようになるんです。
どちらかっていうと、
手に入れられるかもと期待するときのほうが、
活性化するようになる。
お金もおなじで、
手に入れられるぞ、って
期待するときの方が活性化するんですね。
それはつまりなぜ人間ってこんなに
金に関して強欲になるのかっていう話で、
100万円を手に入れられるかもしれない、
っていう期待をしてるとき、
報酬系の活性度がすごく高いんですね。
でも、実際に手に入っちゃうと、
それほどでもないんですよ。
活性度が下がるんです。
糸井 うん。
ルディー つまり、人間にしてみると、
期待をしてるときがいちばん楽しい。
さきほど糸井さんがおっしゃった
「本」もちょっとそういうところありますよね。
糸井 あります、あります。
ルディー 期待してるときのほうが、いちばん楽しくって、
実際に手に入れちゃったら、
「ああ、手に入った。そのうち読もう」
っていうのとおなじで、
お金も、「ああ手に入った」って思うと、
もう、このスリル感とか、
わくわく感がなくなっちゃうんで、
もっとお金が欲しいって思っちゃうんですよね。
糸井 ちょうど、ニンフォマニアみたいなものですよね。
満足ができないってことを繰り返していく。
ルディー 食べる物とかなんかは、
そうは言っても限度はあって
お腹壊しちゃったりするし。
糸井 これ以上食べられない。
ルディー メタボになっちゃったりするので(笑)。
でもお金は限度がないんですよ。
特にいま、株券にしても何にしても。
糸井 数字だけですもん。
ルディー そう、数字だけなんです。
糸井 昔の人が、お金をくれるときに、
「あって困るもんじゃないし、
 荷物になるわけじゃないし」
って言い方をしてたけれど、
あれは名セリフですよね。
ルディー ほんとです。はい。
糸井 「あって困るもんじゃないし」
っていうのはねぇ、
あれは、子ども心に、そうだなぁ、
と思いましたもんね。
みんなが納得できるセリフですよね。
その言葉も肥大化しますよね。
ルディー お金に関することわざって
だいたいあってますね。
糸井 見事ですね。
お金は寂しがり屋だっていうのもそうですしね。
あるところに集まるっていう。
その通りだと思う。
で、それで、なんだろう、
ぼくはお金について考えることをやめた、
って覚えがあったんですよ。
ルディー はい。
糸井 途中までは、わかんなかったんです。
お金を考えることそのものを、
考えないようにしてる、
ってことにさえ、無意識だった。
お金についてまじめに考えると、
丸裸になっちゃうような気がしたんですね。
ルディー はい。
糸井 それがなんだか怖くて。
自分っていうのは、
どっかでわかんないところがないと、
「たかが知れた自分」が見えてきちゃうのが、
いやだったんです。
だからお金を考えないで、ずーっときた。
で、見栄を張って、
気っ風がいいだの、使いっぷりがいいだの、
そう言われることがいちばんうれしくて、
まぁ、男の子の、
中学生が大きくなった形ですよね。
で、それだと、やっぱり、どっかで、
ウソついたまま行っちゃうぞ、ってなって、
お金について考えるようになったら、
ああー、そうか、みんな、
とんでもない幻想の中に生きてるな、
お金っていうことに対して、
コンプレックスが抜けないままに死んじゃう人が
ほとんどだなと思いました。
それで、ちゃんと考えると
楽になるんだろうなぁ、
って、考えはじめたんです。
ルディー お金の額に関係なく、お金を使う人と、
使われる人っているじゃないですか。
糸井 ああー。
ルディー お金に使われちゃう人。
周りの人を見ても、
お金持ちかどうかは関係なく、
お金に使われちゃいけないんじゃないか、
お金は、使わなくちゃいけないと思うんです。
そういった意味もあるから、
ほんとにお金って哲学を持たないと。
お金に溺れるって言い方する人もいますけど、
お金のほうが、なんか雇い主で
使用人みたいになっちゃうこともある。
糸井 うんうん。
そうですね。
お金持ちかどうか、関係なくそうですよね。
ルディー はい。
糸井 お金持ちじゃない人のほうが、
その機会には会いやすいですよね。
なくて困るっていうのは、
生存の不安までスイッチが入るんでしょうね。
きっとね。
やっぱり、ないときの、漠然とした、
自分が社会に受け入れられてないんじゃないか、
っていう、被害妄想みたいなものっていうのは、
それこそ、ネガティブがスパイラルを描いて
誰かがオレを不遇にしてるんじゃないか、みたいな。
そう考えると、人を恨んでばっかりになっちゃうから、
ますます、手にいれるチャンスがなくなる。
これ、たぶん、肉の奪い合いでもきっと、
どうせオレには分け前がこないんだ
とか思ってたら、ずっとそうなりますよね。
ルディー 人間が、150人ぐらいのグループで
群を作って暮らしてたときに、
公正感、公平感、民主主義が生まれたのは、
狩りでとってきたお肉の分け前に関係しますね。
みんなだいたい公平に分けるように、
っていう考え方になっていかないと、
妬みの感情が出てくるし、
最悪、村八分になっちゃうし。
つい最近、日本の
大学の教授の方が発表したんですけど、
世界各国のいろんなデータを調べると、
格差社会がひろがり、
お金持ちとそうでない人が増えれば増えるほど、
高額所得者の死亡率も高くなるっていうんですよ。
それは、やっぱり、ストレスを感じるからだって。
金持ちって、特にこういうふうに不況になってくると、
お金を使うことに罪悪感も感じるし、
そういったことが慢性ストレスになるし、
それからもちろん
妬みの気持ちが出てくると犯罪も増えるから、
それもストレスになってる。
だから、格差社会になってる社会ほど、
高額所得者の死亡率が高い、
という発表がありました。
糸井 ほう。
ルディー その通りだな、と。
だから、やっぱり、ある程度、
公平な社会になっていくほうが、
結局、お金持ちにとってもいい。
報酬系って、
お金にももちろん活性化するんですけど、
社会的名誉とかにも関係するんです。
特にアメリカとか、ヨーロッパだと、
格差社会はもともと前からあるんで、
お金持ちになるほど、分けあって、
上になればなるほど、
ビル・ゲイツなんかそうですけど、
いろいろと寄付したり。
それはもうすごい正しい方向で、
やっぱり、ある程度行っちゃったら、
次はそちらのほうに行く。
糸井 贈与って形を取りますね。
ルディー はい。
そういうことを派手にやること自体が
報酬系を活性化するわけだから、
お金持ちは慈善行為をするときは、
みんなに知ってもらいたいわけですよ。
でも、日本でそれを
うまく受け入れないところあるじゃないですか。
税金も控除にならないし、
なんか、名前を売るために、売名行為で
寄付したとかって、なっちゃって、
だから寄付しても余り表に出せない。
それじゃ、報酬系が活性化しないんですよね。
糸井 うんうん。
ルディー だから、IT長者なんか出たときに、
ああいう人たちに、
なるべくお金を使ってもらうために、
そういう場を作るとか、
その人たちが、お金を寄付したときに、
それをちゃんと新聞社も
好意をもって書くとかですね、
そうすることによって、
富が配分されるようにしないと。
糸井 うーん。
なんないだろうねぇ(笑)。
ルディー でも、そうしないと、
お金寄付しないですよね。
みんなに知られなかったら
活性化にならないんですから。
糸井 その辺は、ぼくも、
自分がお金持ってるわけじゃなくても、
ずーっと考えてることなんです。

(つづきます)
2010-07-19-MON
前へ このコンテンツのトップへ 次へ
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN