原田泳幸さんと、 価値について。 「人間の価値ってお金じゃないんです」
第8回 不満足こそが知恵の原点
糸井 最後に原田さんにとってのお金の話を
聞かせていただけませんか?
原田 私のですか?
糸井 そうです。いままでの話って、
社長としてのお話だったと思うんですが、
一個人としての意見をお願いしたいんです。
原田 そうですねぇ‥‥。
少なくとも私は
コツコツ貯めるようなタイプの人間じゃないですね。
ある程度お金を手にしたなら
使わないと、と思っています。
糸井 じゃあ、ある程度のお金は欲しい?
原田 えぇ、ある程度は欲しいですね。
溜めるよりは使うほうがうれしいタイプですから。
その使い方についていうと、
たとえば、何か、ものを買うときに
ほかと比較するとか、もう一度帰って考えるとか
あまりそういうことしないんです。
見た瞬間に自分の尺度に合ったら、
それで決定しちゃうんです。
糸井 せっかちですね(笑)。
原田 そうなんです。
しかも重度の(笑)。
糸井 滞っている状態が嫌なんでしょうか。
原田 そうです、そうです。
たとえば、若いときに土地を買いましてね、
そこにどんな家を建てようかと
数種類の家の見取り図のパンフレットを
見ながら、じっくり考えていたんです。
糸井 うんうん。
原田 そうしたら、
「ここの段差どうなっていた?」とか
「あそこの寸法にこれは入るか?」とか
わかんないことがどんどん出てきてしまった。
あれこれ考えていくうちに、
もう、いてもたってもいられなくなって
夜中の1時にメジャー持って
測りに行っちゃいましたよ。
糸井 土地まで行って?
原田 そう。
夜中にメジャーを当てて。
糸井 それはひどい(笑)。
原田 もうね、そのくらいせっかち。
課題を残したり、
決定を先延ばしにするのが大嫌いなんですよ。
糸井 そういう人が
ファーストフードの社長をやっているってことが
おもしろいですよ。
原田 (笑)。
あと、私個人のお金の話でいうと、
自分の人生を振り返ってみて、
「あのとき、ああしてれば
 もっと多くのお金を手にしていたな」
ということが、あるんですね。
糸井 あ、そういうことが。具体的に。
原田 えぇ、あるんですよ。
でも、そのときにそれをやって、
もっとお金を手にしていたら、
たぶん、不幸になってたんじゃないかな、
とも思うんです。
糸井 なぜでしょう?
原田 人間というのは何か足りないからがんばるんです。
不満足の状態だから、知恵が出るし成長もする。
不満足こそが知恵の原点だと思います。
糸井 なるほど。
じゃあ、ある意味では、
不満足が原田さんの幸せ?
原田 まさに、そうです。
個人だけでなく、会社も社会も、
そして地球も、
満たされすぎるっていうのは
いいことじゃないんですよ。
糸井 不満足だから考えて、考えることで道が開ける。
原田 そうですそうです。
糸井 原田さんは、その考えることを
走ったり筋トレしたりしてるときに
やってるわけですね。
いや、こうやってお話をうかがっていると
絶えず自分の人生に負荷をかけてますよね。
原田 そうかもしれません。
ある意味ちょっとクレイジーの領域かも(笑)。
糸井 なかなかできることじゃないですよ。
原田 それもこれも、あることに気づいてから
続けられるようになったんです。
糸井 どんなことでしょう。
原田 例として、10回ベンチプレスをしたとします。
10回やったらもう限界なんですよ。
その「もう限界」っていうときに
トレーナーは「あと1回」って言う。
「もうできない」っていう状態だから
それは無理なんですよ。
糸井 うんうん。
原田 でも、軽く10回やってたのでは
トレーニングになりません。
本当のトレーニングというのは、
その無理という状態から、
あと1回やることなんです。
その1回やるために
それまでの10回は存在するんです。
糸井 ‥‥なるほど。
原田 私はそこに気づいたから
1日も休まないし、続けています。
そうじゃないと意味がないんですよ。
糸井 それって、原田さんの
エンジニアとしての特性を
象徴しているような気がします。
考えて、見つけた答えを徹底的にやるっていう。
原田 あぁ、言われてみれば
そうかもしれませんね(笑)。
糸井 いやぁ、今日はいい話を
たくさん聞きました。
どうもありがとうございました。
原田 いえいえ、こちらこそ楽しかったです。
ありがとうございました。
糸井 ありがとうございました。
(これで原田さんのお話は終わりです。
 最後まで読んでいただきまして
 ありがとうございました!)

2010-08-25-WED

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