MONEY IS… vol.01 貧乏と芸術の間の千円札。 赤瀬川原平さんの、とても正直な「お金」の話。
糸井 赤瀬川さんの「千円札裁判」の事件も、
結局、性の話に似ていた‥‥と。
赤瀬川 ようするに、勝手につくっちゃいけないわけです、
「お金」っていうのは。
糸井 それは罪になる、ということですね。
赤瀬川 ぼくは、それでも「やってみたい」と思って
模写とか印刷とかしちゃったんだけど、
その感じがね、性の話と似ていると思うなぁ。
糸井 そうですか。
赤瀬川 つまり、仮に、ニセをつくちゃったとしてもね、
人に見せちゃいけないわけです、それは。

でもやっぱり「見せちゃいたい」んですよね‥‥。
糸井 自分で自分の股間を眺めるのは、オッケーだけど(笑)。
赤瀬川 オッケーです。
糸井 ぼく、毎日毎日、トイレで小便をするから
「もう見飽きたよ!」って言ったことあります(笑)。
赤瀬川 人のが「見えちゃう」のも、いいんでしょ。
糸井 いいんでしょう。
赤瀬川 銭湯なんかで「見られちゃう」のもいいんだけど、
「見せちゃう」のは‥‥ダメなんだな。
糸井 なるほど。
赤瀬川 よく酔っぱらって「見せちゃいたく」なる‥‥
あの気持ち、わかるんだよねぇ。
糸井 わかりますか(笑)。
赤瀬川 「お金を投げる」のと、似てる気がする。
糸井 ああ、なるほど。
赤瀬川 子どものころ、野っぱらをね、
オヤジが「うわあー」とかなんとか言いながら
歩いてたんですよ。
で、何だろうと思ったら‥‥出してるんですよ。
糸井 はぁ(笑)。
赤瀬川 悪気とかは、ぜんぜんなかったんだろうけど。
子どもらはもう、
「うわあー、おちんちん」とか言いながらね、
あとをついてまわって。

‥‥お祭りみたいだったな、あれは。
糸井 でも、そういう「見せちゃう心」がゼロだとすれば
赤瀬川さんも
いまの表現の仕事には、関わってないでしょうね。
赤瀬川 そうでしょうね。
糸井 文学なんかも「恥そのもの」を書いてるわけだし。
赤瀬川 ああ‥‥そうそう、すごいのがあった。
糸井 すごいの?
赤瀬川 千円札裁判の資料集めで、熱海とか、
そんなようなところで入手したんだけど、
「オモテが千円札、ウラがそのものズバリのポルノ」
‥‥というお宝を持ってます、ぼく。
糸井 すごいですねぇ!
赤瀬川 ポルノ写真は、まぁ、わかるんだけど、
その反対側を「お札」にしたのは、すごいと思った。
お金って、そういうもの‥‥なんだね、つまり。
糸井 そう考えると「偽札づくり」というテーマって、
人間の根源的な欲望のような気がするんです。
赤瀬川 そんな気がするねぇ、うん。
糸井 やっぱり「性」と通底しているというか‥‥。
赤瀬川 「フリーセックス」みたいなことになるのかな。
「偽札をつくってもいい」ってことになったら。
糸井 なるほど(笑)。
赤瀬川 「禁じ手をとっぱらう」という意味では。
糸井 赤瀬川さんが「千円札の芸術」をつくったときは、
「使ってやろう」という気持ちとは
関係ないところで、はじめたんですよね?
赤瀬川 そうなんです。

自分は「勝ち負け」から外れてるって
意識があるんで‥‥。
糸井 ああ、いまの発言については解説が必要ですね。

ぼく、赤瀬川原平という人の「生存戦略」について
小さな文章に書いたことがあるんです。
「ケンカは絶対負けるって決めてる」って(笑)。
赤瀬川 そうそう(笑)、
つまり、ぼくが「勝ち負け」にこだわってたら
本物の偽札をつくって、使ってたでしょうね。
糸井 「本物の偽札」っていうのも(笑)。
赤瀬川 でも、それはちょっとできないなっていう感じが、
ぼくには、あったわけです。
糸井 そのバッターボックスには、立ってなかったんだ。
赤瀬川 でもね、「だけど」っていう気持ちもあるんです。

これだけ印刷の技術が
どんどん精巧になってきているのにも関わらず、
お金を刷ってはくれないわけ。

印刷屋さんも、どうして刷らないんだろう、
お札だって印刷物なのに‥‥って、
もうバカな子どもみたいなんですけどねぇ(笑)。
糸井 ええ(笑)。
赤瀬川 ぼくに大人の論理が、もうちょっとでもあれば、
「世のなかのみんなが、やってないことの理由」が
すっと出てきたはずなんだけど。
糸井 ええ、はい。
赤瀬川 でも、だんだん、ワクワクしてきたんですよ。
そんな、子どもみたいなことを考えてたら。
糸井 ほう‥‥。
赤瀬川 もちろん「偽札」はいけないんだろうけどね、
「偽札」ではない「印刷物」。
「印刷」というのはコピーですからね、
「コピー芸術」で、何かできるんじゃないかって。

どこからがオッケーで、どこからがダメなのかは、
あとから考えればいいか、と。
糸井 それで‥‥。
赤瀬川 通貨及証券模造取締法違反。‥‥だったかな。
<つづきます!>


2010-05-27-THU