「いい写真を見ることって 　大事だと思いますよ」
	「でもそもそもなにが 　『いい写真』か‥‥」
	「写真集を選ぶのもむずかしいですよね」

	おススメな写真集があるんです。 最近買った本の中で最高なのは、 メトロポリタン美術館の企画展の 図録的な写真集なんだけど、 『Photograph America』っていうの。 ウォーカー・エバンスと アンリ・カルティエ・ブレッソンが撮った アメリカの写真を１冊にまとめた本。 すごくいいよ。ミックスされてるわけ。 面白いのは、ウォーカー・エバンスの写真は ブルースを感じるんです。 カントリーとかブルースみたいな匂いがする。 で、ブレッソンが撮るアメリカの写真は、 クラシック音楽が聴こえてくるような、 すごくクラシカルな感じがする。 両方いい写真なんですよ。
	なるほど。 写真集や写真展、つまり人の写真を見る、 というのがピンと来ないという人が、 じつは、けっこういるみたいなんです。 写真は撮るけど写真を見るのが苦手。
	見方がわからないとか。
	いや、あのね、 カメラ雑誌とかの責任もあると思うんですけど、 「こういうもの」っていうのを 解説付きで伝えてくれるじゃないですか。 そういうことに対する 拒絶反応なんじゃないかなと思う。
	言葉が先にありすぎるってことでしょうか。
	能書きが先、そうですね、 ある意味言葉が先。 でも、写真は１枚の窓だと思えばいい。 いいとか悪いとかで判断しようとするから わかんなくなっちゃうんです。
	そうか。これはいい、これは悪い、 テーマ性がどうとか、 写真を見るのに採点表を片手に、 みたいになってるんですね。
	テーマとかコンセプトとかね。
	通知表をつける側みたいになると、 たしかに、何も面白くないですものね。 何でもそうで、映画もそうだし、 ゴハンもそうですよね。
	すぐゴハンの話になる。
	このごろ、いい写真集が なかなか本屋さんの一番前で 売ってなかったりするから、 気がつかれないんだろうと思うんだけど。
	いい写真集イコール 売れている写真集とは限りませんからね。
	やっぱり若い子たちにはとくに、 いい写真集をいっぱい見てほしいなって。 ややもするとね、 ブレッソンの写真を見たことない、 っていう子がいたりするぐらいだから。
	そうなんですか。 オリジナルプリントを見たことない、 っていう人はいるでしょうけど。
	ビートルズなんか聴いたことない、 っていう人たちがいっぱいいるのと 同じなのかもしれないね。 山下さんは、ブレッソンは‥‥ あれ？
	すごいすごい。タイトルが‥‥
	菅原さんのあたらしい写真集に見入ってます。
	ダスト・マイ・ブルーム。 ゴミ、産業廃棄物の処理場で撮った 写真を集めているんですけど、 ものすごくきれい。 へぇー。
	ブルースの曲なんです、 『DUST MY BROOM』って。
	ちり？　私の花？ ロマンチックなタイトルなのかな。
	ちがうんです、BROOMって 「ほうき」って意味なんです。 花は、BLOOM。Ｌ。
	あ、そっちか、ごめんなさい。
	自分のほうきのゴミを払う、 という意味なんです。 ブルーズ（音楽）ではこの言葉は 「やり直す」って意味で歌われてます。 やり直そうぜっていう。
	強さがある言葉なんですね。
	強さがあるわけ。 ここ（廃棄物処理場）の人たち見てたら、 そういうカッコよさがあったの。
	僕、演劇やってた頃に、 枕木だけで舞台美術やりたいって 思っちゃって。 その枕木に通じる美しさがあります。
	枕木。見立てですか。
	はい。で、もらいに行ったんです、枕木。 そしたら、あれ、 重油を染み込ませてあるんですよ。
	そうなんだ。重いの？
	メチャクチャ重くて（笑）！
	しかも鉄芯が入ってるでしょう。
	そう（笑）！
	くれたの？
	くれたんです。
	あれ舞台で使うのは無理でしょう。重たくて。
	何本か運んでやったんですけど、 いや、もう死にそうになりましたね。 切らないで組み合わせて 並べて使ったんですが。
	あれはね、木だけ削っちゃって、 鉄と木を分離して、 鉄は鉄で使って 木は木でまた廃材にするんですよ。
	この写真、ゴミに、 「混じり気」がないんですね。
	そうですね。
	同じものがギュッと‥‥
	純粋なゴミ？（笑）
	そう、すごい純粋なの。
	もう徹底的に分別されてるからね。
	きれいな理由はそこですね。
	ケーキみたいなのが。 ケーキがあるよ。
	これ、雪が積もってるんですか。
	そうなんですよ。 白い本にしたのもさ、 ゴミの山が雪で覆われてた時、 すごいきれいだったんです。
	暗さもないですね。
	スポットライト当てたんだもん。
	本当にライト当てたんですか。
	ううん、気持ちが。
	きれい、きれい。
	（つづきます）