糸井 今日はこの場で何を話そうとか、
あまり決めないようにして来ました。
もう、流れに任せようと思って。
西水 よろしくお願いいたします。
糸井さん、お話を引き出すのがお上手だから。
糸井 いやいや、勘弁してください。
‥‥うれしかったのは、
西水さん、すでに斉藤和枝さんと
お会いになっているということで。
斉吉商店の和枝さん
西水 あ、気仙沼の! はい、はい。
糸井 ぼくら、とても親しく
お付き合いをさせていただいている方なんです。
西水 ああ、そうなんですか。
糸井 すごいじゃないですか、
和枝さんの持つ、ものすごい可能性みたいなもの。
西水 すごいパワーをお持ちですよねぇ。
糸井 そうなんです、ほんとうに。
西水さんはどういった経緯で、
和枝さんとお会いになったんですか?
西水 去年の秋に対談をさせていただいたんです。
東京で。
糸井 あ、東京で。
西水 そうなんです、気仙沼ではなく。
私、帰国するたびに
三陸沿岸を歩いているんですが、
実は気仙沼だけ、まだ行けていないんですよ。
糸井 でもたしか今週、行かれるそうで。
西水 そうなんです、ようやく。
糸井 いろんな人の話をお聞きすると、
被災地は場所によって
おかれている状況がまったく違う気がしますね。
西水 そうですね、それぞれの被災状況はもちろん、
住民の方々のその後の対応にも、
違いがあるような気がします。
住んでいる方々のコミュニティが
まとまりやすいところと、
そうでないところに分かれていて。
糸井 それをお感じになりますか。
西水 その地域にリーダーがいるかどうかで
違うなと思うんです。
糸井 そうなんですよねぇ。
‥‥あの、さきほど、最初にぼくは、
何を話すか決めてないと言いましたけれど、
そういえばひとつ
西水さんにお聞きしたいことがありました。
西水 なんでしょう。
糸井 西水さんの本を読ませていただきながら
漠然と思ったことなんです。
世界各地のさまざまな場所を
ご覧になっている西水さんという方は、
現場に入っていくときの「作法」のようなものを
きっとなにかお持ちなんじゃないかな、と。
西水 現場に入っていくときの作法‥‥ですか。
糸井 ええ。
本を読んでいると、西水さんはどこにいっても
まず人々の話を「聞いている」という
印象があったんです。
そういった、作法というか、姿勢といいますか。
そのあたりのことをお聞きできたらいいなと。
西水 作法‥‥。
糸井 たとえば、新しい現場に入っていく場合は、
やはり事前に
その場所のことを調べるのでしょうか。
西水 はい、それは調べます。
たとえば気仙沼なら、
気仙沼がどういうところかを勉強します。
ブータンなら、ブータンのこと。
パキスタンなら、パキスタンのことを。
糸井 そういった事前の勉強に、
西水さんはどの程度、
重きを置かれているものなんでしょう。
西水 そうですね‥‥。
糸井 新しい場所や人に出合う前の勉強って、
「学べることは、何でも学んでおけ」
というのが一般的だと思うんですね。
西水 ええ。
糸井 ぼく自身はその考えを
あんまり認めてないんですよ。
事前に現場からはなれたところで
得る情報はどうしても誤差が大きいし、
正しい情報と誤った情報が入り混じって、
判断もつきにくいと思うので。
西水 なるほど‥‥。
糸井 ですから西水さんが、
そうした事前の勉強で得る情報について
どのくらい信用して、
何を学ぶようにされているのか‥‥
そこのところをうかがいたいと思ったんです。
西水 ‥‥そうですね、事前に学ぶことで、
私が役に立つなと思うのは、
「全体像を把握するための情報」です。
糸井 全体像。
西水 たとえば国の場合なら、
国の財政状況や、政策、税制とその影響。
政治の背景、その国の慣習。
現場そのものではなく、
「現場をとりまく外因」の情報ですね。
世界銀行にいたときの私は
新しい現場に入っていくとき、
いつでもそうした情報を、
事前に頭に叩き込むようにしていました。
糸井 なるほど。
しっかりと事前の勉強をされて。
西水 ‥‥でも。
糸井 はい。
西水 その情報を頭に叩き込んだだけでは、
だめなんです。
「勉強しておきました」ということは、
現場では偏見にもなることですから。
糸井 はい、はい。
西水 ですから学ぶだけではなくて、
「その学んだ知識にどう向き合うか」
ということが非常にたいせつです。
事前に得る情報については、
誤差や偏見が生まれやすいことを
わかった上で、それと向き合えるかどうか。
糸井 そうですね。
西水 そしてさらに言えば、
実際に現場に入っていくときには、
仏教ではないですが、心を「無」にして、
とにかく現場の情報を
自分の目で見て、からだで感じる。
そういうことが、
なにより大事だと思っています。
結局、現場では、
そこに暮らす人々の本当の気持ちをね、
聞かせていただかなければ
ならないわけですから。
糸井 事前の知識をいったん忘れることが
できるかどうかで、
向かい合う人々の対応まで
変わってくるんでしょうね。
西水 そうなんです。
もっと言えば、こちら側が
「心を開いているかどうか」。
糸井 ああーー。
そういうことですよね。
偏見なく、開いているかどうか。
西水 そしてその、こちらの心のあり方は、
相手が誰であろうと
わかってしまうものだと思うんです。
それはもう、「はじめまして」の段階から。
糸井 心が開いているかどうかは、
「はじめまして」のときから相手にばれている。
西水 さまざまな地域を訪れながら、
私はそういう経験をしていました。
糸井 そうでしたか。
西水 ええ。
もう、しょっちゅうです。
しょっちゅうしていました。
(つづきます)
2012-12-03-MON




世界銀行副総裁という立場から、
つねに「現場」に根ざした「国づくり」を
推し進めてきた西水美恵子さん。
こちらは西水さんが、各国で向き合ってきた
改革や支援のことを書かれた1冊。
出会われてきた素晴らしいリーダーたちや
草の根の人々の話をはじめ、
胸に響く話が多数収められています。

英治出版、2009年4月発行 
本体1,800円+税



西水さんが、自身の体験から
考えてきたことや学んできたことを
書かれたのがこちらの本。
リーダーの姿勢やありかた、
働くということ、危機管理の方法など、
さまざまな発見があるとともに
西水さんのまっすぐな姿勢が
読む人に勇気を与えてくれます。

英治出版、2012年5月発行 
本体1,600円+税