1924年生まれ。詩人、文芸評論家、思想家。
東京工業大学電気化学科卒業後、
工場に勤務しながら詩作や評論活動をつづける。
現在に至るまで、幅広い層から支持を受けつづけ、
「戦後思想界の巨人」と呼ばれる。
著書に『共同幻想論』『言語にとって美とはなにか』
『ハイ・イメージ論』『カール・マルクス』
『悪人正機』『最後の親鸞』『ひきこもれ』
『吉本隆明 自著を語る』『真贋』
『日本語のゆくえ』など。



糸井 「人間が育つ」ということについて、
たくさんのことを
学校にまかせてしまっている気が
僕なんかは最近、するんですが。
吉本 そうですね、学校に関して
言うとすれば──まともには言わないけど、
まず、親は子どもに対して、
「これ(子ども)にかまってたら大変」
という思いが、
どこかにあるんじゃないでしょうか。
糸井 ‥‥なるほど。
吉本 つまり、どこかに都合よく
子どもの面倒を見てくれるところがないかと、
親は思っているんだと思います。

子どもは通常、四つぐらいになったら
幼稚園に行きますね。
幼稚園や保育園だけではなく、
幼児教室のようなものもあって、
たくさんの子どもたちが通っています。
親も、教室の経営者も、
遊び相手や友達ができていいとか、
家にばかりいたら引きこもりになるとか、
さまざまな理由をつけるでしょう。

けれども、早期教育をやりたいとか、
そういうところまでの意識は
特にはないと思います。
とにかく子どもがそこにいる間、
親は「自分の手がかからない」。
誰もそう言わないかもしれませんが、
それが本音じゃないでしょうか。

学校の先生に
教育のすべてを委ねてしまうことの
おおもとにあるのは、
結局そのあたりの
「声にならない本音の部分」だと思います。
のちのちいろんなことの原因になるのも、
その部分であると僕は思います。
糸井 それは、昔からそうだったんでしょうか。
吉本 少し前はそうじゃなかったです。
「数え年でいえば、八つか七つ、
 そうなったら学校へ行くもんだ」
と、義務的に考えていて、
親が「手が抜けてよかった」と
思っているふうには、
子どものほうからすると、見えませんでした。

親が子どもをかまう期間は、
赤ん坊のときからはじまります。
柳田国男流に言うと「軒遊び」です。
それは、家で子どもを遊ばせておいて、
親は縫い物をしたり、
掃除したりしていればいい、という時期です。
子どもに全くかまわなかったら、
外に出ちゃって危なくてしょうがないから
どこかで用心して子どもを見ているけれども
子どもに夢中になってるわけでもない、
そういう状態です。

子どもが外で遊んでも大丈夫、というふうに
なりかけたときが、
ちょうど小学校に上がる歳ですね。

学校が云々という前に、
親と子の関係の変化のほうが大きいんだ、と
僕は思っています。
子どものことは基本的に、
全部親がやることだよ、
というふうに思っています。
だって、ほかの人が
責任を取りようが
ないことじゃないですか。

こういうことを言うと、
「それは一時代前の、家父長制度の名残だ」
と言われますが、
そんな馬鹿なことはないと僕は思ってます。
子どもの時期のことは両親の責任です。
糸井 親がそう思えなくなって、
学校の責任が大きくなってきたことの
おおもとにあるのは、何でしょうか。
吉本 まずは、親の「自分のやりたいこと」が
昔に比べてたくさん出てきたということです。
そうすると、子どもを「半分かまう」ことが
鬱陶しくなります。
それよりも、働くとか、おしゃべりしあうとか、
自分も何かを習いに行くとか、
そのようなことが
優先されるようになってきました。

「女の人は子どもを半分かまってればいい」
という時代じゃなくなって、
自分自身が何かしたい、ということのほうが
主になってきました。
ですから、子どもを
あんまりかまっていられません。
そしたら子どもは、
どこかに預けたほうがよくなる。

結婚したあとの女の人が、
自分自身のことについて
活動的になったということが
第一なんじゃないでしょうか。
そしてそれを声にして言わないことに
何か原因があると思います。

(明日につづきます)

2008-04-28-MON




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